2017年上半期が終了したので、今年の1月から6月にかけて、私が読んだ本の中で面白かったものを10冊まとめておきます。この時期恒例のやつです。長いので注意!
ちなみに2016年編はこちらです。
aniram-czech.hatenablog.com
10位 『悲しき熱帯〈1〉〈2〉』レヴィ=ストロース
- 作者: レヴィ=ストロース,Claude L´evi‐Strauss,川田順造
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/04/01
- メディア: 単行本
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- 作者: レヴィ=ストロース,Claude L´evi‐Strauss,川田順造
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 新書
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これは何となくわからんでもない話で、私も旅の中でもっとも色濃く記憶しているのは、疲労困憊で意識が朦朧としていた瞬間のことだったりする。具体的にいうと、大嵐の中、船酔いしまくりながらスペインからモロッコへ渡るためジブラルタル海峡を越えた日のことですね。いちばん最悪な日だったのに、いちばん目に入ってきたものが美しい日だった。それを他人に綺麗なところだけ切り取られてしまうと、ちょっと違うんだよなーと思ってしまう。あの美しさは、あの最悪さとセットなのだ。
9位 『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン
- 作者: レイチェル・L.カーソン,Rachel L. Carson,上遠恵子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/07/01
- メディア: 単行本
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人間は飽きる生き物で、飽きると退屈する。ただそういうとき、安易にお祭り騒ぎをしてみたり強い刺激を求めたりしてしまうと、感覚が麻痺してしまう。退屈だな〜と思ったときは、自分の中の「センス・オブ・ワンダー(美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見はる感性)」が何かに反応するのを、じっと待っているのがいい。本書はその「センス・オブ・ワンダー」を呼び覚ます一助となるはずだ。
誰が言ってたのか忘れたけど(村上春樹?)、人は恋が始まるとき「あなたのことをもっと知りたい」と思い、恋が終わるとき「あなたのことはもうわかった」と思うという。なかなか言い得て妙だ。世界に対しても同じで、「わからない、知りたい、びっくりする」は生きる原動力になり、「だいたいわかった、もう知っている」は人を死に向かわせるのだろう。本書の終わりの部分には、「死に臨んだとき、わたしの最期の瞬間を支えてくれるものは、この先に何があるのかというかぎりない好奇心だろうね」という言葉がある。
8位 『アピチャッポン・ウィーラセタクン──光と記憶のアーティスト』夏目深雪ほか
アピチャッポン・ウィーラセタクンという超覚えにくい名前のこの人は、タイの映画監督である。20世紀の映画史におけるもっとも重要な人物がジャン=リュック・ゴダールであるとするなら、21世紀におけるもっとも重要な人物はアピチャッポンであると言われている。私はアピチャッポンの映画を観るといつも途中で寝てしまう。だけどそれはつまらないからではなくて、一種の催眠のようなものだと思っている。途中で目が覚めたとき、映画のシーンと自分がうたた寝しながら見ていた夢が混ざり合っていて、ものすごく変な気分になる。
いちばん好きな作品は『ブンミおじさんの森』なのだけど、ブンミおじさんというのは実在の人物らしい。ブンミさんは、自分の生きた複数の人生のことをすべて記憶している。水牛だったときのこと、王女だったときのこと、さまよう亡霊だったときのこと。ブンミさんには映画はいらない。だけど、私たちは今のこの1つの人生しか覚えていないから、映画という記憶の集合体が必要なのだ……みたいなことを本書でアピチャッポンが語っている。
7位 『鬱屈精神科医、占いにすがる』春日武彦
- 作者: 春日武彦
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: Kindle版
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6位 『永い言い訳』西川美和
- 作者: 西川美和
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/08/04
- メディア: 文庫
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詳しくはネタバレしそうなので書かないけれど、私は『ベルサイユのばら』の最後のほうにあるマリー・アントワネットの独白がすごく好きだ。アントワネットは若い頃、派手な生活を送りながら、ダサい夫は放ったらかしにしてスウェーデンの貴族フェルゼンと熱烈な恋に溺れる。だけど晩年、夫ルイ16世が処刑されるという段階になって、「恋ではなかったのかもしれない。フェルゼンとの恋のように燃えるような思いを夫に抱いたことはなかった。でも、フェルゼンとは違った形で、私は夫を確かに愛していたのだ」みたいなことを言う。
