チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

推し活で得られるものなんてない…いや、ある! 『ファンたちの市民社会 あなたの「欲望」を深める10章』

相変わらず二次創作を楽しくやっていてこちらのブログを放置している。それはいいとして、このオタク活動を続けた先にいったい何があるのか? と考え、虚しくなる瞬間が……残念ながら(?)、ない! 

なぜなら「この先に何もなくても今が楽しいからそれでいい、というか実利的なものが何も得られなくても『楽しかった』という記憶だけは死ぬまでずっと残るからいい、しいて言うならばそれこそが実利」みたいに考えているからである。

しかし、それでもあえて「すごく楽しい」以外にも実利っぽいものを求めるのなら、渡部宏樹著・『ファンたちの市民社会 あなたの「欲望」を深める10章』は、けっこう役に立つ本だったのではないかと思った。

というわけで、今回はこちらの本の感想です。

オタク活動の“実利”は「正しくない欲望」に触れられること

最近ブログをサボっているので前段階として自己紹介をしておくと、私はアラフォーで突然二次創作にハマった女オタクである(詳しい経緯はこちら)。

そのため、以下に書くことも主に漫画原作作品がある女性向け二次創作を想定したものになってしまうが、アイドルや俳優など3次元(2.5次元)の「推し活」に当てはまらないところがまったくないわけではない、と思う。『ファンたちの市民社会 あなたの「欲望」を深める10章』も、2次元から3次元(2.5次元)まで、あらゆる「推し活」をカバーした内容になっている。


本書で「はじめに」に続く第1部の第1章は、「あなたの欲望を大切にしよう」とある。

詳しい内容に触れると長くなるので「実際に本を読んでみてね!」としておくけれど、女性向け二次創作をやっていてよかったな〜と思うのは、市井の人の、偽りのない「正しくない欲望」に触れられる瞬間を多く持てると感じるからだ。もちろん、この「市井の人」には、自分自身も含まれている。

たとえば、「正しくない欲望」の代表としてあえて露悪的なものをあげるとするならば、「孕ませ」とかかな…と思う。「孕ませ」と聞くとおそらく多くの女性は嫌な顔をすると思うけど、私が観測している範囲では、女性であっても、エロとしての「孕ませ」が好きな人ってけっこういる。実際に、作家の三浦しをんは、『BL進化論[対話篇] ボーイズラブが生まれる場所』において、「『孕ませてやる』が自分の萌えワードである」と溝口彰子との対談で告白している(p409)。

ここで行うべきことは、「そうか、女も本心では『孕ませ=性的加害行為』を望んでいるんだ」という短絡的な解釈でも、「『孕ませ』に萌えるなんて正しくないのでそんな欲望は一切合切捨てるべき」という検閲的な態度でも、どちらでもない。

「なるほど、自分はこれに『萌え』るんだな」ということをいったん飲み込んで、話が通じる仲間とこっそり語り合ったり、“これ”に萌えるということはすなわちどういうことなんだろう? とメタ的に考えることである。

推し活をしていると、自分が普段表に出している思想とは全然違うものに「萌え」てしまい、戸惑うことがあるはずだ。ただ、それを短絡的に解釈するでも検閲して摘み取るでもなく、「いったん保留して持っとく」のが大切である、と本書は説く。そして、第1章で「あなたの欲望を大切にしよう」、第2章で「感じたことを誰かに話してみよう」、第3章で「欲望に形を与えよう」と続く。これを女性向け二次創作風に解釈するなら、第1章は「pixivで好きな二次創作にブクマをつけまくってみよう」、第2章は「Xで同好の者を探しリプで語り合ってみよう」、第3章は「自分でも漫画や小説を描いて(書いて)みよう」となるだろう。

創作をやっている者としてちょっと傲慢なことを言うと、二次創作にハマったのならぜひ「漫画や小説を(描く)書く」ところまでチャレンジしてみてほしいな…! と思う。始めから理想通りの創作をすることは難しいかもしれないけど、経験を重ねていくと「そうか、私は原作キャラにこうなってほしかったんだ」「こうであってほしかったんだ」という自分の内なる欲望に触れることができ、楽しい。

二次創作は絶対に金にならない(金にしてはいけない)ので、内なる欲望がないと前に進めない。ということは、完成したものはそういう資本主義的な価値を超越していることになる。このご時世、コスパもタイパも将来性もガン無視できる機会なんてそうそうない。1つ小説を完成させるたびに、なんて贅沢なことをしているんだろう、という気分に私はなる。しかも上手くいけば、もともとは廃棄物同然だった自分の気持ち悪い欲望が、誰かにとっての束の間の娯楽となり、癒しやエンパワメントにつながり、「この作品を生み出してくださってありがとうございます」と感謝までされるのだ。究極のSDGsである。

