チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

非オタクだったけどアラフォーでまさかの二次創作デビューしたので……

長らくブログを放置していたのですが、久しぶりに本の紹介まとめでも告知でもない、ブログらしいブログを書こうと思いまーす。ちなみに告知などを除くと1年以上放置していたこのブログ、突然更新された本記事はなんとボリューム1万字を超えているので、皆さま心して読んでください。

さて、ライターのチェコ好きとして書くこのブログやnoteを放っぽり出して(AMの連載はずっと続いているけど)最近の私はいったい何をしているのかといえば、pixivに二次創作小説を投稿して遊んでいるのですね!


このことは、書き手としてはいかがなものかと首を傾げる人が大半かもしれません。

世の中の風潮のせいなのか私の体力の衰えのせいなのかあるいはその両方か、最近はとにかく、ブログを書く気にならなかったんですよねー。というか、書くネタが浮かんだら、それは商用原稿のために大切にとっておこうって思ってしまうようになって。ひと昔前は書くネタなんて無尽蔵にあったけど、今それは「大切にとっておくもの」になってしまったのです。

そうやって、私は書くことへの情熱を少しずつ失っていくかに見えた……見えたのだが!

二次創作、めっちゃ楽しい!!!!!

実は、AMのほうではすでに小出しにしているんですが、私は昨年の夏頃、唐突に某作品において空前絶後の推しカプができてしまったのです。いてもたってもいられなくなり、この情熱をどこにぶつければいいんだ!? そうか、pixivか!!! となり、もちろん「ライター:チェコ好き」とはまったく関連のない別名で、pixivにアカウントを作りました。Twitterで、その推しカプが好きな人たちと交流する専用の別垢も作りました。今まではアニメもほとんど見ないしコミケも行ったことないし、なんだかんだオタクとは無縁の人生を歩んできたのですが、30代半ばにして突如、二次創作ガチ勢のオタクになってしまったのです。

最近ライター人格のほうはブログのほうもTwitterのほうもご無沙汰ですが、なんてことはない。pixivには毎月2万字くらいのペースで小説を投稿しています。さらに言うと、ついに同人誌即売会にも馳せ参じて約10万字の書き下ろし小説を頒布してしまいました。書きたいことが、言いたいことが、無尽蔵に浮かんでくる! これはちょうど26〜27歳くらいのときの、私がいちばん熱心にブログを書いていた頃と同じです。


繰り返しますが、pixivで、二次創作です。このことは、書き手としていかがなものかと首を傾げる人が大半かもしれません。でも、私は自分で自分が嬉しかった。私にはまだ、情熱があった。書くことへの執着を失ってはいなかった。場所と題材を変えればまだまだまだまだ文章を書ける人間だった。それが二次創作だって全然かまわない。情熱と執着が自分の中でもう一度燃え上がったことが、本当に嬉しかったのです。

そういうわけで以下は、近況報告を兼ねた「ここがヘンだよ二次創作」を書き連ねます。

動機が「楽しい」しかない世界、最高

さて、私が二次創作で取り戻したものは情熱と執着と、もうひとつあります。それは「自信」。

今までずっと、自分は所詮2015年前後のブロガーブームに上手く乗っかっただけの人間で、それで運良く商業出版までできたけど、根本的なところではそれほど文章力なんてないんじゃないかって疑念が拭えなかったんですよね。だから、pixivでフォロワーゼロの状態から真新しいアカウントを作って、小説を投稿して、それをどこまで受け入れてもらえるのかって、最初は本当に未知数だったんです。

もちろんブクマ(pixivでいう「いいね」みたいなもの)の数がすべてではないことは、ブロガーとして文章を書いていた頃と同じです。しかし結論から言うと、自分でも驚くほど、私の文章は二次創作の世界で受け入れてもらうことができました。つまり、わかりやすくいうと、界隈でバズった!


