チェコ好きの日記

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古代社会を想う 池澤夏樹『ハワイイ紀行』

GWですね! 普段はイライラしていたり、顔色が悪い人が多い駅のホームも、休みのせいかポカポカと暖かいこの気候のせいか、みんな朗らかでいい表情です。

さて、以前こちらのエントリで書いたのは、リゾート地であるタヒチ
ストレス解消法としてのタヒチ妄想 - チェコ好きの日記

今回は、GW特集ということで、リゾート地の代表である、あのハワイについて、私の思うところを書いてみようと思います。

私は2年前の2011年、ハワイを訪れたことがあるのですが、事前準備が甘かったため、日本人の多いエリアで「THE・ハワイ」な楽しみ方しかできなかったのが、心残りといえば心残り。ハワイはいつか、私だけの「Hawaii」を体感できるように、再訪してリベンジをしたいところです。

「Hawaiiリベンジ」をかなえるために読んだのが、池澤夏樹さんの『ハワイイ紀行』。

ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫)

ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫)

日本人はハワイのことを「ハワイ」とよびますが、本来の発音はHawaii、つまり「ハワイイ」らしいです。

以下、目次。

1 淋しい島
2 オヒアの花
3 秘密の花園
4 タロ芋畑でつかまえて
5 アロハ・オエ
6 神々の前で踊る
7 生き返った言葉
8 波の島、風の島
9 星の羅針盤
10 エリックス5の航海
11 鳥たちの島
12 マウナケア山頂の大きな眼

古代社会を想う

私たちにとってなじみ深い「ハワイ」といえば、ご存じ、免税店やワイキキビーチ、ダイヤモンドヘッドがならぶオアフ島
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でも、ハワイイはもちろんオアフ島だけではありません。巨大なハワイイ島やマウイ島、モロカイ島、ラナイ島、カウアイ島など、「ネイバーアイランド」とよばれる、日本人のあまり行かない島々があるのです。

池澤さんは本書で、オアフ島にも行っていますが、それよりも強い印象を残すのは、こういったネイバーアイランドの島々。

今は飛行機でお手軽に行けるイメージの強いハワイイ諸島ですが、実は、ミクロネシアとよばれるグアム島の地域とも、メラネシアとよばれるニューギニアあたりの地域とも、ポリネシアとよばれるタヒチやマルケサスなどの島々とも離れた距離にある、絶海の孤島なのです。

すると疑問に思ってしまうのが、航海技術のない古代社会の人々は、どのようにしてこの「絶海の孤島」にたどりつき、そして住みついたのかということ。

人口が過剰になり住みにくくなった元の島々から、おそらく何百年という時間と何千人という犠牲をはらって、試行錯誤や偶然をたよりに、このハワイイ諸島へ移り住んできたのでしょうが、現代に生きる私たちからすると、気の遠くなるような話です。

(古代のポリネシアの人々の様子は、こちらの本でも知ることができます)

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

ハワイイ諸島で、池澤さんはフラやサーフィンの由来を探っていきながら、ポリネシアの古代社会の人々に思いを馳せます。

絶海の孤島に移り住み、山からの水でタロイモを作り、その他の野菜や果物、海からとれる魚を食べ、少数の貴族と神官と多くの一般民からなる、安定した社会。

その社会は、18世紀末から19世紀にかけて、突然やってきたヨーロッパ人によって、破壊されてしまいます。

このあたりの表現を、池澤さんは「古代から近代へジャンプした」といっているのですが、なるほど、と思ってしまいます。時間の流れは一様ではなく、一気に進んだり、遅れたりすることもあるのです。

時間の流れが異なる場所

アジアは、世界的にも土地利用率の高い地域で、家は狭いし、街も何だかゴミゴミしているのが特徴です。(そこが“アジアらしさ”であり、パワーがあふれていていいところでもあるんだけれど)

そんなアジア人の私たちにはちょっと想像しづらいですが、地球には「人の手が加えられていない土地」というのももちろんあって、ハワイイ諸島を一歩奥に入ると、乾燥しすぎていて使いようのない「未開の土地」が広がっています。

また、第二次世界大戦期には基地として利用されていたけれど、今はその役目を終え、鳥たちの住みつく平和な島と化した、ミッドウェイという島もあります。

池澤さんはこのミッドウェイという島を本書で訪れているのですが、そこは「鳥たち」が島の主であり、「人間」は部外者。島を覆い尽くすほどの鳥たちや動物たちを、池澤さんは陰に隠れてこっそり観察するのです。

どこもかしこも人がいっぱいのGW中は、地球上はすべて人間が支配しているものだと思いがちです。でも、太平洋の小さな島や、無人島では、そんな人間たちなんてお構いなし。

私たちが知っているものとは異なる時間が流れている場所が、確かにあるのです。

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そこでは、雨と風の音が、確かに、しっかり聞こえるのでしょう。