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チェコ好きの日記

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2016年、4人のクレイジージャーニーたちを見て思ったこと。

思ったこと

世間の多くの人はもうだいたい、「仕事納め」というやつも終わり、年末休みで家族と家でのんびりしているところなのだろうか。私もまあ似たようなものではあるけれど、しかしそれはそれとしてブログは書く。

2016年を振り返ると、まず公の出来事としてはイギリスのEU離脱とトランプ氏の当選が印象に残っている。あとは、不倫には芸能人であっても身近な人であってもめちゃくちゃくちゃくちゃめちゃくちゃ興味がないのだけれど、それでもなんだか不倫報道が多い一年だったなあという印象はある。

個人的な出来事としては、2016年はやはり中東を旅行で訪れたことのインパクトがいちばん大きい。単純な旅行期間としては1ヶ月くらいだったけれど、日本に帰ってきてからもずっと中東のことやイスラム教のことを考えたり書いたりしていたので、2016年がまるまる中東だったといっても過言ではない。中東熱は未だ冷めないので、この傾向は2017年もしばらく続くと思う。

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(※モロッコ・タンジェからマラケシュへ向かう夜行列車。私は写真が下手)

それで、その中東旅行が自分の中でかなり衝撃的だったことの影響があるのだけど、TBSの『クレイジージャーニー』が面白かったなあという印象があって、振り返ってみたらこの番組に出演していた旅行者4人のトークイベントにこの1年で足を運んでいた。ブログに書いたのはそのうちの1人、丸山ゴンザレスさんのみなのだけど、他にもヨシダナギさん、佐藤健寿さん、高野秀行さんの話を聞きに行っていた。ちなみに、なぜブログにイベントに行ったことを書かなかったのかというと、ミーハーなのがバレて恥ずかしいからである(結局今、これを書いてるが)。

aniram-czech.hatenablog.com

「無視する力」が強すぎる

やっと本題に入るのだけど、まずこの4人の話を聞きに行って思ったことは、どなたも「無視する力」が強すぎる、ということだ。「無視する」とは何を無視しているのかというと、世間の流行や動き、世代に共通する価値観みたいなものである。

たとえば、先に話をあげた丸山ゴンザレスさんは、世界のスラムやメキシコの麻薬カルテルを取材しているけれど、今世間でスラムが来ているか、スラムがアツいかと問われると、全然そんなことはない。ただし麻薬カルテルブームみたいなのは確かにちょっとあって、昨今けっこうな数の小説や映画が出ていたりはする。だけど、ゴンザレスさんはカルテルがブームだからメキシコに行ったというよりは、もともとメキシコのカルテル的なものに興味があって、それがたまたま流行った、という感じだと思う。世間が動いたから自分もそこに行く、あるいは世間の動きを予測してあらかじめ移動しておくというのではなく、自分は「好き」な場所にただただじっとしていて、世間がそこに注目してくれるのを一人でぽつんと待っている。クレイジージャーニーの旅行者たちからは、全員そんな印象を受ける。


もちろん、「無視する力」が弱い人たちは、疑問に思うだろう。「たまたま波が来たから良かったものの、もし一生、自分がじっとしているところにブームが来なかったらどうするの?」と。だけどそれはやっぱり「無視する力」が弱い人だけが抱く疑問で、この力が強い人にとっては、おそらくそんなのは愚問である。なぜなら、損得勘定を抜きにして、本当に「好き」だから。だから、自分がじっとしているところに上手いことブームが来ればそれは「ラッキー」、来なかったら「ま、しょうがないよね」なのだ。


「『ま、しょうがないよね』ってあんた、お金稼いで食っていかないといけないでしょうよ」と、これまた「無視する力」が弱い人たちは疑問に思うだろう。なんなの、クレイジージャーニーたちは実家が金持ちなの? と。これに関しては、私はもちろんこの方々の実家の経済力に関する情報は持っていないのでなんともいえないけど、なんだかみんな地味に知恵を絞ってお金を工面している、という印象がある。佐藤健寿さんは『奇界遺産』が代表作で、世界中の奇妙なものを取材しているけれど、そのかたわらでグラビアの撮影などもしているみたいだ。そしてグラビア撮影のときは、名前を出さない? らしい。そしてこの点でいうと、高野秀行さんは苦労が多すぎてまったく笑えない。この人はなんと、学生時代に作家デビューするもののそれ以降本が売れなさ過ぎて、40代になるまで年収200万円をこえることがなかったと以下の本で語っている。普通の神経ならとっくに筆を折っていたはずだ。

