世の中の人の多くが実践しているストレス解消法として、温泉地、リゾート地に行く、という方法があると思います。
私も、物欲はあまりないのですが、代わりに旅行欲はものすごいあるんですね。それでも、高校生〜大学3年くらいまでは、いかんせん中2病でしたので、温泉地やリゾート地なんかに興味はなく、アジアかヨーロッパか南米でないと出かける価値はないと思っていました。笑
しかし、大学4年くらいから、私のなかで温泉地・リゾート地の株が急上昇。要するに、人生に疲れてきたんですね……。
実際、2011年には、ハワイに出かけています。私が高校のときバカにしていた、ワイハことハワイ。
★★★
ところで、現在私のなかで「最も行きたいリゾート」として急上昇しているのが、タヒチです。
ハワイは、上の写真のようにビルが立ち並んでいたりして、「アメリカ」っぽいというか、ちょっと「バブル」なニオイがします。オアフ島だけかもしれませんが。
一方、タヒチは、そういった近代的なものの手垢にまみれていないというか、手つかずのままの「楽園」といった感じがします。(あくまで“感じ”です。行ったことありませんので。笑)
が、もちろん、実際に出かけるのは容易ではありません。HISのサイトで調べてみたところ、安く行っても最低15万円はかかるようです。ちなみに、私のアコガレであるボラボラ島の水上コテージに泊まると、30万円。
タヒチに行くことは、私が人生において成しとげたいことの1つなので(そんなことでいいのか)、いずれ必ず行くことになると思うのですが、
「今すぐ」
「明日にでも」
出かけるのは不可能です。残念ながら。
タヒチなんか興味ない……という方でも、YouTubeとかでタヒチの動画を見れば考えが変わるはず。はず。
透きとおった青い海と、晴れわたった空に、生い茂る自然。海のなかの魚たち。
タヒチの動画を見ながら、仕事のこととか、将来のこととか、日々の雑事のこととか、考えられますか? 私は、ちょっと考えられないです。
地上に、これだけ美しいものがある。それだけで、今日もごはんがおいしいです。
★★★
動画だけ? もちろんそんなことはありません。まだまだ続きますよ。
「地上最後の楽園」とよばれるタヒチの美しさは、芸術家をも魅了しました。なかでも、タヒチときいて真っ先に思い浮かぶのは、画家のポール・ゴーギャンでしょう。
彼は西洋文明に絶望し、楽園をもとめて1891年、タヒチにわたります。しかし彼が見た楽園はそこにはなく、ゴーギャンは、貧困と病苦にさいなまれます。
『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』
『タヒチの女(浜辺にて)』
私は観光気分で能天気に「タヒチ〜 タヒチ〜」といっていますが、もちろん、現地の人には現地の人の生活があります。
生身の人間が住んでいる以上、各人が描く「理想どおりの夢の楽園」は、そこにはないのかもしれません。しかし、タヒチで貧困と病苦にあえいだゴーギャンの極彩色の絵画を見ると、地上にはなくても、彼の頭のなかに、たしかに「タヒチという楽園」はあったのだと、そう思います。
ちなみに、このゴーギャンの伝記から暗示を得て書かれたサマセット・モームの小説が、これ。
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どういうわけか、彼はある日から芸術に憑りつかれてしまい、妻も子も資産も名誉も捨て、パリのボロアパートで絵画を描きまくる生活を始めます。
彼の才能を見出し、援助をしてくれる友人も現れますが、こともあろうにストリックランドは、この友人の愛妻をうばった挙句、彼女を自殺に追い込みます。
芸術的創造欲と数点の自作の絵画以外、何もかも失った彼は、逃れるようにタヒチへわたります。
そこで現地の女性と同棲し、癩病によって盲目になりながら、自分の宿命と魂と執念のすべてをこめて、壮麗な大壁画を完成させます。
そして、だれに見せることなく、その大壁画に、火を放つ。
芸術とは、美しくすばらしいものでありますが、
ときに驚異であり、残酷であり、人を狂わせるものでもあるのです。
天才とは、暴力的なまでのエネルギーの塊なのです。
『月と六ペンス』は、私がもっとも好きな小説のうちの1つです。
★★★
タヒチを舞台にした小説として、もう1つおすすめしたいのが、これ。
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主人公の瑛子は、「虹」というタヒチアンレストランに就職し、フロア係のチーフとして働きます。
しかしあるとき、彼女の母親が亡くなったことへの精神的疲労も重なって、過労でたおれてしまいます。
復帰するのも難しく、瑛子はしばらく、タヒチアンレストランのオーナーの家の家政婦として、仕事をします。オーナーの家の植物や動物を大切に世話しているうちに、瑛子とオーナーは徐々に心を通わせていくのですが、オーナーには奥さんと、もうじき生まれる赤ちゃんが……
ちょっと昼ドラ的な展開ですが、瑛子はオーナーとの関係をやっとの思いで断ち切り、療養もかねて、念願のタヒチへわたります。
タヒチのビーチや、珊瑚、レモン色の鮫がゆっくりと海を泳いでいるようす、そして夜の闇。
自然の描写が何とも美しく、原マスミさんの挿絵や、巻末の写真にもうっとりです。
★★★
またまた万人向けでない「ストレス解消法」でしたが、日々の雑事を忘れ、ただただ美しいものに心の焦点を合わせること。とてもすっきりするので、ぜひお試しあれ、です。
タヒチに行きたい。