チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

シュヴァンクマイエルとフェミニズム『練金炉アタノール』『クンストカメラ』

2025年8月、ヤン・シュヴァンクマイエルの新作『蟲』と同時に、ドキュメンタリー作品である『練金炉アタノール』『クンストカメラ』も公開された。『蟲』の感想は前回書いたので、今回は『練金炉アタノール』『クンストカメラ』の感想をメモしておく。

ところで、『蟲』のときは劇場満員だったし、『練金炉アタノール』『クンストカメラ』もわりと客の入りはよかったような気がするんだけど、このシュヴァンクマイエルファンって日常ではどこに潜んでいるんだ。映画館は大盛況なのに、リアル知人の間やSNSでは盛り上がっている形跡がまったくない。イメージフォーラムにだけ時空の歪みが発生していて別世界なのだろうか……わからん。

『蟲』のフンコロガシ氏

『練金炉アタノール』

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まずはシュヴァンクマイエルの映画製作を追ったドキュメンタリー作品から。これは正直あまり期待していなかったのだけど、思いのほか面白かったし、もしも2008年の段階でこれを見ることができていたら、私の卒論は微妙にちがう内容のものになっていただろうなあと思った。

シュヴァンクマイエル、ビジネス社交じゃなかった!

シュヴァンクマイエルの作品を見ているとわかるが、彼の映画はとても内向的な感性によってできている。中でも私が好きなのは、シュヴァンクマイエル映画に出てくるごはんが、毎回めっちゃ不味そうなことだ。これは食べることに喜びを見出していない人間が撮った映像だ!ということがすぐわかるので、同じく食べることに興味がない私はいつも共感を覚える。よかったー、食べることに興味がないの世界中で私だけじゃなかったー、と毎回ほっと一息なのだ。


他にも、「ヤン氏、陰キャじゃろ…?」と思える表現はいくつもあり、全部あげるとキリがないのだが、同時に疑問が沸き起こる。映画は一人では作ることができない。しかも長編映画ともなると、片手や両手じゃ済まないほどたくさんの人間が関わる一大事業だ。内向的で一人で絵を描いたり謎オブジェを作ったりするのが好きそうなシュヴァンクマイエルおじいちゃん、どうやってこの事業を成し遂げているのだろう。もしかして、内向的な感性を内に秘めたまま大人としてやることはちゃんとやれる「ビジネス社交」タイプか…? と、学生時代の私は疑問に思っていた。


そして、その答えがこのドキュメンタリー映画の中にあった。シュヴァンクマイエルおじいちゃんはやっぱり、一人でしこしこ謎オブジェを作るのが好きな陰キャで、ビジネス社交タイプではなかった。では映画事業はどうやっているのかというと、ここで奥様・エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの出番である。つまり、おじいちゃんのほうは監督として看板をぶら下げつつ、他の人と交渉したり現場の雰囲気作りをしたりしていたのはエヴァおばあちゃんのほうだったわけだ。エヴァが亡くなったときのヤンの落ち込みはそりゃもうすごいものだったとは聞いていたが、映画製作において欠かせない役割を担っていた人がいなくなってしまったのだから、公私ともに大ダメージ必至である。シュヴァンクマイエルの映画において、エヴァはとても重要な役割を果たしていた。看板に出ているのはあくまでヤンの名前だが、私はこれまでずっとエヴァの作品も見ていたのだな、と思うとすごく腑に落ちた。そしてヤンのほうは正真正銘の陰キャであった。「私は会話は苦手で…」などと言っていた。イメージを崩さないでくれてありがとう!

エヴァフェミニズム

『練金炉アタノール』では、しばしばシュヴァンクマイエルの過去作品が挿入される。『自然の歴史』、『庭園』、『エトセトラ』、『ファウスト』、『ジャバウォッキー』、『ルナシー』、『アリス』、『悦楽共犯者』。どれも懐かしいなあいいなあと思って見ていたが、しかしやっぱり、シュヴァンクマイエルは男! 学生時代も「ん?」と思った表現はあったが、それはこの年になってもやっぱり「ん?」だったし、昔だったからよかったものの今だったらめっちゃ怒られてたでしょこの表現、という感じのやつは正直すごくある。それに関しては擁護できないが、でも、ギリギリありかな…ダメだけどなしよりのアリかな…と思えるのは、実は製作現場にエヴァがいたからかな、と思ったのであった。


