恒例のやつです。今年の1月から6月末までに私が読んだ本の中で、面白かった本10冊のまとめ。SF小説が増えました。
10位 『旅のモザイク』澁澤龍彦
- 作者: 渋澤龍彦
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2002/03
- メディア: 文庫
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3月末〜4月にかけて南イタリアに行っていたのだけど、旅先の観光スポットはこちらのエッセイを参考にまわっていた。パレルモ郊外の「パラゴニア荘」は本当に行ってよかった。昔のパレルモはかなり治安が悪かったらしい。今はそんなに怖くない(野犬以外は)。
このパラゴニア荘の彫刻を作らせたご主人(18世紀の人)は、妻に畸形の子供を産んでくれと頼んだりした変人で、ここを作ったために財産を喰いつぶしたらしい。外観が気味悪いので当時の住民からは不評だったとか。邸宅の中央の鏡の間は、歩くと実際よりも多い人数がその場にいるように見え超不気味。 pic.twitter.com/Echx4DwK06
— チェコ好き (@aniram_czech) 2018年3月29日
9位 『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ
- 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/09/16
- メディア: Kindle版
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詳しい感想は前に書いたので割愛。文明の発達により、人類の生活はどんどん豊かに快適になっているのかと思いきや、実はそうとも限らないかもしれないという衝撃。マンモス狩ってた頃と今、私たちが幸せなのはどっちだ。
8位 『生活の発見』ローマン・クルツナリック
- 作者: ローマン・クルツナリック,横山啓明,加賀山卓朗
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2018/01/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本は感想を書きそびれているけれど、かなり面白かったのでおすすめ。「愛」「家族」「感情移入」「仕事」「時間」「金銭」「感覚」「旅」「自然」「信念」「創造性」「死生観」からなる12章で構成されていて、それぞれが時代を経る中でどのように受容され、またその受容が変化していったかを考察している。
たとえば「家族」。私たちは一家団欒といえば、3〜4人の家族でひとつの食卓を囲んで和気藹々と会話を楽しみながら食事している様子を想像する。だけど、その昔イタリアでは、食事中の会話はご法度であったらしい。口数が多いことは利己的であり、信頼できない人というイメージを持たれやすかった。沈黙の時代であった中世を経て、食事の席で会話が楽しまれるようになったのは、18世紀、ロンドンでのコーヒーハウス文化の興隆がきっかけだという。
私たちが「正しい」と思っていることは、実はまったく正しくなんかはなく、歴史もたいして古くない。いろいろな思い込みメガネを外させてくれる良書なので、12章の中に気になるキーワードがあった人には、ぜひ読んでみてほしい。
7位 『地底旅行』ジュール・ヴェルヌ
- 作者: ジュールヴェルヌ,Jules Verne,高野優
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/09/10
- メディア: 文庫
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私はドラえもんの映画の中で『のび太の創世日記』がいちばん好きなのだけど、『地底旅行』はドラえもんにちょっと似ている。『のび太の創世日記』は南極に空いたどでかい穴を降りて洞窟探検に向かうけど、『地底旅行』も、アイスランドのレイキャビクから地下世界に降りて行くからだ。
どちらの作品にも共通しているのは「地球の中心は空洞になっている」というかつて信じられていた(?)科学的仮説である。もちろん今はそんなものを信じている人はいないけど、地球の中心に空洞があって、その空洞には地上とは別の世界が広がっている……ってかなり夢があると思う。
6位 『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』高野秀行 清水克行
- 作者: 高野秀行,清水克行
- 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
- 発売日: 2018/04/05
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ハードボイルドとタイトルに掲げているだけあって、高野さんと清水さんが選ぶ本はどれもアナーキーである。『ゾミア 脱国家の世界史』なんて、読む人が読んだら発狂ものの大変な危険書だ。
5位 『世界最悪の旅─スコット南極探検隊』アプスレイ チェリー・ガラード
- 作者: アプスレイチェリー・ガラード,Apsley Cherry‐Garrard,加納一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/12/01
