チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

新しいことを始めるのに、恐怖心は捨てなくていい

何かしらのカルチャーにそれなりの造詣がある者にとって、「1968年」という年について語る際、ネタに事欠くことはない。


私にとってはまず、ワルシャワ条約機構軍によるチェコスロバキアへの侵攻である。他にも、全共闘運動が日本の主要大学を活動停止に追い込んだり、アメリカでキング牧師が殺されたり、フランスで五月革命が起こったり、あるいはスタンリー・キューブリックが『2001年宇宙の旅』を公開したり、フィリップ・K・ディックが『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を発表したり、『ホール・アース・カタログ』が創刊されたり、あとは鈴木清順が日活を解雇されたりと、後の年代に生きる者からすると「そんなにいっぺんにやらなくても」という感じである。

暮らしかたという病。シアーズカタログに見る、暮らしをカタログ化する欲望 | hirakuogura.com
(※『ホール・アース・カタログ』については小倉ヒラクさんのブログを読むと面白いよ!)


それで、これは後から知ったのだけど、1968年といえばカルロス・カスタネダが『呪術師と私』を刊行した年でもある。カスタネダについては実在を疑う声もあるようだが、一応、ブラジルで生まれ、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で学んだ人類学者だということになっているらしい。そのカスタネダが、ヤキ・インディアンの呪術師ドン・ファンの教えのもと、幻覚誘発植物を使って不可思議な世界を旅するというのが、『呪術師と私』の内容である。


呪術師と私―ドン・ファンの教え

呪術師と私―ドン・ファンの教え


この本における「幻覚誘発植物」とは、ペヨーテ、ダツラ、キノコ。この手の植物は出てくる本によって呼び名がちがったりするので、以前読んだ別の本に登場していて「あああ、あれか〜〜!!!」とかなると個人的に大興奮である。

ペヨーテはメスカリト、もしくはウバタマサボテン。ダツラはキチガイナスビ、マンダラゲ、あるいはチョウセンアサガオとも呼ばれる。キノコはよくわからん。ていうか、「キチガイナスビ」って呼び名やばくないです??? ちなみに、『ワセダ三畳青春記』で著者の高野秀行さんが柿の種のごとくボリボリ食べていたのがこのチョウセンアサガオである。


ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)


1968年、時代はヒッピーカルチャーの全盛期だ。そんな中、カスタネダの『呪術師と私』は世界的なヒットをはたし、カウンター・カルチャーに大きな影響をあたえた。幻覚誘発植物を使った訓練をし、知者になることを目指す。日常のリアリティを離れ、もう1つのリアリティ、「セパレート・リアリティ」を手に入れる。んもう怪しさムンムンの桜満開だけど、いいの。面白いから……。


でも、本当のネイティブ・アメリカンからすると、白人たちを中心に広がったペヨーテ(幻覚サボテン)の使用法は間違っているという。ネイティブ・アメリカンにとってペヨーテは「薬(メディスン)」であり、「スピリットを高めるもの」であり、「ドラッグ」ではないのだ。


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で、あれ、何の話をしたかったんだっけ。


とにかく、『呪術師と私』は8割くらい差っぴいて斜め読みするくらいでちょうどいいだろう。カスタネダは、ペヨーテやダツラやキノコの力を使って、セパレート・リアリティに入る。そしてそこで、知者になることを目指すのだ(う、胡散臭え〜〜)。


しかし8割差っぴくとしても、カスタネダが知者への道を歩む過程はけっこう興味深いし、汎用性もあるような気がする。幻覚誘発植物なんて一切関係ない私たちにとっても、だ。


知者の道を歩む者は、

①注意を払わねばならない
②恐怖心を持たねばならない
③しっかり目覚めていなければならない
④自信を持たねばならない


と、カスタネダは語る。新しい道を歩むと決めたとき、恐怖心なんか持つなと言われそうだが、恐怖心は持っていていいのだ。カスタネダドン・ファンに、「恐ろしいか?」とたずねられ「本当に恐ろしい」と答えている*1。恐れていることを意識し、その感覚を正しく評価しろ、とドン・ファンは語る。


私なりに解釈すると、たぶんだけど、恐ろしいと思っているものに対して、一度、一瞬だけでもいいからおっかなびっくりタッチしてみて、でもその後はすぐにダッシュで逃げていい。しかしダッシュで逃げた後、必ずもう一度タッチしにくること。タッチとダッシュを繰り返していたら、いつか恐怖は克服できる。


まあ、カスタネダの本は地下鉄サリン事件に関わったオウム真理教の信者の家にあったとかなかったとかいう話があるので、克服する恐怖の種類によっては良からぬ事態を招く可能性があるが、きっとこのブログを読んでいる人であれば心配はないだろう。とりあえず、今、私が良からぬ事件を起こして逮捕されたら、本棚からカスタネダの本を引っ張り出されて「猟奇的殺人事件で逮捕された噂のブロガー・チェコ好きは精神世界に傾倒していた!」とかNAVERまとめにまとめられかねないので、私は今日も品行方正な社会人として振るまわなければならない。


そんなわけで、あけましておめでとうございます。2018年、何か新しいことを始めたい人のヒントになれば幸いです。

*1:p72