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チェコ好きの日記

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【中東旅行記/7】パレスチナ自治区と、Banksy 

旅行記の続きです。前回分はこちら。

aniram-czech.hatenablog.com

私がこの旅行のメインとして考えていたのは、前回も書いたようにイスラエルエルサレムです。もちろん、エルサレムに行かずしてこの旅行はなかったと思いもするのですが、エルサレムに次いで……というかエルサレムと同じくらい行って良かったと思ったのが、パレスチナ自治区ベツレヘム

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ベツレヘムへは、エルサレムのダマスカス門付近から出ているバスに乗って、30分くらいで着きます。エルサレムから日帰りで、余裕で行けるところです。だけど、そのわずか30分で国が変わります。入国審査とかがあるわけじゃないけど、パスポートは途中の検問所でチェックされる(ことがある)。通貨は同じだけど、街に出ている看板などは、ヘブライ語からアラビア語に変わります。時折見かける国旗は、イスラエルのものからパレスチナのものになります。

だけどそんなものは些細な変化で、いちばんびっくりしたのはやっぱり、街の雰囲気がガラッと変わることかもしれません。西欧文明の香りがする白人たちの大都市から、アラブ人たちの住む素朴な田舎町へ。前者の街ではだれもタクシーの勧誘をしてこないけど、後者の街ではバスを降りた途端「俺のタクシー乗れよ」攻撃に遭います。本当はこのカオスな街をいっぱい写真に収めたかったのだけど、カメラを出しにくい雰囲気(ようするにちょっと怖い)ところが多く、観光名所以外は写真があんまりないです。

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だけど騙されたりスリに遭ったりすることは結局なかったし、お店の人は総じていい人だったので、私はこの素朴なベツレヘムという街がすごく好きになりました。ちなみにこの街に行った理由は、イエス・キリストが生まれたという聖誕教会を見ることと、イスラエルパレスチナの間を不当に分断している分離壁を見ること。この分離壁をテーマにした映画が、ハニ・アブ・アサドの『オマールの壁』です。


第86回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品!映画『オマールの壁』予告編

『オマールの壁』はどこが舞台なのかはっきりとわかりませんが(たぶんナブルスとかそっちのほうかな)、映画のなかで主人公オマールがイスラエルの秘密警察に追われて駆け回る街の風景はやはりどことなくベツレヘムに似ていて、本当にここでそういうことが起こり得るんだなー、と思いました。私が行ったときは安全な時期だったらしいですが、治安が悪いときだとイスラエルの仕掛けた催涙弾が爆発しているらしいです。被害に遭って地元の人に玉ねぎもらってる(催涙弾には玉ねぎが効くらしい)観光客もいるので、すごくいいとこなのですが行く人はお気を付けて。

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分離壁に描かれたこちらの女性の落書きは、パレスチナ人民解放戦線(PFLP)の活動家で元テロリストのライラ・カリドさんだとか。分離壁に元テロリストの絵、そして「Don't Forget the Struggle」と描いてある。なかなか胸に来るものがあります。

そして、聖誕教会と分離壁以外に、この街に行った目的がもう1つ。それは、あのバンクシーの絵を見るためです。

バンクシー・ダズ・ベツレヘム

バンクシーといえばイギリス出身のアーティストで、最近は『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』という映画が公開していましたが、なんとバンクシーベツレヘムにも来て絵を描いていたのです。タクシーの勧誘をしてくるおっさんたちは、観光客を見つけると当然のごとく「バンクシー・アートをまわってやるよ!」と営業してきます。勧誘は断って自力で探すことにしましたが、ラクしたい人はタクシーのほうがいいかも。自力でまわるのは、不可能ではないけどけっこう大変でした。

というわけで、比較的早く見つかるこちらは「兵士をボディチェックする少女」。なんか思いっきり保護されていますが、路上の壁に落書きされちゃったのをいいことに、壁の持ち主であったおやじさんが絵をガラスで保護してそのまわりにお土産屋さんを作ってしまったそうです(ここでお土産買いました)。