場所を変えて、ブロガーブームで下駄を履いてしまった(と自分では思っていた)「チェコ好き」の看板も下ろして、文章の形態ももちろん「エッセイ」から「小説」に変えて、それでも私の文章はたくさんの人に読んでもらえるものなんだ! ってわかったことで、けっこう素直に自信を取り戻してしまえたわけです。もちろん二次創作ではあるんだけど、二次創作の中にも「読まれる二次創作」と「読まれない二次創作」はあるので、私はどうやら前者に属せるくらいの小説を書ける文章力はあるらしい。まあ、ブロガーブームで下駄を履かせてもらった部分は決してゼロではないんだろうけど、自分の文章力はそんなに卑下するほど低いものではないらしいと、今は自分で普通に思えています。


そして、ここからが本題なんですが、たとえ二次創作でも「小説」の面白さを受け入れてもらえる喜びって、独特のものがあるんだなと知りました。

私は2015年前後のブロガーブームの生き残りなのでこういうことを言いますが、「小説」を面白いって言ってもらえることって、当たり前だけどその内容の有用性とはまったく関係ありません。

ただの推しカプ小説なので、こんなのを読んでもキャリアアップできないし、転職に成功しないし、アフィリエイト収入で儲けられないし、副業でも成功できません。モテないし、ナンパに成功しないし、彼氏彼女もできないし、結婚もできません。痩せないし、健康にもなれません。これからの時代を生き抜く新しい視点も得られません! 読む側にとって、現実的なメリットはゼロのはずなんです。でも、読んでもらえる。忙しい生活の中で手を止めてもらえる。なぜなら、それが「(メリットなどなくても、純粋に)面白い」から。これがねー、なんかすっごく嬉しかったんですよね。たくさん反応がもらえる理由がシンプルに「小説が面白いから」っていうのが。2015年前後のブロガーブームで魂が汚れきってしまっている人間には新鮮だったのです。

さらにいうと、「二次創作小説を読む」ことで得られる現実的なメリットは当然ゼロなんですが、「二次創作小説を書く」ほうだってこちらも当然、現実的なメリットはゼロです。

2015年前後のブロガーブームを思い出してみると、大なり小なり、みんなどこかで下心があったと思うんです。たとえば、いちばんシンプルなものとして「PVをいっぱい稼いでお金を儲けたい」がありました。次点で、「バズって有名になってライターになりたい」とか「本を出したい」とか「仕事に繋げたい」とか。みんな大なり小なり何かメリットを求めて文章を書いていた気がするし、私自身も例外だったとは言えないでしょう。下心は必ずしも悪いものではないですが、動機がピュアか? と言われるとそんなことはなかった。

でも、二次創作小説を書いて得られるメリットってそれに比べると見事にゼロです。ご存知の人も多いと思いますが、そもそもの話、二次創作は法的にはグレー。あくまで「出版社様・原作者様にお目こぼしをいただいて、公式様の迷惑にならない範囲で、個人の趣味として楽しむ」が鉄則であり、ここを破ったら同人文化全体が危うくなるので、「利益を出したらダメ」なのです。

そもそもダメなので、当たり前だけど二次創作でお金儲けを考える人はほぼいません。同人誌即売会でお金とってるのは、あれは「印刷代」であって、10万円かけて100冊の本を刷り、それを1冊1000円で頒布しているのです。売れ残ったらそのまま赤字*1。pixivに小説をあげる金銭的メリットはゼロだし、同人誌即売会で本を出すのは、金銭的メリットがゼロどころかむしろマイナスになる可能性を抱えています。

ただ、私はここにこそ二次創作の文化の最大の面白さがあると思っているんですけど、つまり、「金儲けはできないが、市場はある」という奇妙な状態がここに形成されているんですよね。いや、市場って言葉は適切じゃないかもしれないけど、他になんて言ったらいいのかわからない。旅行とかワインとかテニスとか、金銭的メリットが得られない趣味は他にもいっぱいあるけど、どれも「市場」はないじゃないですか。でも二次創作の文化は、「金儲けはできないが、市場はある」という状態なんです。市場、うーん、発表の場?

