人間は、何を糧に生きているんでしょう。
- 作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2002/11/06
- メディア: 単行本
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本書の原題は、「心理学者、強制収容所を体験する」。アドラー、フロイトに師事した心理学者であるV・E・フランクルが、ユダヤ人として自らが収監されたナチスの強制収容所での体験を記したものです。
ところで、私は大学4年から大学院にかけて、チェコの映画をずっと研究していました。そのこともまたいつか詳しく書こうと思っているのですが、チェコとドイツは地理的に近いので、チェコの映画を調べると必然的にドイツのことを調べることにもなってきます。特に、私が大学院の修士論文のテーマとして選んだイジー・メンツルという監督の作品には、“第二次世界大戦中、ナチスドイツの占領下にあったチェコ”が舞台になっている作品が複数あります。たとえば『厳重に監視された列車』には、主人公の青年、ミロシュが親衛隊(SS)に連行されるシーンがありますし、『英国王給仕人に乾杯!』の主人公、ヤン・ジーチェはナチスの優生学研究所で働いています。
人類の歴史において、<ナチス>とは何だったのか? そのことを考えるためにも、ポーランドのアウシュヴィッツは私が人生において絶対行きたい、行かないと死ねない場所の1つなのであります。
本題
本書では、フランクルが体験した収容所での生活が描かれています。
凄惨で衝撃的な箇所はあげたらキリがありませんが、おそろしいことに、どんな環境であろうと人間は「慣れる」生き物らしいです。
収容所暮らしでは、一度も歯をみがかず、そしてあきらかにビタミンは極度に不足していたのに、歯茎は以前の栄養状態のよかったころより健康だった。あるいはまた、半年間、たった一枚の同じシャツを着て、どう見てもシャツとは言えなくなり、洗い場の水が凍ってしまったために、何日も体の一部なりと洗うこともままならず、傷だらけの手は土木作業のために汚れていたのに、傷口は化膿しなかった。
こういった生活面での「慣れ」はもちろん、ついさっきまで会話をしていた仲間が数分後には死体として床に転がっている……なんて状況にも、「慣れて」しまうらしく、何も感じなくなっていくそうです。考えてみれば当たり前で、収容所での生活が「日常」となってしまった以上、同胞の死にいちいち反応していたら身が持ちませんよね。人間の心と体には、良くも悪くも高性能な自己防衛機能がついているんだなあ、と思いました。
しかし、こういった様々な凄惨な記述以上に、本書においてやはり一番心に訴えるのは、収容所で被収容者たちがどのように精神を保っていたか、あるいは保てなかったか、ということに関する分析です。
収容所で精神を保てたのは、未来に希望を持つことができた者、そして家族でも仕事でも、自分以外の者では代替のきかない何らかの「役割」をもっていた者、だったそうです。いつかここを出て、家に帰って、妻や家族に会いたい。あるいは、ここを出たあと、体験記として収容所での出来事を分析したい。やりかけの仕事を終わらせたい。などなど。我々はもちろん、収容所生活をしているわけではありませんが、この部分は現代社会において、鬱病とかにならずにしっかりと心の健康を保つために覚えておいて損はないことだと思います。
さらに、収容所での芸術、被収容者がお互いに言い合っていた皮肉やギャグなんかが、かつてしていた自分の研究とリンクし、非常に興味深く読めました。どんな悲惨な状況でも、人間はギャグをとばして笑っていられる。いやむしろ、くだらないギャグで笑っていられる人間だけが、本当に生き残ることができる。
ユーモアと芸術は、どんな環境にある人間でも、救ってくれる。そして、ときに腐敗した政治に対抗する武器にもなる。そういうことを考えさせてくれる本でした。
私が紹介するまでもなく、言わずと知れた名著なので、おすすめです。
あと、本書を題材にした同名タイトルの映画は、私は院生のとき高田馬場で見て寝てしまった。もう一度見たい。アラン・レネ。
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- 発売日: 2009/02/20
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ついでに、これもある。これは学部生のときに見た。ナチスの収容所ではなく、日本の学生運動がテーマ。でも内容ほとんど覚えてない。大島渚。
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