チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

トントン拍子に進むことは幸先がいい

昨年の秋、ものすごく落ち込むことがあって、「ちくしょう、もう全部どうでもいいや。全部どうでもいいから、私が今行ける場所でもっとも遠いところまで行こう……」と思い立ち、決心したのがアルゼンチンへの旅だった。今ここが「日本・東京」だとすると、もっとも遠いところ=地球の裏側=どっかの海になるのだけど、まあさすがに海に行ってもしょうがないので、その海の近くのアルゼンチンに行くことに決めたわけである。私はどこかのファッション通販サイトの社長ではないのでさすがに月には行けないが、庶民が行けるところという範囲で考えると、言葉通り「今行けるもっとも遠いところ」に行く。単純というか、バカかな? と思うが、「ちくしょう、もう全部どうでもいいや」で旅先が決まるのだから、人間少しくらい落ち込んどくもんだなと思う。

「もう全部どうでもいい」ので、いくらお金がかかったって構わないし、南米の治安とかもどうでもいいやと思ったのだけど、しかし巡り合わせというのはあるのかもしれない。ちょうど友人に「ブエノスアイレスに行ってみたい」と言っていた子がいたので、一緒に行かないかと誘ってみたらトントン拍子で話は進み、航空券ももう取った。物事がスムーズに運ぶととても嬉しい。煩わしさがないとか、ラクだとか、そういうことではなくて、なんだか幸先がいいな、と思う。スピリチュアルな奇跡は信じない人間だけど、何かに呼ばれているような気がして嬉しい。良い方向に向かっているのだな、と思う。

そういえば、今の私にとって大切な居場所のひとつである現在の会社に入るときも、話はトントン拍子に進んだ。前の会社を退職して無職のまま何も考えずに中東を旅していたとき、アテネのホテルでゴロゴロしながらTwitterを見ていたのが、現在の会社に入ったきっかけだ。失業保険を受給しようと準備を進めていたのに、結局もらわずにすっと次の居場所が決まった。なんだか不思議な巡り合わせだったな、と今振り返ってみても思う。トントン拍子で話が進むのは、運命のGOサインである。スピリチュアルな奇跡は信じない人間だけど、私は不思議な巡り合わせをGOサインだと思っている。

もちろん、すべてのことがスムーズに行くなんてことはありえないので、なかなか上手く進まないことでも頑張ってみる価値はある。GOサインが落とし穴である可能性もなくはないし、未来は誰にもわからない。似たようなことは以前も書いたけれど、私が感じていることはただの「回顧的錯覚」である。まあでも、「回顧的錯覚」を感じていられるんだから、たとえ落ち込むことがあっても、私はなんだかんだで元気なんだろう。「幸先がいいな」と感じられる出来事があることが、私は嬉しい。

aniram-czech.hatenablog.com

もうひとつ、「話が進むな」と感じられていることとして、創作活動がある。文フリに出展することで1回区切りはつくだろう、気が済むだろうと昨年は思っていたのだ。だけど、なんだかんだで今年も書くことになっている。書きたいことがバンバン思いつくし、「創作脳」を上手く刺激することに私は成功したらしい。友人にプロの小説家が何人かいるので気が引ける面もあり、創作に関してはあくまで「趣味です」といい張って言い逃れをしているのだけど、まわりの人に刺激をもらいながら、もっと上手く書けるようになったらいいなといつも思っている。気が引けるのでまだまだ「趣味です」で言い逃れているが、この活動もそのうちどこかで趣味の範疇を超えられたらいいな。まあ、あまりストイックにやりすぎると死んでしまうのでチンタラやりますが、「もうちょっと頑張って続けてみる価値がある活動だ」と天にささやかれている(と私が勝手に思い込んでる)ので、なんだか今年もやっている。

あと、昨年の秋にメンタル的にがくっと落ち込んだことで、脳の一部が開眼し感受性が豊かになってしまったのか、今、小説を読むとだいたい何を読んでもめっっちゃ沁みる。それまではモノクロの文章がただ並んでいたけれど、今の私が読む文章はどれも色彩豊かで美しい。映画みたいに情景が浮かぶし、一文一文にものすごく感動して、手で触れることができる。やばいクスリでもやったかな? と思う。友人が書いた文章も(本人に上手く伝わっているかはわからないが)「ものすごく綺麗だ!」と心の底から賞賛しているし、なんだか日々、五感がふるふる動いている。やっぱり誰かが私の飲み物にやばいクスリを盛っているのかもしれない。

