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チェコ好きの日記

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夢って、意外に簡単に叶います。『ラファエル前派展』面白かった。

美術 西欧

中学生のとき、美術の授業中に教科書をボ〜っと眺めていたら、ふと目にとまった絵がジョン・エヴァレット・ミレイの『オフィーリア』でした。

目にとまった瞬間、「あ、これはやばい絵だ」と思った私はその場でシャキーンと凍り付いてしまい、「これは、いつか本物を観に行かなくてはならない」と、そのとき誓ったのです。

それからというもの、「ミレイの『オフィーリア』の本物を観る」ということは、私の夢というか人生の目標のような存在になり、機会があるごとに「ミレイってイギリス人だったのか」とか「『オフィーリア』ってロンドンの美術館にあるのか」とか、絵に関する様々な情報を脳みそにインプットし続けてきたのです。

そして、一大決心を固めた(単に、旅行に行くことにしたともいう)のが2013年の夏。ミレイの『オフィーリア』が眠るロンドン、テート・ブリテンへ足を運びました。しかし。

私がロンドンに行ってきた理由。 - チェコ好きの日記
ロンドンひとり旅 オフィーリアに会いに行く! - チェコ好きの日記

コトの顛末は上記のエントリにある通りですが、ようは、『オフィーリア』が倉庫に引っ込んでいたのか別の美術館に貸し出されていたのか、テート・ブリテンに展示されていなかったのです。がーん!

しょうがないのでストーン・ヘンジ見たり紅茶飲んだりマカロン食べたりフィッシュ&チップス食べたりして*1帰国したわけですが、何と『オフィーリア』は2014年1月に、六本木の森アーツ・センターにやってくるというではないですか。今度こそ観る、這ってでも観ると意地になった私は、先日無事に、本物の『オフィーリア』との対面を果たしてきました。

芸術はいつだってアヴァンギャルド

ミレイの『オフィーリア』は美術史的にいうと“ラファエル前派”とよばれるグループに属する作品で、今回森アーツ・センターで行われているのも、『ラファエル前派展』です。“ラファエル”っていうのは、ルネサンスの巨匠・ラファエロの英語読みですね。ルネサンスラファエロ以後の美術は形骸化しているので、ラファエロ以前の美術に立ち戻って、自然に忠実に描こう!という思いのもと立ち上がった集団が、ラファエル前派だったようです。

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ジョン・エヴァレット・ミレイ『オフィーリア』

たとえば、私が今回念願の対面を果たした上記の『オフィーリア』は、シェイクスピアの悲劇『ハムレット』のなかで溺死する女性オフィーリアを描いたものです。我々の感覚からすると、このオフィーリアは「ふつうに美しい女性」に見える気がするのですが、当時のイギリスの感覚からすると、ここで描かれているオフィーリアは、顔色悪いしガリガリだし……ということで、「ちょっとブサイク」に分類される女性だったのだそうです。確かに、そういわれてよーく見ると、あまり美人とはいえない顔立ちかも。ラファエル前派は、ラファエロ以後に追求されてきた理想的な美を放棄し、自然に忠実に、リアルな人物像を描こうとしたようです。そのためか、額が妙に狭かったり肌がガサガサしている人間を描いてしまい、「ラファエル前派は絵がヘタクソ」なんて評価をされることもあったんだとか。

私も「ラファエル前派は前衛的」なんて意識はまったくといっていいほどなかったので、これは新たな発見でした。今の常識で観てしまうと気付かずに埋もれてしまいますが、芸術はいつだってアヴァンギャルド生まれたときは皆、前衛なのです。

美術からデザインへ

ラファエル前派は、その後のイギリスで流行する「唯美主義」の先駆け的存在になった、といわれているようです。たとえば、今回の展示で私が『オフィーリア』の次に感動したのが、同じくジョン・エヴァレット・ミレイの『安息の谷間』。

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ジョン・エヴァレット・ミレイ 『安息の谷間「疲れし者の安らぎの場」』

この作品は、2人の尼がなぜお墓を掘っているのか、タイトルが何を意味しているのか、絵画から読み取ることがまったくできません。しかし、イギリスの豊かな自然と、死を連想させるお墓、土を掘る尼というよくわからない情景が重なって、刹那的な“美しさ”を読み取ることはできます。この『安息の谷間』は、「とりあえず美しければいいじゃん」という唯美主義の先陣を切った作品といわれているようです。

そしてこの「とりあえず美しければいいじゃん」思想は、絵画から徐々に工芸品や家具の世界に入り込んでいったようです。その代表的な人物は、ウィリアム・モリス。家も町並みもすべて芸術として捉えるべきだという、「アーツ&クラフト運動」を主導します。モリスのデザインした壁紙とかテキスタイルって、今見てもおしゃれでかわいいですよね。

William Morris Arts & Crafts Designs 2014 Calendar

William Morris Arts & Crafts Designs 2014 Calendar

ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン-

ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン-

アーツ&クラフト運動はその後、フランスのアール・ヌーヴォーやドイツのバウハウスなどに影響をあたえていきますが、「生活全体を美しく、ライフスタイルを美しく」っていう思想はすごく現代的だと思いませんか。
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ローレンス・アルマ=タデマ『肘掛け椅子』

この時代の家具や工芸品に興味がある方は、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館は絶対行ったほうがいいですね。私は前回ロンドンを訪れたとき、大英博物館やらナショナル・ギャラリーやらに時間をかけすぎてしまって行けなかったので、次回はここ必ず行きます。ウィリアム・モリスのデザインした部屋とかあるらしいです、胸がときめいて破裂しそうですね。

往年の少女マンガ家もラファエル前派や唯美主義、ヴィクトリア朝時代のファッションの影響を受けている人って多いみたいですが、このへんはやっぱり少女マンガの世界だなって気はします。

夢って、意外に簡単に叶います。

そして突然話はとびますが、今回『オフィーリア』の本物と無事に対面することができて、「夢が叶った瞬間」をはっきり体感できたのってこれが初めてだったかもしれないと思いました。

ほぼ日手帳に「やりたいことリスト」を100個くらい書き込んでいたりする私は、大きいことから小さいことまで夢をふわふわたくさん持ちながら生きているわけですが、そのなかの多くは「最近思いついた夢」なんですよね。成人してから考えた夢とか。

そういう最近の夢ではなくて、中学生のときからずっと憧れ続けていた夢を叶えることができたというのは、なかなか感慨深いものがありました。「いつか絶対本物を観る」って思ってはいたんですけど、本当に本物を観れたよ*2。できれば、六本木ではなくロンドンで夢を叶えたかったというのが正直なところではありますが。

溺れ死にながら歌う彼女の悲痛な声が、すぐ耳元で聞こえてくるような『オフィーリア』、私は何度観ても鳥肌が立ってしまいます。次回また会うときがあれば、今度こそテート・ブリテンで、その歌声を聞かせてほしいものです。

★今回の参考文献★

芸術新潮 2014年 02月号 [雑誌]

芸術新潮 2014年 02月号 [雑誌]

*1:しっかり楽しみました。

*2:今思うと、2008年のジョン・エヴァレット・ミレイ展に行かなかったのはなぜなのか……卒論で忙しかったのかな。