チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

サブカルの憂鬱『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』の感想

まわりで「面白いよ」とすすめてくれた人が多かったにも関わらず、「気分が暗くなりそうだからヤダ*1」という理由でずっと読まなかったマンガがあるのですが、先日とうとう誘惑に負けて読んでしまいました。『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』。

この作品は、表題作『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』のほか、『ダウンタウン以外の芸人を基本認めていないお笑いマニアの楽園』、『空の写真とバンプオブチキンの歌詞ばかりアップするブロガーの恋』、『口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事も女もぜんぶ持ってかれる漫画(MASH UP』、『テレビブロスを読む女の25年』、などなどの短編を読むことができます。タイトルを見るとわかる通り、サブカル野郎を一網打尽にする胸くそ悪い作品がそろっています。そして感想ですが、結論からいうと、とても面白かったので、もっと早く読めばよかったなと思いました。

このマンガの主人公たちは、いい年こいて歌手になるだの舞台俳優になるだの芸人になるだの編集者になるだの詩人になるだの、いや夢を見るのはいいんですけどね、いわゆる「ちょっとダメな人たち」がたくさん登場します。彼らのダメっぷりときたらもうなくて、自身がサブカル野郎だという人も、自分はサブカル野郎ではないという人も、等しくイライライライラさせられるでしょう。しかしその「イライラするのを楽しむ」というのがおそらくこのマンガの正しい読み方で、「だれの、どんなところにイライラするか」を友人同士で語り合ってみたりすると、きっと超盛り上がります*2。ちなみに、私はバンプオブチキンの歌詞ばかりアップするブロガーくんがムカつくので大嫌いです。でも、大嫌いということはつまり大好きということなのかもしれません。このマンガにおいては。


愛すべき彼らのどんなところが、どうダメなのか。人によって説教したいポイントは変わってくると思いますが、私は自分自身がサブカル野郎だし、(バンプオブチキンの歌詞をアップしたことはないけど)こうしてブログを書いている身なので、「夢」とか「趣味」とか「仕事」とかの部分で説教を垂れると、残念ながら全部自分に返ってくるんですよね。なので一生懸命、「彼らに面と向かって怒れること」を探しながら読んだのですが、それを1個見つけたので、それについて書きます。

才能で人を好きになってはダメです

このマンガで私が唯一、「だからお前はダメなんだよ」と正々堂々と説教を垂れることができるのは、「才能」や「将来性」や「感性」みたいなものに惚れて、男と付き合っている女ばかりだということです。『カフェでよくかかっている(略)』のカーミィにしろ、バンプオブチキンの歌詞ばかりアップするブロガーくんの彼女にしろ、口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事と一緒にもってかれた女にしろ。そして男のほうも、自分の「才能」や「将来性」を売りにして、女と付き合おうとしています。

わかりやすいのは、「口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事と一緒にもってかれた」女と、その「もってかれた」ほうの男でしょうか。彼女と彼が、居酒屋で別れ話をする際の会話をちょっと引用してみます。

「なにが! 何がいいんだよ!? アイツの!!」
「……素敵でやさしいし…才能もすごいある人だし…
「……なんだよそれ… まるでオレが才能ないみてーな… アイツか!? アイツが言ったのかよ!? オレに才能…」
「ちょ…大声やめてよ…そーいうコトじゃないけど… あなたとつきあってても…メリットがないの ゴメン…ホント」

※強調は(チェコ好き)

この会話を読んだ瞬間、「ああもうダメダメ。だからダメなんだよ」と机をバンバン叩けてとても楽しかったのですが、私が思うに、人は「“今”売れているか、売れていないか」を見分けることはできても、「才能があるかないか、またその才能が“今”だけでなく未来永劫続くかどうか」を見分けることはできません。アイドルやモデルのスカウトマンは? という話になるかもしれませんが、それも所詮確率論だと私は思っています。今目の前にいる1人の異性(同性)に才能があるかないか、将来性があるかどうか、自分にメリットをもたらすかどうかなんて、絶対にわかりません。純粋なビジネスとして見るならともかく、ましてそこに恋愛感情をはさむとなると、そんなのグダグダになるに決まっています。だから、そんな曖昧なものに自分の感情や体を預けたら病むことミエミエなので絶対にダメ。男性のほうも同じ理論で、自分の「才能」や「メリット」を担保にして女性と付き合おうとしてはダメよ、と思いました。そんなあるのかないのかわからないもの担保にしたら、病むのは男性も一緒です。

ジャン=リュック・ゴダールピカソくらいの天才ならば、いわゆる“ミューズ”を見つけて、そのドロドロした感情を作品や仕事に注ぎ込むことも可能だし、それによって人を感動させることもできます。けれど、凡人の自覚がある人は、可能な限りその領域には手を出さないほうが健全です。ビジネスや自分の将来と、恋愛感情や肉体関係は、きっぱりさっぱりすっきり分けましょう。このマンガを読んでおそろしくなったので、本当にそう思いました。


とはいえ、「バンプオブチキンの歌詞(略)」のような男性の感性に惚れてしまう恋は、1つの青春の思い出としてはとても美しく、また(盛り上がっているときは)これ以上ないくらい甘美なものだと思うので、簡単に「ダメ」と切り捨てるのも味気ないかなぁ、という気もするんですけどね。でももし、私がこの彼女の友人だったら、やっぱり「そいつぁー、やめといたほうがいいよ」とアドバイスするでしょう。

自分の好きなバンドのCDを彼女に貸そうとする男はダメだ!

★★★

私にしては珍しく(?)少々感情的なレビューになってしまいましたが、要はそれくらい面白かったということです。

みなさんはだれに、どんな説教を垂れたいですか? さぁ、みんなで一緒に説教しましょう。自分のことは棚に上げて、思いっきり上から目線で行きましょう。それがこのマンガの、正しい楽しみ方なのではないかと思いました。

*1:これが最強の鬱マンガ 山田花子『神の悪フザケ』 - (チェコ好き)の日記」とか書いてるのに何を今さら、という感じではある

*2:そういう意味では、『失恋ショコラティエ』に近いところがあるかもしれません。