シュヴァンクマイエルいわく、エヴァは女性として生まれたことをとても不運だと思っていたという。「それでもエヴァはいわゆる〈フェミニスト〉ではなかった」と彼は話し、そのへんの感性はまあおじいちゃんだからな〜と思ったが、隣で見ていて、「自分にはない生きづらさをエヴァは感じているみたいだぞ」と気づいてはいたらしい。そこらへんをまるっと無視する系のおじいちゃんではなかった。シュヴァンクマイエルフェミニズムについてどのような意見を持つ系のおじいちゃんなのだろう? というのは私の長年の疑問だったので、それが少しわかってよかった。あと、シュヴァンクマイエルは男だが、マッチョ系の男じゃなく陰キャ系の男なので、権威主義的ではないところも「ダメだけどなしよりのアリ」表現に留まらせていたのかもしれない。

ファンと嫌そうな顔で写真撮影

『練金炉アタノール』では、シュヴァンクマイエルがファンと写真撮影をするシーンが2回ある。1回目は欧米のファンと、2回目は日本人のファンと撮影するのだが、どちらも、顔がめっちゃ嫌そう。カメラを向けられた途端、表情筋と目がすっと死ぬヤン。この顔がとてもとてもよかった。めっちゃいい顔見れて得した! ファンと写真撮るの本当に嫌なんだなと思った。でも自分の作品を好きだと言ってくれる人に冷たくはできないし、賞なんてイラネと正直思っているがみんなで作り上げたものだから無碍にはできないし、なんせ映画は作ったからにはヒットしなければみんな飢えて死ぬので、商業的なことをまるっと無視はできない。そういう、資本主義と周囲の人の善意と温かみに触れながら、それでも「めんどくせえな」と思ってしまうシュヴァンクマイエルおじいちゃん、人間味があってすごくよかった。「嫌そうな顔でファンと写真を撮るヤン」を見れることがこの映画の最大の価値である、といっても過言ではないくらいすごくいい表情をしていた。

徹底的にシラフ

シュヴァンクマイエルは『ルナシー(狂気)』というド直球タイトルの映画を作っているが、なんとなく、その狂気は薬物由来のものではないのである。「薬物による狂気(表現)」と「薬物ではないものによる狂気(表現)」があるとしたら、シュヴァンクマイエルの狂気は徹底して後者だ。前者と後者のちがいを言語化するのは難しいが、後者はとにかく陰気だし、楽しい気持ちにまったくならない。ハイな要素が一切ない。


そして、その理由もこの映画を見て納得。シュヴァンクマイエルは一度だけLSDをやったのみで、基本的には薬物に手を出さないし、普段は酒も飲まない、頭痛薬すら飲まないという(ただし糖尿病の薬は飲む)。「こんなのシラフじゃできないよ」という言い方があるけど、シュヴァンクマイエルの映画は確かに、「こんなのシラフじゃなきゃできないよ」という感じなのだ。その秘密がわかってよかった。

『クンストカメラ』

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同時公開のドキュメンタリー2本目、『クンストカメラ』。こちらは正直に申し上げると、シュヴァンクマイエルの超超超ファン以外は別に見なくてもいいと思う。というか、それ以外の人が見るとたぶん退屈すぎて死ぬ。私も何度か意識を失いかけ、耐えた。チェコの南西部ホルニー・スタニコフにあるアトリエの中の、シュヴァンクマイエルの自作謎オブジェや謎絵や世界中で集めた珍品を、約2時間ナレーションなしで延々と映しているだけの映画。ナレーションくらい入れてくれたっていいだろう! と思ったが、しょうがない、シュヴァンクマイエルだから…。


何度か意識を失いかけたのは事実なのだが、面白かったポイントに絞って話すと、アフリカの珍品コレクションがけっこうあって興味深かった。シュヴァンクマイエルチェコ人で、旅行が好きというわけでもなさそうなのだが、でも、アフリカ好きなんだ〜と思った。あとアジア系でいうと日本の春画があって、そうなんだ〜と思った。私自身は生涯にわたってこんなコレクションを持つことはできないだろうが、旅行に行かなくても、世界って変だなあと思わせてくれる場所があるのは素敵だ。でも、なんとなくわかるからいいけど、どこで見つけてどうやって入手したのかとか、インタビューくらい入れてくれてもよくない!? と五回くらい思った(そして意識を失った)。



