チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

りっすんに寄稿しました/具体的なエピソードを書くときは2年空ける

お知らせがずるずると遅くなったけど、「りっすん」に寄稿した記事が公開されています。このご時世だとやりたくてもできないけど、人数多い飲み会が苦手な人やっぱりけっこういるよな〜と、Twitterの反応など見ていて思いました。すでに読んでくれた方、ありがとうございます!


www.e-aidem.com


ところで、私は文章を書くときに、「フェイク」を入れる確率がかな〜り高い類の書き手である。もちろんエピソードそのものを捏造するわけではないんだけど、たとえば「恋人」を「友達」と書いたり「母親」を「知人」と書いたり「友達」を「知り合いの知り合い」って書いたり、あとはいろんな人のエピソードを混ぜたり情報を入れ替えたりしていることがある。ブログや寄稿で公開する文章は大意が伝わればいいと思っているので嘘をついているとは思ってないんだけど(「母親=知人」って別に嘘じゃないし)、なぜそんなことをするのかといえば、やっぱり「自分のまわりの人のことを書く」ことに強い抵抗があるからなのだった。強い抵抗というか、強すぎる抵抗というか。あんまり自分のプライベートをさらけ出すのもどうかと思うけど、それにしたって私は書かなすぎかもしれない。


今回の寄稿に限っていえば、いわゆる「フェイク」はないのだけど、私にとって「夜の仕事」の話がやっと時効になって表に出せるようになったな〜という気がする。自分のまわりの人のことを書くのが苦手というか、リアルタイムで身辺雑記を書くのが苦手なのかもしれない。旅行記だけはほぼリアルタイムで書けるんだけど、それはまあ非日常だからだろうな。というわけで私の時効の話、まだ読んでいない方がいたらぜひ読んでください!



しかし、自分の身辺雑記をリアルタイムでは書かない私も、他人の身辺雑記を読むのは好きで、ここ1ヶ月くらい流水りんこさんのマンガにどハマりしずっと読んでいた。もうこれでほぼ全作読破したんじゃないか。しかも、全作読破した上でさらに2周目とか3周目とかを読んでいるので、ハマりかたがえぐい気がする。ただ「これが推しなの、絶対みんなに読んでほしいの超おすすめなのキラキラ!」という類のイタリアンや創作料理的なものではなくて、どちらかというと納豆ごはん的というか、「毎日とにかくずっと読める。深い感動はないがとにかくずっと飽きない」みたいなマンガ。いやもちろん私の感想ですよ! これがイタリアンで創作料理だという人ももちろんいるでしょう。でも私にとっては、同じ話を毎日読んでもぜんぜん飽きないという、すっごい不思議な空気感のマンガなんだよなー。上の『インド夫婦茶碗』はインド人のサッシーさんと結婚した流水さんの子育てエッセイなんだけど、全24巻あるの2周読みました。ちなみにいちばん好きなのは、流水さんのバックパッカー時代を描いた『インドな日々』全4巻で、これたぶん5周くらいしたな。朝起きてまず読む。夜寝る前にとりあえず読む。聖書か!? なんかのお祈りなのか!? という読み方をしている。子供って同じ絵本をずっと読んでて「なんで飽きないんだ??」と思ったりすることがあるけど、そういう感じで何周も読んでいますね。流水さんのマンガを朝晩読むと来世で聖人になれる宗教に入っているとかいうわけではないです。



自分のバックパッカー時代を描いた『インドな日々』はともかく、『インド夫婦茶碗』はサッシーさんと結婚して息子さんと娘さんが生まれて、その子供たちが成人するまで全部書いてあるのですよ。24巻もあるので。ただ、子供が赤ちゃんや小学生の頃はともかく、中学生高校生となると自我が育ってくるので「お母さん、家族のことをマンガに描くのはやめてよ!」と言われたりする。そこらへんも含めて面白い。そして「そりゃそうだよな、うん、子供のことはもう描かないよ」となって、そこから自分たち夫婦の老いについての描写が多くなるのも面白い。


