チェコ好きの日記

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『大卒だって無職になる』を読んで考えた3つのこと

「終身雇用制度」は、もう日本において、崩壊しつつあります。

というのは、わざわざ私がいうまでもなく、いろいろなところでいわれている、周知の事実。

終身雇用が崩壊したということは、これからはおそらくほとんどの人が、「転職」を経験することになる、ということです。
(「起業」とかの人もいるかもしれないけど)

「職」と「職」との間がほとんど空かずにスムーズにいけばいいけれど、「転職」をする以上、その間に空白の期間、つまり無職の期間が生まれてしまうことは、今後どんどん珍しい現象とはいえなくなっていくでしょう。

むしろ、「職」と「職」の間に有給休暇気分であえて無職期間をつくる……なんてことだって、あってもいいと思うのです。

そんな半ニート気分の私(25歳)にとって、この本のタイトルはごく自然に受け入れることができましたが、
もっと上の年代の方にとっては、確かに衝撃的なタイトルなのかもしれません。

大卒だって無職になる

大卒だって無職になる "はたらく"につまずく若者たち


著者は、NPO法人「育て上げ」ネット理事長であり、若者の就労支援をしている工藤啓さん。

今回は、この本の感想をみなさんと共有してみたいと思います。

以下は目次。

プロローグ ある日、居酒屋で友だちから、「お前、何やってんだっけ?」と聞かれ、自分の仕事を説明した。

第1話 有名国立大学を卒業したけれど。 ひきこもりになってしまったH君のこと

第2話 四月一日がタイムリミット。  おとなしくまじめが取り柄の草食系女子R子さんのこと

第3話 人生初の挫折は退職だった。 一度も失敗をしたことがないというI君のこと

第4話 賢そうでスマートなのに……。 仕事ができそうに見えてもできなかったW君のこと

第5話 親に安心してもらいたい。 自分自身の意に染まぬ離転職を繰り返すY君のこと

第6話 大卒の若者だって大変だ。 ウチのNPOにやって来た悩みを抱える若者たち

エピローグ 再び、真っ昼間に友だちに、「半径三メートルの世界」について、思いの丈をぶちまけた。

「自分はできる」をおしつけてはいけない

世間(というのがいったい何なのかよくわかりませんが)において、あまり難しくないであろうとされている作業「A」があったとします。

たとえば、満員電車に乗って週5回、毎日同じ場所に出勤するとか。
たとえば、初対面の人と円滑にコミュニケーションをとるとか。
たとえば、気を張りつめすぎずに、適度にうまく手を抜いたりとか。

でも、このあまり難しくないだろうとされている作業「A」を、どうしてもやることができない人、とてつもなく困難に感じてしまう人、
そういう人がいるということを、私たちは認識しておくべきだと思うのです。

この本の第1話には、有名国立大学を順調に卒業したまではよかったのだけれど、卒業後に就職せず、ひきこもり状態になってしまったH君という男性が登場します。

H君がひきこもりになってしまった理由については、書いてありません。というか、工藤さん自身も「わからない」といいます。
私たちは「ひきこもり」と聞くと、つい「理由」や「根拠」を探してしまいますが、
本人がその理由を話したがらない場合もあるし、話してくれたとしても事実とはちょっとちがう、みたいなことが往々にしてあるそうです。

それでも、H君は学生時代、友だちがあまりいなかったようなので、そのあたりが原因になっているんじゃないかとか、
誰でも当たり前のように落とされる就活に、ものすごい優秀なH君は過剰な挫折感を味わってしまったんじゃないかとか、
そのくらいのことが推測されます。←やっぱり探している

問題なのは、私たちはH君に対して、
「友だちくらい簡単にできるでしょ? 何でできないの?」とか、
「1回落ちたくらい何でもないって! どうしてそんなに落ち込んでんの?」とか、
そういうことを言ってしまいがちだということ。

自分にとって難なくこなせることならば、他人だって難なくこなせるはずだという思い込み。

H君がひきこもり状態になってしまった本当の理由はわからないし、誰かが上記のような言葉をかけてしまったわけでもないと思うのですが、
そういう世間の無言の圧力みたいなものが、彼を過剰に追いつめてしまったんじゃないか? と。

H君は「育て上げ」ネットの支援を受け、その後は立派に就職(しかも接客業!)していますが、
優秀なだけに、ひきこもりの期間はものすごく辛かっただろうなぁと推測します。

ひきこもりになってしまうこと、大卒なのに無職になってしまうこと。
1つボタンをかけちがえれば、誰にでも起こることです。

そんな状況にある人を、「みんなできているのに、何でできないの?」「甘えてるんじゃないの?」と追いつめないであげたいです。
若干ズレた感想かもしれませんが。笑

もっと利己的な社会貢献を

この本の著者の工藤さんは、なぜNPOの代表として、このような若者の就労支援を行なっているのでしょうか?

