アンタの恋愛観とか興味ないよ、という声が聞こえてきそうですが、そこはまぁ、ヒマだしたまにはいいじゃないっていうアレです。
突然ですが、私は恋愛モノの小説・映画って苦手なんですね。「人類とは」「戦争とは」「精神とは」みたいなでかいスケールの話が好きなので、(例外はたくさんあるけど、多くの)恋愛モノの「2人の世界」で完結してしまうかんじは、どうもみみっちいなー、と思ってしまうんです。
そんな私が唯一好きな恋愛(?)モノの映画は、じめっとしたところがなく、カラッと愉快でおしゃれなラブコメ。増村保造の『最高殊勲夫人』です。絶対に結婚しないと誓った2人が、すったもんだの末結局結婚してしまうというドタバタコメディで、内容ももちろん面白いのですが、DVDのジャケットがかっこいいので魅力が3割増になっている気がします。「三原三郎と野々宮杏子が、金輪際結婚しないために、乾杯!」っていってグラスをカチンとやるところが、何回観ても楽しいです。
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しかし、こんなおしゃれで粋な結婚に憧れていてもしょうがないので、苦手なみみっちい(と、私が判断した)系の作品から、私の恋愛観に極めて近いものを紹介してみましょう。そうなると、おそらく私は魚喃キリコの短編漫画集『痛々しいラヴ』のなかから、作品を選ぶことになると思います。

- 作者: 魚喃キリコ
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魚喃キリコは絵の雰囲気とかはわりといいなと思うのですが、いくぶん感傷的すぎる話が多く、正直いって私はあまり好きではありません。それでも10代後半から20代前半くらいのときはまだ「読めた」ものの、20代も後半になってからは、この雰囲気がすっかりダメになってしまいました。同じく20代後半になってからダメになってしまった漫画家として、浅野いにおがいるんですけど、こういうのって何なんでしょうね。まぁいいや。

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で、『痛々しいラヴ』ですけれども、持久力のない私は恋愛において“痛々しい”のはちょっとヤダなー、勘弁だなー、と思っていまして、この短編集に載っている作品のほとんどには共感できません。「私の恋愛観に極めて近い」といっているのはこの短編集に載っているたった1つの作品、『ライフプランニング 沢ちゃん編』についてのみです。この話は、魚喃キリコの作品のなかでは例外的に「結構いいな」と思っています。
★★★
漫画が手元にないので若干うろ覚えなんですが、『ライフプランニング 沢ちゃん編』の主人公・沢ちゃんは、同じバイト先の近田が好きです。かっこよくておしゃれな近田と、おしゃれな場所で、おしゃれな小道具に囲まれて、情熱的かつ生活感のあるものを一切はさまない、ドラマみたいな恋をしたいと思っています。
沢ちゃんは近田と一夜を共にしたのち、あまりも近田のことが好きすぎてストーカーまがいのことをして彼の自宅まで行ってしまうんですが、そこで愛しの近田とその彼女が、2人でスーパーの袋をぶらさげて帰宅しているところを目撃してしまいます。近田とのおしゃれかつ熱烈な恋愛を望んでいたはずの沢ちゃんですが、2人がぶらさげているスーパーの袋のなかにあった安っぽいたくあんを見つけて、瞬間的に「負けた」と思ってしまうのです。
走って帰るあたしの頭の中にたくあんが あの黄色い安っぽいたくあんがいつまでもいつまでも残っていた だって生臭い生活感はそれだけで強いと思ったんだもん【ライフプランニング・沢ちゃん編】
— 魚喃キリコbot (@nanananan_bot) 2014, 6月 17
短編漫画なので、ほんの数ページしかないこの『ライフプランニング 沢ちゃん編』ですが、おしゃれでドラマみたいな関係よりも、安っぽくてダサい関係のほうが強いことがあるという、人間関係の妙味を詰め込んだなかなかニクい作品だなぁと私は思っています。漫画の最後で沢ちゃんは、実家で自分のお母さんが食卓によく出していた茶色っぽくてダサい漬け物のことを思い出すのですが、そこもまたいいですね。恋愛の関係に限らず、家族や友人の関係においても、生活感やダサくてみっともないものを共有できる関係というのは、やっぱり強いと私は思います。
もちろん、人間関係は食事と同じで、いろいろなバランスがとれている状態が理想的です。“強い関係”だけが善だと私は考えないので、ドライな感覚を共有する“ゆるい関係”というのも必要だと思うんです。いい仕事を紹介してくれるのは「恋人」や「親友」ではなく、「知りあいの知りあい」くらいのゆるい人だ、なんて話も聞いたことがありますしね。
しかし私は、恋愛的な意味での“好きな人”とは、黄色くて安っぽいたくあんを一緒にボリボリかじっていたいなぁと、この作品のことを考えるたびに思い出します。
軽めですが、今回はそんなところでしょうか。