みなさんは、「この死に方だけはイヤだ……」と思っている最期はありますでしょうか? 私はというと、幼少期に観た映画(何の映画かは記憶にない)の影響で、「機械に巻き込まれて死ぬ」という最期の迎え方に、尋常ならざる恐怖を抱いています。船のモーターに巻き込まれて死ぬとか、工場の機械に巻き込まれて死ぬとか、そういうやつですね。
★★★
ところで先日、久々に池袋新文芸座でオールナイト上映を観てきました。オールナイトで映画を観ることは正直肉体労働に近いものがあって、上映が終わった後は心身ともにぐったりと疲れています。オールナイトで映画を観た後のその1日は、身体のあちこちがずっと痛いし、空腹なのか満腹なのかよくわからなくなっているし、とにかく何をするにもダルいので、結果だけ見れば非生産的なことこの上ない。なのに、その不健康さがクセになるのか、ときどき無性に行きたくなるんですよね。
去る5/31(土)に行ったオールナイト上映は「西部! 政治! 戦争! オヤジたちの熱い夜」というテーマで、上映作品はサム・ペキンパー『ワイルドバンチ』とロバート・アルドリッチ『合衆国最後の日』、アンドリュー・マクラグレンの『ワイルド・ギース』。後半2本は眠気に耐えられず途中の記憶がありませんが、夢うつつのなかで観たわりには面白かったです。
しかし、今回の目玉は何といってもサム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』。かなり久々に観ましたが、「こんなに面白かったっけ!?」って思いました。めちゃくちゃ激しい映画なので、イライラモヤモヤしていてだれかに当たり散らしたいときに観るのがおすすめです。そして久々にこの映画を観たことで、私の「こんな死に方はイヤだ」リストにまた1つ、新しい項目が加わりました。
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『ワイルドバンチ』の陽気な残酷さ
映画のタイトルになっている「ワイルドバンチ」とは、主人公のパイクが率いる強盗団の名前で、物語の舞台は1913年のテキサスです。私も詳しいことは知らないんですが「最後の西部劇」といわれており、西部劇に引導をわたした映画、といわれています。
The Wild Bunch (S. Peckinpah) - Trailer - YouTube
西部劇って詳しく調べるとたぶんアメリカ文化のこととかがいろいろわかって面白いと思うんですが、それはとりあえず置いておくとして、『ワイルドバンチ』です。パイク率いる強盗団はメキシコ政府軍からアメリカ軍用列車の武器を盗むよう命じられ、それに従うのですが、メキシコ政府軍に恨みをもっていた強盗団の仲間の1人・エンジェルが、途中で裏切りを起こすんですね。エンジェルはメキシコ政府軍に捕らえられ、そこでひきまわしの刑にあうのです……。
この映画のおそろしいところは、冒頭に虫がうじゃうじゃ蠢いている超気持ち悪いカットがあったり、銃撃戦で人を殺しまくっていたり、顔面血だらけの人間を車でひきまわしていたりするのに、そのときに流れる音楽やムードが一貫して陽気なものであることです。かつて公開処刑は庶民のエンターテイメントだった、なんて話は聞きますが、『ワイルドバンチ』におけるひきまわしの刑はまさにそれです。パイクの仲間であるエンジェルが顔面血だらけの埃だらけのズダ袋みたいな状態になって、メキシコ政府軍の将軍マパッチが乗る車に引きずりまわされるシーンの、その陽気なこと。音楽が流れ、マパッチは美女とともに車の上で楽しそうに笑い、まわりの住人も音楽に合わせてダンスをしたり、ひきまわしにあうエンジェルを指さして笑っていたりします。『ワイルドバンチ』のいちばんの見所はやっぱりラストシーンだと思うんですが、このひきまわしのシーンはそれに次ぐ名シーンだといえるでしょう。
私たちの世代(1980年代後半以降生まれ?)って、「西部劇」のイメージやあの楽しそうな音楽の記憶を、幼い頃に行ったディズニーランドからもってきているような気がするんですよね。少なくとも私はそうで、西部劇っぽい音楽を聞くと何となくディズニーランドを連想します。しかし、あの陽気な音楽の後ろで、そこに住む人々が何をやっていたのかを考えると、のほほんと遊んでいる場合ではなくなります。西部劇もウォルト・ディズニーもアメリカ文化の一部を担ってきたことはまちがいないわけで、このあたりももうちょっと突っ込んでみたいなー、と思っています。
というわけで、私のなかで「こんな死に方はイヤだ」1位は「機械に巻き込まれて死ぬ」、2位は「ひきまわし」となりました。しかし現代日本に生きている限り、車にひきまわされてリンチされた上公開処刑にあうことはまずないと考えてよさそうなので、そういう点では安心です。
とにかくラストシーン。ラストシーンを観よう!
『ワイルドバンチ』を伝説的な映画にしたのはおそらくこのラストシーンがあったからなので、これを大スクリーンで観る機会がもてて本当によかったなと思いました。エンジェルを救うために、パイクたちがたった4人で200人くらいいるメキシコ政府軍にのりこんでいき、銃撃戦となります。このシーンはもう「すごい」としかいいようがないです。銃声とダイナマイトの音と叫び声だけで構成される約5分。鳥肌たちますよ。最後の最後で出てくるハゲタカの群れが、これもう完璧に美しいです……。
★★★
「個人的にトラウマになるくらい後味の悪かった映画7選 - チェコ好きの日記」でも書きましたが、映画体験ってトラウマになることも多いです。「機械に巻き込まれて死ぬのが怖い」は、完璧な私のトラウマです。映画そのものの記憶は失われて、ただトラウマのみが残ることもあります。
ただ、これは「良いトラウマ」なので、私は今後もたくさんトラウマを作っていきたいです。改めて、近年はちょっと存在感が薄い気もしますが、映画ってやっぱり強力なメディアだよなぁと思いました。