ちなみに、成田空港からブエノスアイレスまでの航空券の値段は9万円だ。たった9万円で、私は「今行けるもっとも遠いところ」に飛べる。地球が狭いことを幸福と思うべきか、不幸と思うべきか。きっと幸福だと思うべきなんだろうな。

「もっとも遠いところ」なんて、実はそんなに遠くない。

お気に入りの映画音楽でプレイリスト作った

Spotifyで私がたまに通勤電車の中とかで聴いているお気に入りの映画音楽のリストを作りました。でもIT企業に出入りしているわりにはクソほど情弱なのでちゃんと公開できているのかわかりません。「見られない!」とかあったら教えてください。あとめちゃ本名出ているけど私は気にしていないので気にしないでください(ざ、雑〜〜!)。

open.spotify.com

特徴としては、ジム・ジャームッシュ率が高い。だってジャームッシュの映画音楽かっこいいんだもんね。あと、これそもそも映画自体を知らない人にとっては、聴いて楽しいものなのかどうか不明です。音楽をきっかけに映画のほうも観てもらえたら嬉しいけれど、その行動を起こさせるには幾分……私のセンスが……足りないかも。。。

1. Louie Louie

コーヒー&シガレッツジム・ジャームッシュ

私が初めて観たジャームッシュの映画が『コーヒー&シガレッツ』で、「世の中にはこんなにセンスのいい人がいるのか!?」と腰を抜かしたのはいい思い出です。以来ジャームッシュが大好きになったけど、20代の途中「世の中にいるオシャレなやつは全員死ね!!!」という謎のルサンチマンを抱える奇病にかかってしまったため、ジャームッシュから一時遠のいてしまいました。最近は一周まわってまた好き。

2. Yegelle Tezeta

ブロークン・フラワーズジム・ジャームッシュ

ブロークンフラワーズ [DVD]

ブロークンフラワーズ [DVD]

これもジャームッシュで、『コーヒー&シガレッツ』にも出ているビル・マーレイが主演。映画自体はそんなに好きでもないのだけど(私は今でもジャームッシュの真髄はモノクロームの映像にある気がするのだ)、曲自体は好きでわりと聴いている。

3. Happy Together

ブエノスアイレスウォン・カーウァイ

ウォン・カーウァイの映画音楽も好きなものが多くて、『花様年華』の曲も探したけどSpotifyになかった。この曲はアルゼンチンから台湾に帰国した主人公が、別れた恋人や友人を思い浮かべながら「生きていればまた会えるさ」と独白するときにかかる曲です。

4. Moonchild

バッファロー’66ヴィンセント・ギャロ

バッファロー'66』で、クリスティーナ・リッチがボーリング場でタップダンスするときの曲。どうでもいいけどこの映画のクリスティーナ・リッチはむちむちしててかわいいなといつ観ても思う。

5. In Heaven

イレイザーヘッドデヴィッド・リンチ

天国ではすべてが上手く行く。天国では何でも手に入る。あなたのよろこびも私のよろこびも、天国では何もかもいい気持ち。ラジエーターの中に住む(?)小人が精子のメタファーらしいエイリアンを踏み潰しながら歌う曲。この世では何も上手くいかないし、何も手に入らないし、あなたのよろこびも私のよろこびも何もない。絶望する、いい曲。

6. I Put a Spell on You

ストレンジャー・ザン・パラダイスジム・ジャームッシュ

この曲は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』という映画と一緒だからいいんであって、これ単独で聴くとシブすぎるのではないか? とリストに入れるにあたって懸念している。でもこれが流れるエンディングとてもいい〜。ジム・ジャームッシュはオシャレでムカつくけど天才だなあと思う。

7. Sinnerman

インランド・エンパイアデヴィッド・リンチ

私の中で、『マルホランド・ドライブ』と並んで「デヴィッド・リンチの良さがよくわからない映画」ツートップの『インランド・エンパイア』。だけどこの曲が流れるエンディングだけとても好きで、映画館で爆睡していたのだけど目が覚めたことをおぼえています。かっこいい!