もちろんそこで承認欲求に駆られて、たとえ金銭的なメリットが得られなくてもより多くの人に注目されたいが故に「大衆ウケ」を狙った作品を作る人はいます。でも「大衆ウケ」は、たぶん書いてる本人が楽しくないからあとが続かないんですよね。そこでお金が儲けられれば、本人が楽しくなくてもお金のためならと「大衆ウケ」を書き続けられてしまうんだろうけど(というかそれができる人は商業に行ける)、二次創作は金儲けができないので、基本的には「書いている本人が好きなもの・楽しいもの」しか市場に出てこないんです。作家がマイナスを引っ被ってもいいから出したいと思ったものだけが出る。つまり、いい意味で読者や世間をガン無視しており、究極の自己満足を追求したものしか即売会の机に並ばないんです。

作家自身の究極の自己満足を追求したものだけが並ぶ市場、これはねー、足を運ぶとちょっと感動しますよ。ここにあるものほとんどすべて、金儲けを無視しているんだって。「好き」「楽しい」「愛」だけを集めた市場。同人誌即売会にいる人の顔があんなにキラキラして見えるのって、きっとこれが理由なんじゃないかな。金儲けにもならない、キャリアアップも望めない、モテないし健康増進にもならない、それどころかむしろ金銭的なマイナスを被る可能性のあるものが、「自分の中の衝動を抑えきれなくて出してしまった」ものだけが集まる同人誌即売会。昔からオタク文化にどっぷり浸かっている人にとっては「何を今さら」と思うかもしれないけど、私はこれまで非オタクだったので、これは現代においてなかなか貴重な場なのではないかと思いました。


(※ 健康増進にならないどころか、〆切ギリギリまで徹夜などをして同人活動で体調を崩す人は多い)

今、二次創作は誰がやっているのか

 
ところで、もしかしたらこんなふうに思った人がいるのではないでしょうか。というか、少なくとももともと非オタクだった私はTwitterに別垢を作るとき思いましたね。「30代半ばの女が二次創作なんかやって大丈夫なのか」と。若い子ばっかりで、もしかしたら自分、最年長とかでドン引きされてしまうんじゃないかと。


結果的にいうと、これは完全に杞憂でした。うちのジャンル*2の年齢層が若干高めってのはあると思うのですが、30代半ばの私、最年長どころかむしろちょっと若手でした! 私が活動しているジャンルは、若い子だと18歳くらいの人もいるけど、上はアラフィフの人だって珍しくはありません。40歳前後はむしろボリュームゾーン*3。私くらいだと、ど真ん中か、ちょっと若いくらいです。「40代で同人誌即売会なんて大丈夫かしら」と怖気づく人はけっこういるみたいですが、結論からいうと、まったく問題ないケースがほとんどだと思います。カレー沢薫先生もそう言っております。

www.pixivision.net

もはや「同人イベントは若者しかいない」という認識こそが中高年丸出しなのではないかという気さえします。

はい、その中高年丸出しの認識だったのが私でございます。

もちろん私もすべての二次創作界隈を見たわけではないのであくまで「うちのジャンル」に限った話にはなりますが、うちのジャンルはとにかく「子育て復帰組」が多い。就職・結婚・妊娠などを機に一度は脱オタした女性が、育児を経て、子供が小学生か中学生くらいになって、ちょっと自分の時間ができて久々にアニメに触れたら特定のキャラにどハマりしてしまい、ウン十年ぶりにオタク界に復帰してしまったというパターン。こういう人がたぶんいちばん多いですね。もちろん大学生とかもいるし、私のような独身もいるし、0歳の子供がいるのにイベントで必ず新刊を出す強者なお母さんもいますが。




逆に理解している人からすれば「年を取ろうが家庭を持とうが活動を続けていいのだ」という励みになると思います。


自分では自覚がないかと思いますが、就職を機に離れた世界に子育てを経て返り咲き、さらに齢40を過ぎて、二次創作やイベント参加という新しいことにも挑戦というのは「子育てを経て大学に入り直して海外留学」に匹敵するぐらい人生これからやで感のある良い話なので、堂々と参加してください。


オタクに復帰というか、むしろ若い頃はROM専だったのに、推しのことが好きすぎて40歳になって初めて絵や漫画や小説を描き/書き始めた……って人もけっこういる印象です。そういう人が、作品数を重ねてメキメキ上達していくのを見るのって、純粋に明るい気持ちになります。自分の手で何かを生み出すのって、創作って、楽しいよねー。特に長く育児に従事してきたお母さんたちは、誰のためでもなく自分のために作品を作るのがアイデンティティの確立と癒しになるのか、むしろ私のような独身よりも同人活動にのめり込みやすいような気さえします。みんな衣装ケースの底とかに薄いブックを隠して頑張っている。