ヤン・シュヴァンクマイエルというアーティストは日本語の情報も少なく、とにかく謎に包まれているので、卒論を書くのは大変だった。あのときこの情報があればなあ…! とドキュメンタリーを見ていて何度も思った。80歳超えのおじいちゃんなのでもう長編映画は撮らないよと言ってるし、あとは一人でしこしこ謎オブジェや謎絵の制作に励む余生なのかもしれないが、世界にこんな人がいてくれてよかったなー、と思える数少ない映画監督の一人であることに変わりはない。長生きしてね、シュヴァンクマイエルおじいちゃん!

令和に見る、ヤン・シュヴァンクマイエル 『蟲』

2025年8月に満を持して公開となったヤン・シュヴァンクマイエルの『蟲』。そういえば、私は2016年にこの映画を製作するためのクラウドファンディングに参加してたんだった……ということを鑑賞中に思い出した。いやだって、あれから9年ですよ! クラファンしたの忘れるわ。しかし、わずか数千円に過ぎないとはいえ、私が稼いだお金がヤン・シュヴァンクマイエルの最後の長編映画のために使われたというのはいい経験になった。よかったよかった。

クラファンのお礼画面

というわけで以下は『蟲』の感想を書いていくのだけど、シュヴァンクマイエルは私にとって、他の映画監督とはまったく異なる意味と重みを持つ。なぜならこの人の映画に惚れ込んで卒論と修論を書いて、しかも社会人になって始めたこのブログ「チェコ好きの日記」の語源(?)になったから。私はチェコの映画が好きなのでハンドルネームが「チェコ好き」なのですが、そのチェコの映画の中心にいるのは永遠にヤン・シュヴァンクマイエルなのです。

シアター・イメージフォーラム

自語りはほどほどにするとして、正直なところ、『蟲』を見るのに不安な気持ちがなかったわけではない。個人的には前の長編映画『サヴァイヴィング・ライフ ‐夢は第二の人生』がいまいちだったからだ。いつものシュヴァンクマイエルなのだけど、逆にいうといつものシュヴァンクマイエルでしかない。つまり何か新しいことに挑戦している要素がほとんどなく、撮影手法にしろ、テーマにしろ、これまでの焼き直しのような印象を受けたのだ。それが悪いかというと悪いとまではいわないんだけど、やっぱり、ちょっと残念感はある。まあ、シュヴァンクマイエルってもう80歳越えのおじいちゃんなので、別に過去の焼き直しだっていいだろ、長編映画1本撮れるだけですごいだろ! という話でもある。

「また焼き直しなんじゃないか?」ということ以外に、『蟲』には、令和に見る映画として大丈夫なのだろうか……という不安もあった。シュヴァンクマイエルの映画は、小児性愛カニバリズム、精神的な病など、タブーをガンガン扱う。私が学生だった頃は2008年とかで、まだ世の中がいろいろなことに(悪い意味で)寛容だった。小児性愛も、カニバリズムも、精神的な病も、私は「アートだからOK」という感じでかなり雑に見ていたし、それが特段咎められるような環境でもなかったと思う。当時はシュヴァンクマイエルの作品に女性蔑視的な部分があるとは特に思っていなかったけど、今見たら「およ?」と感じる部分があるのではないか──だって、80歳越えのおじいちゃんだし。ずっと好きだったものを嫌いになりたくないなあ……みたいな、そういう不安を抱えながら鑑賞した。

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まずは『蟲』のあらすじを話しましょう。ある町(プラハ?)の小さなアマチュア劇団が、チャペック兄弟の戯曲『虫の生活』を上演するため、稽古をしている。しかしコオロギ役兼任の演出家以外、全員やる気がない! 遅刻したり、ずっと編み物していたり、稽古そっちのけで不倫のイチャイチャをしていたり……しかしそんな中でも稽古は進み、アマチュア劇団の現実と『虫の生活』の世界が交錯していく。ストーリー自体は「いつものシュヴァンクマイエル」感がある。