8. Jazz Suite No.2:6 Waltz II

アイズ・ワイド・シャットスタンリー・キューブリック
ニンフォマニアック』ラース・フォン・トリアー

二度にわたってエロい映画に使われているため、私の中ですっかり「エロい曲の人」ということになってしまったドミトリー・ショスタコーヴィッチ。クラシックに詳しい人に怒られてしまうのではないか。

9. One

マグノリアポール・トーマス・アンダーソン

高校生のとき、『海辺のカフカ』を読んだ直後くらいに『マグノリア』を観たんだけど、どちらも魚とかカエルが空から大量に降ってくるシーンがある。どちらもフィクションなのだけど、それが強く残っていて、「そうか、空から突然、大量の生き物が降ってくるということが世の中には“ある”んだな」と私は思った。もしも空から魚やカエルが突然、たくさん降ってくる現場に出くわしても、きっと私はたいして驚かないだろう。だってそういうことは“ある”んだから。

10. Paint It,Black

フルメタル・ジャケットスタンリー・キューブリック

キューブリックの作品で『アイズ・ワイド・シャット』の次に好きなのが『フルメタル・ジャケット』なんです。これはエンディングで流れる曲だ。

11. VitaminC

インヒアレント・ヴァイスポール・トーマス・アンダーソン

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)

この映画の原作はトマス・ピンチョンの『LAヴァイス』。早く読みたいなと思いつつ、今年はピンチョン作品として『重力の虹』を読むと決めているので、LAヴァイスを読むのはまた来年以降かな……。

12. Jockey Full Of Bourbon

ダウン・バイ・ロージム・ジャームッシュ

この曲は『ダウン・バイ・ロー』のオープニングでかかるやつです。このオープニングもめちゃかっこよくて、高校生か大学生のときに観てセンスが良すぎて絶望した記憶がある。ところで、私がいちばん好きなジャームッシュの映画音楽は『デッドマン』のニール・ヤングのやつなのですが、Spotifyになかった。

13. Love Is A Song

『光りの墓』アピチャッポン・ウィーラセタクン

光りの墓 [DVD]

光りの墓 [DVD]

最後はアピチャッポンにしました。これもいい曲だけど、私はこれより『世紀の光』のエンディングテーマが好きだ。でもSpotifyになかった。アピチャッポンの映画音楽も好きなものが多い。全体的に、ジャームッシュデヴィッド・リンチポール・トーマス・アンダーソンの曲のセンスがたぶん私は好きなんだな……。


箸休めと思って聴いてくれたら嬉しいです!

「だんらん日和」「DIGITALIST」「りっすん」「AM」に寄稿しました

昨年末にせっせせっせと書いていた記事が、最近まとめて公開になりました。どれも自分的にはとても気に入っているやつなので、ぜひご一読いただけると嬉しいです。

1.だんらん日和

www.danlan.jp

私にしては珍しく(?)あまり語ることのない家族(特に父)について書いたエッセイ。サムネイルの写真は0歳の私。この写真を選ぶために「もう面倒だから今年はいっか」と思っていた帰省をちゃんとしたので、結果的にはこのエッセイを書いたことが親孝行的だったともいえる……実家、神奈川県なんですけど全然寄り付きません。でもこちらで書いたとおり、親は特に何も言わないです。仲が悪いわけじゃないのだけど、「好きと干渉はちがうでしょ?」というちょっとドライな家庭。でもこれが普通だと思って生きてきたので、大人になるまでは特に自分の家庭がドライだとは思っていませんでした。

ちなみにこちらの写真はボツにしたサムネイル写真候補です。表情を変えずに猫ちゃんを撫でる私。


2.DIGITALIST

project.nikkeibp.co.jp
project.nikkeibp.co.jp
こちらは連載第2回で、次で完結の予定。前回分と合わせて読んでもらえると嬉しいやつです。

ちなみにこちらのDIGITALISTさんは「何書いてもいいよ」と言ってくださっていて、本当に私が好きなことを思うがままに書かせてもらっています。そのため参考文献がやたら多い。積み上げるとそこそこな高さになります。

3.りっすん

www.e-aidem.com

「りっすん」さんにはお馴染みの旅ネタでエッセイを書かせてもらいました。2018年に行った南イタリアの話をメインにしている。

イタリアって、旅行先としては定番だと思うじゃないですか。実際、定番としての楽しさもあるんですよ。でも、奥が深すぎる。初心者でも楽しめて、玄人をも飽きさせないってコンテンツとして最強では?(※コンテンツではありません)

