チェコ好きの日記

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バリ島、エジプト、アルゼンチン、タヒチ よしもとばななの「世界の旅シリーズ」

いよいよ6月に入り、間もなく梅雨の時期がおとずれます。

祝日もないし、外を見れば雨ばかり……で、何となく気分が沈んでしまいがちな季節ではありますが、同時にすぐそこまで夏がやってきているわけで、実は旅行の計画を立てるにはもってこいの月だったりするのではないでしょうか。私はというと、実は先日、お盆休みに向けて、航空券とホテルの予約をとったばかり!

この6月~7月は、夏の旅行へ向けて、いろいろな計画を練っていこうと企んでいます。

ところで、夏の旅行で、まだどこに行こうか決めかねている人。

もしくは、今年の夏は、旅行はちょっとやめておこうと考えている人……。そんな方がもしいたら、雨続きで外に出るにも気分がのらないだろうし……、ご自宅で、「世界の旅シリーズ」でも読んでみることをおすすめします。

「世界の旅シリーズ」とは、よしもとばななによる、4つの国の旅をイメージした小説です。

よしもとばななの小説については、このブログでも何冊か紹介しているため、既出の本もあります。
疲弊したココロと体に、よしもとばなな傑作5選。 - チェコ好きの日記

ストレス解消法としてのタヒチ妄想 - チェコ好きの日記
ですが、ここで改めて、「世界の旅シリーズ」として、4冊の小説をならべてみます。

このシリーズは、ばななさんが実際にそれぞれの国を旅行した体験がもとになっており、そのときの写真が巻末にのっているんですね。どれもとてもいい写真なので、じめじめした時期に見れば、心洗われることまちがいなし。

というわけで、まず1冊目からいってみましょう。

1・マリカのソファー/バリ島夢日記

マリカのソファー/バリ夢日記 (幻冬舎文庫―世界の旅)

マリカのソファー/バリ夢日記 (幻冬舎文庫―世界の旅)

幼い頃、母親から虐待を受けていたせいで多重人格となってしまった少女・マリカを、主人公のジュンコ先生がバリ島へつれていく、という物語。

一般的に、多重人格という症状が現れた場合、複数いる人格を、中心的な1つの人格に統合していくことが最適な治療法とされています。が、マリカのなかに潜んでいる様々な人格が出たり入ったりしている様子を見ていると、医学的にはそれが正しくても、「消されていってしまう人格」が、何だかかわいそうに思えてくる。

マリカのなかでうごめくいくつもの人格が、アジアの国であるバリ島の宗教観と、ふしぎなマッチングを起こしています。ヨーロッパなんかの宗教観では、神様は1人だけれど、アジアでは、そこらへんにうじゃうじゃ神様がいる。闇のなかでうごめく全てのものが、神様であったり、また邪悪なものであったりするわけです。

日本もアジアの国の一員なので、私たちにとっても、実はこういう宗教観は身近なものだったりします。そういうわけで、改めて、気持ち悪くも神聖な自分たちの世界観に浸れる本です。

2・SLY

SLY(スライ)―世界の旅 2 (幻冬舎文庫)

SLY(スライ)―世界の旅 2 (幻冬舎文庫)

バリ島の次は、エジプトの本です。

HIVポジティブであったことが判明してしまった喬と、その元恋人である主人公の清瀬、同じく元恋人であるゲイの日出雄の3人がエジプトへ旅をする、という物語。

HIVポジティブであるということは、死と常に隣り合わせであるという状態です。「今」は大丈夫でも、その大丈夫な「今」が、いつ崩れ去ってしまうかわからない。明日も明後日も今日と同じように生きることが当たり前だった日常が、なくなってしまうということです。

自分自身の「死」に直面した喬と、元恋人の「死」を隣で感じざるをえなくなった清瀬と日出雄の3人は、エジプトのピラミッドやミイラを見てまわります。何百年もの時を経たそれらも、同じように「死」の香りを感じさせるものです。

古代人って、テクノロジーがないぶん、さまざまなものに対する感性が、現代人であるわれわれより、ものすごく鋭かったのではないかと思います。何百年もの時を経て、古代人と現代人の「死」への恐怖や「生」への憧憬が交錯する。

人間っていうのは、根本的には何も変わっていないんだなぁと思います。当たり前かもしれないけれど。

3・不倫と南米

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

続いて、南米・アルゼンチンを舞台にした小説です。舞台はすべて南米ですが、それぞれの物語は独立している短編集です。

おすすめは、亡くなった祖母に「死ぬ日」だと予言された1998年4月27日に、主人公がアルゼンチンに訪れる『最後の日』。

オチをいってしまうと、結局祖母の予言ははずれて、主人公はその日に死にませんでした。

でも、「この日に死ぬ」と恐怖や焦燥にかられながら生きてきたそれまでの人生というのは、消えません。前出のエジプトの小説と重なりますが、「日常」が終わってしまう日のことを常に考えてきた主人公の目から見る、最初で最後のアルゼンチンは、ふしぎな色彩をはなっています。

4・虹

最後は、タヒチを舞台にした小説です。不倫の恋に疲れてしまった主人公が、タヒチを訪れる、という物語。

その不倫の恋人というのが、タヒチアンレストランのオーナーなので、タヒチの美しい海や自然を目にするたびに、恋人への思いがフラッシュバックしてしまいます。そして帰国後、不倫でもいいやと、その恋人と付き合い続けることに……

あらすじだけ書くと何だかどうしようもない小説のようですが、私の表現力がないだけで、タヒチの風景が美しく描かれたすてきな小説です。主人公の恋はどうかと思うけれど、タヒチの美しさはすばらしいです。

バリ島は、同じリゾート地でも“アジア”って感じで、独特の宗教的なものを感じさせます。(そこがいいんですけれど)

けれど、タヒチは、とにかくもうただ美しい。美しさのために存在している場所って感じです。

行ったことないけど。

海外が舞台になっている小説や映画を観たりすると、ぜひともその場所を訪れてみたくなりますよね。

今年は難しくても、来年でも再来年でもいい。

「世界の旅シリーズ」を読みながら、いつか訪れる場所の旅行の計画を立ててみるというのも、悪くない梅雨の過ごし方ではないでしょうか。