アレクセイ・ゲルマンに比べればタランティーノはただのディズニー映画だ。
ウンベルト・エーコ(哲学者、小説家)
この映画は強烈な竜巻のごとく、全ての映画を粉砕する威力がある。
ユーリ・ノルシュテイン(映画監督)
ウンベルト・エーコとユーリ・ノルシュテインにこういわれたら観に行かないわけにはいかないので、アレクセイ・ゲルマンの『神々のたそがれ』という映画を観て来ました。関東では、渋谷のユーロスペースにて公開されています。なお、原題は『神様はつらい』らしいです。
これ、これから観に行く人はがんばってくださいね、なんといっても3時間の大作ですからね、3時間。私は一応うたた寝せずに全部観ましたけど、3時間この映像を観てるのいろんな意味でちょっとキツかったです。
あらすじ
いつも映画の感想文を書くときはあらすじなんて丁寧なものは絶対に書いてやらない私ですが、今回はあらすじを書きます。なぜなら、アンドレイ・タルコフスキーの『ストーカー』と同じストガルツキー兄弟が原作であるこの物語、映画を観ただけではちょっとストーリーが追えないというか、話が難解だからです。
舞台は地球より800年ほど発達が遅れた惑星アルカナルで、そこへ地球から数十人の学者が派遣されます。人間は未来からやってきた神のような扱いを受けますが、惑星の文明はルネサンス初期の様相を見せたまま進歩せず、王権守護大臣ドン・レバによる知識人狩りが始まります(……と書いていて、なるほどそういう話だったのかと納得している私)。
というわけで一応SF映画ということになるのでしょうが、ロボットは出て来ないし、別の惑星の話だけど宇宙っぽくないし、まったくもってサイエンス・フィクションぽくない作品です。中世を舞台にした時代劇だよ、といわれたほうがすんなり行くかもしれません。
なぜならこちらの映画、めちゃめちゃワイルドなのです。道はぐちゃぐちゃ歩く人は泥だらけ、戦ったらドロっとした血が飛び散って内臓がどろーんとお目見え、絞首刑にされた死体がそのへんをぶらんぶらんしております。出てくる人、絶対に何日もお風呂入ってないでしょってかんじなのです。くさそう。
あとこちらは予告編で見ることができますが、首に縄をつけて集団で歩かせるやつ、あれはなんて名前なんですかね。きっと中世に実際に使われていたものでこういうのがあるんでしょうが、残酷ですよね。
荒廃した土地、野生性
アレクセイ・ゲルマンはロシアの映画監督なのですが、ロシアといわれて連想するのはやはりアンドレイ・タルコフスキー。物語中のワイルドな描写とは裏腹に、冒頭とラストシーンは静謐な雪景色まさしくロシアの映画だなあというかんじで、特にラストで音楽が奏でられるところでは鳥肌が立ちました。緑豊かな自然とかを美しいとかんじるのは当然なのですが、アレクセイ・ゲルマンやタルコフスキーが描くような荒廃した土地、廃墟のような自然にも、私はすごく心を惹かれてしまいます。
しかしそれにしても、こういうナマの人間の野生性というか暴力性というか、そういうのを見せられてしまうと、つくづく我々は「近代社会」というやつに護られているんだなあとかんじます。なかなか難解な映画なので、「神様はみなつらい」という現代の意味を考えるところまで行けませんでしたが、コアな映画ファンを唸らせる作品ではあったと思います。
3時間がんばった甲斐はあった、かな?