チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

AMの連載でとり上げた本のまとめ(No.21〜30)おすすめ優先度付き

AMの連載でとりあげた本をブログにまとめている。めちゃくちゃ溜まってしまっているので、ここで30冊目までをまとめておきたい!

aniram-czech.hatenablog.com

第21回 「他人の目は気にしなくていい」…だけど他人に愛されたい。どうしたら?

国境のない生き方: 私をつくった本と旅 (小学館新書)

国境のない生き方: 私をつくった本と旅 (小学館新書)

おすすめ優先度 ★★★★☆

ヤマザキマリさんのこのエッセイに出てくる、「人間に愛されることも大事だけれど、地球に愛される人になりなさい」という言葉が私はすごく好きで、救われている。ただ、ピンとこない人には全然ピンと来ず、「はあ?」って感じなんだろうとも思う。私はもともと「他人に愛されたい」という要求があまりないのですっと入ったのだけど、このあたりの話をもっと読みたいと思ってくれる人がもしいたら、noteも合わせて目を通してみてほしい。

第22回 恋に溺れられるのは、依存する女ではなく、信念のある強い女であること

生きて行く私 (角川文庫)

生きて行く私 (角川文庫)

おすすめ優先度 ★★★★☆

宇野千代の自叙伝である。宇野千代岡本かの子向田邦子、2019年は気骨のある女性の本をたくさん読んだなあ。宇野千代は若い頃に散々浮気をしたあとで、晩年は自分が夫の浮気で捨てられてしまうので、一部の人は「因果応報」だと彼女を馬鹿にもするのだろう。でも宇野千代は、そのことを後悔していないという。そのとき本当に好きなものを、興味があるものを、人間でもその他の対象でも、一心に追い続ける。何よりこの自叙伝を書いたのが85歳だから、実にパワフルな人だったんだなあと思う。宇野千代の言葉「わたし、あなたが好きよと言って、真っ直ぐに、ぴたっとその人の眼を見て言ってごらんなさい。いやだと言って、断るものはありませんから 」の破壊力がすごい。

第23回 意味はなくただそこに「好き」がある。南米で考えた「不倫」について

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

おすすめ優先度 ★★★★★

2019年にアルゼンチンに行ったので、前にも読んでたんだけどアルゼンチン関連として再読した吉本ばななの小説。私は吉本ばななについては
チエちゃんと私 (文春文庫)』がいちばん好きで、この『不倫と南米』は2番目くらいに好き。特に好きな話は、イグアスの滝が出てくる短編だ。不倫相手と一緒に雨が降るのを見つめている描写がとても美しい。

第24回 イケてるやつほど地元を出ない?出自や世代について話したくなる『私がオバサンになったよ』

おすすめ優先度 ★★☆☆☆

ジェーン・スーさんがさまざまな人と対談している本で、さらっと読める。スーさんは東京出身なんだそうだが、東京出身の人が書く「東京」よりも、雨宮まみさんなど地方出身者が書く「東京」のほうが、東京の本質をよく捉えているしドラマチックに感じることが多い。私は神奈川県の出身なので、東京出身ではなく地方出身者というほどでもない非常につまらん人間であり、東京出身者にも地方出身者にも両方コンプレックスを感じるというとてもアンビバレントな存在である。

第25回 あなたは「衝動買い」しますか?私たちがお金を払っている“本当のもの”

しあわせのねだん (新潮文庫)

しあわせのねだん (新潮文庫)

  • 作者:角田 光代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/03/02
  • メディア: 文庫
おすすめ優先度 ★★★☆☆

角田光代さんの買い物エッセイ。特に印象的だったのは、あとがき(たぶん)にあった、「貯金ばかりが多くて自分の好きなものの話が何もできない中年男性」のこと。あんまり自己啓発っぽいことは言いたくないのだけど、若いうちはあまりケチらずお金を使ったほうがいいと私は思う。……という話を、noteにも書きました。

第26回 20代前半からの婚活もアリだが、その先長いのが人生だ。向田邦子の短編エッセイ

男どき女どき (新潮文庫)

男どき女どき (新潮文庫)

  • 作者:向田 邦子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1985/05/28
  • メディア: 文庫
おすすめ優先度 ★★★★☆