人と人との繋がりは、本当は「夫婦」や「恋人」なんていう言葉にはあてはめられないくらい多様で歪で、二人の関係の本質は、当事者の二人以外が理解することはできない。そういうことを考えた小説だった。
5位 『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎
- 作者: 前野ウルド浩太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/05/17
- メディア: 新書
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著者は最終的には無事に京大の研究職のポストをゲットするのだけど、本書はとにかくユーモアとエンタメ性を重視して書かれているのでとても楽しい。緑色の全身タイツを着てバッタの群れに飛び込み「私を食べたまえ!」とかまえる著者の写真だけでも、書店で立ち読みして見てみるといいと思う。狂ってる。
4位 『中動態の世界』國分功一郎
中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)
- 作者: 國分功一郎
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2017/03/27
- メディア: 単行本
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「私は自分の人生を自分の意志で決断してきた!」ってドヤ顔で言っちゃうのはちょっと驕りすぎだし、危なっかしい考えだよって話なんだけど、伝わるかな〜
— チェコ好き (@aniram_czech) 2017年7月9日
3位 『恋するソマリア』高野秀行
- 作者: 高野秀行
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/01/26
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本書の主人公は、表紙にもなっているソマリア美女のハムディ。ただし彼女はただの美女ではなく、ホーン・ケーブルTVというテレビ局の剛腕なボスである。高野さんいわくハムディは「母性本能」と「ボス性本能」を持ち合わせており、イスラム過激派アル・シャバーブが潜む南部ソマリアの戦地をレポーターとして駆け回る。州知事から脅しの電話がかかってきても動じず、「私は有名になりたいの。目標は大統領になること」と言って笑う。同僚の男が自分の前で下ネタをいえばサンダルでぶっ叩く、そんな22歳! いい女すぎて手も足も出ない。
最終的には彼女は「敵が増えすぎた」といってノルウェーで難民申請をするのだけど、「先進国の大学を出て政治家になる」と命を狙われてもなお野心満々。高野さんもハムディのことが大好きで、世話になりすぎて始終頭が上がらない感じでいるのもまた面白い。
2位 『はい、泳げません』高橋秀実
- 作者: 高橋秀実
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/11/28
- メディア: 文庫
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1位 『バビロンに帰る』スコット・フィッツジェラルド
バビロンに帰る―ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)
- 作者: フランシス・スコットフィッツジェラルド,F.Scott Fitzgerald,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/11/01
- メディア: 単行本
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その街に住んでいたころ、自分は酒を飲んで奔放に遊びまわり、妻を病気にさせて亡くしてしまった。当然、主人公は妻の親族に嫌われ、娘も妻の姉夫婦が引き取って育てていた。若き日の後悔、死んだ妻への思い、自分にはもう娘しかいないという孤独──という、フィッツジェラルド作品でおなじみのなよなよとした女々しいストーリー。私なんでこんなのが好きなんだろうな〜でも超泣けるんだよな〜。
本書には訳者・村上春樹のエッセイもついているのだけど、このエッセイがまた泣かせる。私は村上春樹の小説は実のところそんなに好きじゃないけど、村上春樹のエッセイと翻訳はやっぱり死ぬほど好きみたいだ。
フィッツジェラルドは、精神を病んだ妻に対して「僕はもうゼルダをかつてのようには愛していない。僕の中には彼女に対する深い同情があるだけだ」と何度か周囲に漏らしていたらしい。この部分はなんだか、『永い言い訳』で夏子が残した「もう愛していない。ひとかけらも。」というメッセージを想起させる。だけど、恋が愛に変わり、その愛すら希薄になってもまだ続く二人の関係というのはある。フィッツジェラルドはそれを「同情」と言っているが、その本質はやはりフィッツジェラルドとゼルダの間にしかない独特のもので、他者が理解することはできないのだろう。
というわけで、最後はちょっと辛気臭くなってしまったけど、下半期も頑張りましょう。