チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

1分間のために100万円

先日、初めて(初めて!)能の舞台を観に行ってきた。予約するときに、GINZA SIXの地下に能楽堂があることを初めて知りました。演目は『花筐』と『鉄輪』。

前者は、お慕いしていた継体天皇が上洛するっていうんで別れなきゃいけなくなった照日ノ前が、悲しくて彷徨っているうちに都まで来ちゃったという話。後者は、前夫を恨んで丑の刻参りをしていた女が鬼と化すも、安倍晴明によって退散させられ、めでたしめでたしという話(だいぶ端折ってます)。セリフが何を言ってるのかよくわからなくても、なんとなくのストーリーが頭に入っていれば、とりあえず今がどういう場面なのかはわかる。

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眠い!

事前に能に関する情報をいろいろ集めていたら、「能は眠いよ」「眠いよね」「眠いです」というコメントが散見されたので、「そっか、眠いんだ」と思って行ったら本当に眠かった。昨今は映画120分でも座っているのがかったるいという人がいるのに、能の舞台は途中休憩や狂言をはさむとはいえ3時間以上ある。3時間以上拘束されて、セリフも何を言っているのかよくわからないもんを観に行くのだから、けっこう気合いを入れて「よっしゃ!」という感じで臨まなければならない。金額も安くはない(今回は7000円)。やはり「よっしゃ!」というガッツが必要である。

『花筐』『鉄輪』の合計時間がだいたい約2時間半くらいだったと思うのだけど、正直そのうちの9割の時間は「眠いなー」と思っていた。しかし、残りの1割の時間だけは「何だこりゃ?」と思って観ていた。私は人の怨念渦巻いている系の話がけっこう好きなので、ストーリー的には丑の刻参りが出てくる『鉄輪』のほうが好みなのだけど、憤怒に駆られた女がしずしずと舞台を歩いている様子はまさしく幽霊みたいで、本当に怖かった。

そして、人が扇を手に舞っている姿も美しい。あの世にいるみたいで綺麗だった。

全然関係ないけど、バイコヌールに行きたいんだよね

3時間以上の時間のほとんどを「眠いなー」と思って過ごしていたのだから、なんて非効率な時間とお金の使い方だと思われても仕方ない。でも、あの丑の刻参りの女の幽霊みたいな感じと、この世の重力じゃない感じで舞っている能楽師の姿を見ることができたので、それに7000円を払ったのだと思えばまあ良いのではないかと自分では思っている。時間にしたら15分もないくらいだけど、別に3時間以上の公演だからといって、3時間まるっと楽しませてくれなくてもいい。その中で、きらめく瞬間が一瞬でもあればいい。

そして、一瞬、という言葉で思い出したのだけど、私はいつかカザフスタンのバイコヌール宇宙基地に行ってソユーズロケットの打ち上げを見たい。種子島でいいじゃんと思われるかもしれないが、バイコヌールは種子島よりも発射地点の近くまで行けるようで、迫力がちがうらしい。風と轟音がすごくて、他の何にも喩えようがない体験ができるそうだ。他のものに喩えようがない、というのはなんとなくわかる。だって、宇宙に行くんだもの。

ただ、バイコヌールに行ってロケット発射の見学をするのは個人だとなかなか難しいらしくて、専門業者のツアーで行ったほうがいいっていうんだけど、このツアーがだいたい1回100万円くらいする。ロケットの打ち上げはたった1分間だ。もちろん、バイコヌールっていう特殊な都市を見ることができたりだとか、ロケットのために100万円も出す他のツアー参加者との交流とか、そういうのもついてまわるので、純粋なる「1分間のために100万円」というわけではないけど。まあ、でもまだ今の私にはロケットに100万円払う勇気はちょっとない。ぐぬぬ……。

人類は、いまだに宇宙に関しては「ほぼ何もわかってないに等しい」状態らしい。私は、というか現時点で生きている人はみんな、宇宙のことをほぼ何もわからないまま死ぬ。

それってすごくロマンがあるけど、同時にやっぱり、めちゃくちゃ悔しいよね。

バイコヌール宇宙基地の廃墟

バイコヌール宇宙基地の廃墟