チェコ好きの日記

旅 読書 アート いいものいっぱい 毎日楽しい

「メンタルが強い」とはどういうことか

昔、知人に聞いた話だけど、彼が中学生くらいの頃、学校で「失神ゲーム」なるものが流行したことがあるらしい。

何回か深く深呼吸したあと、息を止めて胸を圧迫するような体勢をとり、その背中を友達が思いっきり叩く。すると、気絶したような状態になるので、その浮遊するような酩酊を楽しむことができる。

「それって危ないのでは……?」と聞くと、「危ないよ」と即答された。実際、このゲームがきっかけで脳に障害が残ることもあるし、そうすれば友達同士で同意の上とはいえ、傷害罪に問われることもある。なんでそんな物騒な遊びするのかしら、もうほんと男子ってやーね、と話を聞いた私は思った。

そんな失神ゲームのことはどうでもよくて、今回は中村うさぎさんの話をしたい。KindleUnlimitedに(またか)、『ショッピングの女王』なるエッセイが入っているのだけど、面白かった。全5巻。

ショッピングの女王

ショッピングの女王

中村うさぎさんといえば、買い物依存症、ホスト狂い、整形、デリヘル嬢と、女の業という業を全部抱え込んでやってみちゃいましたみたいな人だ。しかし、「性」「ジェンダー」「フェミニズム」などがテーマになっている『私という病』は、良い本ではあるがちょっと重いな、と思わなくもない。

私という病 (新潮文庫)

私という病 (新潮文庫)

重い本には重い本ゆえの良さがあるのでそれは別にいいのだけど、一方『ショッピングの女王』はこのマンガ調の表紙からもわかるように、どこまでも軽い。

タイトルのとおり、これは、ショッピングの女王と化した中村うさぎ買い物依存症になった際の体験をつづったものだ。だけど、悲壮感がまったくない。シャネル、グッチ、ドルガバ、エルメス、超高級ブランドの靴やらコートやらスーツやら鞄やらを毎度毎度ドタバタ買っては家のソファに蟻塚のように積み上げていく。蟻塚にあるぐちゃぐちゃになった服の山の値段を勘定してみたら、なんと400万円。いくら売れっ子とはいえ、作家ってそんなに儲かるのか!?と思ったら、毎月のカード引き落とし日には借金のアテをたどって遁走し、出版社から印税を前借りし、住民税や国保を滞納し、区役所に銀行口座を差し押さえられる。何十万もするシャネルのスーツは買うけれど、ガス代と電話代は払えない。まあ、控え目に言っても人間のクズだと思う。

4巻に差し掛かると、今度は買い物に飽きたのか、ホストにハマる。自分が指名したホストの順位が悪いと悔しいから、見栄と意地でドンペリをガンガンあけ、散財の額は一晩で50万、100万、120万と釣りあがっていく。こういう金の使い方をしてみたいかと問われたら私自身はしたくないし(嘘。ちょっとしてみたい)、身を滅ぼすのでほんとやめたほうがいいよと思うんだけど、しかし中村うさぎが湯水のごとく思いっきり金を使うと、ちょっと気持ちいい。これは何も、私の性格が悪いからではないだろう(たぶん)。

買い物依存症になってしまった心の病について、など語らない。『ショッピングの女王』の文章はどこまでもユーモアたっぷりで読者を笑わせ、品はないけど、「あっぱれ!」と拍手したくなるような底抜けの明るさがある。

以前書いたブログと同じ結論になってしまうけど、「誘惑から身を守るように生きている人間と、誘惑の波に溺れてもなお岸にたどりつける人間と、どちらが強いといえるのか」。これはもちろん、後者だろう。別に強い人がえらいというわけじゃないし、下らない誘惑から身を守って丁寧に生きることだって、尊いと思うけど。というかそもそも、普通に生きていたら誘惑なんてそんなにない。「誘惑が多い」と感じるならば、それはある意味才能だ。

中村うさぎのエッセイを読んで、なぜか知人が昔話していた、失神ゲームのことを思い出してしまった。これは冗談抜きで危ないからやっちゃだめなんだけど、限界の一歩手前で引いて帰って来なくちゃだめ、なんてことはない。限界をこえてもなお自分を保ち続けられる人というのが、いちばん「メンタルが強い」のだと思う。まあそれ、心を鍛えてどうにかなるもんでもなさそうだし、凡人には無理じゃんって話になっちゃうのかもしれないけど……。

もう少し現実的によせた話をすると、人間は調子の良いときではなく、調子の悪いときにこそ、真価が問われるのだと思う。