綾城さん、本当にいる

と、ここまでは二次創作文化のポジティブな面について語ってきましたが、ネガティブな面にも触れておかないとフェアではないので、私個人としてはあんまりないけど一応その話もします。数年前に流行った『私のジャンルに「神」がいます』*4というマンガを記憶している人は少なくないかもしれません。こちらのマンガは、とあるジャンルで「神」と崇められるほどの実力を持つ字書き(=二次創作小説を書く人)綾城さんを巡る、女オタクの悲喜交々を描いた作品です。


さて、うちのジャンルにも「綾城さん」がいます。ちょっと他の人とはレベルが違う字書き。圧倒的に文章が美しく、圧倒的に構成が上手い。そして圧倒的に「推し」がかっこいい。うちのジャンルは二次創作界隈にしては珍しく、マンガと同じくらい小説が存在感を持っているんですけど*5、綾城さんの突き抜け方はちょっと他の人の追随を許さないところがあります。ちなみに、パッと思いつく限り、うちのジャンルに綾城さんはいるけどおけけパワー中島はいません。うちのジャンルの綾城さんは、マジの孤高の人なので……。


www.pixiv.net
(※一部は pixivでも読めます)

二次創作の世界では、基本的にお金儲けはできません。でも、金銭的には得られるものが1円もなくても、人間には承認欲求ってのがあるわけで。自分の創作物をより多くの人に見てもらいたい、より多くの人から(ポジティブな)反応が欲しいと思ってしまうのは、まあ普通の感覚ではないでしょうか。そのため、神字書き「綾城さん」に嫉妬してしまうこと、または「綾城さん」となんとかお近づきになりたいと思ってしまうこと、それに関連する人間関係のトラブルなどなどが、うちのジャンルでもゼロとは言いません。とはいえ、ジャンルにいる女性の年齢が高めなせいか、匿名ダイアリーを漁るとあるようなドロドロはそこまでない気がしますが。しかし、毒マロ来ちゃった! みたいな話はたまに聞く。

anond.hatelabo.jp

ちなみに私自身はうちのジャンルの綾城さんをどう思っているかというと、普通に大ファンです! 過去の既刊も手に入るものはすべて揃えたし、ブログも全記事読んでいるし、即売会ではお手紙(※後述)を渡しています。嫉妬とかはあんまりないかなー。綾城さんがブログで勧めていた小説技法の本を自分でも読んでみたりしています。

同人誌即売会でいちばん喜ばれる「差し入れ」とは

ところで私は昨年初めて自ジャンル自カプの「オンリーイベント」というやつに足を運んだのですが、即売会で作家さんから新刊を買うとき、必須ではないけど差し入れを持っていくといいよ〜と聞いて……つい、BAKEのプレスバターサンドとか持っていかなきゃいけないのかと思ってビビったんですよね。新刊を買いたい人何十人といるから、1人1人にそんなことしてたら金がかかってしょうがない。大人ってこえ〜! と。


しかし、結論から言うとこれはまったくの勘違いでありました。同人誌即売会は、もちろん差し入れなんか持たずに新刊を買うお金だけを持って行っても何も問題ないですが、確かに差し入れを持っていくと喜ばれるし、何よりそれをきっかけに挨拶したり交流したりがやりやすくなります。ただしその差し入れとは、BAKEのプレスバターサンドなんかである必要はないようです。「同人誌 イベント 差し入れ」などで調べた結果、私はカルディで買った100円の煎餅を配った。そして私も100円〜500円のお茶だのクッキーだの入浴剤だのを大量にもらって帰ってくるので、イベントは行きも帰りも大荷物です。


大の大人が数百円のお菓子を交換するというこのちまちましたやりとり、何か意味あるのか? と最初は思っていたんですが、体験したあとならわかる。意味はありますね。前述したように、何のためにそんなちまちましたことをやるのかというと挨拶や交流のためです。カルディで買った100円の煎餅20枚に1つ1つマスキングテープで自分のTwitterのアカウント名を書いて貼り、「新刊楽しみにしてました!」とか「いつも支部(pixiv)見てます!」とか言いながら渡すわけです。はっきり言って準備はめちゃめちゃめんどくさいが、何も書いてないBAKEのプレスバターサンドより「○○さんの小説が大好きです!」とひとことメッセージが書いてある100円の煎餅のほうがもらったほうは嬉しいと、自分も新刊を出す側の人間になってみてわかりました。もとより金儲けとかの場ではないですしね。


