チェコ好きの日記

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2016年上半期に読んで面白かった本ベスト10

私は毎年年末になると「今年読んで面白かった本のまとめ」みたいなエントリを書いているのですが、今年は読んでいる本が昨年の倍くらいあるので、上半期で一度ベスト10をまとめておこうと思いました。ちなみにこれはあくまで「私が2016年上半期に読んだ本」なので、本の発売時期が2016年上半期という意味ではありません。

※2015年のまとめはこちら
aniram-czech.hatenablog.com

10 買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて/山内マリコ

買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて (文春文庫)

買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて (文春文庫)

『ここは退屈迎えに来て』の山内マリコさんのお買い物エッセイです。この手のエッセイってブランド物がずら〜っと並んでいるイメージがあって苦手だったのですが、こちらのなかには「冷え知らずさんのカレー」とか「ます寿司のピアス」とか庶民派チョイス・謎チョイスがあって面白かったです。そして読んでいて何品か「これいいな!」と思って自分で実際に買ったやつもあります。買って使ってみたら本当に良かったです。あと靴好きの女性に殺される覚悟でいうのですが、「クリスチャン・ルブタンはヤンキー」という文章にめちゃくちゃ共感しました。

9 TRANSIT 佐藤健寿特別編集号 美しき不思議な世界

「雑誌か」という突っ込みはごもっともなのですが、文章量の多い雑誌なので本としてカウントさせてほしい。TRANSITは大好きな雑誌なのですが、こちらの号はとりわけ面白かったです。写真家の佐藤健寿さんの旅を特集しているのですが、私も真似して踏破してみたいルートがいくつか。アイランドホッパーと呼ばれるユナイテッド航空の便を使って、グアムからチューク諸島、ポンペイ、そしてハワイ島へ行くやつをやってみたいです。あとはギリシャサントリーニ島からアモルゴス島、ロードス島、シミ島を通ってトルコのエフェソスに行くというルートも憧れます。

8 叫びと祈り/梓崎 優

叫びと祈り (創元推理文庫)

叫びと祈り (創元推理文庫)

これは、人に勧めてもらったミステリー小説です。海外の様々な土地を舞台に事件が起こるというオムニバス形式の短編集。私は1話目の、砂漠を行くキャラバンの話がすごい好きでした。「初めて足を踏み入れる人に見抜かれるほど、砂漠は甘くないよ」というセリフにときめきをかんじました。サハラ砂漠行きたい。ラクダに塩を運ばせたいです。砂漠に関する小説は、このあともう1冊出てきます。

7 最初に父が殺された/ルオン・ウン

最初に父が殺された―飢餓と虐殺の恐怖を越えて

最初に父が殺された―飢餓と虐殺の恐怖を越えて

昨年買って積ん読になっていた本を消化しました。カンボジアの、ポル・ポト政権を生き延びた女性の手記です。まだ幼かった著者は当時プノンペンに住んでいたのですが、ある日突然プノンペンにはいられないことになって、家族とともに農村に逃げていきます。そのとき、お母さんが著者に「これで手を拭きなさい」といってお札を差し出す場面があって、「これ、お金でしょ!」と著者は拒否するのですが、「いいのよ。もう価値なんてないんだから」とお母さんが諦めたようにいうところが衝撃的でした。そういうことがあるって頭では理解できるけど、エピソードとして読むとうわっと思います。あとは飢えすぎて頭がおかしくなる人の話とか、ブログに書くと【閲覧注意】になってしまう話がたくさんありました。

この本の著者は、ポル・ポト政権を生き延びた後アメリカに渡って、本を書いたり地雷撤去の運動を推進したりしているので、大変気概のある女性です。一方、同じく過酷な環境を生き延びた著者の姉は、あまり自分の意思がなく、弱気で臆病な女性として描かれています。姉は、ポル・ポト政権が滅びた後はカンボジア内で結婚し、ごく普通の母としての人生を歩みます。そんな姉を、著者は本のなかで「どうして姉のような人物があの過酷な環境を生き延びられたのかわからない」と評しているのですが、私はそここそにある真実味をかんじてしまいました。それは、「この世は所詮弱肉強食なんだけど、何が〈弱〉であり何が〈強〉であるかは日々変化するし、わからない」みたいなことです。