私はあんまり「さらけ出すエッセイ」は好きではないほうなんだけど、流水さんのマンガを納豆ごはんのごとくすいすいと読むことができたのは、距離感の取り方が絶妙だったからではないか。あとがきを参照すると、『インド夫婦茶碗』は、実際のできごとよりも2年遅れくらいで描いていたらしいのです。つまり、マンガで子供が小2ならリアルタイムでは小4。マンガの中でサッシーさんが救急車で運ばれたり娘さんが大怪我したりしても、2年前のできごと。リアルタイムで描いてればそりゃあキツかっただろうなと思う。私は今後も身辺雑記はあまり書かないと思うけど、年月が経って時効になったらいろいろなことが書きやすくなるというのは、わかるなあ。書きやすくなるというか、どこらへんに配慮して書くとまわりを傷つけないかコントロールできるようになるというか。そういう距離感の工夫があったからこそ、24巻まで続いたんじゃないかなあとも思う。


「私だけの納豆ごはんだから流水さんのマンガについてはブログに書かないもん」とか思っていたのだけど、やっぱりもっともっと世に広まるべきだという気もしてきたのでなんかまた書こうかな!?(私に広げられるのかという疑問はともかく……)。いやでも、自分のおすすめのオシャレイタリアンについて書くことはあっても毎日食べてる納豆ごはんのことって書きにくいよな。ちなみに流水さんの旦那さんであるサッシーさんは練馬で「ケララバワン」という南インド料理の店をやっているので、私はここも行ったよ。

くそ、ただの大ファンかよ。すみません、ただの大ファンでした。海外解禁の日がやってきたら、絶対バラナシ行ってガンガーからのぼる朝日を拝んでやるからな〜!

f:id:aniram-czech:20210216200355j:plain
真ん中のものは唐揚げじゃないです。マライティッカだよ

tabelog.com

2020年に読んで面白かった本ベスト10

年末恒例のやつです。今年私が読んだ本の中で、面白かった本10冊のまとめ。「今年出た本」ではなく、あくまで「私が今年読んだ本」の中で順位を決めています。ちなみに上半期のまとめはこちら。

aniram-czech.hatenablog.com

10位 『贅沢貧乏のマリア』群ようこ

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

本家の森茉莉の『贅沢貧乏(新潮文庫)』よりも、それを一歩引いて見つめた『贅沢貧乏のマリア』のほうが結果的には面白かったな。私はいわゆる自己責任論がめちゃくちゃ嫌いなので「金がないのも孤独で寂しいのも自己責任、自分次第、努力で解決できる!」とはあまり思ってないんだけど、心の中で貴族になることってできるんだよね。自分もせかせかと働いてお賃金を得ておりますが、マインドだけはいつだって高等遊民さ。


(※このツイートは私の本『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか 女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド』に書いた話)

(※この本について書いたコラムはこちら)
am-our.com

9位 『アーレントハイデガー』E・エティンガー

アーレントとハイデガー

アーレントとハイデガー

ハンナ・アーレントハイデガーは俗にいう不倫関係であったわけだけど、実際のところお互いのことをどう思っていたのか? それは往復書簡をいくら辿ったところで当人同士にしかわからない。わからないんだけど、思想と歴史によりめんどくささが倍増してしまったこの2人の関係が私はどうもすごく好きらしい。アーレントは情に絆されてかつての恋人ハイデガーの思想を擁護したのか、あるいはその真意はユダヤ批判ではないとするハイデガーの思想を見抜いて信じていたのか。今後もこの2人に関する面白い関連書籍があったら読みたい。

8位 『聖なるズー』濱野ちひろ

聖なるズー (集英社学芸単行本)

聖なるズー (集英社学芸単行本)

