「ま、うちらみたいなさ、筋金入りの映画ファンからすると、園子温って映画的にダメなんだよね」。
上記の言葉は、私がいったわけではありません! 園子温の本に、ある日飲み屋に行ったら自分のことがそういわれているのを聞いてしまった、と書いてあっただけです。
私はこの人たちの言葉に賛同するわけではありませんが、それでも、いわんとしていることは何とな〜くわかります。実は私も、園子温の映画が苦手な1人でして、今回このエントリを書くにあたって「何で苦手なのかな〜」と考えていたら、飲み屋で園子温の映画を酷評していたらしい彼らと、遠からぬ結論になりそうな予感がしました。けれど、「映画ファンからすると、映画的にダメ」というのでは、あまりにも乱暴すぎます。もうちょっと丁寧に、園子温のダメさを語ってみよう。あるいは、ダメじゃなさを語ってみよう……というのが、このエントリの主旨です。
が、しかし、私も園子温という人についてはよく知らない部分も多いので、あんまり堅苦しいことは書きません。ついでに、けっこう的外れなこといってるかもしれません。なので、「園子温てだれ?」という人から、園子温ファンから、園子温アンチまで、ゆるーく書くので、ゆるーくついてきて下さいというかんじです。
あざとい、しつこい、めんどくさい!
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まず、私が初めて観た園子温映画は『愛のむきだし』でした。なぜかうまい具合に当時の感想ノートを紛失してしまったので細かいところは覚えていないのですが、4時間にわたるこの大作、途中でウトウトしたりすることもなくノンストップでイッキに観れたことだけは覚えています。これは園のどの商業作品についても共通していえることで、彼の映画はとにかく観客を飽きさせません。
でもですね、すごく面白かったんだけど、私は観終わった直後に「あ〜、この人苦手だわ」って思ったんです。そのときはなぜ苦手だと思ったのかあまり深く考えなかったので、「よくわかんないけどとりあえず苦手」ということで終わりにしていたんですけど、今回園子温の『非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)』を読んでみて、その理由がきちんとわかった気がしました。
園子温は、とにかく映画的なもの、映画文法的なものをぶっ壊そうとして映画を作っているみたいなんですね。だから、上記に書いた飲み屋の客が「映画的にダメ」といっているのは、ある意味では園の狙い通りなわけです。知らなくてやんちゃしているわけではなくて、知ってて壊しているんですね。で、私はたぶんその壊し方が性に合わなかった。「この映画、ノイズが多い〜!」みたいに思ったんだと思います。確かに4時間集中して観れたけど、はたして4時間の大作にする必要があったのか? とも思いました。
「映画文法を壊す」とかいっててもアレなので、もっと直接的にいうならば、「あざとい、しつこい、めんどくさい!」と思いました。園子温の監督デビュー作はぴあフィルムフェスティバルに入選した『俺は園子温だ!!』ですが、『愛のむきだし』も終始「俺は園子温だ!!」とさけんでいるかんじ。もうわかったよ、それはいいよー、っていうふうに私はなっちゃったんですね。でももちろん、これを絶賛する人の気持ちもわかるんです。同じものを観て、「私は合う」「俺は合わない」といっているだけの話なんですそれは。そりゃ合う人もいれば合わない人もいるよね、と。
『冷たい熱帯魚』を経て
私のなかでは『愛のむきだし』の評価が最低に近いものだったので(好きな人ごめんなさい)、ずっと「園子温はな〜、ちょっとな〜」というかんじだったのですが、まわりの友人の園子温評価が一向に高いままなので、それならもういっちょいってみようと思って、『冷たい熱帯魚』を観ました。これは面白かった。最高のエンターテイメントだと思いました。
『冷たい熱帯魚』 予告編 - YouTube
相変わらず「俺は園子温だ!!」とさけんではいるんですけど、その声が『愛のむきだし』よりはだいぶ小さくなったというか、「俺は俺は!!」っていうより観客を楽しませたい、びっくりさせたいっていうほうに軸が移っているようにかんじました。『冷たい熱帯魚』の何がいいって、でんでんさんの演技がいいよね。成金のいやらしさ、下品さみたいなものを「はい次!」「はい次!」とわんこそばのように出してくるでしょ。私は画面に向かって1人「いい……!」と何度もつぶやいておりました。本当にすごい俳優さん。めちゃくちゃ笑いました。
で、すごい面白かったし最高だと思ったんですけど、そこで園子温への苦手意識がなくなったかというと、そこは根強く残っていたんですね。何というか、手放しで「好きです!」とはいえないかんじ。「いや、面白くはある。面白くはあるんだけどねぇ〜」みたいな。軸が少し観客側に移った(ように私にはかんじた)とはいえ、主導権を握っているのは相変わらず、園子温。グイグイひきこまれたいタイプの人はそれでいいのかもしれませんが、私は、「もうちょっと自分のペースで観たいな〜」なんて思ったのです。
震災は、園子温を変えたのか?
