みなさんは、「孤独」という言葉を聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか。
「孤独死」なんていう言葉があるように、「孤独」はつらいもの、悲しいもの、極力避けるべきもの、というイメージが強いです。
したがって、「孤独」という言葉には、ポジティブな印象よりも、ネガティブな印象を持たれている方のほうが、数としては圧倒的に多いでしょう。
しかし、世の中の事象には、何事にもA面とB面があるものです。
「孤独」にも、A面とB面、つまりネガティブな部分もあれば、ポジティブな部分だってあるわけです。
たとえばね、ちょっとこの絵を見てください。
こちらは、私がもっとも好きな画家であるオディロン・ルドン(1840~1916)の、『夢のなかで』という作品です。
真夜中、どこかの宮殿のなかでしょうか。大きな目玉が1つ、宙に浮いているという、まさに夢のなかの一場面を写し取ったかのような絵画です。
世紀末にフランスで活躍したルドンは、モネやロダンと同じ、印象派の時代にその名を広めた画家です。
しかし、まぶしい光をまっすぐに受け止めた印象派の他の画家たちとちがい、
ルドンは自身の絵で徹底的に「黒」を追い求めます。
印象派より前の時代の絵画というのは、もちろん感性だけで楽しむこともできなくはないですが、知識がなければ、その真意を理解することはできません。
しかし、ルドンの作品は、さすが時代だけでも印象派というべきか、知識なんて何も持たない素人でも、作品を一目見ただけで、その絵の意味するところは、すぐにわかります。
オディロン・ルドンの絵画に描かれているのは、徹底した「孤独」の世界です。
「さみしい」という気持ちがなければ、こんな絵は描けないし、「さみしい」という気持ちが理解できない人は、この絵の美しさを理解できない人です。
ルドンは、生後わずか2日で里子に出され、年老いた伯父のもとで11歳までを過ごします。
古い屋敷で、大きなカーテンの陰におびえ、暗い室内の片隅に潜む不可思議な生き物のことを想いながら、ルドンは少年時代を送ったのです。
そこで育まれた豊かな想像力が、この幻想的な世界をつくり、見る者の「孤独」と共鳴するわけです。
「孤独」は確かに、つらいもの、悲しいもの、極力避けるべきもの、かもしれません。
しかし、ルドンの絵を見ていると、そのつらくて悲しくて極力避けるべき「孤独」の世界に、ゆっくりを身を浸し、しばらくそこでじっとしていてみようか、という気持ちになります。
ネットも、テレビも、部屋の電気のスイッチも切って、
ルドンの絵に描かれる漆黒の闇を想うと、
深い深い「孤独」の世界の底のほうに、ちょっとだけ、温かいものがあることに気が付いたりします。
★★★
ちょっと軽めの文章でした。
6月23日まで、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で「オディロン・ルドン」展が開催中です!

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