2020年の上半期に読んですごく面白かったノンフィクション。ただ読み終わって時間が経ってみると、「動物性愛」とはつくづく難しいテーマだなという考えが深まっている。彼ら(人間)とパートナー(動物)の間にはたしかに信頼関係があるので、彼らのしている性行為を即時に動物虐待と結びつけなくてもいいんじゃないかなーと私は思うのだが、それをもって「対等な関係」といえるかどうか、そもそも「対等な関係」なんて人間同士でも成立しうるのか、なんて考えていくと本当にキリがない。

7位 『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹

今年の読んでよかった本には村上春樹が2冊も入っていて「あんたやっぱりムラカミのおじさんが好きなのね」という感じになってしまった。ただしこの『猫を棄てる』は、村上春樹がはじめて自分の父親、出生について語ったエッセイということで、サンドウィッチもウイスキーもレタスもコーヒーもオムレツもジャズも出てこない。なぜなら村上春樹は日本人だから。代わりに出てくるのは、納豆と味噌汁と梅干し。それがなんとも不思議に感じるエッセイだった。

(※詳しい感想はこちら)
note.com

6位 『ワールズ・エンド(世界の果て)』ポール・セロー

AMのコラムでは表題作『ワールズ・エンド(世界の果て)』と『ボランティア講演者』について書いたんだけど、他にも『コルシカ島の冒険』『真っ白な嘘』『緑したたる島』あたりの話はかなり好きだったなと。「何かが間違っているのだけど、何が間違っているのかがつかめない」と訳者の村上春樹が解説で書いていて、まあ全体的にそんな雰囲気の短編集。極めて個人的な行き詰まりを描いているのに、舞台だけはグローバルなので旅行気分も味わえて楽しい。

(※この本について書いたコラムはこちら)
am-our.com

5位 『幻のアフリカ納豆を追え!ーそして現れた〈サピエンス納豆〉ー』高野秀行

「納豆は日本にしかない、日本の伝統食」とみんなが言うので「へーそうなんだ」と素直に信じる反面、「食文化に限ってんなわけねえだろ」という疑いも持ち続けたまま30年以上生きてきたのですが、どうやら「んなわけねえだろ」が勝ったもよう。納豆は韓国にも他のアジア諸国にもあるし、なんならアフリカにもある。この本を読んで思ったのは、「歴史」ってのはやっぱりずいぶん恣意的なものなんだなということ。バイデン氏が大統領選で勝利したことは歴史として残るけど、今日誰かが食卓で納豆卵かけごはんを食べたことはどこにも記録されない。だから、「生活」ってあとで振り返るときにすっぽり抜けてブラックボックスみたいになってしまうんだな〜なんか怖! と思いました。

4位『ラオスにいったい何があるというんですか?』

私は村上春樹旅行記がとにかく大好きなんだが、ある時期から旅行エッセイ書かなくなっちゃったんだよねこの人。そんな村上春樹がまた旅行エッセイを出したぞ! と聞いたときは嬉しい反面、「めっちゃつまんなくなってたらどうしよ」という恐怖があり今年になるまで手が出なかったのを、やっと読んだ。結果、やっぱり村上春樹の旅行エッセイはすごくすごくよかった。恥ずかしいことをいうと「私もこんなふうに書けたらいいのになあ」と相変わらずの嫉妬を覚える文章だった。特に好きなのはアイスランド編。海外旅行解禁されたら行きたい場所として脳内予約してあります。

3位 『ニューヨークより不思議』四方田犬彦

ニューヨークより不思議 (河出文庫)

ニューヨークより不思議 (河出文庫)

四方田犬彦氏のニューヨーク滞在記。著名な映画監督や画家や評論家がたくさん出てくるので嫉妬を覚えるが四方田犬彦氏なのでしょうがない。ただもちろん「イケてる俺のイケてる交流記」などではなく、焦点が当てられているのはニューヨークに住むアジア系の人たちで、「なんでもアリ」なはずのニューヨークでstrangerとして生きる人々のどうしようもない居心地の悪さみたいなものが書かれている。まあ、四方田犬彦氏って私の恩師なので、こんな浅い感想が目に入ったら半殺しにされる気がするので先生読まないでください。