映画が始まってパッと目を引くのは、画面を覆い尽くす大量のGだ。私も当たり前にGは大嫌いなので本来は絵文字ですら見るのは嫌だけど、シュヴァンクマイエルだと「しょうがない、シュヴァンクマイエルだから」という感じで特に何も思わずに見られてしまう。でも普通にグロ画像なので、耐性がない人はしばらく目を瞑っていたらいいのではないかと思います。タイトルが『蟲』の時点でいろいろ覚悟して見なければならない。

そして大量のGのグロ画像以外に、もう一つ観客にとっての障壁になるのが、この映画があえて観客の集中力を削ぎに来るというおかしなことをやっていること。

例えば、ちょっとシリアスというかホラーなシーンに入る前に、そのシーンのメイキング映像を見せてしまう。ナイフで刺すシーンの直前にその撮影現場の全景や裏側などを映し、かわいいワンコが「ちょっと邪魔だよ〜」とかいわれながら追い払われているほのぼのメイキングが挿入されてしまう。ゲロを吐くシーンの直前に、そのゲロがどんなふうに作られているかを丁寧に──「オートミールを混ぜて作るとそれっぽくなるんだ。栄養満点だよ!」とかやってしまう。なので、ナイフで刺されてもゲロを吐いてもずっと面白いしずっとほのぼのしている。Gでさえも、シュヴァンクマイエル本人が手で触り「わ〜気持ち悪い、早くして早く〜」とかやっている。たぶん、気持ち悪いといいつつカブトムシ触ってるくらいの感覚なのかなと思いましたが……。というわけで、大量のGが画面を覆い尽くすというセンシティブ中のセンシティブ映像があるグロ映画であるにも関わらず、ずっとほのぼのしており、ラストはちょっとハッピーでさわやかな気分にさえなって映画館を出ることになるという、これは2025年に輝くトンデモ映画でした。

私が『蟲』を見るにあたって不安に思っていたことは前述したように2つあって、1つは「また過去の焼き直しなんじゃないか」ということ。これに関しては、もちろん本作は間違いなくシュヴァンクマイエルの映画でシュヴァンクマイエルらしさ満点なのだけど、焼き直しじゃ……なかった! 少なくとも私にとっては「お!」という「新しい何か」が感じられる作品だったので、80歳でもまだまだイケるんだ! と思いました(失礼な感想)。

そして不安に感じていたことのもう1つ、「令和に見ても倫理的にいろいろ大丈夫なのだろうか」という点は……結果的には、セーフというかラッキーというか、ここも回避できていたように思います。シュヴァンクマイエルおじいちゃんは「アップデート!」などという言葉とは無縁の昔ながらのおじいちゃん(だと思う)なので、ここが回避できていたのは単にラッキーってだけだと思うけど、まあ、結果的にシュヴァンクマイエルを嫌いにならずに済んだので個人的にほっとした。

学生だった2008年頃、まだ一般的ではなかったこともあり、私は「インティマシーコーディネーター」という言葉すら知らず、無知むき出しのまま映画を見ていた。

フンコロガシが出てきます

そして、そこから15年以上の時間をかけて、「いい映画を作るなあ」と思っていた映画監督が一人、また一人と問題を起こし、業界から消えていった。映画館自体も問題を起こし、あんなに素晴らしい映画を上映しているのになぜ足元が見えないのか、と暗い気持ちになった。私自身の認識も大きく変わり、自身の内面にあったさまざまなことを反省した。そんな中、再びシュヴァンクマイエルの映画に「再会」でき、それを学生時代と同じように楽しく見ることができたのは、ほとんど奇跡のような出来事に感じる。奇跡が大げさなら、単に「ラッキー♪」ってだけでもいいのだけど。


本作はエロ・グロでいうところのグロのほうに完全に振り切っている作品なので、シュヴァンクマイエルの映画にしては珍しく、いわゆる「インティマシーシーン」みたいなものはほとんどない。が、グロシーンやホラーシーンに挟まれるほのぼのメイキングが、観客の集中力を削ぐと同時に、「ちゃんと安全にやってますよ」という……つまり、「本作はヒロインが性暴力を受けるシーンがありますが、インティマシーコーディネーターに協力を依頼しています」といわれるのと同じような安心感を与えている。シュヴァンクマイエルおじいちゃんにはたぶんそんな意図はなく、メイキング映像の挿入はいつもの悪ふざけであり、いつもの芸術的実験であり、いつもの映画的倒錯なのでしょうが、結果として「本作はヒロインが性暴力を受けるシーンがありますが、インティマシーコーディネーターに協力を依頼しています」といわれるのと同じような効果を生み出しており、映画館を出るときの気分がとても晴れやかだった、というわけです。大量のGが画面を埋め尽くすグロ映画であるにもかかわらず……。