私がこれまで行ったことのある都市は北からフィレンツェシエナアッシジ、オルヴィエト、タルクィニア、ローマ、スカンノ、ナポリ、マテーラ、アルベロベッロパレルモですが、まだ!!! ミラノにもヴェネチアにもボローニャにも行ったことがないんですよ。そんなことってある?? たぶんそのうちまた行きます。

もうチェコ好きからイタリア好きに改名すべきではと思うほど私はイタリアを愛してるのですが、この国は観光地としてのポテンシャルが高すぎるので、悪いけど凡百の国では勝てません。騙されたと思って一度訪れてみてほしい。

4.AM

am-our.com

いつも連載でお世話になっているAM、今回は特集への寄稿です。特集のテーマは「不倫」。

記事ではハンナ・アーレントマルティン・ハイデガーの話をしていますが、アーレントナチスを支持したハイデガーを最後まで責めきれなくて、まわりのユダヤ人に良く思われなかったみたいです。アーレントハイデガーのことをどれくらい好きだったかはわからないけど、アーレントほどの人でも、好きな人は責められないんだなと思った(別に好きとか関係なく、単純にアーレントの思想がハイデガーを責めたてるような質のものではなかったのかもしれませんが。このあたりは私も不勉強なので、『全体主義の起源』など読もうと思います)。


2月にも、いくつか寄稿した記事が公開される予定です。またお知らせするので、読んでもらえたら嬉しいです。

私小説とSNSで「どこまで」書くか

年末年始に『死の棘』を読んでいたのだけど、どちらかというとこの私小説の登場人物である島尾ミホに焦点を当てた『狂うひと』のほうが読みたかった。『死の棘』は『狂うひと』を読むにあたっての、いってみれば前座である。(ただ前座といっても600ページ以上ある!)


死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)


『死の棘』が出版された当時のことをもちろん私は知らないのだけど(1977年)、夫の浮気を知って気が狂った妻を極限まで描いたスキャンダラスな純愛「小説」として、つまり多くの創作を含む作品だとしてこれまで受け止められてきたらしい。しかし『狂うひと』の著者である梯久美子は、遺された膨大な資料をもとに、小説の中にあったやりとりが実際にあったこと、実際の日記の文面がそのまま小説に登場していること、また著者・敏雄が書いた文章を狂った当の本人である妻・ミホが清書していたことなどを明らかにしていく。さらに小説の中でミホに「あいつ」とだけ呼ばれ続けた、敏雄の愛人にあたる人物を特定している。


狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ


『狂うひと』の中では明らかにされる真実がいくつもあるのだけど、その一つに「敏雄の浮気はどうやって発覚したのか?」がある。夫側の『死の棘』では「見ることのないはずだった敏雄の日記を、ふとしたきっかけでミホが見てしまった」という体で話が進んでいく。しかしこの評伝では、夫婦に日記を共有する習慣があったことなどから、「敏雄があえてミホに日記を見せた」がより真実に近いことが明らかになる。敏雄は、ミホと出会った奄美加計呂麻島で、特攻隊員として戦争で死ぬはずだった。生き残ってしまったのは誤算だった。そこで、妻であるミホを狂わせることによって、文学者としてあえて自分の身を極限の状態に追いやったのではないか。本当に狂っていたのは、ミホではなく敏雄だったのではないか──暴かれていく「本当の話」に、ちょっと背筋が凍る。


しかし遺された資料をもとに書かれた評伝であるとはいえ、この評伝がどこまで真実に近いのかも、またわからない。真実は誰が知っているのか。故人である敏雄とミホなら知っているのか。でも、私はそれもまたわからないなーと思う。敏雄から見た真実と、ミホから見た真実は、おそらく違うのではないだろうか。本人が書いた日記を見ればわかるものなのか。だけど人は、誰に見せるわけでもない日記帳の中でも、簡単に嘘をつく。「書く」あるいは「語る」という行為そのものが、嘘を孕むものなのではないだろうか。


梯久美子氏は、『死の棘』で「書かれる者」だったミホが、自らの日記などをもとに「『死の棘』妻の側から」なる原稿を準備していたことも明らかにしている。その原稿は結局日の目を見ることなくミホは亡くなったが、彼女は「書かれる者」で終わることなく「書く者」になることで、きっと自分の側から見た真実を遺そうと思ったのだろう。


