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チェコ好きの日記

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『森と芸術』 森からやってきて、森へかえる。

あんまりおすすめはしたくない映画なのですが、ラース・フォン・トリアーが監督した『アンチクライスト』という映画があります。心に傷を負った夫婦が2人で森の奥深くへ入っていき、そこにある小屋で精神の治療を試みる……というストーリーです。詳細は、以前にも書いています。

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ラストのほうの残酷描写に目が行きがちなこの作品ですが、私がこの映画を評価したいたった1つの理由は、「森(自然)がこわい!」と心底震えたからです。映画のなかで、木から落ちてくるドングリとかが屋根をたたく音がするシーンがあるんですが、こつんこつんとドングリの音がするなんてかわいいと思うじゃないですか、普通。でもこの映画では、そのドングリの音によって、得体の知れない何かが少しずつ少しずつこちら側の精神を蝕んでいくような気がしたんですね。「森から逃げたい、怖い」っていう、人間としての原始的な記憶を呼び起こしてくれる作品なんです。

私たちの祖先は、もともとは森のなかで狩りをしたり、キノコを採ったりして暮らしていました。というか人類史を振り返ってみると、農耕などが発達して自然を捨ててからの歴史のほうが浅いわけです。人間としてというか、生き物として、「森」にまつわる原始的な記憶を個々人が持ち続けているのではないかという考え方は、あまり突飛なものだとは思いません。『ヘンゼルとグレーテル』や『白雪姫』など、おとぎ話にも森のなかに迷い込んだり森のなかで怪物に出会ったりする物語ってありますよね。あれは、「森の恐怖」というものを覚えておくための人類の記憶装置としての役割があるんじゃないかという説をとなえる人もいて、なかなか興味深いなと思ったりもします*1

で、そんな「森」と、芸術の関係についてさらに想像力をふくらませてくる私のお気に入りの本がありまして、最近読み直したらこれがやっぱり面白かったので、今回はその本『森と芸術』の内容をふまえつつ、私の好きな「森アート」をいろいろ並べてみようじゃないかという話です。

森と芸術

森と芸術

庭園シリーズ!

「庭付き一戸建てを手に入れる」というのは、少し前の世代なら幸せの象徴みたいな感じだったんじゃないかと思いますが、そもそも論として、人間はなぜ「庭」を作るのでしょう? 私たちがガーデニングとかベランダ菜園を楽しむ小さな庭から、伝統的な日本庭園まで、「庭」には古今東西さまざまなものが存在します。世界の七不思議の1つには、バビロンの空中庭園なんてのもありますね。
バビロンの空中庭園 - Wikipedia

私の考えでは、庭は「森のミニチュア」です。本物の森は、映画『アンチクライスト』にあるように、あまりにもおそろしい。しかし森は、おそろしいものであると同時に、原始人類にとっては大切な食料庫でもありました。恵みであり、脅威でもある。そんな切っても切れない関係にあった森を、自然を捨てて文明を手に入れた後も、人間はなお求め続けたのではないでしょうか。

日本庭園とかについてもいずれ研究したいなーなんて思っているのですが、私がまず好きなのはやっぱりヨーロッパの庭園。なかでも、「グロテスク」という言葉の語源にもなった「グロッタ(人工洞窟)」が大好きです。かわいくしとけばいいものを、なぜこんな気色悪いゴツゴツしたのをわざわざ作っちゃったんでしょう。見ていて飽きません。
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あとは、マニアの間では有名な(?)ボマルツォの庭園。最近「やさすい」のCMに使われてびっくりしましたが、CMにも登場したこの子は食人鬼オルコっていいます。れっきとした怪物であることをお忘れなく。なお、お口のなかにはテーブルとイスが設置されていますので、食人鬼に食われながらランチを楽しむという粋なこともできそうです(本当にやろうとすると庭園の管理人に怒られてしまうので注意)。

いいなCM サントリー やさすい! 上野樹里 4本立て - YouTube
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エミール・ガレ

「森のなかに置いておいても違和感を感じないランプランキング」で1位をとること必至なランプといえば、ご存知エミール・ガレのもの。花であったり、キノコであったり、木の幹であったり、自然のモチーフをかたどったこれを部屋に置いておくと、いろいろなものがにょきにょき生えてきて森になっちゃいそうですね。
光の魔術師―エミール・ガレ (Shotor Museum)
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クロッカス文化器 1898年頃
ガレのガレ―エミール・ガレの神髄

ガレが作品を制作していた19世紀末、アール・ヌーヴォーという新しい潮流が起きていましたが、この運動・様式には、明らかな自然回帰の志向が見られます。産業革命が起き、工業化にともなって社会が変化していく過程で、こういう志向が愛されたのは必然だったといえるでしょう。森をおそれて、離れようと思う。森を懐かしく思い、そこに帰ろうと思う。どちらも人間としては自然な感情で、その2つの間を行ったり来たりしているのが私たちなのかもしれません。

森×芸術は面白い

脅威であり、恵みでもあり、迷い込んだら何が出てくるかわからない森は、作家にとってもその受け手にとっても想像力の宝庫です。とくに、おとぎ話と庭園については個人的に興味の尽きない分野なので、面白いのが出てきたらまた何か書きたいなと思っています。

今回は、このへんで!