チェコ好きの日記

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「収入が少ないので貯金ができません」をいかにして解決するか

なぞなぞです。あなたは今、経済的な悩みを抱えています。具体的にいうと、収入が少ないせいか、なかなか貯金ができません。

さて、そんなお悩みを解決したいと思ったとき、あなたが読むのは次のA~Eの5冊のうちどれですか?

A 『年収200万円からの貯金生活宣言
B 『松浦弥太郎の新しいお金術
C 『鈴木さんにも分かるネットの未来 (岩波新書)
D 『離散するユダヤ人―イスラエルへの旅から (岩波新書)
E 『逃走論―スキゾ・キッズの冒険 (ちくま文庫)

★★★

最初に種明かしをしてしまうと、なぞなぞといいましたが特に正解や不正解があるわけではありません。ちなみに私は上記の5冊、全部読んだことがあります。そして、A~Eは適当に並べたわけではなく、「収入が少ないので貯金ができない」という悩みに対して、Aに近いほど具体性が高い解決策を、Eに近いほど抽象性が高い解決策を提示してくれる本を選んだつもりです。

「収入が少ないので貯金ができない」という悩みに対して、A『年収200万円からの貯金生活宣言』を読もうとするのは普通に意味わかりますよね。説明するまでもありません。年収200万円でも貯金ができる方法があるなら、自分もやってみればできるかもしれないと、手に取ってみる人は多いはずです。

Bも、本のタイトルに「お金」と入っているので、こちらも冗長な説明をする必要はないでしょう。Aに比べると、具体的な方法が書いてあるわけではなく精神論的な要素が多くなるので抽象度が高まりますが、そこまで切羽詰っているわけでなければこちらのほうに手が伸びる人もいるかもしれません。

ちょっと説明が必要になりそうなのはCからでしょうか。なぜ「貯金ができない」という悩みから「ネットの未来」を予測する本に手が伸びたのか? あるいは、なぜ「貯金ができない」という悩みからユダヤ人の離散について、あるいはドゥルーズ=ガタリのテクストを語る本に手が伸びたのか? あくまで私の場合ですが、ざっくばらんにお話しますと、以下のようになります。全部説明するとめんどくさいので、D『離散するユダヤ人―イスラエルへの旅から (岩波新書)』を例として出しましょう。

1 収入が少ないので思うように貯金ができません
       ↓
2 なぜ私は貯金ができないのだ。こんな現実はおかしい
       ↓
3 今私が見ている現実とは別の現実があるはずだ
       ↓
4 たとえばユダヤ教キリスト教イスラム教を信じていて、中東に住んでいる人たちとかだったら、私とはまったく異なる目線で世界を見ているだろうから、彼らの目線に近付くことができれば今のこの現実とは異なる世界が見えるはずだ
       ↓
5 3つの宗教の聖地に行ってみたい! すなわちイスラエル
       ↓
6 今すぐには行けないのでまずはイスラエルに関する本を読もう

……念のため自分をフォローしておくと、私は四六時中お金のことを考えているわけではありません。さらにいうと、本当に矢印の順序どおりにステップを踏んで『離散するユダヤ人』という本を手に取ったわけではなく、上記でいえば4か5くらいのところから考え出して本に手が伸びました。3より若い数字は、このエントリを書くための後付けというか、「どうして私は中東に住む人々の目線に近付きたいのだろう?」というのをざくざく深堀りして考えていった結果、こういうことだろうという結論にいたっただけです。しかも、上記の2とかかなり強引というかこじつけなので、本当は私だってもうちょっと複雑なことを考えています。何のフォローをしているのかわからなくなってきた。

人は高尚なことなんてちっとも考えてない

最初にあげた5冊はいずれも(ちょっと無理に深掘りして元をたどれば)、「収入が少ないので貯金が思うようにできません」という、共通のお悩みを解決するために手に取った本でした。だけど実際に元の悩みを解決してくれそうなのは、AかギリギリBくらいで、Cからはだいぶズレた話になってきます。Dなんか読んでも全然解決になってないどころか「あんた海外旅行なんて行ったらますます貯金できなくなるでしょうが」ってかんじです。だけど、繰り返しますがたぶん(ちょっと無理に深掘りして元をたどれば)同じ悩みを解決するためのアプローチだったのです。