「正しくない欲望」に触れることの何が“実利”か

と、「あなたの廃棄物同然の欲望も作品として形になることで他の誰かの娯楽になります」も確かに実利でSDGsなのだけど、本書はこのような創作行動を、「資本主義社会への抵抗」と見なす。

資本主義社会では、商品を買うことが自己実現だと思わせる広告に囲まれて生きることになります。資本主義の「商品を買って欲望を満たせ」という命令から抜け出すためには、広告が宣伝するものとは異なる喜びを発見することが必要で、そのためには自分の欲望と向き合うことが大切です。自分自身の欲望を知るということは、与えられる刺激の中からどれが自分の好むものでどれが自分の好まないものかを認識するということであり、その意味ではひいては批評の能力にも関わるものです。(ファンたちの市民社会 あなたの「欲望」を深める10章 (河出新書) p79-80)

近年の推し活は過剰に資本主義的なものと結び付けられてしまい、推し活は資本主義への抵抗どころか、その中にどっぷり浸かって抜け出せなくなることとイコールになってしまった部分がある。ただ、消費行動だけが推し活ではない。「この作品、ブクマぜんぜんついてないけど私は好きだな」とpixivでハートを押すこと、これはやっぱり、すごく小さな資本主義社会への抵抗だと私は思う。なぜなら、それは本書が言う「広告が宣伝するものとは異なる喜びを発見する」ことだからだ。

ただ、「正しくない欲望」を表に出すことは、ときにかなり危うい橋を渡ることにもつながる。本書はその代表として「誰かのことを殺したいといった好ましくない欲望」を例にあげているが、「誰かのことを殺したい」よりもさらに好ましくないのが、やはりペドフィリア的な欲望だろう。本書も、「好ましくない欲望をいつでもどこでも無条件にオープンにしてOK」とはまったく言っていないし、私もそうは考えていない。そこはかなり繊細かつ微妙な問題なので、ここで安易に言及することは避けたい。

が、「これは正しくない欲望だからこっそりやろう」と同じくらい危ういのが、実は「私の欲望は絶対に健全で100%無害なのでフルオープンで大丈夫だ」と自信を持ちすぎることかな…と思う。

創作活動をしていると、「これはこっそりやったほうがいいやつだな」という後ろめたい欲望に、多くはどこかで突き当たる。というか、欲望は欲望である時点で多かれ少なかれ加害の要素を持ってしまうものなので、創作をやっていると「私ってキモイな」と自覚せざるを得ない。でも、この「私ってキモイな」こそがけっこう大切なんじゃないか、と思う瞬間がある。本書の第5章は、「『キモイ』自分を生きよう」となっている。もちろん、社会的に絶対に許してはいけない行為は存在するのだけど、「お前キモイよ」と誰かを断罪したくなったとき、「(ま、私もキモイけど)」という後ろめたさが、一歩手前でブレーキとして機能してくれ、分断を煽らないでいてくれることがある。

さらに本書は、自分の快楽や欲望と向き合う作業はケアの第一歩である、と説く。最近ホットなワード、「ケア」である。本当は、欲望に「正しい」も「正しくない」もない。ざっくり言えば、欲望は欲望である時点で、程度の差はあれだいたい全部正しくない。


問題となるのはそこから先で、自分のキモさや正しくなさ、暴力性や加害性をいかにコントロールし、他者との摩擦を減らすかだ。キモイこと自体が悪なのではなく、キモさをコントロールできないことが悪なのである。そして、自分のキモさのコントロールの仕方──どこまで出してどこから隠すかを、創作をやっていると、少し身につけられる気がする。つまり、廃棄物同然の欲望を、他者とのコミュニケーションの道具にし、資本主義社会への抵抗とする術を身につけられるのだ。これがオタク活動の“実利”だと私は思う。

…と、ここまで書いたことは、かなり(だいぶ)ポジショントークなので、話半分に聞いて(読んで)もらうので構わない。ただ、「本当か〜?」と思った方はぜひ『ファンたちの市民社会 あなたの「欲望」を深める10章』を読んでみてほしい。このブログはもちろん宣伝ではなく純粋な感想です。あと手前味噌だけど、昨年の文フリで出した『中年女の二次創作 〜独身女、三十半ばにして推しカプができるの巻〜』で、だいたい本書と同じこと書いたな〜と思い、一人で勝手に嬉しくなりました。

文フリ東京、新規参入のハードル高すぎない?

 まずは12月1日、東京ビッグサイトの「と-16」までお越しいただいた皆さま、本当にありがとうございました! AMの連載を読んでると言ってくださった方、昔のブログエントリについて触れてくれる方から、二次創作が好きだから寄ってみたという方、見本誌を見て来たという方まで、いろんな方に来ていただけて本当に嬉しかったです! 