Dybe!のコラムでも書いたし、2019年は向田邦子ネタをちょっと使いすぎたな感がある。向田邦子は、小説はもちろん美意識のある暮らし方や料理や器など、憧れ要素が多いですよね。旅が好きだったことにも親近感がわく。

第27回 好きな人に「ネトスト」したことある?SNS時代特有のストーカーの実態

ストーカーとの七〇〇日戦争

ストーカーとの七〇〇日戦争

おすすめ優先度 ★★★☆☆

内澤旬子さんのこのエッセイは、現在の状況に法律が追いついていないことの代表例みたいな話だった。不謹慎な言い方かもしれないけど、この本は何よりもまず面白い。一気に読める。

第28回 顔面偏差値もセックスの好き嫌いも関係ない。私は私の欲望に正直になっていい

きりこについて (角川文庫)

きりこについて (角川文庫)

おすすめ優先度 ★★★☆☆

2019年はルッキズムについてよく考えていた年でもあった。私の中での結論は、おそらく多くの人は「逆では?」って言うと思うんだけど、仕事には容姿が少なからず影響する。が、恋愛には実はあまり影響しない。なぜなら、私の解釈では、美しい容姿とは「入り口」だからだ。仕事の入り口は常に広げてあることが望ましいが、恋愛においては基本的に決まったパートナー数人としか関係を築けない(ポリアモリーの場合などにおいてもである)。つまり、入り口が無関係とまでは言わないが、その後の関係性の構築や満足感において恋愛に容姿はあまり関係ないというのが私の結論である。

第29回 あの谷川俊太郎も「ひとり暮らし」!むなしくなったら思い出して

ひとり暮らし (新潮文庫)

ひとり暮らし (新潮文庫)

  • 作者:谷川 俊太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/01/28
  • メディア: 文庫
おすすめ優先度 ★★★★☆

このエッセイに登場する、「人間の基本単位はひとり」という谷川俊太郎の思想が私はとても好き。もちろん2人以上で暮らす楽しさや喜びはあるだろうが、暮らしや生き方を一時的ではなく永久に「2人以上セット」で考え続けることは、あまり望ましくないのではないかと私は思っているのだった。

第30回 高望みしない「普通」なんて生き方は、逆に自分を追い詰める

新編 普通をだれも教えてくれない (ちくま学芸文庫)

新編 普通をだれも教えてくれない (ちくま学芸文庫)

おすすめ優先度 ★★★☆☆

「普通」という言葉は現在、多くの場合においてちょっと息苦しい使われ方をしているように思う(そんなの"普通”じゃないよ、など)。今使われている「普通」という言葉が「だれでも持っているもの」「どこにでも普遍的にあるもの」というニュアンスを持っている以上、それを手にできなかったときに、おそらくすごく苦しい思いをする。とはいえ、やっぱり多くの人は王道ルートにのって人生を歩んだほうが生きやすいのかなあ。

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こちらの連載が書籍化されたやつも、引き続きよろしくお願いします。私はそろそろ2020年の旅行計画を立てます。

もっと詳しいプロフィール/これまでのお仕事(2019年〜)

2019年のお仕事をまとめました。

(※2018年のお仕事はこちら)
aniram-czech.hatenablog.com

(※2015〜2017年のお仕事はこちら)
aniram-czech.hatenablog.com

書籍

2019年9月に、AMの連載が書籍化されました。書き下ろし部分が多いです。

連載

2019年もずっと書かせてもらいました。隔週で更新。
am-our.com

こちらは3回連載の完結編です。
project.nikkeibp.co.jp

スマートニュースのオウンドメディア「スマQ」でインタビューをしていました。
q.smartnews.com

インタビュー

telling.asahi.com

その他

映画の試写会に呼んでいただいたり、あとはコミティアと文フリで小説や批評を書いていました。



aniram-czech.hatenablog.com
aniram-czech.hatenablog.com

2020年もたくさん書きたい! ご依頼お待ちしています。

※執筆のお仕事をいただく場合、2000字/10000円〜からお受けすることが多いです。

2019年に読んで、面白かった本ベスト10

毎年、年末になるとまとめている恒例のやつ「2019年に読んで、面白かった本ベスト10」です。今年は上半期編のまとめを書き忘れているな!? 

