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チェコ好きの日記

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アラフォーは「断面の世代」? 束芋と吉田修一『悪人』

美術

束芋(たばいも)」は1975年生まれの現代美術家ですが、彼女が2009年に横浜美術館にて開催したのが、束芋 断面の世代」という展覧会です。束芋は自分と同年代の人たち(現時点においてアラフォーの方々ですね)のことを「断面の世代」と呼んだわけですが、その意味するところはというと……。

─「断面」って、どういう意味なんでしょうか?

束芋:私が言う「断面」は、三次元のものを切断したときに出てくる、二次元を指しているんです。例えば、ここに太巻きがあるとします。太巻きじたいはとても分厚いですけど、切断面だけ取り出せば、すごくペラペラです。でも、そのペラペラな二次元を見ると、三次元の情報、つまり太巻きの中身を全て知ることができる。私たちの世代の特徴って、そういう「ペラペラなんだけど、全ての要素が詰まっている」ようなところだと思っているんです。
「断面の世代」の作家 束芋インタビュー - アート・デザインインタビュー : CINRA.NET

また上記と同じインタビューのなかで束芋は、「団塊の世代」が1人1人が何かのプロフェッショナルであり集団で力を発揮するのに対して、自分たちの「断面の世代」は1人で何でもやっちゃう、個の世代だともいっています。これを書いている私は現在アラサーと呼ばれる世代に属しているわけですが、我々の世代が集団向きか、個向きかといったら「個」ですよね。世代論というのはいつも不毛なかんじで終わるのであまり有効だとは思わないんですが、「断面の世代」以下が個の世代である、という傾向はあるような気がします。

私はこの2009年の横浜美術館の展示で初めて束芋の作品を観たのですが、結論からいうと、私はこの方の作品があまり好きではなかったんです。なんかこう、内に内に入ってこもってしまって、外に出て来ないかんじが苦手でした。同展覧会を観に行った人の感想を聞くと、私と同じ印象を抱いた人、「その内にこもってるかんじが繊細でいい」という人、割合としては半々くらいだったように記憶しています。

現在、銀座・ギャラリー小柳にて4月4日まで、束芋の個展『束芋:息花』が開催されています。見所は新作アニメーションの『あいたいせいじょせい』でしょうか。というわけで今回は、こちらの個展や束芋に関する雑感をメモしておこうかと思います。

束芋 断面の世代 Tabaimo

2009年と2015年

2009年の展示では正直「んん? これどこがいいの?」ってくらい良さが理解できなかった束芋なんですが、今回ギャラリー小柳で観た束芋の作品は、それとなく良さがわかったというか、「なるほど、みんなこういうかんじに共鳴しているわけね」くらいの理解はできました。それが束芋の作品自身の変化なのか、私の変化なのかはちょっとよくわからないですが、好き嫌いにこだわらず、特定の作家を定点観測するというのはなかなか面白いものです。

そして束芋といえば、おそらくいちばん有名な作品群は、新聞で連載していた吉田修一の『悪人』という小説の挿絵です。こちらは今回の展示ではメインではなかったのですが、2009年の展示ではけっこうスペースが割かれていたような気がします。『悪人』のなかの文章を1つ抜き取って、そこからイマジネーションを膨らませて絵を描くという、なかなかない手法で、試み自体は面白いなあと思います。

惡人

私は2009年の時点では『悪人』をまだ読んでいなくて、「束芋 断面の世代」を観たのをきっかけにこの小説を読んだのですが、これは他の人の感想を是非聞きたいところなんですよね。というのも、私は『悪人』は『悪人』で良い小説だと思うし、束芋の挿絵は束芋の挿絵で良いと思うのですが、世界観が合っていないというか、吉田修一の『悪人』と束芋の『悪人』はまったく別の物語のように思えてしまうんですよね。他の人は、この2つの世界観が「合う」と思っているのか、「合わないけど合わないなりにいい」と思っているのか、そのあたりは是非聞いてみたい。本当に。

ただ1つ面白いなあと思うのは、束芋がこの挿絵において重視しているのが、金子美保という女性であることですね。金子美保という人は、小説を読んだ直後でないと「だれだっけ?」と思ってしまうくらい、物語においてあまり重要な人物ではないというか、端的にいうと脇役だと思うのですが、挿絵と今回のギャラリー小柳のアニメーション『あいたいせいじょせい』では、主役級の扱いがされています。

『悪人』という小説は登場人物が多いというか、実に多彩なキャラクターが出てくる作品なんですが、どの人物を自分が重要視するかという点ではすごく活発な議論ができそうな作品です。束芋のなかではきっとこの金子美保という登場人物が刺さったのでしょうね。

同じ「断面の世代」に属している人は束芋の作品をどう思うんだろうとか、そういうところも気になります。とりあえず、1人の作家を定点観測するのは面白い。ギャラリー小柳、気になる方は是非行ってみてください。

※通常の小説版はこちら

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)