チェコ好きの日記

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あんまり手軽には読めない良書ガイドブックを5冊集めてみました

本が好きな人って、いったいどこから自分の読みたい本を見つけてくるんでしょう? もちろん人それぞれだとは思いますが、純粋な興味として、隣の人のようすはついつい気になってしまう私です。

私の場合、店頭にならんでいるなかから気になるタイトルのものを見つけてきて買ったり、巻末の“参考文献”をたどってみたり、通勤中とかにふと降ってきたキーワードで検索して出てきた本をamazonで買ってみたりとかしているんですが、飛び道具としてたまに使ってしまうのが、「本のガイドブックを買う」こと。世の中には面白い本を集めた「本の本」なるものが存在していて、そこでは自分のまわり半径5mを少し出たところから、興味深い本に出会うことができます。

そんなガイドブックの唯一の欠点は、本のなかで紹介されている本を「読んでいないのに読んだ気になって満足してしまう」ところです。でも、ガイドブックに紹介されているすべての本を読まなくてもOKだと、私は思ってるんですね。というかすべて読もうとしたら大変なことになります。各ガイドブック1冊につき、2〜3冊「面白そうだな」と思える本に出会えたら、それくらいでいいのではないでしょうか。

ついでにいうと、ガイドブックばっかり読んでいると「ちょっとダメなやつ」になっちゃいそうでもあります。が、未知の本に出会えたり他人の本棚を覗くことが楽しくて、私はここ3〜4年の間に気が付いたら5冊もガイドブックを読んでしまっていたわけです。

このへんで打ち止めにしたい! という決意をこめつつ、この機会にその5冊を大放出してみます。

1 『世界文学を読みほどく』池澤夏樹

世界文学を読みほどく (新潮選書)

世界文学を読みほどく (新潮選書)

まずは文学から。池澤夏樹の『世界文学を読みほどく』は、スタンダールの『パルムの僧院』からピンチョン『競売ナンバー49の叫び』まで、19世紀から20世紀にかけて欧米で生まれた10篇の小説を解説しています。どれも「THE☆文学」といった感じの名著ばかりですが、恥ずかしながらこの10篇すべてを読んだわけではないというのもまた事実……。

この解説本の面白いところは、『パルムの僧院』から『競売ナンバー49の叫び』まで、ほぼ成立年順に、10篇の小説が紹介されているところです。成立年順に文学作品をならべ、その解説を読んでいくと、19世紀から20世紀にかけて「世界(欧米を中心とする世界)がどう変わっていったのか」を、体感的に悟ることができるんですね。1つ1つの小説の解説は独立していますが、全体でみるとすべてつながっているのです。この本は池澤氏が京大で行なった特別講義を下敷きにしているみたいなのですが、この講義めちゃくちゃ面白かっただろうなー、と思います。池澤氏の解説に納得してみるのもよし、反対して独自の解説を考えてみてもよし。私にとっては、一生かけて何度も読み直していきたいレベルの宝物級ガイドブックです。付録に『百年の孤独』読み解き支援キットがついているのも地味にうれしい。ガルシア=マルケスは『エレンディラ (ちくま文庫)』とかの短編は大好きなのですが、『百年の孤独』はいつも途中でわけわからなくなって挫折するんですよね……。

2 『面白い本』成毛眞

面白い本 (岩波新書)

面白い本 (岩波新書)

一方、成毛氏のこちらの本で紹介されているのは歴史やサイエンスなどのノンフィクションが中心です。『世界文学を読みほどく』が王道の名著を解説しているのに対して、こちらは知らない本がたくさんあって、「ほえー」という感じでした。

「事実は小説より奇なり」といいますが、ある種の読書家が一定ラインをこえると、小説がまったくつまらなくなってしまってノンフィクションに完全移行してしまうというのは、わかる気がします。私はそれでもフィクションにはフィクションにしかないフィクションなりの力があると思っているのですが、そう思うのはまだまだ読書量が足りてないからかもしれません……。

紹介されている本を実際に手にとらなくても、解説文を読んでいるだけで「こんな世界があるのか……」とため息が出てしまうガイドブックです。成毛氏は冒頭で「一見無駄な、極端な知識を得ることで、自分が世界のどこに位置しているかはわかるようになる」といっていますが、まさにその通り。「自分この辺にいると思ってたら全然この辺だった」みたいなことが、この手の本を読んでいるとよくあります。

なお、巻末には“鉄板すぎて紹介するのも恥ずかしい本”として『文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)』などが紹介されていますが、ジャレド・ダイアモンド氏の本は「面白い本」としてはやはり鉄板になりましたよね。そうそうこれ面白いんだよねー、とクダを巻くのもなかなか楽しいです。

