チェコ好きの日記

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『アメリカン・スナイパー』は何についての映画だったのか?

私のなかで開始20分以内で寝る映画としてすこぶる評判が悪かったクリント・イーストウッドなのですが(好きな方ごめんなさい)、この度『アメリカン・スナイパー』が話題になっているようだったので、観に行ってきてみました。


映画『アメリカン・スナイパー』予告編 - YouTube

今回は開始20分どころか、ちゃんと最後まで一瞬もウトウトせずに起きていられました(それが普通)。きっと前に観たときは前日に睡眠不足だったとか体調が悪かったとか、そういうのが関係していたのだろう。

というわけで今回はこちらの『アメリカン・スナイパー』の感想文を書きますが、ネタバレを含みますのでこれから観に行きたい方はご注意ください。でもこれ、ネタバレ状態で観ても特に問題ないんじゃないかっていう気がします。

伝記映画だった

念のため『アメリカン・スナイパー』のあらすじをざっと説明しておくと、こちらの映画はイラク戦争での実話がもとになっていて、主人公はクリス・カイルというアメリカ軍の狙撃手です。160人以上のイラク人を撃ち殺して「伝説」と呼ばれた、ある意味では英雄であり、ある意味では悪魔である男です。

このクリス・カイルには奥さんと2人の子供がいて、映画のなかではイラクへ派遣されるのとアメリカの家庭での生活が、行ったり来たりしながら描かれます。クリスは戦場で「伝説」と呼ばれるほどの実績をあげたものの、イラク戦争での派遣を終えたあとにPTSDになってしまい、同じく心に傷を負った元兵士たちと交流を重ねながら、映画のラストのほうで少しずつ回復していく様子が描かれます。ラストのラストについては触れませんけど。

それで問題になっているのは、クリスがあまりにもいい旦那さんでありパパであり、また強く逞しく仲間思いに描かれているためか、これをイラク戦争を美化し正当化する映画だと解釈する人が出ているという点らしいです。一方で、これを反戦映画だと解釈する人もいて、映画自体の完成度の高さに加えて、そのあたりの解釈が割れるところがまた話題を呼んでいるようです。


で、私自身はどう思ったかというと、戦争を美化する映画だとも反戦映画だともかんじなくて、「イラク戦争が間違ってたという事実は事実、だけどクリス・カイルっていう、まあ悪魔だけど心の根まで腐っているわけじゃない1人の軍人がいました」という、「クリス・カイルという男の伝記映画」であって、それ以上でも以下でもないとするのがいちばんいい見方なのかな、と思いました。

確かに、最終的な標的となったイラク側のザルカウィがすごく残忍で嫌な男として描かれていたり、イラク人に名前がなく虫のように殺されていったりっていう描写はあるんですけど、そこらへんは”あえて”お粗末にしてるんだろうなというか、「これアメリカから見たイラク戦争の映画だから。中立的な立場とかとってないから。みんな、西部劇とか観てるでしょ? カッコ良く描かれてるほうが正義なわけじゃないっていうのはもうさんざんやってわかってるでしょ?」っていう、そういう”あえて”のメッセージが私は読み取れた気がするんですけど、どうでしょうか。

細部についての話

物語の解釈についてはこれくらいにしておいて、私はこの『アメリカン・スナイパー』、池袋新文芸坐のオールナイトで昨年やっていた「西部! 政治! 戦争! オヤジたちの熱い夜」特集に加えたい作品だな、と難しいことを抜きにしたら思いました。
aniram-czech.hatenablog.com

クリスが入隊しているネイビー・シールズの訓練の場面とか、クリスが戦場でバーベルを上げ下げしているところとか見ると、アメリカの方ってこういうマッチョなヒーローがやっぱり好きなんですかねえ。私はこういうマッチョな描写を見ると萎えてしまってどうもやる気が低下するんですけど、まあその話はよくて、『アメリカン・スナイパー』は本当に、西部劇の文脈を知っておいて観たほうが良さそうだな、ということを考えました。

あと、ザルカウィを撃ったシーンのラストにあった、あの車に乗れないかもしれない描写、まんま『ワイルド・ギース』だったなー、と思いまして、まあよくある表現ではありますけど、もうクリスは完璧にあそこで死ぬもんだと思わされました。この2つの逃走シーン、見比べてみると面白そう。

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アメリカン・スナイパー』は完成度としてはとても高い映画だったのですが、私はどうもこの、アメリカ臭のするかんじ苦手なんだよなということを改めて考えさせられたりしました。アメリカ臭っていうか、西部臭っていうんですかね。同じアメリカでも、東部の雰囲気が漂う物語はけっこうすんなり好きになれるものが多い気がします。

しかし、これにてイーストウッドへの苦手意識は若干減ったので、これを機に他の作品も手を出してみようかなと思いました。こちらの『アメリカン・スナイパー』、まだまだ大人気のようで、新宿と渋谷の映画館は座席がギリギリでした。都内で観に行く予定の方は、時間に余裕を持って行かれたほうがいいかもです。