 私は文フリに初めて出たのが2018年で、そこからコロナ禍の時期を除いてわりと継続的に本を作っており、またコミティアのほか赤ブーやYOUの二次創作イベントにも出まくっているので、いつの間にやらけっこう「同人誌即売会に詳しい人」になりつつあるんじゃないかと思っているんですけど……いやわかんないな、この世界は猛者が多いんで。

 あんまりイキると怒られそうなのでそれは置いとくとしても、今回の文フリは初の東京ビッグサイト開催だったということもあり、これまでの文フリとは明確に何かが違ったなと感じました。具体的に言うと、文フリがコミケのように「行ったことはなくても名前だけは多くの人が知ってるイベント」になりつつあるのを感じたというか。私はこの「チェコ好き」のアカウントと二次創作のアカウントを明確に分けていて、前者でつながっている人は後者を知らないし、後者でつながっている人は前者を知らない状態なんですが、今回は二次創作アカウントでつながっているほうの人もけっこう文フリに言及していたのを見かけたので、世間一般からの注目度の高さを感じました。


 と同時に、「このまま行くと、これはどうなっちゃうんだろうなあ」と文フリをナナメから見ているところも正直あります。有名作家や出版社が商業本だけを持ってきて並べるのはどうなの?とか、それはまあ他の方が言ってるんでこの場では割愛するとして、私が感じたのはとにかく、新規参入のハードルの高さ。もちろん、これは今回初めて感じたことではなく、数年前からずっと思っていたことがより顕在化した、というだけなんですけど……。

 まず、自分自身がもともとフォロワー数の多いインフルエンサーであるとか、もしくは拡散力のあるインフルエンサーに宣伝を手伝ってもらうアテがあるとかじゃない、本当の意味で「初めて参加する人」が本を売るのは相当難しい場所になっていると感じます。とにかく宣伝、宣伝、宣伝で、事前の宣伝が勝負になっている。そして、その傾向は年々強まっているように感じます。今回、「見本誌を見て来ました」と言ってくださった方がいたのが私は本当に嬉しかったのですが、なぜ嬉しかったのかというと、そんなこと初めて言われたからです。見本誌見て来てくれる人なんているんだ! と思った。


 これが他の即売会でもそうなら「ま、イベントって多かれ少なかれそういうもんだしね」と諦めがつくんですけど、そもそも性質が違うものだから比べようがないとはいえ、赤ブーやYOUなどの二次創作のイベントってもっと、新規の参入障壁が低い気がするんですよね。アカウント開設半年でフォロワー30人くらいの人でも「本を作ってみようかな」と思える環境があるし、実際に作ったら売れる。私が初めて二次創作のイベントに出たとき、確かフォロワー200人もいなかったんじゃないかなと思うんですが、それでもひっきりなしにお客さんが来てくれるくらいには活況でした。フォロワーがいないどころか、原稿がギリギリすぎて事前の宣伝もほとんどしなかったのに! 本自体も、二次創作界隈には「折れば本」という魔法の言葉がありまして、3000字くらいの小説をコンビニで30部くらいコピーして、真ん中を折って頒布するだけでみんなニコニコしながらスペースにもらいに来てくれます。

 事前の宣伝がそこまでモノを言うこともなく、また本自体にもそこまで凝ることなくなぜこんなことが可能なのかというと、二次創作のイベント参加者は、自ジャンル・自カプのサークルを毎回隈なくチェックしているからではないでしょうか。今もっとも旬で規模が大きいジャンル(呪術廻戦とか?)でも、たぶんカップリング別で見ると総サークル数300くらいなんじゃないかな。旬ジャンルでなければもっと規模が小さいので、たぶん総サークル数50とか。30~300くらいのサークル数だと、「事前にすべての参加サークルが出す本をチェックする」ことが十分に可能なんですよね。実際、私も毎回全サークルの新刊をチェックしているし。だから、事前の宣伝にそんなに力を入れなくても本が売れるし(といっても二次創作なので儲けは出せないのだが)、何より「ちゃんと見てもらえてるんだなあ」という承認欲求を満たせます。


 が、先日のイベントで思ったのは、それに比べると文フリは検索性が著しく低いというか……まず、規模が大きすぎて全体を見渡すことなんて不可能ですよね。「小説」「評論」「短歌」みたいな括りがあっても、あんまり機能していないように思います。あとね、とにかくカタログや検索システムが使いづらい! 結果、インフルエンサー的な有名作家のところに人が殺到してしまうのも仕方ないよなと思います。だって情報がないんだもん。二次創作のように全サークルを隈なくチェックできるのでなければ、カタログをもう少し使いやすくするなどして、検索性を高めるしかない気がします。