あと、初めて知ったときは斬新に思えてビビったのですが、女性向け同人誌即売会でいちばん喜ばれる作家への贈り物は、BAKEのプレスバターサンドでもなく100円の煎餅でもなく「手書きの手紙」だと言われております。手紙を、便箋に、ペンで書いたことなんてもう20年以上前なんだが!? 初対面の人間に手書きの手紙って重くない?? しかし郷に入っては郷に従えの精神で私は生きているので、先ほど登場したうちのジャンルの綾城さんには、「大ファンです!!!!!」みたいなことを便箋3枚分書き、封筒に入れて、初めてお会いしたときお渡ししました。自分の人生で初対面の人間に震えながら*6手書きの手紙を渡す日が来るとは思わなかったが、生きているとこんなこともあるようです。そして一度「そういうもんだ」と思うとあとはもうそれが普通になるので、私はイベントのたびにいろんな人にお手紙を書き、また自分ももらったりしています。今ではこの感覚に慣れてしまったので、即売会以外の場所でもついうっかり「大好きです!」と書いた手紙をいきなり人に渡してしまいそうで怖い。気を付けます。

たとえ毛蟹に生まれ変わっても不倫はしない──現パロの功罪

さて、ここまでは二次創作界隈をうろついている人間の属性や人間関係、そして即売会の様子などについて書き連ねてきましたが、以下は二次創作の「内容」についてです。もちろん数行で簡単に言い表せるようなものではないのだが、女オタクはpixivでいったい何を書いて/描いているのかという話です。


まず王道として「原作になかった場面を埋める」というのがあります。原作だと戦闘シーンのあとすぐに場面が変わっているが、その場面が切り替わる前の夜の描写を、妄想で埋めるみたいなやつ。私がメインでやっているのはこれです。「どういうの書いてるの?」と二次創作のことを何も知らない人に聞かれるとめちゃめちゃ困るんですが、ストレートに答えると「86話と87話の間に一晩挟まっていると思うので、今はそこの会話を書いている」とか言うことになります。ただ、二次創作のことをちょっとでもわかっている人には「原作軸」と言うとだいたい通じます。


そしてもう一つの王道として、「現パロ(現代パロディ)」がある。これは、たとえば原作の舞台が江戸時代だったりした場合、その舞台を現代日本に変えてしまうやつです。原作では兵隊だったり魔法使いだったりするキャラを、現代に持ってきて高校生とか会社員とかにしてしまうわけです。私が活動しているジャンルではこの「現パロ」がめちゃめちゃ多く、むしろ原作軸よりも王道になりつつあると言っても過言ではない。もっと詳しく知りたい人はカレー沢薫先生のコラムを読んでください。

www.pixivision.net

現パロというのは割と好みの別れるジャンルである。


二次創作というのはどれも妄想なのだが、中には「原作に近い妄想がしたい」というストイックなタイプもいる。

そういうタイプからすると現パロというのは原作からの飛躍が激しすぎて、ついていけないらしい。

そう、コラムにあるように、私はどちらかというと「原作に近い妄想がしたい」というストイックなタイプ。すべての現パロがつまらないとは思ってないのですが、やっぱり現パロは「原作からの飛躍が激しくてもはや原作キャラと人格が変わっている」「攻めも受けもキャラ崩壊しているのでこの話をこのカプで書く必要性がわからない」という作品が、正直、少なからずあります*7。もちろん、そもそも素人が利益も出さず趣味でやっているんだから各々好きにすればいいし、「必要性とかなくてもこのキャラに制服を着せてこのセリフを言わせたいんだもん!」みたいな欲求もまったくわからないわけではないので「現パロを書くな!」とか言うつもりはないのですが、もうちょっとでいいから原作軸の作品も増えないかな〜っと、願う日がないではないです。そして、この「原作軸」「現パロ」から派生して、「転生パロ」があったり「年齢操作」があったり「逆行」があったり「◯◯if」があったり「オメガバース」があったりと、無限に種類が増えていくイメージ。カプもの二次創作はとにかく「攻め」と「受け」さえいれば舞台はなんでもいいという世界であったりします。