『死の棘』と『狂うひと』が抱える問題は、気難しい顔をした小説家や文学者だけが唸っていればいい話ではない。むしろ、誰もが「書く者」である権利を手にした現代でこそ、「どこまで、何を書くか」という問題は表面化する。真実を書こうとすれば、おそらく関係する誰かを傷つける。その攻撃性に気付かない書き手は愚かだと私は思う。別に誰を揶揄するわけでもないが、恋愛や結婚について赤裸々に書く者を持ち上げるムードがあることに、私は今後も反対し続けるだろう。


ただ、では「何も書かない」ことが正しいのかというと、私はそうも思っていない。「文学に対する考えはひとそれぞれでしょうが、ぼくだったら、それを書かないということは、文学が現実に負けたということであり、社会に負けたということであると理解します」という吉本隆明の言葉が、『狂うひと」では引用されている。私はこの吉本隆明の言葉に賛同するわけではないけれど、おそらくこの問題にわかりやすい「正解」はない。


加計呂麻島で出会った敏雄とミホの「隊長さま(島を守りにきた神)と無垢な少女(聖なる巫女)との出会い」という構図が崩れていくさまもまた、興味深い。敏雄は守りにというよりは自分も仲間も死ぬつもりで島にやってきたし、ミホはハイカラな当時としては進歩的な女性で、無垢な少女などでは決してなかった。情欲のまま行動してミホに梅毒を移した敏雄は、自分がこの戦争が終わったあとも生き残ることなど到底考えていなかったのだろう。物語を美しくすることも、また過剰に汚らわしくすることもできる。「書く」というのはそもそもがそういう行為だ。


ちなみにこの本について他の人の感想をネットで探していたら、故・雨宮まみさんの書評が見つかったのだけど、読んだらとても面白かった。『死の棘』『狂うひと』と合わせて、ぜひ一読をおすすめする。「書く」ことには必ず何らかのコントロールが加わっている。だとしたら「読む」者にも、ある程度の批判的な目線が必要なのかもしれない。


それはもちろん、こういう時代である、現代だからこそだ。

ものを書く人間は、みんな嘘つきです。一度も嘘を書いたことがないというもの書きがいたら、その人も嘘つきです。面白い方向に事実をねじ曲げる、会話のニュアンスを微妙に変えるといった明らかな嘘以前に、何を書いて、何を書かないかという取捨選択があります。その判断は、どんなにフェアにやったって、限りなく黒に近いグレーじゃないでしょうか。

spur.hpplus.jp


aniram-czech.hatenablog.com

個人的なオールタイムベスト10の映画

「好きな映画を10本あげてくれ」といわれたらそのときどきで気分によって3〜4本入れ替わったりするのだけど、2019年1月時点だと私はこれらの映画が好きだ、と思うやつを10本まとめました。何のために? 自己満足のために……。なお、上位の作品は本当に好きなやつなのであまり気分によって入れ替わったりせず、下に行くほど次にまとめるときは消えていたりします。


一部視聴が難しい作品もあるのだけど、この1年でどの作品も1回ずつくらい見直せたらいいなと思っている。

1.『ノスタルジアアンドレイ・タルコフスキー


Blu-ray&DVD『ノスタルジア』CM「雨」篇

私はこの地球上のすべての映画の中でこれがいちばん好きで、初めて観た18歳のときから不動の1位をキープし続けている。たぶんもう、生涯でこれを超える作品には出会えないんだろうな。すべてのシーンに既視感があって、「私の頭の中をこんなに知っている人がいるなんて、嘘だ」と最初は思いました。その後、この映画のロケ地をまわるためにイタリアのトスカーナ地方を旅行。その旅行をきっかけに海外によく行くようになり、会社辞めたりしているので、私の人生に多大な影響を及ぼしすぎである。

2.『庭園』ヤン・シュヴァンクマイエル

コンプリートBOXの値段を見たらクソみたいに高かった……。また日本でシュヴァンクマイエル人気が再熱して、いろいろな作品が視聴しやすくなるといいな。昨年引退を表明した彼の作品の中で私がいちばん好きなのは、実は『オテサーネク』でも『悦楽共犯者』でもなくこの『庭園』という15分程度の短編なのだった。ちなみにチェコ語のタイトルは『Zahrada』。


