大学4年間と、大学院2年間、計6年間を映画の研究に費やしたという、稀有な(無謀な)経歴の持ち主な私。
「おすすめの映画は?」と聞かれれば、もちろん「ヤン・シュヴァンクマイエル」と答えたいところだけれど、
(※シュヴァンクマイエルって何?という方は下記参照)
ヤン・シュヴァンクマイエル 忙しいビジネスマンに、究極のシュルレアリスムを! - チェコ好きの日記
シュヴァンクマイエルはいささか個性が強すぎるので、ちょっと控えめに、「アンドレイ・タルコフスキー」とでもいっておきましょうか。
控えめに、とはいったものの、タルコフスキーの映画は、「世界でいちばん美しい映画」だと、私は思っています(シュヴァンクマイエルより美しいです)。
そんなタルコフスキーの映画の1つに、『ノスタルジア』という映画があります。私は、この作品のロケ地を、大学院のゼミ生たちや教授と、訪れたことがあるのです。
今回から続く連載エントリでは、私の2010年の、『ノスタルジア』のロケ地をめぐった、半月ばかりのイタリアでの旅の思い出を書いていこうと思います。
前回、「たった1つの方法」と銘打って、「心のセーフティーネットを作るために本を読むべきだ」とのべましたが、
超強力なセーフティーネットを心に作るために行なう、たった1つのこと - チェコ好きの日記
本を読むことは「たった1つの方法」ではもちろんなく、旅をすることもまた、「心のセーフティーネット」を作る方法の1つなのです。
実際、仕事や何やかやで辛くなったとき、今の私を支えてくれるのは、このときの旅行の思い出だったりします。
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さて、『ノスタルジア』という映画は、1983年、ロシア人の映画監督であるアンドレイ・タルコフスキーが、イタリアを舞台に撮った作品です。
タルコフスキーは、この映画を公開した後の1984年、ソ連からイタリアに、亡命しています。
彼の、瞑想的で難解な映画は、ソ連当局から批判をあび、自由な映画作りを求めて、タルコフスキーは国外へ脱出したのです。
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ある音楽家――パーヴェル・サスノフスキーは、18世紀にイタリアを放浪し、祖国であるロシアに帰国すれば奴隷になることを知りながら、それでも故郷へ帰り、自殺を遂げます。
ゴルチャコフは、サスノフスキーの足跡をたどっているうちに、ある村でドメニコという初老の男に会います。ドメニコは、世界の終末から家族を救おうと、妻子を7年間も家に閉じ込めており、村人から狂人扱いされています。
監督であるタルコフスキーが、主人公のゴルチャコフに、そして音楽家のサスノフスキーに自らを重ねていることは明らかで、さらにそこに、謎の狂人ドメニコが登場してくる。
何とも重苦しい空気がただよう映画で、決して気軽に見られる映画ではありません。
でも、深く深く、心のひだの奥に染みてくるこの作品は、見終わったあと、長い眠りから覚めたような、深い瞑想から解放されたような、何ともいえない不思議な気分になるのです。
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一方、2010年といえば、私は大学院生1年で、この旅行に行った3月は、何と就活の真っ最中でした。
就活シーズン真っ只中の3月に、半月も日本から離れるなんて、本当によくやったというか、アホだったなあと思います。せっかく通ったのに、この旅行のために断った面接も、いくつかありました。
でも、日本でせせこましくエントリーシートや面接に明け暮れるより、タルコフスキーの『ノスタルジア』を追って、彼の見た世界を追体験するほうが、
長い目で見れば得るものが大きいんじゃないかと思ったのです。
そんなわけで、私は2010年3月19日、成田空港から、パリのシャルル・ド・ゴール空港を経由して、イタリア、フィレンツェの地をふんだのでした。
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フィレンツェの中心地に入る前に、まず訪れたのが、フィエーゾレという、フィレンツェの外側の郊外のまち。
小高い丘の上であるフィエーゾレは、観光客もわれわれ以外はほとんどおらず、のんびり教会を見学したり、
お風呂の遺跡を見たり(テルマエ・ロマエ……)
貴族の庭園を見たり。
西洋の庭園には、「グロッタ」という何かキモチワルイ空間があったりしますが、
これがずばり、「グロテスク」という言葉の由来だったりします。
美しい庭園のなかに、なぜわざわざこんな空間をつくったのか。
「グロッタ」は庭園のなかでも、独特の空気がただよう場所であり、訪れる者は、何かいけないモノを見てしまったかのような気分になります。
迷路の先の、秘密の場所。
この後、いよいよ中心地であるフィレンツェに向かいます。
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この連載はかなり長くなることが予想されますので、間に別のエントリもはさみながら、
書くほうも読むほうも飽きずにやっていけたらいいと思います。
気長によろしくお願いしますぜひ。
続きはこちら:
旅をすることで人生は変わる フィレンツェ編 - チェコ好きの日記