2位 『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー

この小説は、とにかくもうめちゃくちゃ面白かったしAMのコラムもたくさんの人に読んでもらえたっぽいので大満足。すごく意地悪な終わり方をしているし、実際「うわ、きっつー!」と思った方も子育て終えた勢のなかにはいるみたい。主人公は3人の子供を育て終えたマダムなんですが、本当にこういうお母さんいそうだもんな〜。人間の孤独に終わりなし。

(※この本について書いたコラムはこちら)
am-our.com

1位 『リヴァイアサンポール・オースター

リヴァイアサン (新潮文庫)

リヴァイアサン (新潮文庫)

2020年に読んでよかった本、1位はポール・オースターの『リヴァイアサン』。理由はシンプルに、主人公のベンジャミン・サックスというテロリストが、自分とよく似た思想の持ち主だったからです。私は常々自分のことを「一歩間違えていたらテロリストになっていたかも」「一歩間違えていたらカルト宗教にハマっていたかも」と思っているんだけど、なんか、狂信的なんですよね、根が。ときどき噴出する破壊衝動を「どうどう」と制してくれるのはいつだって文学(あるいは映画)なので、やっぱり私は文学に救われている人生だな。

(※詳しい感想はこちら)
note.com

まとめ

「人生何が起きるかわかんないからね〜」とは昨年だって一昨年だって言っていたし理解もしていたが、それにしたって、「まさかこんなことになるとは思わなかった」の一言に尽きる1年だったし、これは決して私ひとりのごくごく個人的な感想ってわけでもないと思う。今日眠って明日起きたら実はまだ2020年の2月後半くらいで、「全部夢でした〜」というオチもありうると私は思っていますからね。いやー、こんなことってあるんだなあ。


医療従事者の方や経済的に困窮している方のことを考えると、一時期は何を書けばいいのかわからなくて何も書けなくなってしまって、今もまだその状況を完全に脱したわけではない。でもまあ、私にできるのはせいぜい少額の寄付をすることと、真面目に働くことと、経済をまわすことくらいなので、来年もあまり身分不相応な欲を出さずに黙々とやっていきたい。


最後に、出版からもう1年以上が経過しましたが私の本の宣伝です。今もときどきTwitterで感想を呟いてくれる人がいるので嬉しい。よいお年を。

AMの連載でとり上げた本のまとめ(No.41〜50)おすすめ優先度付き

今回もまたAMの連載で紹介した記事がまた溜まってきたので、ここでまとめておきます。過去分は以下。

aniram-czech.hatenablog.com

第41回 動物とのセックスは「異常」だろうか――「私」にとっての対等、合意の意味について

聖なるズー (集英社学芸単行本)

聖なるズー (集英社学芸単行本)

おすすめ優先度 ★★★★★

2020年、動物性愛や小児性愛などについて考えることが多かった。肯定するにも否定するにもかなりナイーブなテーマなので、私が軽はずみに何か書いてはいけないと思っている。でも本当に、いろいろ考えていることはある。この本はAMでの紹介においては、動物性愛の是非というよりは「"対等な関係""パートナーシップ”って簡単にいうけど、それってつまり何よ?」という文脈で書いた。人間の男女、女同士、男同士でも、「対等な関係」ってすごく難しいと思う。

第42回 女性が支配する世界はきっと平和……な、わけがない。男女逆転小説で考える、「力ある者」のふるまい方

パワー

パワー

おすすめ優先度 ★★★★☆

マーガレット・アトウッド侍女の物語』に続いて読んだ、フェミニズムのSF。ただし、フェミニズムのSFってフェミニズムとして読むととても示唆的で面白いんだけど、SFやエンタメとして読むとちょっと設定が詰め切れてないような印象を受ける作品もある気がする。アトウッドは新作『誓願』が出たそうなので、これもまあ一応読みたいリストには入っている。

