6月半ばに、ちきりんさんの新刊『未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる』が発売になりました。
- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/06/12
- メディア: 単行本
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昨年から、ちきりんさんは『ワーク・シフト』という本をご自身のブログで紹介したり、“Social book reading with Chikirin”として、『ワーク・シフト』の感想をtwitter上で話し合う場を設けてくれたりと、さまざまな方法で、私たちに「未来の働き方」について考える機会をあたえてくれました。
そんなちきりんさん自身が書かれた「働き方」の本だということで、ブログで発売が告知されたその瞬間に、私はAmazonでポチッとやり、おうちに届くのを心待ちにしていたのです。
そして、いざ発売となれば、家に届いたその日から夢中になり、夜を徹して読みました。次の日ふつうに仕事だったけれど、夜を徹して読みました。朝日がまぶしかった……。
感想を簡単にのべると、ものすごく面白かった! という一言に尽きます。
しかし、それではあんまりなので、どこがどう面白かったのかを、書評としてまとめてみようと思います。
★★★
自分をしばっているものから、自分を解放してあげよう!
あたしの主張は一貫してます。自分がやりたいこと、やってて楽しいことをやればいい。それだけ。投資効果とか、将来のために我慢すべきとか、人生をそんなふうに設計するのは変だってば。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) June 23, 2013
上記はちきりんさんの、とある日のツイートですが、この主張は本のなかの終章「オリジナル人生を設計するために」のなかでも触れられています。
これまでの社会で多くの人が歩んできた人生は、いってみれば、添乗員付きのツアー旅行のようなものでした。
できるだけ良い(偏差値の高い)大学に入り、できるだけ良い(大手の)企業に入り、適齢期に結婚し、子供を2人つくって、マイホームを購入し、60歳で定年退職。老後は、夫婦2人で年金生活。
こういう感じの人生を歩めば、だれもがそこそこ幸せになれる。行き先は明快で、旅程も自分ではない第三者がしっかりと組み立ててくれている。どこかで事故にあったり、道に迷ったりすることも(全くない、とはいわないけれど)極端に少ない。幸せのロールモデルが確立されていた、そういう時代でした。
しかし、これからの時代は、上記のようなロールモデルが、まるで成り立たなくなってきます。なぜ成り立たなくなってきたのかというと、詳しくは本書にある通りですが、グローバル化や超少子高齢化社会などが、その要因の1つです。
もう、添乗員付きツアー旅行では幸せになれない。これからは、自分で行き先を決め、自分で旅程を組み、どこかで事故にあったり、道に迷ったりしても、それも自分の力で乗り越えなくてはいけない。個人旅行の時代の到来、というわけです。
個人旅行は、まず「行き先」を明確にしないと始まらない。
ところが、この「行き先」を決める作業が、実はけっこう困難なものでもあったりします。
まず、何がどこでどう変わるかわからない時代、「○○の資格をとっておけば大丈夫」みたいなものが存在しません。難関資格の持ち主である弁護士や公認会計士だって、仕事がなくて困っている時代です。唯一、まちがいなく食いっぱぐれない気がするのは医療系の資格(看護師など)ですが、私たちのような今20代の若者は、70歳か、もしくはそれ以上の年齢になっても働き続けなければならないのです。看護師という仕事が好きで、生きがいを感じるならOKですが、生計を立てるためだけに好きではない仕事を70歳以上まで続けるのは、いくらお金が稼げても不幸としかいいようがありません。
だとすると、もし経済的に失敗することになっても、“幸せ”を感じられる人生――それは、「好きなこと、やりたいこと」をやる人生だと、ちきりんさんは主張されているのです。どうせ失敗するか成功するかわからないのだから、「好きじゃないこと」を一縷の成功の望みにかけて続けるのは、あまりにもリスキーだ、と。
でも、なかには「好きなこと、っていわれても……」と呆然としてしまう人もいるでしょう。そういう方におススメなのは、ちょっと本書の内容から脱線しますが、自分をしばっているものから、自分を解放してあげると、少しは明確になるんじゃないかな? と私は思います。
「自分をしばっているもの」とは、多くの人にとって、ミもフタもない話ですが、お金です。そして、そんなはずはないと頭ではわかりきっているのに、日常生活のなかではあまり考えられない――「人生は無限に続く」という、幻想です。
後者に関しては、本書では第五章「求められる発想の転換」で、「人生の有限感」として触れられています。
スティーブ・ジョブズ氏や堀江貴文氏など、信じられないような仕事をする起業家には、「人生の有限感」を強くもっている人が多い、とちきりんさんはいいます。「人生の有限感」とは、自分は明日、死ぬかもしれないという、強烈な恐怖であり、不安です。ジョブズ氏が、「もし明日人生が終わるとしても、今日、自分は目の前の仕事をやるだろうか?」と日々自問自答していたという話は有名ですよね。