下は昨年のやつです。なお、「2019年に発売された本」ではなく「2019年に私が読んだ本」から選んでいるので、当然ながら古い本もあります。

aniram-czech.hatenablog.com

10位『男どき女どき』向田邦子

男どき女どき (新潮文庫)

男どき女どき (新潮文庫)

  • 作者:向田 邦子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1985/05/28
  • メディア: 文庫

実は私はこれまで、日本の女性作家の本をほとんど読まなかった(唯一の例外が吉本ばなな)。でも今年は向田邦子岡本かの子など、わりと女性作家の小説を読んだな。理由は主にAMの連載のためだったんだけど、食わず嫌いが直り読書範囲が広がって個人的にすごく楽しかった。来年は存命の日本人女性作家の小説をもっと読もうと思っていて、三宅香帆さんの『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』にあった江國香織とか、島本理生とか、山田詠美とかが家に積ん読になっている。

『男どき女どき』は、幸せとか幸せじゃないとか、そういう次元では語れない恋愛や家族の微妙な問題について書いてある短編集だと思う。

9位『幸福な監視国家・中国』梶谷 懐,高口 康太

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

中国が監視社会だとはずっと前から言われていて、私たちはそれからついジョージ・オーウェル的なディストピアを連想してしまうけど、実際の「監視国家・中国」は小説そのままの地獄なのか? 幸福な一面もあるのではないか? という立場からいろいろなことが考えられている本。実は、中国人のほとんどは自分の情報がほとんどすべて政府に筒抜けになっていることに、不満を抱いていないらしい。

面白かったのは、今の中国がそうだというわけではないのだけど、今後もっとテクノロジーが発展し監視体制が強まっていくと、犯罪が起きる前に犯罪者(になろうとしている人)の不穏な動きを感知して、犯罪を未然に防いでしまうような社会が可能になるのではないか、という仮説が書かれていた章。まさかの殺人率0%の社会が実現できる!? それがユートピアディストピアなのかは、まだ私にはわからない。友人にこの話をしたら『マイノリティ・リポート (字幕版)』の世界だ、と言われました。観たことなかったので、来年観る。

8位『予告された殺人の記録』ガルシア=マルケス

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

アルゼンチンへ向かう飛行機の中で読んでいた本。私の人生で初めて南米大陸に上陸するぞ〜ということで、南米の小説を持っていったのでした。閉鎖的な田舎町で、十分な犯行予告があったにも関わらず、ある男が滅多切りにされる事件を描く。あまりにも幻想的というか、「そんなことある?」という感じなので、私は途中までフィクションだと思っていたのだけど、これは実際に起きた事件なんだって。

自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた。彼は、やわらかな雨が降るイゲロン樹の森を通り抜ける夢を見た。夢の中では束の間幸せを味わったものの、目が覚めたときは、身体中に鳥の糞を浴びた気がしていた。

これが冒頭の文章で、この後に惨殺されたサンティアゴ・ナサールの母親の夢診断の話とかが始まる。ありえない世界がありえている。2020年はまた違うところを旅する予定だけど、南米文学は、今後も私にとってとても重要なものになりそうです。

7位『死の棘』島尾敏雄

死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)

  • 作者:島尾 敏雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/01/27
  • メディア: 文庫

これは2019年の正月に読んでいた本。夫・敏雄の浮気を知った妻・ミホが、精神を病んで狂っていく。

ただこの『死の棘』はあくまで男の側から書かれたものであり、物語としては面白いものの、美化された部分や省略された部分が当然ながらある。どのあたりがそれに該当するのかは、梯久美子さんの『狂うひと :「死の棘」の妻・島尾ミホ (新潮文庫)』を読むとわかるだろう。この本で、妻・ミホ側の視点から物語を見ることができる。2冊合わせるとすごいボリュームになるけど、ぜひ合わせて読んでみてほしい。

ただ、妻・ミホだって真実をありのまま遺せたわけではない。人間が記録するものには、多かれ少なかれ「嘘」が混じっている。それはその記録者が悪いわけではなく、そもそも記録というのがそういう性質のものだからだ。真実はどこにもなく、今は亡き敏雄とミホだけが知っている。いや、2人でさえも知らないかもしれない。2020年はミホが書いた文章も読みたいので、『海辺の生と死 (中公文庫)』とかをポチろうかな〜。