そして、私は4人の中で作家としては高野秀行さんがいちばん好きなのだけど、同世代の女性ということもあってか、トークイベントという単位で考えるといちばん興味深い話をしてくれたのはヨシダナギさんだったかなあと思う。

ヨシダ,裸でアフリカをゆく

ヨシダナギさんはアフリカの少数民族を撮影してまわっている写真家なのだけど、幼い頃からアフリカが好きで、将来はアフリカ人になりたいと幼稚園くらいのときに思っていたらしい。それだけでもなかなかインパクトのあるエピソードだけど、私が感銘を受けたのは、会場のお客さんからの質問で、「結婚や出産、今後のキャリアについてどう考えていますか?」と聞かれたときのヨシダさんの回答である。


ヨシダさんはなんと、この質問に対して、「そういうことは、考えていません。」と言い放っていたのだ。

いわく、ヨシダさんは遺伝子こそ違えど思考は先住民族アフリカ人なので、今日何がしたいか、明日何がしたいかまでしか考えることができない。1年後とか、3年後とかのことを考えられないのだそうだ。だから、結婚をどうするかとか、出産をどうするかとか、キャリアについてとか、そういうことは頭にないらしい。

これもまた、「無視する力」が弱い人たちにとってはちょっとありえない考え方だと思うが、私はこのヨシダさんの回答に、非常に励まされた。私は普通の人なので、それなりに今後のことなどについて考えてはいるが、それでもまわりで話に聞く限りだと、結婚や恋愛や女性のキャリアなどへの関心がかなり薄い。それよりも、中東問題とかアピチャッポンの映画とかイスラム教とか麻薬のこととかを考えているほうが好きなのだ。これは、強がっているわけでも都合の悪い臭いものに蓋をしているわけでもなく、神に誓って本心からそうなのである。

だから、ヨシダさんの「そういうことは、考えていません。」という潔い回答を聞いて、そっか、アラサーの女性だからって無理してそういうこと考えなくてもいいんだ、と勇気をもらったのだ。いや、本当は考えたほうがいいし、ここでみなさんに「そういうことは考えなくてもよろしいのですよ」などということはいえないのだけど、でも勇気をもらってしまったものはどうしようもない。


「無視する力」が「弱い/強い」という書き方をしているので、あたかも強い人はエラくて、弱い人はダメみたいな印象をあたえてしまっているかもしれないけれど、これはもちろんそういう話ではない。むしろ、「無視する力が強い」というのはたぶんおおよそロクなことがないので、どちらかというとこんな力は弱いにこしたことはない。ちゃんと世間がどちらを向いているかを見て、将来のことをきちんと考えたほうがいいと思う。ちなみに、「無視する力が弱くて最強な人」として、今年『君の名は。』などをヒットさせたことで有名な川村元気さんなどをあげることができるだろう。だから、こんな力はやっぱり弱いほうがいいのだ。


だけど、今年痛感したこととして、私は残念ながら、「無視する力」がそこそこ強いみたいである。これは自慢ではなく、完全に「残念なお知らせ」だ。世間が今、どう動いているかなんてわからない。これからどういう動きが来るかなんて予測できない。女性だけど、女性の気持ちなんてわからない。もちろん、男じゃないから男の気持ちなど知る由もない。まあ、エラそうにそういうことを語ってみたくなるときもたまにあるのだけど、基本的に、私のいうことは全般的にアテにならん、と我ながら思う。

2017年も、たぶん自分の好きなことについてしか書けない。ただし、私は「無視する力」がそこそこ強いが逆にいうとそれほど強力に作用しているわけでもないので、きっとまた中途半端に流行りものにも手を出すと思う。まあ、それでもいいか。

とりあえず、「評価されなくてもずっと続ける」というのは常軌を逸した行為なので、作家生活二十ウン年ずっと「売れない売れない」といい続けしかし筆を折らずまわりに迎合するでもなく酔狂なことをやり続けた高野秀行さんがいかにスゴイかということが伝わればよい。高野さんはスゴイ。

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(※年明けはたぶん旅行記から再開)