ここまで強烈な「有限感」を、凡人が持つことはなかなか難しいかもしれません。しかし、3カ月に一度でも、半年に一度でも、定期的に自問自答してみる価値はあると思うのです。「もし、明日(とまでいかなくても、5年後か10年後くらいに)人生が終わるとしても、今日、自分は目の前のことをやるだろうか?」と。
そして、前者に関して詳しくは後述しますが、私は大学院生の頃からたまに、こんな自問自答を定期的にしています。
「今、宝くじで4億円当たったらどうする!?」と……。
一見、アホな妄想にしか思えないかもしれませんが、要は「生きるためのお金を稼ぐ」という制約が一切なくなったとしたら、自分は何をしたいのか定期的に確認しておこう、ということです。4億円という数字はテキトーに考えましたが、人生が狂うほどの巨額ではなく、かつ働かなくても死ぬまでそこそこの贅沢はできそうな金額だな、と思ったからです。
この2つを組み合わせて、「もし人生が10年後に終わる代わりに、4億円が手に入ったら、今自分は何をするか」。これを定期的に自問自答し、考え抜かれた答えが、自分をしばっているものから自分を解放した、私たちの「本当にやりたいこと」になると思うのです。くだらない妄想にしか思えないかもしれませんが、私はこれを、定期的に、ガチで、まじで、真剣に考えるようにしています。
いつ「もう長くは生きられません」と言われても、一通り取り乱し、泣き叫んだ後には、「でも、私はやりたいことを全部やってきた。後悔することはない」と確信できる生き方がしたいと思うからです。(P178)
そう。そんな生き方がしたいですよね。
とはいっても、先立つものはお金、ですが……?
自分をしばっているものから自分を解放し、「本当にやりたいこと」が明確になったとして。
それでも、だれもがジョブズ氏や堀江氏のようになれるかというと、そんな簡単なことではないですよね。その人の環境や才能を羨んでも仕方がありませんが、それでも「もっている人」と「もっていない人」というのはいるもんです。いくら「本当にやりたいこと」が明確になっても、そこに踏み切る勇気も、お金もないんだもん。老後のこととか心配だし。
しかしちきりんさんは、そんな私のような凡人にも、すばらしい回答(?)を、本書のなかで明示してくれています。
それは、「ストック型からフロー型へ」という考え方です。
よく雑誌のマネー特集などで、「定年までに3000万円の貯蓄が必要!」「フリーランスだと厚生年金がないから6000万円!」といった見出しを見かけることがあります。これらは、フィナンシャル・プランナーの方が計算してはじき出した数字なんだそう。こういった特集を読むと、収入があまり多くない私は、「こんなにきちんと貯められるだろうか? 貯めるとしたら、いろんなことを我慢しなきゃいけないなぁ」と、ちょっと暗い気持ちになってきてしまいます。
ところがちきりんさんは本書で、貯蓄のような「ストック」よりも、今後は「フロー」を重視せざるを得ない社会が到来する、とのべられています。
このフィナンシャル・プランナーの方々の計算には、実は重大な落とし穴があるのです。それは、これらの金額はあくまで、「日本人の平均寿命」をもとにはじき出した数字である、ということです。
日本人の平均寿命は、現在男女ともに、だいたい80歳くらいです。しかしこれはあくまで、「平均」であり、自分が本当に80歳で死ぬかどうかは、だれにもわからないし、予測もできません。もしかしたら若くして、55歳くらいで死んでしまうかもしれないし、110歳まで生きて大往生するかもしれません。
仮に、80歳まで生きるために厚生年金と合わせて3000万円必要だとしたら、100歳まで生きた場合はどうするのでしょう? そのリスクにも備えて、5000万円とか、ひょっとすると1億円くらい必要なのでしょうか……。 気が遠くなりますね。
ちきりんさんは、数年前に外資系の企業を退職されています。そのときに、「死ぬまで働かなくていいだけの貯金が貯まったの?」と、まわりの人によく聞かれたそうです。(私も不躾ながら、そうなのかな、と思っておりました。)
60歳で死ぬか、100歳で死ぬかによって、人生の長さは40年も違います。1か月に20万円の生活費が必要な場合、この40年間の生活費だけでも1億円近くになります。一生に必要な生活費は寿命によって、それくらい異なるのです。(P173)
私のような安月給はもちろん、大企業に勤めてたくさん稼いでいる人でも、100歳まで生きるために1億円近い貯蓄を「ストック」することは、けっして簡単ではありません。だとすると、どうすればいいのか。そこで出てくるのが、「ストック」ではなく「フロー」を重視していく、という考え方です。
「フロー」とは、「定年までがっつり働き、老後の蓄えを貯める!」のではなく、「元気な限り、ずーっとそこそこ稼ぎ続ける」という態勢です。70歳になっても、場合によっては80歳になっても、ずっと「そこそこ稼ぐ」ことができるような態勢を、40代くらいを目途に整えていったほうが現実的だ、とちきりんさんはいいます。
とはいえ、80歳や90歳になれば、目も悪くなるし、足腰も弱くなるし、1つや2つ病気も抱えているかもしれません。きちんと「稼げる」ほど頭がしっかりしているかどうかも疑問です。そのためにも、「思いがけず長生きしたら最後は年金、そして生活保護」という割り切りが必要になってきます。
老後のアレコレが心配な若い世代のみなさん。1億円貯めるのは「無理!」と思ってしまいますが、「元気な限りはそこそこ稼ぐ、最後は生活保護」なら、がんばれば何とかできる気がしませんか?