ネタバレになるから詳しくは語らないけど、全編を通してものすごく意地悪だなと思うし、ブラックユーモアと悪意に満ちている。虚無であり、絶望である。生きているのが嫌になる。人を食ったような映画である。

3.『世紀の光』アピチャッポン・ウィーラセタクン


『世紀の光』予告編

アピチャッポンの映画はだいたい好きなのだけど、いちばん好きなのはこれ。ちょっとネタバレをしてしまうと、前半と後半で「くり返し」が起こる。自分が幽霊になってしまったような感じになって、すごく気持ち悪いので好き。

4.『世界』ジャ・ジャンクー


世界(字幕版)

中国・北京にある"世界"を模した小さなテーマパークで働く主人公たち。パリの凱旋門もタージ・マハルもピラミッドもあるのに、どこにも行けない、ここから出られない。予告編にもあるけど、凱旋門から噴水がふぁ〜〜〜と出てくるところが綺麗すぎていつも鳥肌が立ってしまう。鬱屈としている感じや閉塞感が何ともいえない。

5.『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』若松孝二

youtu.be

山本直樹のマンガ『レッド』を昨年読んだのだけど、この映画を観たときと同じヒヤヒヤ感というか、「他人事じゃない感」があったな。現状が不満で、何かを変えたくて、でも地に足はついていなくて、ただ頭の中の理想だけが暴走していく。私もわりとそういうところがあるので、これらの作品に触れて「気を付けよう……」といつも思っています。

6.『神々のたそがれ』アレクセイ・ゲルマン


アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』予告編

この映画、まず長い。3時間くらいある。3時間ずっと面白いか飽きないかといわれると、正直途中ちょっとウトウトしちゃうところもある。でも、ラストシーンが好きすぎてすべて吹っ飛ぶ。私たちはこういうところからやってきたし、いつかこういうところへ還っていくんじゃないかなあと思う。

7.『パラダイス・ナウ』ハニ・アブ・アサド

youtu.be

自爆テロに挑むパレスチナの若者が主人公。パレスチナという土地に生まれ、ムスリムとして生きるとはどういうことなのか、本当に考えさせられる。アサド監督の作品を人に勧めるなら恋愛モノの『オマールの壁』なんだけど、個人的に好きなのはこっち。

8.『アイズ・ワイド・シャットスタンリー・キューブリック

今回まとめた中でいちばん視聴しやすい作品はこれ、なぜならAmazonプライムビデオにあるから。他のはDVDを買うとかそもそもDVDが入手しづらいとかなのだけど、これだけはいつでも観られます! 私はキューブリックの中でこれがいちばん好き。というか『時計じかけのオレンジ』別に全然好きじゃないし、なんなら『2001年宇宙の旅』についてはどこがいいのかよくわかっていません。


前もこのブログのどこかで書いたけど、この映画の乱交パーティーのシーンが美しくてエロいのでめっちゃ好き!

9.『イレイザー・ヘッド』デヴィッド・リンチ


映画「イレイザーヘッド」日本版劇場予告

去年アップリンクで観て、好きが再熱した作品。すごく簡単に説明すると、ガールフレンドを妊娠させちゃったので彼女とその家族に結婚を迫られ、「俺の人生、終わった」となっている映画。つまり最低である。でもなんかすごく好きなんだよな。きっと私がガキだからだろう。主人公の消しゴム頭くんは、ちょっとホールデン・コールフィールドみがある。

10.『去年マリエンバードで』アラン・レネ

youtu.be

脚本はアラン・ロブ=グリエ。豪華な館で出会った男が、女に「去年マリエンバードで会いましたよね」という。だけど、女は男に会った覚えがない。軽率なナンパだろうか。だけど、「去年会いましたよね」「私たちは愛し合った」とくり返しいわれるたび、それらしい根拠を見つけるたび、女は自分の記憶に確信が持てなくなっていく……という話。こういう話がもともとすごく好きなのと、映像は白黒ながら構図がとても美しくてうっとりする。

ーーーーーーーーーーーーーーー

今年は、2018年より少し多めに映画を観られるといいな。

とりあえず、いちばん観やすいのはプライムビデオに入ってる『アイズ・ワイド・シャット』なので、みんな乱交パーティーのシーンを観て〜!