3 『人間を守る読書』四方田犬彦

人間を守る読書 (文春新書)

人間を守る読書 (文春新書)

続いて、今度のガイドブックは映画・漫画・音楽・料理などのサブカルチャー系です。「生のもの」「火を通したもの」「発酵したもの」と、新しいものから古典的なもの、その中盤あたりのものまで、3章立てになっています。

前書きにある「本を読まない学生は云々」あたりの話はちょっと説教くさいですが、紹介されている本はいろんな意味でボリュームがありすぎて胃もたれします。映画の本は若松孝二から黒澤明パゾリーニルイス・ブニュエルあたりの関連書籍が紹介されていて、私にとってはなじみ深いラインナップ。漫画はジョー・サッコパレスチナ』とか、岡崎京子とか、黒田硫黄など。

骨太な本が紹介されている本編とはちょっとずれますが、私がこのガイドブックのなかで好きなのは、料理や食材に関する本だったりします。料理って、マニアックな方向に極めるとサブカルチャーになると思うんですよね……。それで、サブカルクソ野郎な私はやっぱりサブカルチャーとしての料理が好きなわけです。『牡蠣礼讃 (文春新書)』とか、まだ読んでないんだけど読みたいです。私個人はそこまで牡蠣が好きではなくて、「カキフライ嫌いじゃないよ〜」とかいってる腑抜けなんですが、牡蠣好きの人が牡蠣について語っている文章を読むと、牡蠣というのはこの世で最上の黄金の食材なんじゃないかと思えてきてしまうから不思議です。私が知っている牡蠣は、牡蠣ではないのでしょうか。美味しい牡蠣は、黄金の牡蠣は、どこに行ったら食べられますか? 広島ですか、パリですか、それともタスマニア島ですか?

4 『ぼくらの頭脳の鍛え方』立花隆 佐藤優

ぼくらの頭脳の鍛え方 (文春新書)

ぼくらの頭脳の鍛え方 (文春新書)

4冊目は、文学もあるし漫画もあるし生命科学も心理学も文化人類学もあるしということでジャンルはバラバラですが、とりあえず「教養!」って感じの本が紹介されているガイドブックです。読んでいるとちょっと疲れますが、疲れつつも「面白そう」と思える本がたくさん見つかります。

文系脳の私にとっては、こういうガイドブックがないとなかなか科学系・数学系の本に手が出ません。『「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)』とかがやっぱりわかりやすくて面白いんでしょうか。読みたいと思ったままずっと読んでいないので、今年こそ手を出したいと思っている所存です。

ガイドとしても十分楽しめますが、私にとって興味深かったのは、佐藤氏が逮捕されたときのエピソードです。供述調書を見たとき、氏はカレル・チャペックの『山椒魚戦争』を思い出して、音楽・文学・絵画を一切解さない山椒魚と官僚たちのイメージが重なって、その既視感によってギリギリのところで耐えられたみたいなことを語っています。読書による体験って疑似体験でしかないし、基本的に役に立たないことばかりだと思うのですが、いざというときに自分の核というか砦になってくれたりすることもあると思うんですよね。それを実体験として知れたのは良かったです。

5 『読書力』斎藤孝

読書力 (岩波新書)

読書力 (岩波新書)

最後のガイドブック『読書力』も、ちょっと説教くさい本なのでう〜ん、となってしまうところがありますが、「3色ボールペンを使う」とかの部分をふっとばして巻末のブックリストを眺めているとなかなか楽しめます。

私は内田百閒の『冥途』とかが大好きなんですが、このブックリストを眺めていたら『百鬼園随筆 (新潮文庫)』が目にとまって、そういえばエッセイって読んだことなかったなー、と思って読んでみました。内田百閒は、とにかく借金の話ばかりしていました。けれど、世俗の話をしているはずなのに、ときどきふっと「あの世」に行ってしまうようなところがあって、ふわふわした変な感じのする随筆でした。

ブックリストには、上記4冊と比べるとわりと読みやすい本がならんでいる気がするので、骨休めにいいかもしれません。

★★★

3〜4年の間にためてしまったガイドブックたちをこの機会に改めて読み直してみましたが、すんごい本たちを紹介文だけでもまとめ読みすると、脳みそをガツンガツンと殴られたような衝撃がありました。世の中にはまだまだ、私の知らない世界がたくさんあるようです。そして、知らない世界がたくさんあるということは、私にとってはとても素敵なことでもあります。「あなたの知っている牡蠣は本当の牡蠣ではないぞ」といわれたら、本当の牡蠣を探す旅に出たくなりませんか。

オチが「牡蠣食べたい」になってしまいましたが、あんまり手軽には読めない本を、腰を据えて読んでみるというのは最高の娯楽だと、私は思っています。