お正月休みもおわり、お仕事が始まっている方も多いと思います。
私は、新年の数日間を、初詣に行ったりもしたけれど、ほとんど寝……読書をしてすごしていました。
甘酒を飲んだりしながら、毛布にくるまって読書をするのは、代えがたい至福のときです。
こういったちょっと特別な、長いお休みをとれるときは、ふだんはなかなか手が出ないような、分厚い本、重い本、集中力を要す本なんかを手に取ってみる、というのもまた一興です。
今回は、そんな私がお正月に家に引きこもって読んでいた本のなかから、ある1冊を紹介したいと思います。
内容的にも、厚み的にも、通勤電車のなかやスキマ時間に読むのはちょっともったいない本なので、ゴールデンウィーク? など、長いお休みをとれるときのお供にどうぞ。
きっと、心おだやかな時間をすごせるでしょう。
そしてそのおだやかな時間は、もしどこかで私やあなたが道を踏み外してしまったとしても、強力なセーフティーネットとなって、網目にすくいあげてくれるはずです。
★★★
- 作者: 池澤夏樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/01/15
- メディア: 単行本
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本書は、作家の池澤夏樹氏が、京大で行なった文学の連続講義記録をまとめたものです。
扱われている文学作品は、以下の10作品。
スタンダール 『パルムの僧院』(1838年、フランス)
トルストイ 『アンナ・カレーニナ』(1875~77年、ロシア)
ドストエフスキー 『カラマーゾフの兄弟』(1880年、ロシア)
メルヴィル 『白鯨』(1851年、アメリカ)
ジョイス 『ユリシーズ』(1922年、アイルランド)
マン 『魔の山』(1924年、ドイツ)
フォークナー 『アブサロム、アブサロム!』(1936年、アメリカ)
トウェイン 『ハックルベリ・フィンの冒険』(1885年、アメリカ)
ガルシア=マルケス『百年の孤独』(1967年、コロンビア)
ピンチョン 『競売ナンバー49の叫び』(1966年、アメリカ)
以前、私はほぼ日手帳に「死ぬまでにやりたいことリスト100」というのを書いている、
という話をこのブログでもしましたが、
ほぼ日手帳2013 手帳に何書いてる? - (チェコ好き)の日記
そのリストのなかに、上の10作品のような「名作系」の文学を、読めるだけ読んで死にたい、という項目があります。
ちなみに私は、上記の作品のなかで、ドストエフスキーとガルシア=マルケスとピンチョンを読んだことがありますが、「本の概要と読みどころを説明して」っていわれたら、動揺します。なぜなら、文章を目で追っただけで、あんまり内容が頭に入っていないから……!
だから、3作品とも、いつか読み直すことになるんだと思います。
考えてみれば非常に効率の悪いことをやっているわけですが、それでも、本物の「文学」を知っている人生と、知らない人生とでは、知っている人生のほうが、たぶんちょっと“いい感じ”です。
なぜかというと、こういった文学作品のなかには、「人生の真理」みたいなものが、ちょっとずつ、ちょっとずつ、つまっているからです。
たとえば、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』。私は20歳直前に、この本を1度読んだことがあったはずなのですが、ゾシマという修道院の長老の死体から腐臭がただようという、その場面以外ほとんど記憶になかったのですね。
でも、直接引用できないのが悔しいですが、
「たった一瞬でもいい、心から幸福だったと思える記憶があるならば、人は、深いところで自分の人生を肯定できるだろう」
的なことをいっているセリフが、この本のなかにはあるらしいのですよ。
すっかり内容を忘れている身としては、そんなこといってたっけ? って感じなのですが……。
こんな一言があるということを知るだけで、この世界には救われる人がいるはずです。
そして、そういう「一言」を、「人生の真理」を、心のなかに集めていくことは、
いってみれば「心のセーフティーネット」を作るのと同じこと。
経済面でのセーフティーネットは、国家が用意すべきですが、「心のセーフティーネット」は、自分で作らなければ誰も用意してくれません。
そしてときに、「心のセーフティーネット」は、
経済面でのセーフティーネットよりも強力に、私たちを救うでしょう。
いつか降ってくるかもしれないリスクのために備えるのは、
お金だけでは、防災グッズだけでは、
不十分なのではないですか?
時間はやたらかかりますが、コストはかからないので、
やってみましょう。超強力な「心のセーフティーネット作り」。
★★★
ちなみに私はこの本を読んで、
マンの『魔の山』が強烈に読みたくなりました。
微妙に関連エントリ。
「本当は、静かに暮らしたい。」と思ってる人へ - (チェコ好き)の日記