しかし、ごくまれに「もうキャラ崩壊とかはどうでもいい。その方向で突き抜けてほしい!」と思う奇跡のような作品に出会うこともある。あまり詳しく言うと私のいるジャンルを特定されてしまうのでぼかしますが、私が感動したのは「動物転生パロ」であります。

これは何かというと、つまり、「攻め」と「受け」現代日本の人間どころかむしろ毛蟹に転生させてしまうわけです。毛蟹に転生させるとどういうことが可能になるかというと、原作ではどう考えても「受け」を束縛などしない穏やかな性格の「攻め」を、交尾のあとに生殖孔にフタをしてしまうような束縛系ヤンデレに生まれ変わらせることができるわけです。人間の姿のまま束縛系ヤンデレにしてしまうこともできるが、それだと穏やかなはずの「攻め」の性格を変えなければならず、キャラ崩壊になってしまう。そこで、もともとそういう本能を持つ毛蟹に生まれ変わらせたらむしろキャラ崩壊を防げるのではないかという、逆転の発想が生まれるんですね。私個人はストイックな原作軸のほうが好きだけど、現パロを否定したくないのは、こういう自由な発想の二次創作が生まれる土壌を枯らしてしまうのは非常にもったいないと思うからです。

そういうわけで、「攻め」と「受け」さえいればなんでもいいというのは、本当になんでもいいんです。高校生でも会社員でも、蟹でもウニでも、好きに生まれ変わらせたらいいのです。ただちょっと面白いのは、うちのジャンル、毛蟹転生パロはあるのに不倫ものはないんですよね。私が見逃している可能性はあるけど、「そういえば見ないな」と思ってけっこう頑張って探してるんですが1つも見当たらない*8。毛蟹に束縛されるのはOKだけど不倫はNGなのか……と思うと、良くも悪くも女性が多いジャンルなんだなと思います。

素人の作品見てそんなに面白い?

ところで、たまにこんな質問をされます。「決して完成度が高いとは言えない素人の小説や漫画を読んで、本当にそんなに面白いのか」と。答えは、私の場合「本当にマジで面白い」です。

「面白い」には二通りの意味があって、一つは、ストレートに面白い場合。これは、そもそも二次創作=素人がやっている、という認識がちょっと間違ってるというのもあります。二次創作は基本的に利益が出ない趣味活動ではあるが、いわゆる「神絵師」は、イラストレーターだったり漫画家だったりアニメーターだったり、本業ではプロであることもけっこう多い。pixivで「なんかこの絵見たことあるんだよな〜」と思った数日後、その人の商業漫画をTwitterで発見するみたいなことはたまにあります。私も、プロと呼べるかは疑問だが底辺ライターではあるので、まっさらの素人かと言うとちょっと違う気がします。そんな感じで、二次創作は素人がやっているからクオリティが低いとは必ずしも言えず、二次創作だけどプロがやっていて公式かと思うほど絵も話も上手い、みたいなケースは別に全然珍しくありません。


もう一つは、通常とはちょっと違う面白さを見出している場合。私の場合はpixiv探索が最近ちょっとフィールドワークじみてきているので、先ほどのように「毛蟹転生はあるけど不倫はないんだな〜」とかを発見するのが、まあ面白いです。推しカプの創作とはつまり現代女性の欲望の塊なので、「この表現はOKだけどこの表現はNGなんだ」みたいなのを数百〜数千単位の小説を読みながら分析していくのが楽しい。2014年までは無理やり系がけっこうあるけど2020年以降は全然見ないな! とか、もちろんジャンルによって差はあるんだろうけど、やっぱり何かしらの傾向はあるものです。MeTooは二次創作界隈にも大きな影響を及ぼしている。


