チェコ好きの日記

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2021年上半期に読んで面白かった本ベスト10

すごく遅くなりましたが恒例のやつです。今年の上半期に私が読んだ本の中で、面白かった本10冊のまとめ。まじで、だいぶ遅くなってしまった……「今年の上半期に出た本」ではなく、あくまで「私が読んだ本」の中で順位を決めています。

ちなみに2020年末のやつはこちら
aniram-czech.hatenablog.com

10位『八月の光ウィリアム・フォークナー

フォークナー、今の時代にすごく必要なメッセージが書かれているような気がするのでちょくちょく読んでいるんだけど、読みやすい小説ではないのでそんなにハマりきれていない自分がいる。今まで手にとった中でいちばん読みやすかったのはフォークナー本人が「金のために書いた」と言っている『サンクチュアリ』かな。笑 

八月の光』の主人公は、白人と黒人の混血児であるジョー・クリスマスである。自分は白人なのか、黒人なのか、どちらにも属せないでいる主人公の苦悩と悲劇。個人的には、ラストがリーナ・グローブの旅で終わるところが好きだ。

9位『最後の瞬間のすごく大きな変化』グレイス・ペイリー

グレイス・ペイリーの小説は初めて読んだ。翻訳は村上春樹。これまた読みやすくはない小説で、「これは皮肉のつもりで言ってるの? どういう意味なの?」みたいなセリフがけっこうあるので考えながら、ページを進める必要がある。

短編集『最後の瞬間のすごく大きな変化』で私がいちばん好きな話は、連載しているAMでも書いたけど『ノースイースト・プレイグラウンド』。11人のシングルマザーが登場する話だ。シングルマザー同士の対立や、「あなたたちの支援がしたい」と言いながらトンチンカンな提案をしてくる部外者など、本当に皮肉の塊のような意地悪な小説で、読後にほっこりしてしまう。

8位『マイトレイ/軽蔑』ミルチャ・エリアーデ,アルべルト・モラヴィア

個人的に、好きだったのはモラヴィアの『軽蔑』のほう。だいぶ前にゴダールがこれを映画化したやつを観ているはずなんだけど、全然内容を覚えていない!

私はたぶん「正しい選択なんてわからない、第三者が後付けであれこれ言うことはいくらでもできるが、そのとき自分が持っている情報のなかでより最適そうな回答を導き出すこと以外にできることはない」みたいな話がすごく好きなんだと思う。ラストシーンのおぞましいほどの美しさは、今回の10冊のなかでトップだと思っている。

7位『打ちのめされるようなすごい本』米原万里

これを読むと読みたい本リストが延々と増えていく感じの読書本なのかな〜と思い軽い気持ちで読み始めてみたら、確かに読書本の側面はあれど、晩年の米原万里がいかに癌と闘ったかという闘病記だった。そのため、文学やノンフィクション以外に、いかがわしいものも含めた癌関係の本がけっこう紹介されている。

米原万里といえど、自分の命が危うくなれば疑似科学に救いを求めてしまう。その様子にはとてもリアリティがある。しかし最後の最後で、自分の体を差し出してまで救いを求めた先の疑似科学に目が覚め、「間違っている」と告げるのは、やはり米原万里という人の強さなんだろうなと。高いお金を払って時間も自分の命も投資した疑似科学を最後の最後まで信じてしまう人はたくさんいるだろうし、私自身も病に侵されたら、そうならないとは限らない。

6位『雪を待つ』ラシャムジャ

チベットが舞台の小説。詳しい感想はnoteに書いた。個人的には「古き良き共同体を懐古する」みたいな感覚をほとんど持たない人間なんだけど、それはそれとして、主人公が山頂から自分たちの住んでいた村を眺める少年時代のラストシーンは素晴らしい。

マイ・ロスト・シティー』でスコット・フィッツジェラルドエンパイアステートビルにのぼってニューヨークの街を見下ろすシーンが好きなんだけど、「自分の住んでいた世界は、こんなちっぽけなものだったんだ」ってなる展開がたぶんツボなんだろうな。