これ、2010年とかに見たら逆に私はどう思っていたのかな……と不思議である。シュヴァンクマイエルおじいちゃんのいつもの悪ふざけが結果的に功を奏して令和の倫理観に意図せずフィットしてしまった(?)という、私にはそんな映画に見えた。でも、同じような感想を抱く人はあまりいないと思う(笑)。15年以上のファンが抱いた一つの感想として受け止めてもらえれば幸いです。

たまに最後最後詐欺をやらかす監督もいるので実際どうなるかわかりませんが、もしも『蟲』が本当にシュヴァンクマイエルの最後の長編になるのだとしたら、けっこう幸せな鑑賞体験だったように思う。

www.zaziefilms.com

Amazonプライム会員が無料で観られる私の好きな映画10本+有料5本

リモートワーク生活が始まっており、今週の私の外出はといえば「近所のスーパー」「近所のタイ古式マッサージ」「税務署」の3箇所のみとなっている。税務署は確定申告ね。ひとり暮らしだし喋る相手もいなくて寂しいかなと思ったけど、私は元来、超根暗のオタク。人との関わりが不必要とは言わないが、Slackなどでチャットできる環境があれば全然人恋しいとは感じないのであった。通勤時間を映画鑑賞や読書や料理の時間とすることで、めちゃめちゃQOLが上がっている感がある。とはいえ、オフィスワークも全然嫌いではないんですけどね。あと自宅の椅子が安物なので、長時間のデスクワークはちょいと腰がしんどいね。


それはそれとして、しばらく外出を控える人も少なくないと思うので、先日のツイート内容をまとめておく。Amazonプライム会員なら無料で観られる映画10本に加えて、有料だけどAmazonで観られる私の好きな映画を5本追加している。




1.『オマールの壁』ハニ・アブ・アサド

オマールの壁

オマールの壁

  • 発売日: 2017/03/03
  • メディア: Prime Video

よくある三角関係の話……にならなかった話、『オマールの壁』

よかったら以前書いた感想文をどうぞ……。

2.『パラダイス・ナウ』ハニ・アブ・アサド

パラダイス・ナウ(字幕版)

パラダイス・ナウ(字幕版)

  • 発売日: 2018/05/23
  • メディア: Prime Video

自爆テロって、どんな人がやるんだろう? 『パラダイス・ナウ』

これも前に感想を書いていました。

3.『デヴィッド・リンチ:アートライフ』

デヴィッド・リンチ:アートライフ(字幕版)

デヴィッド・リンチ:アートライフ(字幕版)

  • 発売日: 2018/07/04
  • メディア: Prime Video

4.『エンドレス・ポエトリーアレハンドロ・ホドロフスキー

エンドレス・ポエトリー【R15+】(字幕版)

エンドレス・ポエトリー【R15+】(字幕版)

  • 発売日: 2018/09/05
  • メディア: Prime Video
この映画は『リアリティのダンス(字幕版)』の後編にあたる。前編は有料。だけどこっちだけ観ても別に平気です。

5.『ホドロフスキーのDUNE』

ホドロフスキーのDUNE

ホドロフスキーのDUNE

  • メディア: Prime Video

6.『女は女である』ジャン=リュック・ゴダール

女は女である

女は女である

  • メディア: Prime Video

7.『ブラック・クランズマン』スパイク・リー

ブラック・クランズマン (字幕版)

ブラック・クランズマン (字幕版)

  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: Prime Video
有料だけど『グリーンブック(字幕版)』と比較しながら観ると、黒人差別がどのように描かれているか違いがわかって面白いかもしれない。

9.『ダウントンアビー』

嵐の予感

嵐の予感

  • 発売日: 2015/04/13
  • メディア: Prime Video
シーズン6まであるから、これを観ていればすぐに桜の季節だよ……。

10.『恋の罪』など園子温の何か

恋の罪

恋の罪

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

園子温が苦手な私による園子温論

超大昔なので恥ずかしいのですがこんなことも書いたな。

以下は、有料だけど好きな(というか、この機会に観たい)映画です。

1.『ヘレディタリー 継承』アリ・アスター

ヘレディタリー 継承(字幕版)