- メディア: 文庫
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この本は、実は書評を載せていただいたSTUDIO VOICEで紹介している一冊である。イギリスのスコット南極探検隊は、世界初の南極点到達を目指すも、アムンセン率いるノルウェー人たちに見事に破れ、帰途で遭難し隊が全滅。まさしく「世界最悪の旅」だ。
本書は生き絶える直前に書かれた隊員の日記などが載っていて、かなり辛くて泣いてしまった。壊死していく手足、動かなくなった仲間を見捨てて前進を続けるところ(そうしないと自分も死ぬから)、本当に辛い。南極、一度行ってみたいのだけど、想像を絶する世界だ……。
4位 『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー
- 作者: オルダスハクスリー,Aldous Huxley,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/06/12
- メディア: 文庫
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ディストピアな未来を描いたSF小説。作者のハクスリーは生前、仏教やヒンドゥー教の関係者と交流し、自らLSDやメスカリンなどの幻覚剤を服用して実験を行なっていた「ちょっとヤバイ人」である。まあそれはそれとして、『すばらしい新世界』はシェイクスピアの引用があったり、韻を踏んだ言葉がブラックジョークを吐いていたりして、世界観がかなり私好みであった。
(個人の想いは社会の眩暈)
— チェコ好き (@aniram_czech) June 19, 2018
と、
“A gramme is better than a damn.”
(恨むくらいなら、薬物を1グラム)
諧謔的でとってもいい!
3位 『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア
スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1978/12/31
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イタリア旅行中に読んでいた本。ヴォネガット自身が体験した第二次世界大戦でのドレスデン無差別爆撃が物語の中心にあり、半自伝的作品だといわれている。ヴォネガットは、自らの体験をもとにノンフィクション的に書くのではなく、トラルファマドール星人の登場する「SF」として物語を作る。なぜならドレスデンでの体験は、自らが語れるもの、意味付けできるものの範疇をゆうにこえてしまっていたから。ストレートに書くよりも、少しずらして書くほうが、真実味と重みが増す。不思議だけど、世の中にはそんなこともあるのだ。
「ビリー・ピルグリムが変えることのできないもののなかには、過去と、現在と、そして未来がある」。
過去は変えられない。でも、現在と未来は変えることができる──誰かが言ったそんな楽観的な時間世界を、時間旅行者であるビリーは否定する。人間は無力で、大きくうねる歴史や国家を前にしたら、未来だって変えられない。「そういうものだ」、という言葉がこの小説では何度も繰り返される。
本書を貫いている深い深い「諦念」みたいなもの、もっと上手く言えたらいいなと思うので、そのうちちゃんと感想を書きたい。
2位 『V.』トマス・ピンチョン
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めちゃ面白かったけど、謎が多すぎて「ん?」と思っているところ多々。物語の舞台は2つあって、1つはベニー・プロフェインが徘徊する1950年代半ばのニューヨーク。もう1つは、探偵のハーバート・ステンシルが駆け回る第二次世界大戦頃のヨーロッパ。「V.」というイニシャルだけが中心にあって、それらが複雑に絡み合って集約されていく……かと思いきや、なんだかすごく唐突に物語は終わる。
「なんだこりゃ?」という感じなのだけど、それはつまらない作品に抱く「なんだこりゃ?」ではなくて、2回目3回目が読みたくなる「なんだこりゃ?」なのである。
1位 『ソラリス』スタニスワフ・レム
- 作者: スタニスワフ・レム,岩郷重力,沼野充義
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/04/08
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上半期読んでよかったベスト1位はレムの『ソラリス』。タルコフスキーの映画版『ソラリス』ですでに話は知っていたけど、改めて読んでみると小説のほうがもっと好きかも。
この本をきっかけに認知症に興味が出て、今『「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書)』という本を読み始めたのだけど、これはすごく興味深い。私たちは、私たちの「世界」が正しくて、認知症のお年寄りの「世界」は歪んでいると考えてしまう。だけど、認知症のお年寄りが見ている「世界」もまた私たちと同質の「世界」であり、どちらの「世界」が正しいとか、間違っているとかはない──みたいなことが書いてある(たぶん)のだけど、まだ途中なので、読み終わったらまとめます。