チェコ好きの日記

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SNSは21世紀のコーヒーハウス?

私はもともとお酒は飲めない、タバコも吸わない、その他の嗜好品の類もあまり好まず、エンドレスで麦茶かウーロン茶を飲んでいるという面白味のない人間なのですが、最近自分のまわりでにわかにコーヒーが流行り出しているようなので、その流れにのって、生活にちょっとずつコーヒーを取り入れるようになりました。ちなみにこの夏マイブームだったのは、麦茶を濃い目に煮出して砂糖と牛乳を混ぜて飲むカフェインゼロの麦茶ミルク(それコーヒーじゃないじゃん)。

流行の兆しの1つとして、“コーヒー界のアップル”と呼ばれるブルーボトルコーヒーが、清澄白河にオープンすることも話題になりました。私は一足先に、夏休みにニューヨーク・ブルックリンのブルーボトルコーヒーに行き、その味と雰囲気を確かめてきましたが、店内のよくわからない装置やドリップ方式で1杯1杯抽出されていくコーヒーを眺めているのはなかなか楽しかったです。(味は、コーヒー詳しくないし舌がバカなのでよくわからなかった。)

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ところでこのコーヒー、流行っているのはいいんですが、そもそもどこで発祥し、どうやって全世界に広がっていったんでしょうか。そんな歴史が気になってしまったので、少し調べてみました。

いちばん最初にコーヒーを口に入れたのは山羊?

コーヒーの起源についてははっきりとはわかっておらず、いくつかの伝承が残っているだけなのだそうです。そしてその代表的なものが、9世紀のアラビアの山羊飼いカルディの物語。カルディが、飼っている山羊を新しい牧草地に連れて行ったものの、興奮して夜になってもいっこうに寝付かない。困ったカルディが修道院に相談したところ、この山羊がある灌木の実を食べていたことがわかったのです。カルディが試しにこの実をゆでて飲んでみたところ、眠気への効果が絶大だったので、以来修道院で夜の礼拝を行なう際に飲むようになった、というのです。ちょっと嘘っぽいですけどね。

この話以外にも伝承はいくつかあるようなのですが、それぞれの物語を紐解いていくと、原産地が東アフリカであり、その普及にはイスラム神秘主義の僧侶、スーフィーたちが大きく関わっていたのではないかということがわかるそうです。他の人が寝静まった夜でも、自分だけはコーヒーを飲んで起き、祈りを捧げ続けることができる。そんな飲み物として、コーヒーはこのスーフィーたちの間で広がっていったのだとか。

その後、コーヒーを飲む習慣はアラビア、ペルシャ、トルコのイスラム世界、そして南アジアやヨーロッパで普及していきます。1652年には、ロンドンで英国初のコーヒーハウスが誕生します。

閉鎖されるコーヒーハウス

ところが1675年、このコーヒーハウスは閉鎖を命じられます。ロンドンのトップエリートたちが集い、情報交換や議論を交わすようになったコーヒーハウスは、「謀反とデマの温床になりつつある」と考えられ、政府はその政治的影響力を一掃しようとしたのだとか。しかしコーヒーハウスのオーナーたちは「今後、万全を期して店内の不忠義な会話の予防に留意する」と嘆願書を提出し、これをおさえようとしました。そして、見事これに成功します。

そもそも、ヨーロッパでコーヒーや紅茶、ココアなどの飲み物が普及する前、住民たちの間で何が飲まれていたのかというと、アルコールです。17世紀の平均的な家庭では、老若男女、幼児や子供も含めて、1日3リットルのビールを消費していたという記録があるそうです。飲むのはもちろん、漬けたり、スープに入れたり、使い途は様々。昔の人って確かにお酒に強いイメージがありますが、この消費量であれば納得です。コーヒーとコーヒーハウスの歴史は、お酒や居酒屋との競争の歴史であるともいえ、その普及にはそれぞれの国で強い抵抗があったのだとか。

SNSは21世紀のコーヒハウス?

ロンドンにコーヒーハウスができたばかりの1650年代、コーヒーハウスから漏れ出るあの独特の香りを「悪魔の臭い」とし、裁判所に押しかけた住民もいたんだそうです。いわれてみれば確かに、コーヒーは身体に良いとか悪いとか、お茶やココアなどの飲み物よりも過度にその効果が期待・あるいは危険視されているところがあるように思います。香りも紅茶などよりずっと強いので、それを「悪魔の臭い」と思い込んで周囲に訴えた人がいるというのも、わからなくはない話です。

雑誌「WIRED VOL.12 (GQ JAPAN.2014年7月号増刊)」を読んでいて興味深かったのは、このコーヒーハウスを現代のSNSになぞらえていること。一口にSNSといってもその種類は多種多様ですが、その普及に強い抵抗感を示す人がいること、「人が集まる場所」として情報交換や議論が行なわれることがあること、そして「謀反とデマの温床になりつつある」といわれていることなど、なるほど確かに似ているところはあるかもしれません。「自由な情報交換と議論」には「デマ」が必ずついてまわるのかもなんて、いらぬ想像力を働かせてみたくもなります。

もちろんコーヒーハウスとSNSの相違点もあげられていて、それはSNSでの発言や行動がすべて記録され、ある意味では「監視」されているということです。コーヒーハウスでおバカなことをやってもオーナーに怒られるだけだけど、Twitterでおバカなことをやると何万人もの人の目に晒されることになります(運が悪いと)。「コーヒーはタダだけれども、会話を全部記録し、それを顧客情報として売りに出すようなカフェにいったい誰が行きたがるだろう?*1

まとめ

ちょっと調べただけなんですが、砂糖とか塩とか紅茶とかコーヒーとか香辛料とか、食物の歴史ってさかのぼっていくとすごく面白いことがわかりました。人間の野望とか都合とか、そういうドロドロしたものがダイレクトに垣間みれて楽しいですね。

清澄白河に進出するブルーボトルコーヒーに代表される“サードウェーブコーヒー”が、今後どんな展開を見せていくのか非常に興味があります。それは私たちに新たな価値観を提示する何かになり得るのか、それともスターバックスのようにただ膨張していくのか。

本当は麦茶ミルクのほうが好きなんだけど、このエントリはコーヒーを飲みながら書きました。


★今回の参考文献★

コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液 (中公新書)

コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液 (中公新書)

WIRED VOL.12 (GQ JAPAN.2014年7月号増刊)

WIRED VOL.12 (GQ JAPAN.2014年7月号増刊)