6位『辺境メシ』高野秀行

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

今回あげる10冊の中ではもっとも気軽に読める本のはずなので、kindle版もあるし、年末年始に読む本を探している人には強力に推したい。しかし、気軽に読めても中身の薄い本ではない。高野秀行さんが世界の辺境で変なメシを食べるエッセイ。ゴリラとか、猿の脳味噌とか、ラクダの乳ぶっかけ飯とか、羊の金玉とか、タランチュラとかを食べている。ようするにグロ注意なのだが、写真はそこまで刺激的じゃないのでたぶん大丈夫(個人の意見です)。

グロ注意な食べ物の連続で「うわ……」とは思うものの、それを食べている人がこの世界のどこかにいる、ということは事実で。世界の食文化の底知れなさがわかるし、我々も海外の人から見たら「うわ……」なグロ注意な食べ物を、美味しい美味しいと言いながら食べていることに変わりはない(というか、「辺境」には日本も含まれるので、日本の変な食べ物もたくさん載っている)。我々の食卓に日々あがっているものなんて世界の食べ物の中のほんのちょっとに過ぎない、と気付くことで魂が救われる人がどれくらいいるのかは不明だが、少なくとも私の魂は救われた。

5位『侍女の物語マーガレット・アトウッド

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

これは原作を読み終わって、今わざわざこれのためにHuluに加入してドラマ版『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』を見ている。時系列が交錯する系の物語なので、もしかしたらドラマ版のほうがストーリーが頭に入りやすいかも(私はそう)。

物語の舞台は、近未来のアメリカだ。環境汚染が進み、女性の不妊率が上昇、出生率が大幅に減少している。かつてのアメリカは、キリスト教原理主義者が支配する「ギレアド共和国」という国になっている。ギレアド共和国で、妊娠することができる健康な女性は「赤いセンター」に集められて教育を受け、その後侍女として「司令官」と呼ばれる地位の高い男性の家に派遣される──司令官の子供を妊娠するために。


待望の『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』シーズン2、ティザー予告

予告編を見てもらうとわかるように、物語はとにかく暗い。相互に監視しあい、楯突いた者には厳格な罰が待っている。私がもともとちょっと暗めの話が好きなのでハマったのだけど、ジョージ・オーウェルともオルダス・ハクスリーとも違う、女性作家によるディストピア小説の世界を楽しむことができる。来年また詳しく感想を書きたいなーと思っているので今回は短めに。

4位『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

今年(去年?)とても流行った本なので、読んだ人も多いのではないかと思う。流行にのって、2020年はもっと韓国文学を読んでいきたい。

内容については、「ちょっと悲劇的に書きすぎでは?」という思いと、「まさにこの通り」という思いがそれぞれに独立してある、私にとってはなんだか不思議な小説。ただひとつ「それ!」と思ったのは、この小説はいわゆる「フェミニズム」の思想の文学であるわけだけど、女性たちを虐げる存在が決して電車の中の痴漢や会社のセクハラ上司や居酒屋のおっさんだけはなく、信頼している恋人であったり、夫であったり、男友達であったりするところ。信頼しているからこそ、彼らに裏切られるととても悲しい気持ちになるし、彼らは彼らでこちらを裏切っていることにまったく気が付いていない。

キム・ジヨンを囲んで男性たちが行った座談会の記事がとても興味深くて、男の人にとってはこの小説に書かれていることは「いつの時代の話?」なんだなと納得した。いや、めちゃくちゃ現代の話ですけどね! 映画化もするらしいけど、まだまだ議論を呼びそうな小説である。

wotopi.jp

3位『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー

テヘランでロリータを読む(新装版)

テヘランでロリータを読む(新装版)

著者はイラン出身の英文学者。イスラーム革命後の抑圧的な社会状況のイランで、著者は嫌気がさして勤めていた大学を辞め、自宅で女学生を集めて小さな読書会を開く。ナボコフ、オースティン、フィッツジェラルドなど、当時イランでは禁じられていた西洋文学が、この読書会の主な課題図書だった。

ナボコフフィッツジェラルドが描いた西欧の世界とイスラーム革命後のイランでは、当然ながら社会状況がまったく違う。だけど、『ロリータ』やら『グレート・ギャツビー』やらを題材に、著者と女学生たちがときにケンカしながら議論を深めていく様子が面白い。

私の本『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか 女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド』でもこれを巻末で紹介していて、その中で「感情に言葉があたえられる」という表現を使ったのだけど、文学を読んでいると、どこにもやり場のない感情や、言語化しきれていない違和感などに居場所があたえられる瞬間があるんだよね。イランの抑圧的な社会の中で、他人のその瞬間を見ることができる。私にとっては「人間がいかに文学に救われるか」を教えてくれる、何度も読み返したい本です。