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だけどちょっとよくわかんなかったのですが、あとで映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』を観たら、この絵は切り出されてニューヨークで競売にかけられてたっぽいんですよね。売れなくてもどってきたのかな? よくわかんないです。


映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』予告編
(※予告編にもちらっと出てくる)

続いてこちらは「防弾チョッキを着た鳩」。「兵士をボディチェックする少女」はあくまで例外的で、他はこんなかんじでさらっと放置されています。

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この後は、ちょっと歩きます。まずはイエス・キリストが生まれたという聖誕教会へ。

なかは大部分が工事中だったのですが、それを差し引いても暗いです。カトリックの教会のようなわかりやすい装飾はなく、全体的にぼや〜っとしています。

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↓ここ、ここちょっと目をかっぽじって見てください。ここ、イエスが生まれたまさにその場所だそうですよ。2016年前、ここでオギャーとなったそうですよ。この写真を撮る直前、ここに向かって真剣にお祈りしている人がいました。

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下はスペインのグラナダ大聖堂ですが(カトリック)、本家とはえらいちがいです。私は美術を勉強していたので、美術史のテキストに出てくるようなキリスト教の教会建築も好きですが、エルサレムベツレヘムにある正教会の管理している地味な教会もけっこう気に入りました。

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気をとり直して、バンクシーの絵を探す旅にもどります。聖誕教会を出てさらに下った先にあるのが、「ハートの天使」。これはちっちゃいので、ぼーっとしていると見逃してしまうかも。

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そしていちばんの難関が、「花束を投げる男」。火炎瓶を花束に持ち替えて……という、平和へのメッセージが込められた絵だそうです。ガソリンスタンドの壁の裏にあるので、行く人はまずガソリンスタンドを探しましょう。めっちゃ歩くので自力の人は大変ですががんばりましょう。

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勝てないなら、テーブルごと引っくり返せ!

というわけで、現存のバンクシー・アートinベツレヘムを無事すべて見終えたわけですが、これらのアートを全部見てまわると、バンクシーがここに危険を冒してまで絵を描きに来た理由がわかった気がしました。

映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』を観るとわかるとおり、バンクシーはニューヨーク中心部のマンハッタンだけでなく、ブルックリンやブロンクスといったニューヨークの端にあるちょっと治安の悪いところにまで、絵を描きに行っています。すると、そこにバンクシーのアートを観に、ふだんは絶対にそんなところに行かないようなマンハッタンのお金持ちやエリートたちが訪れるようになるんですね。

アートの最大の効果は、人を移動させることができることかもしれない、と思いました。治安が悪い、ガラが悪い、危険、スラム、ゲットー。だけど、世間に見捨てられたようなそんな場所でも、アートさえあれば人は来るんです。人が来れば、お金が落ちます。私は分離壁や聖誕教会も見たかったのでバンクシーだけを目当てにベツレヘムに来たわけじゃないけど、ご飯代やお土産代などで、やっぱりこの街にお金を落とすことになりました。タクシーを使う観光客だって多いから、ベツレヘムバンクシーがもたらした経済効果は、なかなかバカにできないものになっているはずです。しかも、バンクシーが勝手に落書きしただけだから元手はタダ。

BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】

BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】

上記はバンクシーの作品の解説書ですが、日本語で帯に書いてある「勝てないなら、テーブルごと引っくり返せ!」って言葉が私は大好きです。正攻法で勝てないなら、テーブルごと、つまりルールごと引っくり返してしまえばいい。路上に出て、SNSで拡散されて、人を移動させて、それが結果的に絵の価値を高騰させる。私はバンクシーの絵自体は別にそこまで好きじゃないけど、〈バンクシーという現象〉は最高にクールだと思うから、ベツレヘムくんだりまで絵を見に行って本当に良かったなあと思いました。

旅行記は、次回がたぶん最後です。