チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

つげ義春を久々に読み直したら『ねじ式』より『ある無名作家』のほうが好きになってました

先日、テレビ放送されていた『テルマエ・ロマエ』をぼ〜っと観ていたら、映画のなかに「オンドル小屋」って言葉が出てきたんですね。私のなかでは「オンドル小屋」っていったらつげ義春の『オンドル小屋』しかないわけで、映画を中断してつげ義春の短編漫画集『ねじ式』を引っ張り出してきて、あれこれそっちのけでついつい読みふけってしまいました。ちなみに「オンドル」とは、朝鮮・満州地方に見られる一種の暖房装置で、これと似た天然の現象を「オンドル式」というそうです。地の底からふつふつと噴き出す蒸気の上にムシロを敷いて寝る入浴(?)法で、ぽかぽかして気持ちよいそうです。

ねじ式 (小学館文庫)

ねじ式 (小学館文庫)

つげ義春といったら、サブカルクソ野郎ならだれもが一度は通る道であるといっていいでしょう。なかでもいちばん人気のある作品は、この短編漫画集の表題作でもある『ねじ式』ですよね。私も学生時代に読んだときはやはり『ねじ式』が好きで、同じくシュルレアリスティックなかおりのする『ヨシボーの犯罪』とかがそれに続く、って感じでした。

でも今回改めて読み返してみたら、『ねじ式』は相変わらず好きなんですが、それよりもテルマエ・ロマエから来た件の『オンドル小屋』とか、『大場電気鍍金工業所』とか、『ある無名作家』とかの作品のほうを魅力的に思うようになっていました。これらの作品は1960〜70年代に描かれたもののようですが、『大場電気鍍金工業所』などは「朝鮮戦争」って言葉が出てくるので、舞台は1950年前後なのでしょう。これらの作品に共通しているのは、“まだ貧しかった日本”が描かれているということで、読みふけっていると現代・2014年からタイムスリップしたような気分になります。『ALWAYS 三丁目の夕日 通常版 [DVD]』が昔の日本を美化しすぎであることはよく指摘されていますが、つげ義春の漫画はその対極にあるといえるかもしれません。

『ある無名作家』

昔はそこまで好きというわけではなかった(というか、どちらかというと読み飛ばしていた系だった)のに、今回読んでみて「いいな〜」と思った作品のなかでも、短編集『ねじ式』のいちばん最後に載っている、『ある無名作家』は、特にぐっときてしまいました。主人公は安井という男なんですが、安井はあくまで物語の“聞き手”なので、真の主人公は奥田さんという子持ちの男性です。

安井と奥田さんは昔、A先生という漫画家のもとでアシスタントをしていた同僚です。しかし、「自分の表現ができない」という理由で奥田さんはA先生の仕事場を辞め、文学を志します。しかしそれも上手くいかなかったようで、バーテンダーをしたり妻に売春させたりしながら自堕落な生活を送り、最終的に奥さんに子供をのこして逃げられてしまいます。

……と、文章にすると何でもないですが、細部細部に何ともいえない鬱屈とした描写がはさまっており、この奥田さんという男性の人生が読者におも〜くのしかかってきます。

つげ義春とは関係ないですが、こういうガロ系の漫画を読んでいると、『僕は天使ぢゃないよ』を聴きたくなりますね……。映画もいいですが、私この歌がすごい好きなんですよね〜。

僕は天使ぢゃないよ - YouTube

★★★
時間が経つにつれて好きな作品が変わったり、昔は何も思わなかったところに感銘を受けたりってだれにでもあることだと思いますが、漫画でも文学でも映画でも、いわゆる「名作」ってそれが起こりやすいような気がします。断捨離ブームもあって何でもかんでも捨てたくなっちゃいますが、やっぱり「これは!」と思う作品は大切にとっておいたほうがいいですね。

このエントリを書きながら、芸術新潮つげ義春特集をやっていたことに今さら気が付きました。amazonでポチったので、私のなかでしばらくの間つげ義春ブームが再発しそうです。

芸術新潮 2014年 01月号 [雑誌]

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