5位『信号手』チャールズ・ディケンズ

こちらは青空文庫で読んだ短編。これが面白かったので、「世界怪談名作集」にあるものを以来、ちまちまと読んでいる。

「お〜い、下にいる人!」と列車の信号手に声をかけるところから始まって、あれ、なんかおかしいな……? と気づくホラー短編なんだけど、「ギャー!」って感じのホラーではなくて、じわじわ薄気味悪くて最高。加えて、ディケンズの命日に関するエピソードを合わせて読むと薄気味悪さ5割増しでなおいい感じです。

4位『パチンコ』ミン・ジン・リー

AMでも感想を書いたやつ。勢いのある娯楽小説(と私は思う)で、ほとんど寝ずに読んだのですぐに読み終わってしまった。在日韓国人の問題、女性差別の問題、障害者差別の問題など様々な視点から考えることができるけど、私が好きだったのは上巻p64にあった、以下のセリフ。弱さや邪悪さというのは、強者になったときに現れてくるものだ。

「本物の悪人がどういうやつか知りたいか。平凡な男をつかまえて、本人も夢見たことがないほどの成功を与えてやるだけでいい。どんなことでもできる立場になったとき、その人間の本性が現れる」

3位『ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅』

全然旅行に行ける気配がないので、こういう本を読んで気を紛らわせている。もう少し落ち着いたら国内旅行には行ってみようかなあ。ベタに軍艦島は行ってみたいと思っている。いつか行きたいのは、ブルガリア共産党ホール!

知っているところから知らないところも、「早くここに行きたい」が無限に溜まっていく旅行ガイド。

2位『完全版 池澤夏樹の世界文学リミックス』

池澤夏樹の世界文学全集を毎年1〜2冊くらいのペースで読み進めていて、まあ毎年1〜2冊なのでいつになったら完全制覇できるんだ!? という感じではあるのだけど、いつかは完全制覇するつもりで読んでいる。これは一足先に、その文学全集の全体像をつかもうと読んでみたやつ。知っている小説もほとんど知らなかった小説もあり、読みたい本リストに本が溜まっていくし、あと私は池澤夏樹の書評がやっぱり好きなんだなと気付かされる。

実際にこの中から手にとって読んでみたのはジョン・アップダイクの『走れウサギ (上) (白水Uブックス (64))』とか。女性的な観点で考えるとひどい小説なんだけど、私はアメリカ文学における「逃亡」ってどうしても魅力的に思ってしまうんだよな。

1位『失われた宗教を生きる人々』ジェラード・ラッセ

ずっと読みたい本リストの中に入れっぱなしだったのを、やっと今期になって読んだ本。失われゆく中東の宗教について取材した一冊なんですが、本当に失われつつある宗教っぽいので、10年後に信者の方が生きているのか不明です。

今もアフガニスタンが不穏な中等だけど、まずは、「中東=イスラム教」という認識を覆してくれる。レタスを食べるのをなぜか禁じているヤズィード教徒とか、イスラム教の宗派のひとつ? なのに輪廻転生を信じているドゥルーズ派とか、ゾロアスター教とか。それらはイスラム教よりキリスト教よりずっと歴史が古くて、特に「握手」の習慣はこれらの失われゆく宗教がキリスト教に与えた影響ではないか、みたいな仮説は面白かった。

そして、政情的に不安定な地域に住んでいるこれらの宗教の信者の方はしばしば他国に亡命するわけだけど、他国では自国での宗教を信じ続けることが難しかったり。特に結婚相手に制約がある宗教だと、亡命した途端に未婚のまま詰んでしまったり。やっぱり「宗教」と「土地」ってすごく密接な関係にあるんじゃないかと思わせてくれる本で、2021年上半期に読んでいちばん興味深かった一冊として、私はこれを推したい。