人がどういった動機で本を手に取るかはさまざまだとは思いますが、私はまちがっても知識欲のために本を読んだりなんかしません。それらはあくまで自分のなかにある問題を解決するためのもので、どの本もどの本も、私は藁をもすがる思いで手に取っています。その割には積ん読が多いですねというツッコミは甘んじて受け入れますが、自分がそんなふうにして本に助けを求めているせいか、あんまり読書をしない人って自分のなかに問題がたいしてない人なんじゃないかと私は思ってしまうんですよね。そして、皮肉でも嫌味でもなく、素直に、読まないで済むならそのほうがいいよって思います。読書量は私の煩悩と悩みの量です。

……が、本エントリの主旨は「読書とは」なんてことを語りたいわけではまったくないのでそれはそれとして、なんでこんな話を始めたのかというと、本棚(あるいはKindleの中身)を見ると、その持ち主が具体的な方法での問題解決が好きなのか、抽象的な方法での問題解決が好きなのか、どっちなのかわかりますねということがいいたかったのです。たとえば『年収200万円からの貯金生活宣言』なんかはタイトルを見れば、その本を買った人が何を問題視していて、何を解決したいのかわかります。だけど、『逃走論―スキゾ・キッズの冒険 (ちくま文庫)』はタイトルはおろか中身を全部通して読んでも、その人が具体的に何を問題視していて、何を解決したかったのかわかりません。私自身はなんのために『逃走論』を読んだんだっけな、もう忘れちゃいました。だけど、ちょっと無理に深堀りして元をたどれば、せいぜい「貯金ができません」とか「朝寒くて布団から出たくありません」とか「腰痛がつらいです」とか、そんなもんだと思います。人はそんな高尚なことなんて考えていなくて、集約すると悩みなんて「金」「人間関係」かのどっちかです。それを、具体的な方法を使って解決しようとする人と、抽象的な方法を使って解決しようとする人がいるだけです。

もちろん、どっちがエラくてどっちがエラくないとかっていう話でもありません。どちらにもメリットとデメリットがある。具体的なアプローチが好きな人は、問題に手っ取り早く取り組めるぶん、視野狭窄に陥ってそれ以上の根本解決ができないことがあります。一方、抽象的なアプローチが好きな人は、ぐるぐるぐるぐる同じような場所を迂回して、結局ただの言葉遊びで終わってしまうことが多いですが、そのぶん問題を多角的に捉えることができる……と信じたいですね、私は抽象的な方向にばっかり走るタイプなので。

さて、ここまで読んでくださった方のなかには、「コイツは何をわけのわかんないことをいってるんだ」とお思いの方もいるかもしれません。だけど、先日のエントリ
2015年、読んでよかった本ベスト5 #読み終わった本リスト Advent Calendar 2015 - チェコ好きの日記」のなかで私が絶賛している『暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)』は、今回の持論を裏付けるのに一役買って出てくれるでしょう。本書が解決しようと挑戦する〈お悩み〉は、「なんか退屈だし、暇だなあ」という女子高生みたいなものですが、そのお悩みを解決するために、哲学、経済、歴史の話が登場します。元をたどるとめちゃくちゃ世俗的な話なんだけど、根本の根本の根本を解決しようと思ってさかのぼっていったら超高尚な話になってしまった、ということの1つの例と考えていいのではないでしょうか。

絶対にそうだと思うので繰り返しますが、人はそんな高尚なことなんて考えていなくて、集約すると悩みなんて「金」「人間関係」かのどっちかです。それを解決するために、具体的に考える人と抽象的に考える人がいるだけです。何がいいたいのかというと、具体的に考えがちな人は抽象的に考えがちな人を敬遠しないでほしいし、抽象的に考えがちな人は「お前はいいから黙って支出を抑えろ」ということです。というか、せっかくいろいろな考え方をする人がいるのだから、お互いに助け合って長所を学んでいきたいものですね。

「収入が少ないので貯金ができません」。あなたはどうやって解決しますか?


※参考にしました
anond.hatelabo.jp

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