 そして、何より二次創作の作家は、「我々は皆平等にジリ貧である」という意識を高く持っています。今をときめく旬ジャンルでも、原作が終了すれば人は去り、ゆくゆくはお客さんがいなくなることをわかっている……! 二次創作界隈には「古参がデカい顔をしているジャンルは衰退しやがて滅びる」という言い伝えがありまして、そのためか、新規でハマったらしい人をSNS上で発見すると「こんにちはハロー!ようこそようこそいらっしゃい!」とどこかの因習村のように全員で狂喜乱舞になりつつ大歓迎し、ご新規さんが村から出ていかないよう足を鎖でつないで囲い込む慣習があります。私もかつてはそうして囲い込まれた一人でしたが、みんな優しくて嬉しかったし(沼に引きずり込むためだが)、今では囲い込む側として元気に鎖を振り回しています。因習村はヤバイが、この「すべてを見渡せる総サークル数」と「ご新規さん歓迎ムード」のおかげで、二次創作界隈の新規参入ハードルは文フリに比べてすごくすごく低くなっていると思います。


 なので、まあこのままでもいいんだけど、もし私がこの先の文フリに期待することがあるとしたら、まずはもうちょっと検索システムを使いやすくしてほしい。検索システムというか、それこそキーワードをいくつか入れたらAIがマッチングしてその人と相性のよさそうな本を50冊リストアップしてくれるとか、事前の宣伝にそこまで力を入れなくても上手く人が回遊する仕組みを作ってくれないかなー、とか思います。なぜなら、私がいつも原稿がギリギリすぎて全然宣伝できないからでーす!

 というのは冗談としても、私も今回、買うほうとしてはあんまり文フリを満喫できなかったなという反省があり。二次創作のイベントだと本当に全サークルの新刊と既刊をチェックして行くんですけど、文フリだとどこをどうチェックしたらいいのかわからなくて途方に暮れてしまうんですよね。実際、皆さんどうやってるんでしょうか…。「お前の探し方が悪い」とかありましたらぜひ教えてほしい素敵な新刊の探し方を。


 二次創作は、もちろん創作自体が面白くて楽しいのですが、「このコミュニティの仕組みって他に応用できないんだろうか?」などと考えていくと本当に底なしの沼だなと感じます。まあ、私の頭があまりよくない関係で、今のところまだ画期的な応用方法は見つかってないんですけど。なんというか、二次創作界隈ってコミュニティとしてすごくよくできているな〜と思うんですよね。


 そして先日の文フリで、私はまさにそんなことを書いた二次創作のエッセイを頒布しておりましたので、ビッグサイトに来られなかった方はBOOTHのほうに寄っていっていただけると幸いです。

 文フリ、とりあえず検索システム(カタログ)を改善してくれ〜!

soumel.booth.pm

アラフォーでまさかの二次創作デビューした独身女のその後

 またまた長らく、ブログを放置していました。ブログを放置しまくっている理由は、二次創作がまだまだ面白くて、そっちで小説ばっかり書いているからです。さすがに恥ずかしいため、というか基本的に女性向け二次創作はそのカプが好きな人じゃないとまったく面白くないため、「これが私のpixivです! どーん!」とリンクを貼ることはできないのですが、相変わらず楽しくやっています。


 最初に「【ご報告】同人女になりました」のブログを書いた日からもう2年が経ち……あれから、いろいろありました。たとえば、とらのあなでVISAとMasterが使えなくなったりとか……。

 私自身のことで言えば、人見知りすぎて最初は全然同人のお友達ができず、オンリーイベントなどの即売会のあとも1人でサッと片付けてすたすた帰るということをしばらくやっていたのですが、3年間もリアルイベントにちまちま出続けていたらさすがに顔を覚えられ、みんな恐る恐る(?)遊んでくれるようになりました。よかったー。

 同人のお友達は独身だったり既婚だったり子供がいたりいなかったりシングルマザーだったり、20代だったり30代だったり40代だったりしますが、特にライフスタイルの話はせず、喫茶店でコーヒーをがぶ飲みしながら「◯巻の第△話の⚫︎⚫︎⚫︎(キャラ名)のモノローグをどう解釈するか」みたいなことを4〜5時間くらい語り合っています。若い頃は私も人並みに「そうなのかな」と思ってビビっていたけれど、女性はライフステージが変わると子持ちは子持ち同士、独身は独身同士でしか話が合わなくなるなんてのは、どうやら婚活業者が考えた大嘘だったようです。「◯巻の第△話の⚫︎⚫︎⚫︎(キャラ名)のモノローグをどう解釈するか」だったら誰とでもコーヒーをがぶ飲みしながら4〜5時間語り合えるということが中年になってわかりました。つまり、お友達はライフステージに関係なくいつでも、何歳でもできるということです。そう、人見知りじゃなければ……(この点、私は最初の数年は危うかった)(うちのジャンルの女性陣が優しい人たちでよかった)。


