チェコ好きの日記

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女性は2人でつるむのが吉 『るきさん』『ハルチン』ほか

以前私はこのブログで、「15歳前後の少女は、2人でいると閉鎖的で狂信的な世界を築き上げてしまうことがあるので、要注意」という主旨のエントリを書きました。

ですが今回は、「逆にそれなりの年齢の女性は、2人でつるむのが吉だわよ」、という話をしようかと思います。

るきさん』『ハルチン』の共通点

なぜそう考えたのかというと、私は普段あまり漫画を読まないほうなので若干サンプルが少ない気がしないでもないんですが、それなりの年齢の女性(20歳以上?)が数人登場する漫画を読んでいると、3〜4人でつるんでいる女性達よりも、2人でつるんでいる女性達のほうが、殺伐としていなくてなんだか幸福そうに見えたからです。代表的なのは、高野文子の『るきさん』ですね。

るきさん (ちくま文庫)

るきさん (ちくま文庫)

るきさん』はバブル時代の『Hanako』で連載していたらしい漫画で、主人公の「るきさん」は推定年齢30代半ば、独身。頻繁に新宿のデパートに買い物に行く描写があることから、都内在住だと思われます。そして、そんなるきさんの友達として登場するのが、「えっちゃん」。年齢は同じく30代半ば、独身。るきさんと頻繁に互いの家を行き来している描写があることから、同じく都内在住だと思われます。

マイペースでのんびりしているるきさんと、ちゃきちゃきしていておしゃれなえっちゃんは、性格的な部分での共通点がほとんどありません。おまけに、作品中ではこの2人がどこで出会い、どうやって仲良くなったのかが描かれていないため、2人のつながりが不明なのです。しかし、るきさんとえっちゃんがのんびりお買い物をしたり、家でお茶を飲んだり、連れ立って図書館へ出かけているところを見ると、まあ細かいことはいっか、という気分になります。

で、この『るきさん』、どっかで見たことあるんだよなーと思いながらページをめくっていたら、構成がほとんど同じな現代版『るきさん』ともいうべき、魚喃キリコの『ハルチン』があるではないですか。

ハルチン (1)

ハルチン (1)

『ハルチン』の主人公の「ハルチン」は、作品中で年齢が23〜25歳であると明記されています。そしてそんなハルチンの友達として登場するのが、おそらく同い年の「チーチャン」。ぐうたらでボーイッシュなハルチンと、彼氏持ちでしっかり者のチーチャンは、これまた性格的な部分での共通点がほとんどありません。そして、2人がどこで出会い、どうやって仲良くなったのかも、『るきさん』と同じく不明です(バイト先かも)。そして、互いの家を行き来して頻繁に交流を重ねているところも、『るきさん』と似通っています。

るきさん』と『ハルチン』は、世代や年代というちがいはあれど、ほとんど同じテーマを描いた漫画といっていいでしょう。恋愛でもない、結婚でもない、仕事でもない、家庭でもない。あえていえば「友情」なのだけど、ここに描かれる友情は「友情! 努力! 勝利!」みたいな、目的を共有している暑苦しいやつではありません。互いの生活のペースを崩さない、干渉しない、いたってクールで、穏やかな「友情」です。登場する2人の性格に共通点がほとんどないのも、2人の接点が描かれないのも、女2人の世界にほとんど「男」が登場しないのも、生活感にあふれていながら生活感がほとんどないのも、よく考えてみるとけっこう不自然なのだけど、大人の女性の友情かくあるべし、という気が私にはします。

3人集まると「コミュニティ」になってしまう

るきさん』と『ハルチン』の最大の美点は、お互いが別個の人間として独立している、というところだと思うんですね。「友情」とは独立していなければならないのです。しかし、女性が3人以上集まると、「友情」というよりは「コミュニティ」になってしまう気がする(男性でもそうかもしれないけど)。別個の人間として独立しているんじゃなくて、「似た者同士の集まり」というか、「友達」というよりは「同盟」ですね。そういう関係も必要だし、それが悪いわけじゃないですけどね。このあたりは、どちらも3人の女性がメインキャラである『東京タラレバ娘』とか『独身OLのすべて』とかを読むと強くかんじることです。

東京タラレバ娘(1)

東京タラレバ娘(1)

どちらもコメディタッチで描かれているとても楽しい作品ではあるのですが、彼女たちの課題である恋愛や結婚や仕事の話を少々脇に置いて、「3人の関係性」というところに注目すると、『るきさん』と『ハルチン』が個人主義的なのに対して、こちらはいくぶん、全体主義的であるように私はかんじます。ある目的を達成するためには非常に有効に働く関係性なのだけど、その「ある目的」を失った場合、この関係性は弱いのではないかと、そんなことを考えてしまうわけです。女性に限った話ではないですが、同性だけで集まる場合、コミュニティの多様性を保つことはけっこう困難です。

究極的なことをいえば、「友情」というのは1対1の間でないと成立しないのではないかと、私はそんなことを考えました。中高生の頃は差異なんてあったとしてもどんぐりの背比べ程度なのでどうでもいいのですが、大人になると互いの価値観や環境はどんどん変化していくわけで、そんなときにパワーを発揮するのは、「コミュニティ」より「友情」なのではないかと。

互いの生活のペースを崩さない、干渉しない、いたってクールで、穏やかな「友情」。女性は(男性もだけど)、それなりの年齢になったら、どこかのコミュニティに属すよりも、ゲリラ的にいろいろなところに「2人でつるめる」友達をポツポツ作ったほうが、メンタル強くなる気がします。あと老後も安心。

★★★

るきさん』と『ハルチン』が似てるっていう話をしたかっただけなのに、気が付いたら内容が飛躍しておりました。女性のメインキャラが3人以上いて、「似た者同士の集まり」にならず互いに独立して「友情」を築いている、という漫画ももしかしたらあるかもしれないので、知っている方は教えてください。でも私は、『るきさん』や『ハルチン』に「第3の女」が入り込んだら、途端にこの世界観が崩れるような気がしてなりません。

るきさん』の最終話は、主人公のるきさんが、コレクションしていた宝物の切手を売り払って、1人でナポリに旅立つ話になっています。るきさんがなぜナポリに行くことになったのか、なぜ切手を売ることになったのかは言及されず、親友のえっちゃんでさえ、それを知ろうとしません。そして遠く離れていても、あまり寂しそうに見えない、るきさんとえっちゃん。

大人の友情かくあるべし、と私は思うのです。