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チェコ好きの日記

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高校生のときに出会いたかった! 『ハプスブルク家12の物語』 

美術 南欧

みなさん、高校生のとき、世界史は得意でしたか?

かくいう私は、世界史大好き&割と得意なほうだったのですが、それでもやっぱり覚えにくかったのが、やたら出てくる○○1世だの○○2世だのっていう、紛らわしい人物名。

たとえば、ヨーロッパ史の核であり、中世から20世紀初頭まで、約650年のあいだ西欧世界に君臨し続けた、名門ハプスブルク家

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ひえー!!

ルドルフ1世から始まり、カール5世にフェリペ2世、3世、4世、ルドルフ2世、カルロス2世……もう時代も人物名も、わけがわからなくなってきますよね。

しかし、この複雑に複雑すぎる家系図を、すっきり……とまでいかなくとも、ある程度の流れを理解しながら、その血みどろの王朝劇を昼ドラのごとく楽しめる良書に出会ったので、ちょっと紹介したいと思います。

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

本のタイトルに「名画で読み解く」とあるように、ハプスブルク家の人々を描いた数々の名画を鑑賞しながら、その絵画に描かれた人物の“謎”にせまっていく本書。

いやー、とてもスリリングで面白かったです。世界史好きにはまちがいなくおすすめできる1冊です。本日は、この中から、特に背筋の凍った2つのエピソードを、かいつまんで紹介してみたいと思います。

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まず1つめは、フランシスコ・プラディーリャの『狂女フアナ』という作品から。フアナが家系図のどこにいるのか、時間がある方はちょっと上から探してみてくださいね。

アラゴン王とカスティーリャ女王との間に産まれ、才色兼備と謳われたフアナ。彼女がこの絵の主人公、絵画の真ん中に位置する、黒い衣服を身に付けた女性です。フアナは、ハプスブルク家の長男である、ブルゴーニュ公フィリップと婚約します。

政略結婚が普通だったこの時代、夫婦が心から愛し合うなんて夢のまた夢、とても難しかったそうです。

しかし、スペインのエキゾチックな魅力を持つフアナと、“美公”と呼ばれるほどイケメンだったフィリップはお互い一目で恋に落ち、王家の結婚としては珍しく、2人は仲睦まじく幸せな時間を過ごします。

ところが、フアナが世継ぎの長男、のちのカール5世を産んだ頃から、フィリップは徐々にフアナに飽きはじめてしまいます。嫉妬に狂ったフアナは、フィリップの愛人の髪の毛を鋏で切ったりと、ヒステリーをたびたび起こすようになってしまいます。

そして何と、夫フィリップとフアナの実の父であるフェルナンドが、カスティーリャ王の地位をめぐって対立し始めてしまうのです。間に立たされたフアナは精神を病んでしまった上、愛していた夫フィリップは怪死。(彼女の父の仕業でしょうか?)

このショックで頭がおかしくなってしまったフアナは、フィリップとの間にできた6人目の子供を身ごもりながら、夫が必ず復活すると信じて、棺と一緒にグラナダを目指してスペインを放浪するのです。

上の絵画は、そのスペイン放浪の様子を描いた1枚です。夫を入れた棺を止め、うんざりしている周りの視線を顧みずに、道のど真ん中で急遽ミサをあげさせるフアナ。遺体がちゃんとあるかどうか、誰かに盗まれてはいないか、そしてもしかすると夫が棺の中で生き返っているのではないかと――道中、蓋を開けて、家臣に何度も確認させたといいます。

しかし、この放浪をいつまでも続けられたわけはなく、(諸説あるそうですが)2年ほどで、フアナは父フェルナンドに幽閉されてしまいます。彼女はその幽閉された宮殿で、75歳まで生きたといいます。

その幽閉されたフアナを描いた作品が、下のものです。作者は上の絵と同じく、プラディーリャ。

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荒れ果てた室内。粗末に扱われる、豪華な調度品……。退廃的な雰囲気が漂う、恋に狂ったフアナが最後のときを過ごした宮殿です。フアナは、夫がいない世界を生きていても意味がないと、何もかもを投げ捨ててしまっているように見えます。

彼女の愛の重さと、甘ったるさで、息が詰まりそうな作品です。

いい絵ですねー…。

続いてこちらの作品。カレーニョ・デ・ミランダの『カルロス2世』

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世界史の人物名が覚えられない原因の1つは、彼らが近親婚をやりすぎ、ということもあります。叔父と姪が結婚するなんて日常茶飯事、夫が母の弟であち父のイトコであり……なんてこんがらがった関係を平気で結びます。そして、私たちは家系図を見ながら混乱するのです……。

そして、その濃い血族結婚の果てに産まれたのが、スペイン・ハプスブルク家を断絶させることになった、このカルロス2世。

「カルロス2世を見た者は、みんな不安になった」「片脚を引きずって歩いていた」「常時よだれを流していた」「知能が低く精神も病んでいた」――絵を見ると、焦点の定まらない眼と白すぎる肌が、カルロス2世の異様な様子を物語っています。父であるフェリペ4世は、そんな息子の姿を見て落胆し、カルロス2世を人前に出す時は、ヴェールをかぶせたといいます。

当時の王家の人の感覚なんて、21世紀現代人の私には到底わかるはずもないのですが、それにしてもなぜ、カルロス2世のような子が生まれやすくなり、生まれたとしても早死にしてしまうような近親婚を、わかっていながらハプスブルク家が何代も何代も繰り返したのかが、やっぱり理解できません。

もちろん、財産が一族の外に出ていってしまわないようにだとか、高貴なる血に下々の者の血を混ぜたくないとか、表面上の理由はわかるのですが、それにしてもなぜ……と思ってしまいます。

カルロス2世は、当然子供を作れるような体ではなかったのですが、フランスからルイ14世の弟の娘が、嫁として連れてこられます。彼女の責任ではないのに、子供ができないことを責められ、ストレスでぶくぶくに太ってしまったその嫁は、鬱状態で死んでしまったといいます。

王家の人間はその後も諦めず、再婚相手をカルロス2世にあてがいますが、いよいよ病状が悪化してきてしまったカルロスは、前妻の墓をあばいたり、異端審問の裁判を喜んで見ていたそうです。そして、39歳でカルロス2世がこの世を去ったのと同時に、スペイン・ハプスブルク家は断絶をむかえます。

高貴なる血という幻想(幻想ではないか……)に取りつかれ、自ら破滅の道をたどったスペイン・ハプスブルク家。オーストリア・ハプスブルク家の優雅で華やかな世界とは対照的な、黒づくめの暗い宮廷。

でも、物語としてはスペインのほうが何かを感じさせるし、このカルロス2世の肖像画は、人の心をブラックホールのように吸い込んでしまう、不思議な魔力があります。あんまり長い時間見ていると、ちょっと気分が悪くなります。

いい絵ですねー…。

というわけで、高校生のとき出会っていれば、もう少し世界史のテストで点数が取れたかもしれないこちらの本。

マリア・テレジアやその娘、マリー・アントワネットのことももちろん載っていますので、興味のある方はぜひ。

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

ブルボン王朝バージョンもあります。

名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)

名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)