2位『伝奇集』J.L ボルヘス

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

2018年の12月にアルゼンチンに旅行に行くことを決めて、そのときに即買いしたボルヘス。詳しい感想はすでに年始に書いてしまったけど、その後この中にある短編『バベルの図書館』からインスパイアされたらしいフエギアの香水「Biblioteca de Babel」をゲットしたので、2019年は年始に宣言したとおり「におい」の年になったのではないだろうか。

1位『においの歴史』アラン・コルバン

新版 においの歴史―嗅覚と社会的想像力

新版 においの歴史―嗅覚と社会的想像力

1位が「それなの!?」という変なチョイスになってしまったのだが、なんかこれがいちばん面白かったんだわ……。

我々は今、他人や自分の体臭にびびり制汗剤をシュッシュして、部屋のにおい対策にファブリーズをシュッシュする生活を特に疑問に感じることなく送っている。だけど近代以前には、当然ながら制汗剤もファブリーズも存在しなかったわけで、そんなふうに人類が「におい」を気にしだしたのはいつからだったのか? を紐解いていく。本の中で中心的に扱われているのは、18〜19世紀の西欧(特にフランス)だ。著者のアラン・コルバンは、この時代に「嗅覚革命」ともいえる社会の変化があり、それを境に私たちの嗅覚が変化したのだ、という。

昔のパリが犬やら馬やら人間やらの糞尿であふれめっちゃ汚かった&臭かったのは有名だけど、当時の人々はあんまり気にしなかったというか、「まあそういうもんだよね」くらいの感覚だったらしい。だけど18世紀の半ば、医者や化学者が突如これらを「悪臭」と決め、排斥の対象にし始めた。なぜか。公衆衛生、清潔、無臭という概念を導入することよって、新たに力を持ち始めたブルジョワ階級が、悪臭に鈍感な貴族階級と下層階級を排除したかったからだ。つまり、今の我々が絶対正義だと思っている清潔、無臭という概念は、他者を差別するために導入されたものだったのである。

臭いものは、臭い。それは五感の感覚であって、間違いようのない絶対的なものだ。多かれ少なかれそう思っている人はいるだろう。でも、違う。汚い、臭い、不潔、そういった概念だってやっぱり社会が作っている。とはいえ、じゃあ明日からもうお風呂に入りません! ってわけにはいかないのだが、五感ですら絶対ではないのだと気付くことで、魂が救われる人もいるのではないか。少なくとも私の魂は救われた。

個人的に今年は香水にハマった年でもあるので、「におい」をめぐる諸問題についてなんかいろいろ考えていたのでした。

まとめ

そしてそして、2019年に出たワタクシの本もどうかひとつよろしくお願いします! Kindle版も出てます! ツイッターを見ると感想を書いてくれている方がたくさんいて、とても嬉しいです。ありがとうございます〜。

本を書かせてもらったりいろいろな媒体にコラムを載せていただいたりで、総量としての「書いている量」はあんまり減っていないはずなのだけど、それにしても来年はもう少したくさんブログを更新したい。よいお年を……。

11/24 文学フリマ東京【ノ-41・42】で「コンプレックス・アンソロジー」を出します!


落としませんでした! 完成しました! 間に合いました! というわけで、11/24に文学フリマ東京に来られる方は、ぜひ【ノ-41・42】ブースまで遊びにきてくださいね。立ち読み大歓迎です。

「コンプレックス・アンソロジー」とは

今回は昨年に引き続き「創作メルティングポッド」のメンバーで出展するのですが、テーマは「コンプレックス」にしました。コンプレックスを題材にした、小説が2点、批評エッセイが2点、計4作品のアンソロジーです。目次は以下。学歴コンプレックス、運動音痴コンプレックス、容姿コンプレックス×2という構成になっております。ちなみに1名入稿が間に合わなかったメンバーがいるので、もしかしたらコピー本のボーナストラックがつくかもしれません!? つかないかもしれません。頑張れ。