6 門/夏目漱石

門

今年は夏目漱石をたくさん読んでいて、下半期にもまた何冊か読むと思います。『門』の主人公・宗助と妻のお米は仲睦まじい夫婦なのですが、2人は一般の社会から少し距離を置いており、2人で孤独に生活しています。物語は特に大きな事件もなく進んでいくのですが、最後のほうで宗助が寺に禅修行に出向くところがあって、そこで「門」という小説のタイトルの意味がわかると、少し物悲しい気分になります。

5 思索紀行/立花隆

思索紀行 ――ぼくはこんな旅をしてきた

思索紀行 ――ぼくはこんな旅をしてきた

立花隆さんの紀行文。訪れているところは、無人島からアメリカから、イスラエル/パレスチナまで。興味深かったのはもちろんイスラエル/パレスチナのところで、なぜこの国の問題が一向に解決しないままなのか、それが〈わかりにくく〉書いてありました。わかりやすくではなく、〈わかりにくく〉、です。

物事を整理してわかりやすく書くのはそれはそれで必要なことだし、歓迎されるべきことです。だけど、イスラエルパレスチナの問題は、「わかりやすく」書いてしまうと、本質から目を逸らすことにもなってしまいます。一度は「わかりやすい」方法で理解するべきですが、そこをクリアしたら次は複雑なことを複雑なまま、〈わかりにくい〉状態で理解しなければならない。そういう手法で書かれた本です。

「この点だけは間違えないでくれ。我々は決してユダヤ人を憎んでいない。パレスチナ人の誰一人としてユダヤ人を殺しつくそうとか、海に追い落そうなどとは考えていない。我々は何百年もの間、ユダヤ人と仲良くやってきた。我々の闘っている相手は、ユダヤ人ではなくシオニストなのだ」(p308)

4 虞美人草/夏目漱石

虞美人草

虞美人草

物語としては、世話になった人の娘と婚約しているもののその娘がどうもつまらない女なので、世話人には悪いけど進歩的な別の女と結婚してーなー、と思った主人公の話です。なのですが、途中途中の文章がぞっとするくらい美しい。こんな美しい文章あるんだ、と思いました。いちばん好きなところを引用してみます。

凝る雲の底を抜いて、小一日空を傾けた雨は、大地の髄に浸み込むまで降って歇んだ。春はここに尽きる。梅に、桜に、桃に、李に、かつ散り、かつ散って、残る紅もまた夢のように散ってしまった。春に誇るものはことごとく亡ぶ。我の女は虚栄の毒を仰いで斃れた。花に相手を失った風は、いたずらに亡き人の部屋に薫り初める。

私は日本文学がちょっと苦手なのですが、例外的に漱石だけはすごく好きみたいです。

3 優雅な獲物/ポール・ボウルズ

優雅な獲物

優雅な獲物

詳しい感想は「美しい歌声をもつ者は、やがて惨たらしい死を遂げる/ポール・ボウルズ『優雅な獲物』 - チェコ好きの日記」で書いているので割愛しますが、先にあげた梓崎優さんの『叫びと祈り』と合わせて読むと面白いモロッコ砂漠文学。砂漠は美であり、孤独であり、誘惑です。モロッコ最高。

2 パレスチナ・ナウ/四方田犬彦

パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間

パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間

ハニ・アブ・アサドの『パラダイス・ナウ』からインスパイアされたタイトルだったのですねこれ(最近気が付いた)。著者のテルアビブ滞在の日々や、イスラエル/パレスチナを舞台にした映画の評論などが載っています。だけどいちばん興味深かったのは、テルアビブのロッド空港(現ベングリオン空港)で銃乱射事件を起こし逮捕された元日本赤軍のテロリスト、岡本公三レバノンまで行って訪ね、インタビューを行なっているところです。

ロッド空港乱射事件では、26人が死亡しています。

1 謎の独立国家ソマリランド/高野秀行

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

数年前に各所で「面白い!」と絶賛されていた本書、今更ですが読んだら本当に面白かった。そして見事高野秀行さんの魅力にハマってしまい、今はローラー作戦で片っ端から高野さんの著書を読んでいます。だから下半期は高野さん本がランキングを占拠するかもしれません……。ちなみに下半期の暫定1位は『アヘン王国潜入記』です。

ソマリランド』は、アフリカの海賊国家ソマリアをわかりやすく分析していて、ソマリランド、プントランド、南部ソマリアの3つの地域を高野さんが訪問していきます。途中、海賊を雇う見積もりを作ったりしてみているところも面白い。海賊って雇えるんだ。知りませんでした。

下半期もたくさん面白い本が読めるといいなと思います。

映画編はこちら

aniram-czech.hatenablog.com