 そして、とりあえず現実世界の属性やステータスは置いといて、互いの本名も知らないまま「◯巻の第△話の⚫︎⚫︎⚫︎(キャラ名)のモノローグをどう解釈するか」を4〜5時間語り合える、そういうコミュニティに出会えたことですごく人生の可能性が広がったし、こういう方向性のコミュニティが世の中にもっとあったほうがいいんじゃないか……みたいなことを5万字くらいで考えてまとめたエッセイ『中年女の二次創作 〜独身女、三十半ばにして推しカプができるの巻〜』を、文学フリマ東京39で頒布することにしました! 1年以上前から書く書く詐欺になっていたエッセイを、ようやく完成させることができました〜! スペースは【西3・4ホール と-16】です。サークル名はいつもの「創作メルティングポッド」です。

東京ビッグサイト 配置図
これは目次

 宣伝か〜い! と思ったそこのアナタ、まあ、このブログは確かに文フリの宣伝ではあるのですが、もうちょっと続きます。

 最近になって、「推し活」という言葉がだんだんマイナスの意味を持ち始めたように思います。「推し活」と言っても幅広く、私がやっているような漫画やアニメやゲームを原作とした二次創作もその範疇に入らないわけではないのだろうけど、多くの場合はアイドルや俳優にハマっていることのほうをメインで想定していることが多いのかな? よくわからん。マイナスの意味を持ち始めた理由は、グッズを大量に買わせたり、同じ舞台を何度も見に行かせたり、やっていることがだんだん「宗教」とか「歌舞伎町のホスト」みたいな感じになってきているから……だと認識しております。これは確かに健全とは言えない。私のいる界隈でもグッズのランダム商法(どのキャラが出るのか事前にわからないため、推しが出るまで何度もガチャのように買わせようとしてくる販売の仕方)がとても憎まれていたりします。

 でも、「お金を使わないとファンじゃないみたいだ、居心地が悪い」とか言って「推し活」に疲れていってしまう女性は……正直、そんなに見かけません。いや、もちろん私の視界に入っていなくて見落としているだけかもしれないので、界隈のどこにも絶対にいないゼロ人である! とまでは言い切れませんが。私のいるジャンルの年齢層が高く(だいたいアラフォー)、みんなそこそこ分別があるせいか、お金を使わないといけない義務感のような空気は特にありません。これだけ熱心に10万字だの15万字だのの小説を何本も書いて印刷し即売会で頒布している私も、実はこの3年間でオタク活動費に使った金額は多く見積もっても10万円を余裕で下回っております(印刷代は毎回ペイしているのでほぼプラスマイナスゼロ)。なので、「推し活」はすごくお金がかかるみたいな最近のイメージにはどうも違和感がある。お金をかけない推し活、できるけどなあ。というか、世間の空気とは逆に、オタクってお金のかからない趣味でいいなあとずっと思っていました。何せ私の30代前半までの趣味は海外旅行ですからね(原稿のやりすぎで行けないだけで今も海外旅行好きだけど)。それに比べるとオタクは……。

 私たちのコミュニティではなぜ「買いたい人だけが買えばいいのでは?」みたいな感じでゆるく活動することが許されているのかというと、1つにはやっぱりアラフォーがメインでそこまで趣味にお金をかけられないからというのがあると思うのですが、もう1つはこれが二次創作のコミュニティだから、ってのもある気がします。「消費」というよりは「創作」を軸につながっているコミュニティなので、お金をいくら使ったかよりも、「◯巻の第△話の⚫︎⚫︎⚫︎(キャラ名)のモノローグに関するあなたの解釈、いいですね……!」みたいな方向性のほうがマウントを取れる気がする。いや、別にマウントは取らなくてもいいのだが、同じジャンルにいる仲間に「あなたの解釈が好きだ」と言われたら、うちの界隈にいる女性たちはすごくすご〜く、みんな喜ぶと思います。そんなこと私も言われてぇ〜。

 と、ここまで書いて思いましたが、私もブログを始めてもう10年。いささかのポジショントークを含みつつ、「消費」ではなく「生産」せよ、「創作」せよ──という結論にいつも達してしまうのが、我ながら癖なのかもしれません。よく考えたら10年前も同じことを言ってましたな。

aniram-czech.hatenablog.com


 今回頒布するエッセイは、二次創作をやっている(読んでいる)女性にいちばん読んでほしいと思っていますが、二次創作をやっていなくても、20代〜50代の幅広い世代の女性、特に独身女性に手に取ってもらえたらいいなと思っています。30代半ばを過ぎた独身の女というのはどうも世間から「不幸」で「みじめ」であることを期待されているように思いますが、私の場合はめちゃくちゃ普通ですね。

 あ、サークル名はいつもの「創作メルティングポッド」となっておりますが、新刊の著者は私1人なのでスペースにいるのは私だけです。でも創作メルティングポッドの既刊も持っていきますので、過去作に興味を持ってくださる方もぜひ気軽にお立ち寄りください! あと新刊は年内にBOOTHでの通販も予定していますので、東京ビッグサイトに来られない方にも興味を持っていただけたら嬉しいです。ブログでもお知らせする予定ですが、「入荷お知らせメールを受け取る」をポチッとしていただくと在庫が入ったときに通知が届きます!