というか、老後のことを心配して一切無駄遣いをせず、残業をたくさんしながらギスギスして節約するより、ゆるーくずっと稼ぎ続け、合間にちょっと休憩(留学とか、何もしないとか)をはさんだりしたほうが、楽しそうだと思いませんか? でも、投資の勉強とかしたほうがいいんですかね……。この辺りは、まだまだ悩むところです。
で、どうすればいいのか
となると、次の問題は、その「元気な限り、そこそこ稼ぐ能力」を、どこでどうやって身に付けるんだ、という話です。
この問題については、決まった回答はありません。本当に、人それぞれ。自分のアタマで考えていくしか、方法はないようです。
とはいえ、いくつかのヒントは、本書のなかにも隠れています。そのヒントを探りながら、この書評を終わりにしたいと思います。
40代で働き方を選びなおす
「人生は二回、生きられる」のタイトル通り、40代くらいで一度、自分の仕事観や「やりたいこと」を見直してみるといいようです。日本人の寿命が長くなったことと少子高齢化の影響で、私たちが働く期間は、前の世代と比べて、とても長い年数になるでしょう。
となると、大卒の20代で決めた働き方を、50代、60代、70代までずっと続けられるかは、甚だ疑問です。「やりたいこと」や「手に入れたい人生」は何回でも変わるだろうし、変わっていいものだと私は思います。
だから、最初から職業人生は二回ある、と思って就職(もしくは起業)すればいいじゃん、ということです。
職業選びにかかわらず、入試だってゲームだって何かへの挑戦だって、一発勝負では無用に緊張しますよね。勝手もよくわかならいし、自分がどれくらいそれを巧くやれるのかも、よくわかりません。失敗したときのリスクも大きすぎて、どうしても安全な道を選びたくなります。
でも、チャンスは二回ある、一回失敗しても、もう一回やってみられる、もしくは、最初にいろいろ試して、二度目はそこからの学びを活かしてよりよい選択をすればいいと考えれば、一発勝負とは異なる感覚で働き方を選べます。(P129)
市場で稼ぐ力をつけよう!
これまでの日本では、「働く」といえばどこかの企業に所属して、会社員としてお金を稼ぐ、というスタイルが一般的でした。
ところがこのスタイルだと、企業規模が大きくなればなるほど、経営は赤字なのに自分の給与は毎月きちんと振り込まれている、ボーナスもしっかり出る……といった不可思議な現象に、疑問をもたなくなる人も出てきます。「市場の評価」と「自分の稼ぐ力」の感覚が、乖離していってしまうんですね。
「元気な限り、そこそこ稼ぐ」ためには、自分の理想の人生のために組織を離れざるを得ないこともあるでしょうし、そうでなくても、50年も60年もずっと同じ組織で働き続けることは、まず考えにくいです。だとしたら、「組織を離れても自分の力で稼ぐ能力」すなわち「市場で稼ぐ力」を、身に付けていくしかありません。「市場で稼げない人」になってしまうと、本当は離れたい組織であっても、そこにしがみつくしかなくなります。そして、そんな人生は幸せとはいい難いです。
その「市場で稼ぐ力」をどうやって身に付ければいいのかというと、土日だけで副業をしてみるとか(週末起業ってやつですね)、フリーマーケットに参加するとか、ブログでアクセスを集めるとか、始めはそんなことでいいのだそうです。
★★★
かなり長くなってしまいましたが、まだまだ書けそうなくらい、ポイントがぎゅうぎゅうにつまっている本書です。
きっと、年齢、職業、立場によって、人それぞれ琴線に触れる箇所は異なるでしょう。何せ、ツアー旅行ではなく個人旅行ですから、プランは本当に千差万別です。
本書をもとに、自分の働き方を、人生を、ぜひじっくり考えてみてください。暗い話題も多い世の中ですが、私はちきりんさんの本を読むと、いつも何だかわくわくしてきます。
働き方が2種類選べて、しかもツアーじゃなくてオリジナル。
それってちょっと、楽しそうです。
- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/06/12
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