ヘレディタリー 継承(字幕版)

  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: Prime Video
『ミッドサマー』も観たので、この機会に前作を観るのもいいかなと思って私は昨日観ました。ジャンルとしてはホラー映画なので注意。

2.『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ジム・ジャームッシュ

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ(字幕版)

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ(字幕版)

  • 発売日: 2014/06/18
  • メディア: Prime Video
吸血鬼の話なんですが、舞台が私の愛する街であるモロッコのタンジェ。耽美ですべての映像が美しい。ジャームッシュはほか、有料だけど『パターソン(字幕版)』とかもある。

3.『バーニング』イ・チャンドン

バーニング 劇場版(字幕版)

バーニング 劇場版(字幕版)

  • 発売日: 2019/08/07
  • メディア: Prime Video

階級社会とスノッブ:『バーニング』と『納屋を焼く』

去年の私的ベスト映画。みんな観て!

4.『ニーチェの馬タル・ベーラ

ニーチェの馬 (字幕版)

ニーチェの馬 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
7時間超え大作『サタンタンゴ』より観やすいはず、なぜなら2時間半だから。『サタンタンゴ』が雨と泥の映画なら、『ニーチェの馬』は風と砂の映画なのだ。

5.『世界』ジャ・ジャンクー

世界(字幕版)

世界(字幕版)

  • 発売日: 2016/03/07
  • メディア: Prime Video
この映画の冒頭にかかる音楽(予告編でも聴ける)が好きで、私の通勤BGMです。内容ももちろん、とても好きな作品。
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せっかくなので引きこもりライフを満喫しよう。では。

階級社会とスノッブ:『バーニング』と『納屋を焼く』

イ・チャンドン村上春樹の『納屋を焼く』を映画化した『バーニング』を観てきたので、感想メモ。


ちなみにアップリンク吉祥寺で観たのですが、「伊良コーラ」なるクラフトコーラも美味しかったし、「ミニシアター・コンプレックス」というコンセプトも、ミニシアターとシネコンのいいとこどりで好きだなと思いました。


以下、ネタバレをちょっと含みます。

階級社会とスノッブ

まず、イ・チャンドンの『バーニング』と村上春樹の『納屋を焼く』では、細かな設定が少しちがう。『納屋を焼く』では、主人公は30歳の男で既婚。そしてヒロインは知り合いのパーティーで出会った20歳の女の子である。ハタチはこえているのでまあ犯罪じゃないしいいけど、既婚の男が10歳年下の都合のいいガールフレンドを見つけるという点においては、極めて村上春樹的な設定だ。


対照的に、『バーニング』の主人公とヒロインは幼なじみで、年齢はほぼ同い年である。どちらも未婚。そして、村上春樹の原作では彼らの出身地については特に描写がなかったが、『バーニング』の主人公であるジョンスとヒロインのヘミは、対南放送が聴こえてくるくらい軍事境界線が近い農村地の出身である。


『バーニング』でも『納屋を焼く』でも、そんな主人公とヒロインのもとに、ある不思議な男が現れる。原作では「貿易関係の仕事をしている」といい、映画では「遊んでいます。仕事と遊びの境界線がない感じかな」などといっている、何で稼いでいるのかよくわからない、豪華なマンションに住みながら高級車を乗り回すジェイ・ギャツビーみたいな男だ。


原作では、3人はだいたい同じ「クラス」に属す人間たちである。3人とも都会的で、軽薄で、ふわっとしている。だけど映画では、このギャツビーみたいな男・ベンと主人公たち2人は、何というか、属している「クラス」がちがうのだ。カンナム(よくわかんないけど、日本でいうと港区みたいな感じ?)の高級住宅街に住む男と、軍事境界線スレスレの農村地を出身とし今もそこを拠点とするジョンスとヘミ。原作にはない設定だが、私は、イ・チャンドンのこの視点はすごくいいなあと思った。村上春樹は小説においていわゆる「社会的弱者(経済的弱者)」を描かないので、こういった設定が盛り込まれていることがとても新鮮だった。