第43回 「誰かが悪い」と思えば、楽だけど…原因がない「悲劇」の向き合い方

夏の終り (新潮文庫)

夏の終り (新潮文庫)

おすすめ優先度 ★★★☆☆

この回で扱ったのは瀬戸内寂聴。『夏の終り』は、妻に別宅の妾がいることをオープンにしている男とその妾の主人公の話。ただ、主人公は主人公で他に男がいたりするのでややこしい。おそらく人によっては主人公がとても身勝手に思えたりするのだろうけど、私はこの主人公をそんなに嫌いになれなくて、「ま、そういうこともある」と思って読みました。

第44回 「あいつ、もう食ったよ」は、最愛のパートナーにこそ使って欲しい! 性と食を考える『性食考』

性食考

性食考

おすすめ優先度 ★★★☆☆

世界のさまざまな民話・神話から、「性」と「食」について考えている本『性食考』を扱った回。「結婚」というとアラサー前後の妙齢の男女を思い浮かべる人が多いと思うけど、『聖なるズー』で扱ったように動物を生涯のパートナーとしたい人だっているだろうし、それこそ人類は太古の昔から異類婚姻譚というかたちで、人間以外の生き物とセックスしたり子供を作ったりする物語を紡いできたわけで。私は同性婚の法制化にはもちろん賛成しているんだけど、恋愛や性愛の関係にないノンケの男性同士や女性同士が家族を持つために友情結婚するのもアリだと思っているし、もっといえばそれこそ動物を正式なパートナーとすることだって選択肢としてあってもいいのかもしれない。あとは、「遺伝子的に3人の親を持つ子供」も技術的にはもう可能らしいので、それなら父2人母1人子が3人の6人家族とかだっていいよなあ。「恋愛」「結婚」「家族」「共同体」について、もっと自由に考えていきたいと思う私です。

第45回 「粋」なファッションは、姿勢にも影響する。自由に買い物できる日まで『着せる女』を読もう

着せる女

着せる女

  • 作者:内澤 旬子
  • 発売日: 2020/02/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

おすすめ優先度 ★★★☆☆

『着せる女』は著者の内澤旬子さんが作家や編集者の男性たちにスーツを選ぶというエッセイ。緊急事態宣言が出ており生活必需品以外のものを買いに出かけることができない時期に読んだので、バーニーズニューヨークで一流ブランドのスーツを試着する描写の楽しそうなことこの上なかった。そして女性のスーツのバリエーションのなさ、「PTAっぽくなる」というお悩みもまさに。50代くらいのバリキャリの女性が着る仕事着ももう少し種類がほしいよなー。

第46回 お金がなくてもひとりでも、哲学と美意識は忘れない。森茉莉に学ぶ、独身女性の楽しい生き方

贅沢貧乏(新潮文庫)

贅沢貧乏(新潮文庫)

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

おすすめ優先度 ★★★★★

今回紹介する中ではいちばん読まれたらしい回。独身ひとり暮らしで孤独死を遂げた森茉莉だけど、私は森茉莉の最期をそんなに悲惨だとは思っていなくて、「いいんじゃない?」って感じ。森茉莉は晩年「ひとり暮らしは嫌ね」って言ってたらしいけど、まあ老人になるとみんな心細くて弱音は多かれ少なかれ言うだろうしな。

第47回 男女の区別がない世界で愛は生まれるのか?ステイホーム中に現実逃避できる古典SF『闇の左手』

おすすめ優先度 ★★★★☆

時期的に、この頃から明確に「コロナ」を意識して書くようになったかも。『闇の左手』もアトウッドやナオミ・オルダーマンのようにフェミニズムSFの範疇に入る作品だと思うんだけど、なんかやっぱり設定の詰めが甘い気がするんだよな!? でもそれを言い出したら『TENET』とかも絶対どこかに矛盾があると私は疑っているので、まあ面白いからいいのかもしれない。