さらに、これも通常とはちょっと違う面白さになるのかもしれないけど、「楽しんでいる人を見るのが楽しい」みたいなのもすごくあります。たとえば、お世辞にも絵が上手いとは言えない人がいたとしても、その人が自分の中の「好き」を表現し続けて、数ヶ月、半年と時間をかけて確実に上達していく過程を見るのが楽しい──楽しいというか、人間の前向きなパワーを吸って養分にできるんですよね。お金儲けもできないしキャリアアップにもならないけど、私も絵を描いてみたい、小説を書いてみたいっていう人から、「陽」のエネルギーを吸えるんですよ。中高年の同世代から「陽」のエネルギーを吸うとマジで元気になります。特に、その「陽」のエネルギーを持つ生身の人間が集結する同人誌即売会は、私は本が欲しいというより「場のパワー」を吸いたいから行っている気がします。本が欲しいだけなら通販でも買えるのでね……。だから、上手い人の作品もいいけど、技術的にはそんなに上手くなくても、心を込めて作られたのがわかる創作物なら私は余裕で大好きです。なんというか、「物」よりも、その創作物に宿る「気」を買っている感じ。


さて、冒頭でも書きましたがそろそろ1万字を優に超えているので話をまとめます。


二次創作は楽しいです。コストもそれほどかからないし、30代だろうが40代だろうが50代だろうが誰も気にしないし、前向きになれるので、ぜひ始めてみてください──本当はこのブログを読んでいる全員にそう言えたらいいのですが、そうは言えないのが非常に惜しいな、と思っています。


なぜなら二次創作とは、やってみよう! と思い立って「始める」のではなく、ある日唐突に推しに出会ってしまい、止むに止まれず「始めてしまう」ものだからです。「やってみたいから推しカプとやらを見つけてみようかな」ではたぶん全然ハマらない。「やるつもりなんかなかったのに推しが好きすぎて手を出してしまった」みたいな感じじゃないとたぶんそんなに楽しくないと思います。意図せず推しカプに出会ってしまった私は、おそらくめちゃくちゃラッキーだったのでしょう。

なので、このブログをここまで読んでくれた人に私から言えそうなことは、「ボーッと生きてるだけの中高年でも突然ものすごいパッションが燃え上がることがあるので、そんなに落ち込むな」みたいなことですかね? いや、私も今はものすごいパッションが燃え上がっているが、来年は、再来年はどうかわかりません。もう燃え尽きて灰になっているかも。でもたぶん、「燃え上がった」事実自体がこの先も私を励ましてくれる気がするので、たとえ冷めちゃう日が来ても、「あの30代半ばの日々は青春だったな……」と、今を懐かしく思い出せる気がします。そのためにわざわざ紙の本を印刷して頒布したのだし、ブログにこの記事を書いているのです。


まあそんなごちゃごちゃ言わずとも、「オタクって(いろんな意味で)すごいな」という話として読んでもらえればオッケーです! 二次創作、めちゃくちゃ楽しいよー! みんなやってみて! とは言えないのが本当に惜しい。

でも、ライター:チェコ好きの活動もまだ全然執着はあるので、このブログももうちょい更新したいですね!

*1:コミックマーケットとは何か?」によると、参加しているサークルのうちだいたい7割は赤字だそうです。15%はトントン。

*2:作品のことをなぜか二次創作界隈ではこう言う。『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『Fate/Grand Order』などのジャンルがある、ということです。

*3:ところで、私が活動しているのはいわゆる「女性向け」と言われているジャンルですが、実はよく目を凝らしてみると男性の書き手もいます。割合でいうとたぶん3%くらい。ちょっと男性にとっては居づらい場所かな〜と感じたりもするので、もしかしたら性別を偽っている人もいるかも。でも男女間のトラブルなどは私の知る限りだと0件で、男性も女性もみんな黙々と自分の推しを書いて/描いております。

*4:ところで、こちらの作品に対して「女オタクから各ジャンルの原作へのリスペクトが感じられない」という批判を見たんですけど、私はそんなに気になりませんでした。というか、女オタクの間では原作へのリスペクトは自明のことすぎるので、わざわざ言及する必要がなかったのでは。原画展に行く話とかもあるし、あの作品に出てくる女性たちはみんな原作リスペクトは普通にあるんじゃないかなー? と私は思いました。

*5:これも本当にジャンルによりますが、「字書きに人権なし」と言われるくらい小説の人気がないジャンルもあるらしいです。

*6:本当に大ファンなので好きすぎて緊張のあまり手が震えてしまった。こんなに大好きな人にはもう生涯出会えないかもしれない

*7:原作軸でもそういう作品はあるし、私が書いているものがそうではないという確証もないが……

*8:と、書いたあとに1つだけ発見しました。でもまあ1つ。