 もう一度言いますが、会場は東京ビッグサイトです。東京流通センターではありませんのでご注意ください(私が間違えそう)。

これは当日のお品書き! 既刊もあります。

【通販開始】文フリの本がBOOTHで買えるようになりました!

タイトルのとおりなのですが、2018年から活動しているサークル「創作メルティングポッド」が文学フリマで頒布していた本たちを、BOOTHでもお迎えいただけるようにしました!

soumel.booth.pm

完売してしまってすでに在庫がないものは対象外ですが、2019年くらいに出した本もあります。送料がかかってしまいますが、「あんしんBOOTHパック」で匿名配送に対応しております。直近5月に出した「趣味としての執筆/仕事としての読書」は在庫モリモリですのでご安心ください!

fireyamada.kodansha.co.jp

直近の本はゲスト執筆陣が超豪華でして、『死んだ山田と教室』でメフィスト賞を受賞した金子玲介さん、シナリオライターの廃原冷蔵庫さん、エロ小説家のDさん、ライターのウィルソン麻菜さんがエッセイを寄稿してくれています。

目次はこんな感じです!

〈趣味としての執筆〉
綾城さんと友達になりたかった私の話…チェコ好き
趣味としての執筆、再び…金子玲介
プロテウスの呪い、オケアノスの文フリ…廃原冷蔵庫
趣味としてのエロ小説執筆…D
私の趣味は「忘れる脳」に抗いながら生きること…ウィルソン麻菜
〈仕事としての読書〉
誠に申し訳ありません…あとーす
横断乱読のススメ…鈴木よぴこ
〈寄稿者より、おすすめの書籍の紹介〉
「趣味としての執筆」に役立つ書籍
「仕事としての読書」に役立つ書籍

寄稿者の一人、廃原冷蔵庫さんが感想を呟いてくれてます! 連ツイ以下、共感の嵐なのでツイート全部読んでほしい!

ゲスト寄稿者に加え、「創作メルティングポッド」のメンバーである私、あとーす氏、鈴木よぴこ氏も、全員「書くこと」を仕事にしている者。仕事でわざわざ文章を書いているのに、なぜわざわざ趣味でも文章を書くのか…というのが今回の本のコンセプトでした(あるいは、仕事で本を読むとはどういうことかという面も合わせて)。


「趣味の執筆」と「仕事の執筆」の間に「今のところ趣味ではあるけれど仕事になる可能性がそれなりに高い執筆」があって…という話をしている金子玲介さん、

「私の原稿がウケたら私の手柄、私の原稿がウケなかったらそれはOKを出したえらい人のせい」という予防線を張って専業創作クソ雑魚マンを自称する廃原冷蔵庫さん、

なぜ一銭にもならないエロ小説を書き続けるのかを語る、累計450万PVの長編エロ小説の作者であるDさん、

壊滅的だという記憶力に抗うために「書く瞑想」として日記を書き続けているウィルソン麻菜さん、

「趣味としての執筆/仕事としての読書」というコンセプトで原稿を募ったのに前者ばかりが集まってしまったので自身はやむなく後者で書くことになった今回の編集長・あとーす氏、

同じテーマの本を複数読むことで最大公約数の答えに近づくことができると説く鈴木よぴこ氏、

どれもすごく読み応えのあるエッセイになっていると自負しています。個人的には、私も二次創作小説を書いているので、エロ小説家のDさんにめちゃくちゃシンパシーを感じました。誰にどんな嫌なことを言われても、「でもお前、私よりエロい小説書けないだろ?」でマウンティングできてしまうので、エロ小説の執筆は自己肯定感の爆上げに非常に役立つのです! 

過去本も含め、ぜひぜひBOOTHのショップを覗いてみてください。ちなみに私が2022年から書く書く詐欺になっている10万字くらいになりそうな二次創作のエッセイは現在も鋭意執筆中です。2024年12月の文フリで出したいという気持ちは今でも持っています。

AMの連載でとり上げた本のまとめ(No.71〜80)おすすめ優先度付き

お久しぶりです。AMで連載している書評のまとめです。

以下は過去のぶん。
aniram-czech.hatenablog.com

AMの連載は隔週更新なので、つまり年間約24本の本を紹介していることになり、ということはこのまとめブログも年に2〜3回更新しないとペースが追いつかない計算になります。しかし私がめんどくさがりなので、今回まとめているのはだいたい2021年頃に公開したものです。さ、3年前かよ! ようやくコロナワクチンできたね〜みたいなあの頃の話です。連載100回を超えたら「祝!100回超え!」みたいな記念ブログを書きたかったのに、自分でも気づかないうちにぬるっと超えていたため何もできなかったという…。