第48回 自分の〈被害〉と同時に〈加害〉についても語られる韓国文学『わたしに無害なひと』

わたしに無害なひと (となりの国のものがたり5)

わたしに無害なひと (となりの国のものがたり5)

おすすめ優先度 ★★★★☆

最近アツイと聞く韓国文学。「STUDIO VOICE vol.415」も韓国文学の特集が面白かったので、さらに守備範囲を広げたい人にはおすすめ。この『わたしに無害なひと』は、自分が「虐げられている人」であると同時に「虐げている人」でもあるという視点が『82年生まれ、キム・ジヨン』などとはまた違って新鮮だったように思う。自分の被害者性を訴えることと同時に、加害性について自覚するのも大切だよなと思う昨今です。

第49回 自分は何者なのか? パラパラ読める『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』で己の物語を見つめ直す

おすすめ優先度 ★★★★☆

なんだか社会が不安定だと感じるとき、一般の方々の体験した「ちょっとヘンな話」を集めることで、日常を取り戻す。それ自体は私はとても「わかる」と思うんだけど、それを「"ナショナル"・ストーリー・プロジェクト」と名付けるのはいささかアメリカ的という感じがしないでもない。という、日本とアメリカの違いをひしひしと感じつつも、ドラマチックな出来事よりもこういう「ちょっとヘンな話」のほうに本質が宿る気はしますね、個人的に。

第50回 手をかけた料理が絶対?テキトー弁当で育ったわたしたち『ヴィオラ母さん/ヤマザキマリ』

おすすめ優先度 ★★★★☆

ヤマザキマリさんのエッセイが好きで私はよく読んでいるんだけど、ヤマザキさんは典型的なマッチョ思考なので合わない人は合わないかもしれない……そしてそのマッチョ思考の出所は、ヴィオラ奏者のシングルマザーであったヤマザキさんのお母さんなのだな、とわかるのがこちらの本。コラムの冒頭にブエノスアイレスで見たキッズたちのお弁当のことを書いたのですが、こういうのを見るためにも早く海外旅行に行けるようになるといいなあ。

最後にわたしの本も宣伝

発売してからもう1年以上が経ちました。正直あっという間すぎて「1年経った」という実感がぜんぜんわかないのだけど、これからもAMのコラムやnote(もちろんブログも)更新していくつもりなので、よろしくお願いします。

「マイナビ学生の窓口」で冒険(たび)に出たくなる本5選を考えました。

こちらの記事が8月末に公開されています。5冊ともお気に入りの本ばかりなので、よかったらチェックしてみてください。

gakumado.mynavi.jp

以下は、こちらの記事のあとがき的な内容です。

旅ができない時期の冒険(たび)

長期休暇といえば旅だけど、今年は海外に行くのは無理だし、というか風の噂によると奥多摩がめちゃ混んでいるらしい。まあわかる、私も奥多摩に行きたいよ! 


そんな状況で「冒険(たび)に出たくなる本」を選ぶのはなかなか難しかったのだけど、永遠にこの状況が続くわけじゃないし(と信じたい)、旅に出られない今だからこそ読書で冒険(たび)に出る、というコンセプトはむしろアリなのでは? と考えながらこの5冊を選んだ。結果、ニューヨークが舞台のエッセイ、トルコが舞台のノンフィクション、チベットやシリアを旅するエッセイ漫画、パプアニューギニアが舞台の漫画などなど、偏りなしにバラバラな土地の本をチョイスしてしまった。とはいえ、「ここではないどこか」に行くだけが冒険(たび)ではないってことで、ゾンビの本がなぜか入っているのはそういう理由もある。


