最初に、ものすごく感覚的な話から始めてしまうんですけど、人が「アニメ」という単語を聞いたとき、おそらく個人によって想定するものが3種類くらいあると思うんですね。
1つが、みんなに愛されているいわゆる「ファミリー系のアニメ」で、ディズニーやジブリがこれに該当します。もう1つが「オタク系アニメ」で、私はこのジャンルはまったく知識がないので具体例をなかなかあげられないんですが、『新世紀エヴァンゲリオン』とか、深夜に放映しているアニメ(ものすごくざっくりですみません)が、このイメージ。そして最後に、私のなかでは「アニメ」といったらまずこれを想定するんですけど、「アート・アニメ―ション」があります*1。
もちろんすべてが3種類にかっきり分類できるわけではなくて、それぞれの中間点に位置するものとか、グレーなものもたくさんあると思います。が、私はこの「アート・アニメーション」というやつがなぜか大好きで、学生の頃は広島の国際アニメーション映画祭に行ったりしていました。
アート・アニメって、観てると眠くなるんですよね。でも、その眠くなっちゃうかんじがまた魅力でもあるんです。中学生くらいのとき、TV見ながらソファで寝ちゃったことがあるんですけど、明け方に目が覚めたら久里洋二のアニメとかがぼわ〜っとやっているわけですよ。で、夢なのか現実なのかよくわからない状態でぼわ〜っと観て、また寝るんですけど、次にきちんと起きたときに「明け方にやってた“あれ”は何だったんだ?」とか思うわけです。私のなかではアート・アニメってそういうイメージで、ちょっと眠い状態でぼわ〜っと観るのがむしろ楽しいんじゃないかと思っています。
今回はそんなアート・アニメーションで、私が好きな作家のやつを5つ選んでみました。
1 久里洋二 『愛』
というわけでまず1作目は久里洋二。私が一番最初に観た久里洋二作品で、今でも一番好きな『愛』です。ただひたすら『愛』と言い続けているという短編アニメで、明け方に薄暗い部屋でぼ〜っと観てると、ちょっと頭おかしくなってくるのでおすすめです。そのまま二度寝すると間違いなく夢に出てくるかんじが大好きな作品です。
2 ブラザーズ・クエイ 『ストリート・オブ・クロコダイル』
Brothers Quay 1986- Street of Crocodiles - YouTube
ブラザーズ・クエイはアメリカの映像作家で、チェコの映画監督ヤン・シュヴァンクマイエルに敬愛の意味を込めて『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』なんて短編を作ったりもしています。シュヴァンクマイエルのファンとしてはこれも相当面白いんですが、ブラザーズ・クエイで好きな作品を1つだけあげるとしたら、やっぱり『ストリート・オブ・クロコダイル』かなと。ねじがニョキニョキはえてくるところを観ると、悪夢みたいでサイコーだなって思います。
3 山村浩二 『カフカ 田舎医者』
山村浩二の作品は『頭山』もやっぱり好きですが、『カフカ 田舎医者』は劇場まで観に行ったせいか思い入れがあり、1つ選ぶとしたらこっちになりました。原作の『田舎医者』が好きだから、というのもあります。子どものコーラス? が入るところで、毎回鳥肌が立ってしまいます。
4 ラウル・セルヴェ 『夜の蝶』
ラウル・セルヴェはベルギーの映像作家で、作品によって「これもセルヴェなの?」ってかんじで作風が変わるので、私も『夜の蝶』以外は実はあまりきちんと観ていません。が、セルヴェの代表作『夜の蝶』は大好きです。セルヴェと同じベルギーの画家、ポール・デルヴォーの絵画世界が動き出します。鏡のなかから自分の分身をすーっと引き連れてきて一緒に踊るシーンがあるんですけど、そこがいちばん不気味で好きかもしれません。
参考:ポール・デルヴォー 『民衆の声』
5 ユーリ・ノルシュテイン 『話の話』
Tale of Tales -- Skazka Skazok (1 of 3) - YouTube
最後は、ロシアの映像作家ユーリ・ノルシュテインの『話の話』をもってきたいです。『話の話』を観ていると、「あー、これは寒いところで作られた映像なんだな」って思います。雪の描写が美しいことがそう思わせる要因なんですけど、音楽とか雨の描写とか、東欧の寂れてて物悲しい雰囲気は、私の好きなチェコ映画とやはり通じるものがあります。
余談ですが、前に「YOUは何しに日本へ?」でノルシュテインが成田空港でインタビューを受けているのを見たときは、鼻血出るかと思いました。
まとめ:ざらざらしてるのがアート・アニメーション
ファミリー系のアニメやオタク系のアニメって、何というか「つるつる」してるなーって私はすごい思うんですけど(悪い意味じゃなくて)、アート・アニメーションって手作り感があるというか、「ざらざら」してるのが特徴です。筆の跡が見えるというか、そういうところが好きだなーと思うんですよね。まぁあとは、ほんとに悪夢みたいな作品が多いなと。私は自分の専門がシュルレアリスムなこともあって、「夢を見ているみたいだった」っていう感想をもてる作品が自分のなかではやはり上位にきてしまいます。
私はヤン・シュヴァンクマイエルを中心にチェコの映画やアニメーションがすごい好きなんですけど、巨匠イジー・トルンカだけはあまりきちんと作品を観ていない(いつも途中で寝る)ので、自分でアート・アニメのまとめを作ったこれを機に、もう一度ちゃんと見直そうかなと思いました。
今回の参考文献
ユーロ・アニメーション―光と影のディープ・ファンタジー (Cine lesson (別冊))
- 作者: 昼間行雄,権藤俊司,フィルムアート社編集部
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2002/07
- メディア: 単行本
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*1:「アート・アニメーション」を定義付けるのはなかなか難しいですが、興行や放映によって収益をあげる集団制作の商業アニメーションに対して、極めて作家色の強い個人制作作品、くらいの意味で考えています。