工藤さんはそれを、「若者支援は投資だから」という理由で説明しています。

「働けるはずの若者が無職なのは甘えだ」といって何もしないよりも、
若者支援をしてその若者が仕事を得れば、彼は無職から「納税者」へ変わります。
百万人ちかくいるとされている無職の若者を「甘え」という一言で放置しておくのは、国家的な損失だというのです。

こういう考え方、すごくスマートだと思います。

私も最近、生活保護などのセーフティネットNPOの活動への関心が高まっているのですが、それは決して、
「社会貢献(いいこと)がしたい」とか、
「このままじゃかわいそうだ」とか、
そんなきれいな理由ではありません。笑

私の場合は、いつ自分が支援を受ける側になるかわからないから、自分がそういう状況になったら助けてほしいから、
自分に余裕があるときは誰かを助けておこう、という理由で関心をもっています。
「助けてあげるから助けてね!」的な感覚です。

でも私は、こういう利己的な動機のほうが、きれいな動機よりも強力なんじゃないかと考えています。

「自分がふやした納税者」が納めた税金は、いつかめぐりめぐって自分を助けてくれるかもしれません。

社会貢献は、きれいにラッピングされたものではなく、もっと利己的なものであってかまわないのです。

多様なキャリア形成があっていいのに

大学を卒業し就職したのに、やむをえず会社を退職し、その後ズルズルと無職をひきずってしまう。
あるいは、就活がうまくいかず、既卒で無職の状態が続いてしまう。

「働きたいのに働けない」状態、本人の意思とは異なるかたちで無職期間が続いてしまう人たちへは、
工藤さんの団体のようなNPOが、積極的な支援をしていくべきだと思います。

しかし一方で、無職の人を追いつめすぎないこと――「会社で働く」という以外の選択肢をもっていてもいいこと、それを許すことを、
私たちはしていくべきだと思います。

カリヨン・ツリー型キャリア、ということばがあります。
ベストセラーになった、私のブログにも何回も登場している『ワーク・シフト』という本で提唱されているキャリアの考え方です。
『ワーク・シフト』 読み終わりました。 - (チェコ好き)の日記
簡単に説明すると、22歳で就職して65歳までノンストップで働くのではなくて、あいだに留学したり、海外ボランティアに行ったり、大学院に行ったり、育児休暇をはさんだりしながら、「休む→働く」をくりかえしてキャリアを形成していこうよ、という考え方です。

現状ではまだ、こんなふうにキャリアを積める方は少数派です。もんのすごい優秀な方、特殊なスキルをもった方でないと難しいでしょう。

でも私は、優秀でもないですし特殊なスキルもありませんが、この「カリヨン・ツリー型のキャリア」の話を聞いて、「こんなふうに働きたい」と、強く思ってしまったのです。
そして、この働き方に共感する同世代も多いのではないかと思っています。

だから、ごく少数の優秀な人だけでなく、私のようなド凡人にも、それが可能である社会にしていきたい。
その1歩が、冒頭でも書いたような「あえて」つくる無職期間や、(本人が望んでいるのであれば)無職であることを過剰に問題視しない社会をつくることだと思うのです。

★★★

終身雇用も年金制度もアテにできない今、私たち20〜30代は、65歳で仕事人生が終わるとは思えません。

大学卒業後、40年ぶっ続けで働くより、
3年働いて1年休む……とかを15回くらい繰り返して80歳まで働くほうが楽しそうな気がするんですが、いかがでしょうか。生涯現役。

「働きたいのに働けない」無職の若者に対する支援をより一層充実させていくとともに、
「働きたくないからしばらく働かない」を許してくれる社会に。

『大卒だって無職になる』というセンセーショナルなタイトルが、いつか、
まったくセンセーショナルでない、当たり前に思う時代が早く来ればいいのにと、
ちょっと的外れな(?)感想を抱く私でした。

★★★
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