旅行に行かずして「家」の中のことを考えるのもまあ嫌いではなくて、「家具」と「食」について考える本はAMのほうで紹介している。家具は、本当はFLOSの照明とかが欲しいけど経済力に限界があるので、発酵食品とかに凝って遊んでいます……。


am-our.com


(※これは8月末に出た本なのでAMの中では触れられなかったけど、安定の高野秀行さん。食文化をたどるのは楽しい。「食に凝る」となると料理をするのではなく「食文化の本を読む」という方向に走る私です)



一部有料なのですが、最近コラムや日記的な内容はnoteに書くようになっています。でもAmazonリンクの書影が貼りやすいのでブログにはブログの良さがある。


note.com


2020年ももう残すところ数ヶ月ですが、この残りの数ヶ月で私はアメリカ文学研究(独自)をやろうと思っているので、またブログはお知らせ以外でも更新する予定です。

2020年上半期に読んで面白かった本ベスト10

恒例のやつです。今年の1月から6月末までに私が読んだ本の中で、面白かった本10冊のまとめ。おそらく今年の夏は、海外はもちろん、国内でも旅行の計画はなかなか立てにくいと思うので、少しでも読んでくれる人のおうち時間の足しになれば幸いです。


2019年末のやつはこちら
aniram-czech.hatenablog.com


10位 『世界史を変えた13の病』ジェニファー・ライト

世界史を変えた13の病

世界史を変えた13の病

このコロナ禍のなかでつい読みたくなってしまった感染症関連の本。ペストからスペイン風邪ハンセン病から梅毒まで、さまざまな病気が人類の歴史にどう影響を与えたのかが書いてある。著者の文体にちょっとクセがあり、たまにアメリカンブラックジョークみたいなのが鼻につくが、私はそういうの慣れてるから平気(?)。

9位 『いまさらですがソ連邦速水螺旋人,津久田重吾

いまさらですがソ連邦

いまさらですがソ連邦

3月上旬まで、バルト三国ポーランドを旅する予定でいた関係で読んだ本。私が大学と大学院で研究していたのもソ連の影響が色濃かった時代のチェコスロヴァキアだったので、一部は少し懐かしく感じるところもあり。リトアニアKGB博物館、行きたかったなあ。

8位 『アメリカ紀行』千葉雅也

アメリカ紀行

アメリカ紀行

千葉雅也さんのアメリカ旅行(旅行ではないな、研究)記。コンビニがないとか、なんとなく水場が汚いとか、すごく小さなほとんどどうでもいいようなことなんだけど、日本以外の国へ行くと身体をとりまく不協和音にいつも戸惑う。その不協和音はおそらく「不快」と感じる人が大半で、しかし私のような旅行中毒者にとってはその不協和音こそが快感で、だから今年日本の外に出られないというのは本当に悩ましいのであった……。

7位 『ハックルベリー・フィンの冒けん』マーク・トウェイン

ハックルベリー・フィンの冒けん

ハックルベリー・フィンの冒けん

「すべてのアメリカ文学の源流はここにある」的なことをヘミングウェイが言ったらしいので(ソース不明)、そういえば読んだことなかったなと思い読んでみたら面白かった。トムソーヤのほうは知っている人が多いと思うけど、ハックルベリー・フィンは子供向けではなく、黒人差別問題や父親の問題などが物語の中心にあり、かなり大人向け。下半期はこの物語をさらに深く読み解くために、批評をいくつか読みたいと思っている。

6位 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』ポール・オースター

AMの連載でも取り上げたポール・オースター。政治家でも芸術家でもない普通の人々が体験した、「ちょっとヘンな話」を集めた短編集。この状況でバラバラになってしまった何かをもう一度つなぎ合わせるため、あえてバラバラなものを読む。なんとなく、今のこの時期に読むのに適した本だなーと感じる。

