チェコ好きの日記

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SNSが過剰に発達したディストピアを描いた『ザ・サークル』はあんまり面白くなかったけど面白くなさ故に考えたことがある

「コイツ、趣味悪いな!」と思われたら悲しいのだが、ディストピアもの」が好きである。「ディストピアもの」なんてジャンルは正式にはないので私が勝手にそう呼んでいるだけだけど、未来/近未来/平行世界などに存在する魔境を舞台に描かれた物語には、昔からどうしても惹かれるものがあった。それらはSFの形態をとっていることが少なくないが、私はSF好きというよりはディストピアが好きなのだった(ことに最近気が付いた)。


ディストピアものが好きな理由は、何も現代社会に恨みを抱いているからってわけじゃない。いや嘘、ちょっと抱いてるな。まあ恨みは恨みとしてあるのだが、どちらかというと思考実験の機会を提供してくれるところが好きな気がする。ディストピアものは現代社会のある要素をあえて露悪的・風刺的に描いていたりするわけだけど、そこまでやってくれるからこそ自分が何のどこを恨んでいるのか考えやすく、言語化しやすくしてみせてくれる。そんな感じで私はディストピアものが好きなのです。


GW中にAmazonプライムビデオで観たのがエマ・ワトソンが出てる『ザ・サークル』。以下は物語の核心部分を含むネタバレをやっているので、ネタバレが嫌な方は映画を観たあとにまた読みにきてください。



映画「ザ・サークル」日本版予告

思っていたのとなんか違った

ザ・サークル』はエマ・ワトソンがアメリカの巨大インターネットに企業に入社して、「シーチェンジ」という超小型カメラの被験者となって自分の24時間をフォロワーにシェアするSNSを使うようになる……という話。TwitterInstagramを風刺的に描いた物語やアートはもともと好きなのだけど、なんでそういうのが好きかっていうと、人間の肥大化していく承認要求について考えさせられるから。『ザ・サークル』も承認要求の話をやってくれるのかと思ったら、これはどちらかというと「民主主義とは何か?」みたいな話だった。


SNSで何を発信し何を発信しないべきかは個々人の考えがあるだろうけど、一つ重要なのは「任意性」だ。自分の24時間をシェアするなんて絶対に病むからやめたほうがいいと思うけど、本人が「やりたい! そんでフォロワーにちやほやされたい!」というんであれば、周りの人間があーだこーだいう権利はない。本人が「任意に」SNSを使う上で出さなくていいところまで出すようになったり、いわなくていいことまでいうようになったりしたらそれは承認要求の話になるけど、エマ・ワトソンが映画で使うSNSはこの「任意性」がないものだった。つまり、強制的に24時間をシェアしなければならないものだった。これは「え、それはダメに決まってるじゃん」としか私は思えず、あまり考えるのが楽しくない話になってしまった……。

社会は必ず一定のリスクと矛盾を孕んでいる

エマ・ワトソンが入った会社が運営しているSNSは「すべてをシェアする」ことを目的としている。いつどこで何をしていたか、誰と誰が友人なのか、趣味は、過去にハマっていたことは、両親の病気は、などなどすべて。それらは本人の任意性に基づくものではなく、加入者は強制的にすべてをシェアしなければならないみたいな作りになっている。そして、最終的にこのSNSへの加入をアメリカ国民すべてに義務付けて選挙のときに利用しようという話まで出てくるのだけど、すべての人が登録され行動が逐一記録されているので、指名手配犯とかを一発で捕まえることもできるのだ。


途中、エマ・ワトソンが「秘密とは嘘です」「秘密があると犯罪が起きる可能性があります」というセリフをいう場面があるのだけど、確かにこのSNSを使えば、殺人もレイプも強盗もなくすことができる。すべての人の24時間を誰かしらが監視しているので、犯罪の防止になる。ただ「すべての人が強制的に24時間をシェアしなければならない」なんてのは人権侵害になることが明らかだ(「これ、ありうるかも?」と思わせてくれるからディストピアものは面白いのであって、「それは絶対にない」と思ってしまうとつまらなくなっちゃうんだよな!)


人道上の理由で「すべての人が強制的に24時間をシェアしなければならない」SNSなんて絶対に作れないので、そうである以上、殺人もレイプも強盗も根絶したいのはやまやまだが、社会は常に一定のリスクや矛盾を孕まざるを得ないのだろうな……なんてことを考えた。リスクのない社会は、たぶん作れない。

まとめ

というわけで、『ザ・サークル』は期待していた承認要求の話とはちょっと違ったので私はそこまで面白いと思わなかった。ただいろいろ考えさせられることはあって、たとえば日本はまだお会計のときに現金で支払うことが多い(私も情弱なのでまだ基本的に現金派である)。けどそれがLINEPayとか電子マネーで支払うのが一般的になったら、自分の買い物がAmazonみたいにすべて履歴に残ることになるので、それって『ザ・サークル』の世界につながっている。すでに諸外国では現金で支払う機会が少なくなっているみたいなので、日本がそうなるのも時間の問題ではありそう。買い物以外にも、近い将来いろいろ履歴が残るようにはなりそう。


「任意性じゃないからこのSNSはありえない。つまらん!」と思ってしまったのだけど、よく考えたら案外ありえない世界の話ではないのかな?


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(※ローマ近郊にあるムッソリーニが構想した近代都市E.U.R。シュールで不気味な「お散歩できるディストピア。おすすめの観光スポットです。イタリアもまだ現金払いのことのほうが多かったな)