第71回 人生に正しい選択は存在しない。「もしもあのとき」幻想に陥ったら読みたい一冊

おすすめ優先度 ★★★☆☆

「因果応報」的なものを、私はまったく信じていません。善き人に吉報が届くとは限らないし、悪しき人に凶事が降りかかるとも限らないのです。それどころか、善き人が不運に巻き込まれたり、悪しき人がその報いをぜんぜん受けなかったりなんてしょっちゅう。そうよ、この世は理不尽よ──という、地獄みたいな世界観で生きている私なのですが、逆に世の中というものにまったく期待していないからこそ、あんまりへこたれないのかもしれません。いいことをしてもいいことは起きないし、悪いことをしても悪いことが返ってくることはない。それなら、世の中の倫理や常識にとらわれず、ただ思うままに自分の好きに生きてみればいいじゃないの。と、『軽蔑』は別にそんな小説ではないのですが、3年前からこの考え方は変わっていないのだなと自分で再確認しました。

第72回 「声を出さずに上げるSOS」は日常のいたるところに存在する?そばにある不気味な穴

おすすめ優先度 ★★★☆☆

因果応報的なものはまったく信じていないけど、「人生は調子のいいときほど警戒しろ」みたいな警句はわりかし「そうかも」と思っている私です。レイモンド・カーヴァーのこの小説は、お金があって、仕事と地位があって、愛する妻と子供もいるミラクル強者男性が一瞬にして転落し、人生をわけわからん感じで棒に振る(ギリギリネタバレしてないつもりの言い方)というストーリーで、たぶんもう一回読んでもゾッとするんじゃないかな。たとえすべてを手に入れたとしても、天に召されるまで「アガリ」はやってこないのです。

第73回 「自分の人生、どうしてこうなった?」――何もかも捨てて、旅に出たくなったら

おすすめ優先度 ★★☆☆☆

「もう全部捨てて見知らぬ土地(ジョージアの田舎とか)で人生リセットしようかな」などという夢想を20代の頃は度々したものですが、そういえば30代以降はあまりこういうことは思わなくなったな。というか、この人生リセットの代替手段として私は長期海外旅行を定期的にやっていたわけですが、何十回も外国に行って帰ってくるのを繰り返しているとさすがに「旅を終えても人生がリセットされるわけではない」と脳が学ぶんですよね。現実的には「全部捨てて見知らぬ土地へ」なんてことができる人はかなり限られているので、だからこそ物語の中で擬似リセットをするんだ、という内容の記事です。

第74回 30代半ばで落ち込むのは「悪意なきほのぼの系の発信」だったりする。人間の多様性とは

おすすめ優先度 ★★★☆☆

これは今読み返すと我ながら「被害妄想が強すぎでは?」と率直に思いましたが、結婚や子育てをしないと一人前ではないという価値観はまだまだ強いです。先日も、「独身はマネジメントが下手くそなので管理職になるべきではない」みたいな投稿がXでバズっていて、「既婚者でも管理職になるべきではない人たくさんいますけどね!」と思いました。

どこで読んだのか忘れたけど(ごめんなさい)、これは「女性はマネジメントが下手くそなので管理職になるべきではない」と同じ思考の罠にハマっているんだろうと思います。女性の管理職や独身の管理職は数自体が少ないので、何か瑕疵があると、それを「女性だからだ!」「独身だからだ!」と属性のせいにしてしまう。一方、既婚男性の管理職は、数がものすごく多いので、何か瑕疵があってもそれは属性ではなく本人の特性のせいだとされるのです。

何においても、それは属性のせいではなく「その人自身がよかった/ダメだっただけ」と考えられるようになりたいね。

第75回 「いろんな価値観を認めることが多様性!」と言うけれど、価値観の問題だけじゃないかもしれない

おすすめ優先度 ★★★★☆

私が人生で初めて就職活動を行った大学生のときにはなかった「第二新卒」というカテゴリが、すっかり世の中に浸透したなあと思います。しかし年金の支給開始が遅れるのがほぼ確定している今の時代、私たちはたぶん70歳くらいまで働かなくてはいけません。とすると、大学卒業が22歳だとして、およそ48年間も労働者として過ごさなければいけないので、未経験職種への転職は20代までね! というのはなかなか酷ではないか。第三新卒、第四新卒くらいの枠まであっていいのではないか。40代後半くらいから新しいことに挑戦するのもアリな社会にしないか!?

