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チェコ好きの日記

旅 読書 アート いいものいっぱい 毎日楽しい

やっぱり田所さんは必要だ 

本日は短めです。

今はあまり読んでいないのですが、私は一時期、よしもとばななの小説をけっこう集中的に読んでいたことがありました。ブログでも、その時期に読んだ何冊かの本を紹介しています。

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よしもとばななの世界観は、染みるときには染みすぎるくらい染みるのですが、ときにスピリチュアルであったり、観念的になりすぎることもあります。なので、私も時と場合によって「おおー!」と思うこともあれば、「えー?」と思ってしまうこともあります。
好きな作家であることに変わりはありませんが。

そんな私が、時と場合に関係なく「これはいい」と思っているばなな小説が1つありまして、それが『体は全部知っている』という短編集に入っている、『田所さん』という話なのですね。

体は全部知っている (文春文庫)

体は全部知っている (文春文庫)

ごく簡単にあらすじをまとめると、主人公の働いている職場に、「田所さん」というちょっと変わった初老の男性がいる、という話です。

田所さんは、言い方が悪いですが、小説のなかの言葉を借りるならちょっと「脳のあやしい」人。見た目は背が低く、ハゲていて、目が細くて気味が悪い。しかも、洗濯機のうしろに、いるはずのないモンスターが見えちゃったりする人です。

「ううん、風邪じゃない。でも、心配なの。洗濯機の後ろにね、何かを飼ってるんだけど。雨だから、淋しいかと思って。」

彼は答え、私はくらくらした。

「何かを飼ってるって、何を?」

「こうちゃんのようでもあり、死んだ母親のようでもあり。神様のような感じもするし、ざしきわらしかもしれない。いやなことがあると洗濯機を震わせるんだ。もれている水を飲んで生きている。ずっと、うちにいる。僕が寝ているとこっそり部屋に出てくるらしい。」

ちなみにこうちゃんとは現社長のことだ。

「だから僕は洗濯できないの。前にも言ったけど。洗う時は手で洗う。驚かせたら悪いからね。」

田所さんは、現在の社長である「こうちゃん」の幼い頃の恩人のような人で、それだけの理由で会社に雇われています。おとなしいので無害ではあるけれど、簡単な仕事しかできないので、合理的に考えれば、正直会社においておくメリットはありません。

職場には、仕事で溜まったストレスを田所さんにぶつけて解消するような、ひどい人もいます。けれど、どこか憎めないところのある田所さんなので、一時は感情的になるあまり田所さんに怒りをぶちまけてしまったその人も、あとでぎこちなく謝りに行ったりします。必要ではないけれど、邪魔ではないので、いる。主人公の職場は田所さんを中心に、そんな奇妙なバランスで成り立っています。

今の日本にある企業で、この「奇妙なバランス」を成立させる余裕のある会社は、相当に数が限られているでしょう。小説のように、社長の恩人であるとか、何か強力なコネがない限り、田所さんのような人を雇っておける会社はありません。

しかし、会社はともかく、もう少し範囲を広げて「社会」には、こういう人もやっぱり必要なのではないかと、この小説を読むたびに思ってしまう私です。

こういう人がいるからこそ成り立っている世界というものがあって、こういう人がいないと崩壊してしまう世界というのが、あるような気がするんですよねー。

妙な感覚の小説ですが、私のお気に入りです。
ピンと来た方はぜひ。