5位 『贅沢貧乏のマリア』群ようこ

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

『贅沢貧乏』といえば森茉莉だが、森茉莉ももちろんいいのだがより現実感のある(?)群ようこのこちらのほうが印象に残った。ゴミに埋もれながら孤独死を遂げた独身の森茉莉。家にいるしかない今期の私は過去最高にインテリア熱と掃除熱が高まっており部屋はゴミ屋敷ではまったくないんだけど、別に散らかっててもそれはそれでいいんだよな、と本気で思えるようになった(異臭とかするレベルまでいくと近隣の人の迷惑になるけど)。

4位 『ナラタージュ島本理生

ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)

なんか前も言ったので宣伝臭がしてしまうかもしれないが、AMの連載で時勢もあってかものすごくたくさん読んでもらえたらしい『ナラタージュ』の回。私自身は倫理観が世の中とかけ離れすぎていて時折戸惑ってしまうこともあるんだけど、それはやたら本ばかり読んでいるので、「ケース・バイ・ケース」の「ケース」をたくさん頭の中に持っているから……ということにしたいですね。『ナラタージュ』もまたひとつの「ケース」だ。

3位 『アーレントハイデガー』E・エティンガー

アーレントとハイデガー

アーレントとハイデガー

こちらも、3月上旬までバルト三国ポーランドを旅する予定でいた関係で読んだ本。ポーランドアウシュヴィッツ博物館に行く予定だったので、ユダヤ人やナチスドイツに関する本を上半期はいろいろ読んでいた。『エルサレムアイヒマン』を著したアーレントと、ナチスドイツを支持したと考えられている(反対意見もある)ハイデガーの関係は謎めいていて、宿命めいていて、すごく惹かれるものがあるんだよなあ。

2位 『聖なるズー』濱野ちひろ

聖なるズー (集英社学芸単行本)

聖なるズー (集英社学芸単行本)

ドイツの動物性愛者の団体を追ったドキュメンタリー。賛否ある内容だとは思うけど、すごくすごく面白かった。性愛や恋愛に興味がある人、動物が好きな人にはぜひ読んでみてもらいたい。「獣姦」というと忌々しいけど、動物と対等な関係を築いた上でセックスをすることは可能なのか、そもそも対等とは何なのか、人間同士であれば対等は成り立つのか、などなど問いは無限に浮かぶ。

1位 『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹

ぶつぶつ文句を言いながらもやっぱりあん村上春樹が好きなのね、という結果になってしまった。いつも通りの春樹のエッセイといえばその通りなんだけど、「村上春樹って日本人だったのか……」という新鮮な驚きがある。子供の頃からずっとバゲットにバターを塗ってレタスと生ハムを挟んで深煎りのコーヒーと一緒に食べてるのかと思いきや(BGMはギル・エヴァンス)、春樹はちゃんと味噌汁と納豆のある場所で生まれ育っていた。「何言ってんだ」と思われるかもしれないけど、本当にそうなんだよ。日本文学よりはアメリカ文学に位置付けられ、無国籍な存在として受け入れられている春樹文学だけど、これはちゃんと「日本」だ、と思える春樹唯一の著作かもしれない。

まとめ

2020年上半期は、コロナウイルスでわちゃわちゃしていた記憶しかない……という人がたくさんいるはず。私もまた例外ではない。2020年といえば東京オリンピックを開催するはずだった年で、『東京タラレバ娘』の主人公たちは「オリンピックを1人で見るなんて!」と結婚を焦っていたわけだけど、実際に訪れた2020年はちょっとそれどころじゃないというか、コロナ以外の部分も合わせて「時代は変わったんだな」という感じがする。私は未来のことや先のことを考えて行動するのが苦手なんだけど、それはこんなふうに、時代や世相や自分を取り巻く環境はすぐに変わってしまうからだ(と、言い切るのは言い訳がましいが)。だから、そのときの自分の信念と確信に基づいて行動するしかない。それ以外の部分は、ほとんど無視したってかまわない。

と、きれいに言い切れるほどアッサリした人間では私も全然ないけれど、下半期も引き続き体力勝負になりそう。健康になりたい……。


★最後に宣伝★ 私の本も夜露死苦