ハウスメイド (字幕版)

ハウスメイド (字幕版)


特に韓国映画に詳しいわけではないのだけど、少ない私の知識からいうと、韓国映画は「階級社会」を痛感させる作品が多い(多くない?)。私がめっちゃ好きな韓国映画に上の『ハウスメイド』があるのだけど、これも、お金持ちの上流階級の家に田舎出身の貧困層の女がメイドとして雇われるという話である。地方出身者の、経済的に豊かでない者たちの、上流階級への嫉妬、恨み、悔しさ、不条理な思い。映画『バーニング』では、村上春樹の作品では絶対に描かれることがないその視点が、イ・チャンドンによって盛り込まれている。


(ちょっとネタバレになるけれど、そういえば『ハウスメイド』でも、「燃焼」は物語の結末において重要な意味を持つ。虐げられた者たちの怒り、悲しみ、復讐心。『ハウスメイド』でも『バーニング』でも、それが「燃焼」によって描かれている……と考えると、『バーニング』は村上春樹の短編小説を原作としながらも、やっぱりとても韓国映画的だ。)

どっちが好き?

同じ都会生活を送る3人の、ちょっとスノッブで、しかし人生への諦念や虚無感や切なさが描かれている(と思う)『納屋を焼く』。経済的に豊かではない階級の2人と、ギャツビーのように暮らす上流階級の男、両者の間にある越えられない壁とその憎悪と嫉妬と怒りを描いた(と思う)『バーニング』。どっちが好きかと考えると私はどちらもかなり好きで、甲乙つけがたい。そして、「納屋(ビニースハウス)を焼く」というテーマに、そのどちらもがぴったりとハマっている点がとても面白い。焼かれて燃え上がるのは、虚無感の炎と、憎悪の炎だ。


ただ、文筆家(志望)である主人公の好きな作家がウィリアム・フォークナーであるという設定は、『納屋を焼く』よりもむしろ『バーニング』で生きている気がした。アメリカ南部を舞台に、黒人差別や暴力について描いてきたフォークナーを、主人公のジョンスが好んで読んでいるのはものすごくしっくりくる。


韓国映画が描く階級社会ってなんだろう。そんな疑問を残しつつ、個人的には超好みの作品だったので、気になる人は公開が終わる前にぜひ!

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

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(音楽もとてもよかった)


(そして、私の「ベスト・オブ・放火」が更新されたのであった。火災・放火、あと焼身自殺も好き)

お気に入りの映画音楽でプレイリスト作った

Spotifyで私がたまに通勤電車の中とかで聴いているお気に入りの映画音楽のリストを作りました。でもIT企業に出入りしているわりにはクソほど情弱なのでちゃんと公開できているのかわかりません。「見られない!」とかあったら教えてください。あとめちゃ本名出ているけど私は気にしていないので気にしないでください(ざ、雑〜〜!)。

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特徴としては、ジム・ジャームッシュ率が高い。だってジャームッシュの映画音楽かっこいいんだもんね。あと、これそもそも映画自体を知らない人にとっては、聴いて楽しいものなのかどうか不明です。音楽をきっかけに映画のほうも観てもらえたら嬉しいけれど、その行動を起こさせるには幾分……私のセンスが……足りないかも。。。

1. Louie Louie

コーヒー&シガレッツジム・ジャームッシュ

私が初めて観たジャームッシュの映画が『コーヒー&シガレッツ』で、「世の中にはこんなにセンスのいい人がいるのか!?」と腰を抜かしたのはいい思い出です。以来ジャームッシュが大好きになったけど、20代の途中「世の中にいるオシャレなやつは全員死ね!!!」という謎のルサンチマンを抱える奇病にかかってしまったため、ジャームッシュから一時遠のいてしまいました。最近は一周まわってまた好き。

2. Yegelle Tezeta

ブロークン・フラワーズジム・ジャームッシュ

ブロークンフラワーズ [DVD]

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これもジャームッシュで、『コーヒー&シガレッツ』にも出ているビル・マーレイが主演。映画自体はそんなに好きでもないのだけど(私は今でもジャームッシュの真髄はモノクロームの映像にある気がするのだ)、曲自体は好きでわりと聴いている。