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私は……小説を書こうと思ったものの、テーマがコンプレックスだと批評のほうが書きやすいな〜となり、結局1万字の批評を書いてしまいました。来年はまた小説を書きたい……! なお今回の文フリでは、2月のコミティアで出した百合小説アンソロジー「Le cinq "S"」も出す予定なので、もしよければみなさん、私の渾身の百合小説も買いにきてください。渾身の百合小説を。

今回私が書いたやつについて

私が今回書いたのは、「容姿」にまつわるコンプレックスについて。私も自分の顔について自信満々というわけでは決してないので、「もっとかわいくなれたらいいのになあ」と思ったことはこの人生で数万回あるわけですが、そんな私が何を読み、何を考え、「もうこの顔で生まれちゃったもんはしょうがないな」と良くも悪くも諦めの境地に至ったのか……そんな内容を書きました。タイトルは「綺麗で魅力的な女の子になりたい人たちへ」としたのですが、これは私が他人に何か偉そうに語ってやろうという体ではなく、まんま昔の自分への手紙のような気持ちで書きました。


ブースは【ノ-41・42】です! 立ち読み歓迎! ぜひ遊びに来てください。

表紙はこんな感じ

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DRESSに寄稿しました/telling,でのインタビューを公開してもらいました

私のブログ、サブタイトルが「※9月までお休みします」となっているのですが、あんたもう10月だよと。こうして再開っちゃ再開しているのですが、お知らせレベルにとどまっているので、久々に3000〜4000字くらいでがっつりブログを書きたいなあと思っているうちに、日々は、過ぎていくのでした……。


今週は2本、記事を公開してもらいました。1つめはDRESSさんに寄稿した、岡本かの子についてのコラム。


p-dress.jp


この特集は読者としてもめちゃくちゃ楽しく読ませてもらっていて、私が特に好きなのは伊藤野枝! 私が書いた岡本かの子もそうですが、人の目なんてものをまったく気にしない「強い女」が私は昔も今も好きですね。他にも、大橋鎭子宇野千代向田邦子草間彌生についてのコラムが公開されているようです。

私も、あなたも、わがままでいい。伊藤野枝が求めた自由 | DRESS [ドレス]


あと、上の記事内で「年々にわが悲しみは深くして いよよ華やぐいのちなりけりという『老妓抄』の詩を引用しているのですが、それはこちらの短編集のもの。私は柄にもなく(?)この詩がとても好きで、寂しいだの孤独だのというけれど、それは忌避するようなものではない、それがあってこそ命は美しく華やぐのだよと、まじでそう思っています。


老妓抄 (新潮文庫)

老妓抄 (新潮文庫)


もう1つは、telling,さんで公開してもらったインタビュー。こちらは私の本に関する内容で取材していただいたのですが、テーマは「寂しさ」。


telling.asahi.com


このインタビューで私は「『寂しさ』を感じやすいか感じにくいかは、究極的には気質だ」という身も蓋もないことを言っているんですが、いや、本当にそう思うんだよね。寂しさを感じやすい人の中にはもしかしたら、自分が愛されていないから、認められていないから、一緒にいる人がいないから寂しいんだ→愛され、認められ、一緒にいてくれる人がいれば寂しくない! 愛されたい! 認められたい! と考えてヒリヒリした思いを募らせているケースが少なくないような気がするんだけど、私、別にそんなに人に愛されてないし、認められてもないし、一緒にいる人も特にいないけどそんなに寂しくないからね。だからこれはもう気質じゃないかと思うんだよね。持って生まれたもの。


愛されたいとか認められたいとかあんまり思ったことがない(いつも何を考えているのかというと、常にダラダラ「働きたくねえな〜」と思っている)私は、だから、そのヒリヒリした思いに真っ直ぐに届くようなことは書けないし、言えないのだけど。でも、その感性を持って生まれた人は、それはきっとあなたの想像力を豊かにし、他者を思いやり、優しさを育む源になっているはずだから、大切にしてほしいなと思います。私は私で、この気質を持って生まれたことによって、得したり損したりいろいろしている。


note.mu


これはnoteにも書いたんだけど、私は「いろいろな特性を持った人がいたほうがいい」という思想の持ち主。だから、寂しさを感じにくい私のようなタイプも、寂しさを感じやすいタイプも、たぶん社会にとっては両方、必要な感性です。どちらを持って生まれるかは運でしかないのだけど、せっかく当てたクジなんだから、自分の感性を大切にしたほうがいい。


今週は、そんな感じです。上の2記事、読んでもらえると嬉しいです。