そこで、今回『ヒミズ』を観ました。なぜ『ヒミズ』にしたのかというと「何となく」としかいいようがないんですが、結果的に『ヒミズ』を観たのは私のなかで大正解でした。
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園子温が本のなかで語っていることですが、『ヒミズ』は「絶望に勝ったのではなく、希望に負けた」作品なんだそうです。それまで「希望なんてクソくらえ」という態度でやってきたけど、「仕方がないんだ、希望がほしくなっちゃったんだよ」と。それをいうなら『冷たい熱帯魚』だって、私のなかでは希望のある終わり方をしているのですが、あのラストシーンを希望ととらえるか、絶望ととらえるかは確かに分かれるところかもしれません。
それまで「俺は俺は!!」とさけび続けてきた園子温の存在感が、この『ヒミズ』ではほとんど消えている(いい意味で)と私は思いました。『愛のむきだし』では「そこって本当に壊す必要あるの?」っていうところまで何でもかんでもぶっ壊していた園子温が、『ヒミズ』では壊すところは壊し、守るところは守り、従うところは従っている。「園子温って、こういうのも撮るんだ!」って思いました。『ヒミズ』では、暴力描写は多いですが、エログロはありません。
園子温はずっと『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』路線を貫いていく人なんだと私は思っていたので、ここで『ヒミズ』が来たことに、純粋に感動しました。作品単体の評価というか面白さでいくと私のなかでは『ヒミズ』<『冷たい熱帯魚』なんですけど、今後の可能性というか、映画監督としての幅広さをかんじさせられたという点で、『ヒミズ』はすごく興味深い作品でした。
途中の『ちゃんと伝える』を観ていないので何ともいえない部分もありますけど、何が園子温を変えたのか? ということを考えるにあたって、1つはもちろん震災ですよね。「希望がほしくなっちゃった」と。それと、これは私の憶測ですけど、その震災のタイミングと、園子温が「守破離」の「離」の段階にいくのが合致した作品が『ヒミズ』なのかなと思いました。何でもかんでもぶっ壊すのではなく、園子温らしさは失わずに、過剰なままに、守るところは守っていく。『ヒミズ』は、「私これ苦手じゃないな(好きかといわれたらわかんないけど)」と思える作品でした。
園子温の映画は好きですか?
「園子温の映画は好きですか?」ときかれたら、私は「うーん、うーん」と唸った末に「よくわかりません」と答えると思うんですけど、少なくとも今後も何作か観てみたいな、と思える監督ではあります。次に観るとしたら『希望の国』か『恋の罪』かななんて考えています。それで、何年か後に改めて『愛のむきだし』を観てみたい。そのときに「やっぱこれ嫌い」と思うか、「何だ、けっこいいいじゃん」と思うか、自分でも楽しみです。あとは、「『愛のむきだし』大好きだー!」という人が、「『ヒミズ』をどう思うか」というのも個人的な興味として気になるところ。
映画とか、漫画とか、小説とかをもとにぐだぐだ語るのは楽しいですね。
あなたは、園子温の映画は好きですか?
★今回の参考文献★
★そして参考エントリ★
- 作者: 園子温
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