3. Happy Together

ブエノスアイレスウォン・カーウァイ

ウォン・カーウァイの映画音楽も好きなものが多くて、『花様年華』の曲も探したけどSpotifyになかった。この曲はアルゼンチンから台湾に帰国した主人公が、別れた恋人や友人を思い浮かべながら「生きていればまた会えるさ」と独白するときにかかる曲です。

4. Moonchild

バッファロー’66ヴィンセント・ギャロ

バッファロー'66』で、クリスティーナ・リッチがボーリング場でタップダンスするときの曲。どうでもいいけどこの映画のクリスティーナ・リッチはむちむちしててかわいいなといつ観ても思う。

5. In Heaven

イレイザーヘッドデヴィッド・リンチ

天国ではすべてが上手く行く。天国では何でも手に入る。あなたのよろこびも私のよろこびも、天国では何もかもいい気持ち。ラジエーターの中に住む(?)小人が精子のメタファーらしいエイリアンを踏み潰しながら歌う曲。この世では何も上手くいかないし、何も手に入らないし、あなたのよろこびも私のよろこびも何もない。絶望する、いい曲。

6. I Put a Spell on You

ストレンジャー・ザン・パラダイスジム・ジャームッシュ

この曲は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』という映画と一緒だからいいんであって、これ単独で聴くとシブすぎるのではないか? とリストに入れるにあたって懸念している。でもこれが流れるエンディングとてもいい〜。ジム・ジャームッシュはオシャレでムカつくけど天才だなあと思う。

7. Sinnerman

インランド・エンパイアデヴィッド・リンチ

私の中で、『マルホランド・ドライブ』と並んで「デヴィッド・リンチの良さがよくわからない映画」ツートップの『インランド・エンパイア』。だけどこの曲が流れるエンディングだけとても好きで、映画館で爆睡していたのだけど目が覚めたことをおぼえています。かっこいい!

8. Jazz Suite No.2:6 Waltz II

アイズ・ワイド・シャットスタンリー・キューブリック
ニンフォマニアック』ラース・フォン・トリアー

二度にわたってエロい映画に使われているため、私の中ですっかり「エロい曲の人」ということになってしまったドミトリー・ショスタコーヴィッチ。クラシックに詳しい人に怒られてしまうのではないか。

9. One

マグノリアポール・トーマス・アンダーソン

高校生のとき、『海辺のカフカ』を読んだ直後くらいに『マグノリア』を観たんだけど、どちらも魚とかカエルが空から大量に降ってくるシーンがある。どちらもフィクションなのだけど、それが強く残っていて、「そうか、空から突然、大量の生き物が降ってくるということが世の中には“ある”んだな」と私は思った。もしも空から魚やカエルが突然、たくさん降ってくる現場に出くわしても、きっと私はたいして驚かないだろう。だってそういうことは“ある”んだから。

10. Paint It,Black

フルメタル・ジャケットスタンリー・キューブリック

キューブリックの作品で『アイズ・ワイド・シャット』の次に好きなのが『フルメタル・ジャケット』なんです。これはエンディングで流れる曲だ。

11. VitaminC

インヒアレント・ヴァイスポール・トーマス・アンダーソン

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)

この映画の原作はトマス・ピンチョンの『LAヴァイス』。早く読みたいなと思いつつ、今年はピンチョン作品として『重力の虹』を読むと決めているので、LAヴァイスを読むのはまた来年以降かな……。

12. Jockey Full Of Bourbon

ダウン・バイ・ロージム・ジャームッシュ

この曲は『ダウン・バイ・ロー』のオープニングでかかるやつです。このオープニングもめちゃかっこよくて、高校生か大学生のときに観てセンスが良すぎて絶望した記憶がある。ところで、私がいちばん好きなジャームッシュの映画音楽は『デッドマン』のニール・ヤングのやつなのですが、Spotifyになかった。

13. Love Is A Song

『光りの墓』アピチャッポン・ウィーラセタクン

光りの墓 [DVD]

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最後はアピチャッポンにしました。これもいい曲だけど、私はこれより『世紀の光』のエンディングテーマが好きだ。でもSpotifyになかった。アピチャッポンの映画音楽も好きなものが多い。全体的に、ジャームッシュデヴィッド・リンチポール・トーマス・アンダーソンの曲のセンスがたぶん私は好きなんだな……。


箸休めと思って聴いてくれたら嬉しいです!