ということをつらつらと考え、これがアリになったら世の中の専業主婦叩きもなくなるのではないかと思いました。子育てが終わってからでも仕事人間に復帰可能(もちろん復帰しなくてもOK)にしよう。

第76回 「夫婦やパートナーのあり方は人それぞれ」の、その一歩先を考える

おすすめ優先度 ★★★★☆

これを書いたとき、世の中にはまだ「生成AI」というものが登場していませんでした。しかしかのAIの登場によって、これまでロボットではできないとされていた「音楽を作る」「絵を描く」「小説を書く」などのクリエイティブな仕事のほうがAIにとられるかも……という事態になり、人間に最後に残されるのはむしろケア労働かもね、みたいな雰囲気にもなってきたと思います。「送迎」とか「オムツを換える」みたいなことができるロボットは、まだ登場しなさそうだもんなあ。テクノロジーの進化によって世の中の前提が変わるのって面白いし、私自身も損するのか得するのかわからないけど、揺蕩いながらそれらに巻き込まれていたいと思います。

第77回 耐えがたいのは自分が「平凡でぱっとしない人間」だと知ること――『パチンコ』が描く意味

おすすめ優先度 ★★★★☆

ここでおすすめしている『パチンコ』はまず、小説としてエンタメとして圧倒的に面白かったんですよね。一気に読んだ。そしてコラムにも書いたように、娘思いの、我慢強い、働き者の、優しい母親だったヤンジンが、死の間際に娘のソンジャに罵声を浴びせるのが本当に怖かった。

「あいつ性格悪いんだよな」と普段から思われているくらいの人のほうが、年取って認知能力が下がったときのギャップが少なくて済むのでむしろ健全ということありませんかね。露悪的に振る舞う必要はないし、なるべく「いい人」でありたいですが、あまり自分を抑圧しすぎず、適度に毒を吐いとくくらいでちょうどいいのかもしれません。

第78回 男性も(比喩ではなく)授乳できる!――『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』から見えてくること

おすすめ優先度 ★★★★☆

私は「早く人工子宮ができるといいなあ」と思っている生命冒涜野郎でございます。そうしたらベビーはすべて試験管から生まれてくるので女性が家庭とキャリアを天秤にかけて悩む必要がなくなるし、ゲイのカップルが子供を持ちたいと思ったときなども、代理母の議論をしなくて済むからです。どうしても生命を冒涜したくないというのなら、村田沙耶香の『消滅世界』みたいに、カップルの話し合い次第で男性が胎内に子宮を抱えて妊娠してもいい。あるいはアーシュラ・K・ル・グィンの『闇の左手』みたいに、どちらが妊娠するかランダムに決まる仕組みにしよう。そうすれば、レイプもナンパもなくなるかも…?

本書によると男性でも授乳が可能だということなので、早く実現してほしいですね。「何らかの環境変化が原因で女性による授乳が困難になったときのためのバックアップ」機能を使うそのタイミングは、近づいているように思えます。

第79回 人生に行き詰まると小説を書きだす私が『小説のように』から気付かされたこと

おすすめ優先度 ★★★★☆

このコラムは、ちょうどpixivに小説をアップし出した頃に書いたもの。小説は今も書いているので、私は2021年から今に至るまでずっと人生に行き詰まっているのでしょうか。いや、3年も続いているのでさすがに「ただの趣味」ということにしたい。このときは、まさかこんなに長く続けて、数は少ないけど界隈で友達もできることになるなんて思わなかったんです。

第80回 「書きたい、何か書きたい」というピュアな衝動から自分の性癖に気づけたりする

おすすめ優先度 ★★☆☆☆

二次創作の世界には、仕事と家庭と育児でキャパがパンパンになりながらも創作をやっている女性がけっこうな割合でいます。ただでさえ大変なのになんで創作なんかやるのかというと、好きな漫画を読んでいる時間が、好きなキャラを愛でている時間が、推しについて同好の者たちと語り合う時間が、彼女たちにとって自分が自分であるためのとても大切な時間だからです。いざこざやトラブルがないわけではないけれど、「こんなことしても何にもならない、でも自分にとって必要なんだ」とわけのわからない衝動に駆られて創作をやっている女たちの空間が、私はやっぱり好きなんですよね。

続く(近況)

文学フリマでの出展を目指して二次創作に関するエッセイを書いているんですが、当初考えていたよりも難しくて難航しています。コミケの歴史とか振り返り始めるとキリがないし、そもそも私は新参オタクであって古参文化には詳しくない。そんな私が歴史を振り返ったり考察をし始めるとたぶん普通に間違えるので、あくまでエッセイにして自分の体験を中心に書かないと破綻するぞ! とわかってはいるのですが、どうしても歴史とか考察系に首を突っ込みたくなってしまうんですよね。まあ、気長にやっています。

なお、二次創作は今も絶賛ハマリ中です。このブログももう少し更新したいと思っています。