チェコ好きの日記

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新宿よりパレスチナのほうが近い イベント後記

8月6日(土)、お知らせしていたとおり、株式会社Waseiのくいしんさん、鳥井さんと一緒にトークイベントを行ないました。当日は8月らしくわかりやすい猛暑日で、こんな日に遠いところご足労いただいたみなさんには本当に感謝です。

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もちろん反省点なども多々あったのですが(百点満点のイベントを開催できたことはない)、それはそれとして、イベントが終わったあとにいろいろと1人で考えたことなどを書いてみようかと思います。

新宿よりパレスチナのほうが近い

まず、これはイベント当日ではなく、その前にWaseiの2人と行なったツイキャスが終わったあとに、1人でぼんやりと考えていたことです。

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なんか、私はやたらと海外に旅行に行きたがる性分で、あと関係ないかもしれないけど、小説も日本文学が苦手で海外の翻訳小説のほうが好きだったりします。それに対して、これは2人に限らずなんですが、「日本国内にも面白いもの、今までの常識や世界観を変えてしまうもの、ヤバイものはたくさんある。それなのになぜあなたは海外にばかり目が行くのか」ということをよく聞かれます。つまり、お前には「灯台もと暗し*1」の精神が全然ないじゃないか、どうなってんだ、ということですね。

これ実は、本当に自分でもなんでだかよくわからなくて、2年前くらいから断続的にずっと考えていました。おっしゃる通り、「世界観を変える」とか「面白いものを見つける」ためには、海外に行かないといけないわけでは全然ありません。というか、海外にさえ行けば見つかると思っているほうがアホです。屋久島とか沖縄とか九州とかの日本国内にもあるし、そんな遠いところ行かなくたって、首都圏在住の人であれば東京でも千葉でも神奈川でも、むしろ自宅の近くでだって見つけられると思います。

だけど最近考えるようになったのは、実はここで私たちが話題にしている、〈物理的な距離〉って、けっこうどうでもいいもんなのではないか、ということです。

たとえば、私は首都圏に住んでいるので、新宿にはまあまあすぐ行けます。一方で、中東にあるイスラエル占領下の地域、パレスチナは遠いです。距離もあるし、直行便もないから、ヨーロッパや近隣の国を経由して行かなければなりません。20時間とかかかります。交通費だって、当たり前だけど後者のほうは桁がちがいます。普通に考えたら、新宿とパレスチナのどちらが近いかと聞かれて、パレスチナと答えたらアホでしかありません。


でも、上手く伝わるかどうかわかりませんが、それでも私にとってはパレスチナのほうが「近い」んです。なぜかというと、新宿にあるお店、新宿にあるカルチャー、新宿の持つ雰囲気、そういうものが私をほとんど絡めとらないからです。縁がない、という言い方でもいいかもしれません。もちろん、詳しい人に案内してもらえば面白い体験はできるし、刺激的な一夜を過ごすこともできるでしょう。だけど、それって「1回」で終わってしまう気がします。どんなに面白くても、その夜が終われば明日からまた元どおり。それ以上のものって、少なくとも今の私は、新宿という街からは得ることができないと思っています。

しかし、エルサレムパレスチナ自治区といった地域で見たもの、聞いたもの、またそこで考えたことは、私にとって「1回」で終わるものではありませんでした。実際に行ったのは「1回」なんだけど、心理的には毎日のように通っているんです。エルサレムパレスチナが抱えている問題、またはあの場所のカルチャー、成り立ち、雰囲気、そういうものが私を絡めとるからです。私はイスラエルと縁がある。少なくも、新宿という街よりはずっとずっと強い縁を、私はエルサレムパレスチナといった場所からかんじます。


これは書籍でも書いたことなのですが、人間は、自分に関係のないメッセージは受け取れません。たとえそれがどんなに強く刺激的なものだったとしても、「これは自分と関係のないことだ」と思ってしまうと、たとえ運良く受け取ることができても十分に咀嚼しきれずに、1回で終わってしまいます。私は、新宿とは関係がない。だけど、イスラエルとは関係がある。物理的な距離はここではあまり意味をなさなくて、「関係がある」と思えるかどうか。だから、「そんなのってアリ?」と思われるかもしれないけど、実は私がモロッコやヨルダンイスラエルに行くことって、俄然「灯台もと暗し」だったのではないかと思うのです。自分の足元にあるもの、自分に関係があるもの、自分が今まで見落としてきたもの、それを改めて見つめ直すために、私は中東までわざわざ行かなくてはなりませんでした。


実際、「新宿の◯◯って店」などといわれると私、「わー、どこかわかんないし、遠いなあ」という印象をまじで抱きます。一方で、モロッコとかイタリアとかベトナムとかの海外の都市名や観光地をいわれると、「あー、あそこね。近い近い。今度行こ」って思います。だからホントの話、私にとっては新宿よりパレスチナのほうが近いんです。

なんだそれ、ってかんじでしょうが、「1回」で終わってしまう場所と、「1回」では終わらない場所の選別、これは考えてみるとけっこう面白いと思いませんか? もしあなたが、「私にとってはこんなに面白くて素敵な場所(モノ)なのに、他の人はそうでもないようだ。なぜ?」と思ったら、それは対象のものが、あなたには関係のあるもので、他の人には関係のないものだからです。

写真が撮れたらよかったのに

あとこれはイベントのなかでお話したことですが、最近「写真家になれてたら良かったのになあ」と思うことが度々あります。なぜかというと、文章って、何かを主張したり伝えたりせざるを得ないからです。だけど、写真って(報道写真とか、メッセージ性の強いものはもちろんあるけど)、基本的に何もいわないですよね。主張を込めることはできるけど、受け手次第によるところが大きくなるというか、表現で遊んでいられる。

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写真みたいな文章が書きたい、と思うことがあります。何も主張しない、何もいってない。……はずなのだけど、受け手を大きく動かす力がある。そういうのが書けたら最高だなーと夢見ています。

まとめ

「これからのインターネットとの付き合いを考えよう」というイベントだったのですが、今回のエントリはここまででインターネットという単語の登場回数がゼロなので、「いったいこいつは何をやったんだ」とご来場いただけなかった人は不審に思ったかもしれません。が、インターネットの話はもちろんしました。来ていただいた方に、何か1つでも考えるヒントをお持ち帰りしてもらえていたら、嬉しいです。ここに書いたこと以外にも、「世界の麻薬・準麻薬分布地図を作っている」という話や、ネットストーキングの技術などについて(これはくいしんさんが)お話しました。

あと三次会くらいで、「チェコ好きさんがいってるのって、『世界観が変わる』じゃなくて『世界観が増える』だよね」といってくれた人がいて、あーそうそうそれ、と思いました。

AとBがたとえ相反するものだったとしても、Bを覚えたらAを捨てなきゃいけないかというとそうじゃなくて、Aを抱えたままBを受け入れることって私はできると思います。AとBが相反するものだったとしても、です。

それから、お土産にお菓子をくれた方もありがとうございました。チェコ好きが美味しくいただきました。

最後に、今回のイベントを企画してくれたくいしんさん、鳥井さんに改めてお礼をいいます。ありがとうございました。

*1:Waseiさんのウェブメディアは「灯台もと暮らし」です http://motokurashi.com/