京大卒という輝かしい学歴をもつにも関わらず、現在はニートとしてダラダラ生きているというphaさん。→phaの日記
テレビで特集されているのを偶然目にしたことがあったので、著者に関してはだいたい知っていました。そんなphaさんの本が出たということで、読んでみました。
本を出したりしている時点で厳密にいうと「ニート」じゃない、というのはご本人も自覚しているようです(?)。あと、phaさんは「ギークハウス」というシェアハウスの運営などもされているので、ただのニートではなく「ニートという名の起業家」といったほうがいいのかもしれません。でも、本によると年収は80万円くらいだそうで、それだったら確かに自称「ニート」でも許せなくはない。
ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法
- 作者: pha
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2012/08/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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目次は以下のとおり。
はじめに
第1章 ニートのネットワーク――僕がニートになった理由
第2章 ニートの日常風景――コミュニティとゆるい生活
第3章 ニートの暮らしかた――ネット時代の節約生活方法
第4章 ニートのこれから――社会・人間・インターネット
あとがき
働かざる者食うべからずって言葉が嫌いだ (P229)
…私も嫌いです。自分の経験と照らし合わせてみると、大学院時代、自分は学生だけど「チェコ映画」というまるで金にならなそうなものを研究していて、何も生み出していない感に苦しめられ死にそうになったことが何度かあります。
そもそも、人類が狩猟をやめ農業の生活に移行したり、交通機関や通信手段を発達させたり、暗くなったら営業おしまいでいいものを24時間営業のコンビニを誕生させたりしたのは何のためだったのか? というのを考えると、「働きたくなかったから」なはずなんですよね。イノシシやマンモスを捕まえたり、木の実を採取して生活することもできたんだけど、その日のおなかを満たしたらもう明日のごはんのことを考えないといけない。そんな不安な、そして大変な生活は嫌だから農業を発達させ、計画的にごはんがとれるようにした。あまった時間はのんびり遊んで暮らそう。だったはずなのに、こんどはその「あまった時間」で何かをしなくてはいけなくなった。そういうのが連綿と続いて来たのが人類の歴史です。
でも、ここまで科学が発達したのだから、ちょっとくらい「働かない人」がいても社会はまわるんじゃないの。というのがphaさんの考え方のようです。日本人全員が働かなくなったらやばいけど、ちょっとくらいなら。
とはいっても、だいたいの人間は、働かなくていいよ、何にもしなくていいよ、と言われても、ちょっと戸惑ってしまうでしょう。以前『夜と霧』 - チェコ好きの日記にも書いたけど、人間は希望がないと生きられない。自分のしていることが誰かを助けているという実感がないと不安で死んでしまいます。だから、phaさんのような真性ニートになれる人は心配しなくてもごくわずかです。phaさんはたぶん、ニート良いとこおいでおいでをやっているのではなくて、「働かない人間でも許容できるゆるやかな社会を創ろう」みたいなことを主張している気がします。
“一生ニート”でいられる人は、経済的にも精神的にもごくわずかだけど、“一時的にニートになってしまう人”は現在もいるし、今後も増えていくでしょう。私もそのうちの一人になるかもしれない。そういう立場の人に、「早く就職しろ」「働け」とつっつくのでなく、「少し旅行でも行ってきたら〜?」「しばらくのんびりすれば」的なことをいってあげられるゆるい社会になればいい。そして「キャリアのブランク」とか気にしない社会になってほしい。まじで。
ニートの才能 (p156)
phaさんいわく、一生ニートにしろ一時的ニートにしろ、ニートになるには才能がいる、とのこと。その才能とは、時間をつぶす才能です。
もうちょっとわかりやすく言い換えれば、「お金をかけずに楽しむ才能・一人でも楽しく過ごす才能」などとしてもいいと思います。
1000円くらいで買える古いゲームでずっと遊んでいられるとか(最新ゲームじゃないとつまんない人はニート向きでない)、図書館で借りた本読んでれば3日くらい平気で潰せるとか(読書が嫌いな人はニート向きでない)、ハーブを育てたり自家製ピクルスや自家製梅酒を作って料理したりとか(食にこだわりがない人、もしくは外食好きな人はニート向きでない)。
他にもプログラミングができて簡単なサイトを作れるとか、ブログを書くことを楽しめるとか、絵を描くことで時間を潰せるとか。
何かちょっと物を作ったりすることを楽しみにできる人は貧乏に強いらしいです。確かに、消費するのには何かとお金がかかるけど、作るのにはお金があんまりかからない。そして、消費は一瞬で終わるけど(ディズニーランドは閉園時間になってしまったらそれで終わりだ)、創作には終わりがない。小説なんていくらでも書き続けられるし、料理だって極めようと思ったらキリがない。そういう低コストでずっとハマれる趣味みたいなものをもっている人はニートが向いてるみたいです。
私はニート向いてる。あんまりうれしくないけど喜んでおく。
「完全自殺マニュアル」よりこっちのが明るい
いろいろ書きましたが、私がこの本を読み終わってまず思ったのは、「完全自殺マニュアル」の時代よりだいぶ生きやすくなったな、ということでした。
- 作者: 鶴見済
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 1993/07/01
- メディア: 単行本
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首吊りから焼身自殺まで、ありとあらゆる自殺の方法が書かれ、その方法が提示してある本書。大学時代、とにかく「やばい本読んだ奴勝ち」みたいな部分がうちの学科にはあった(?)ので、私もこんなこわい本を読んでみたりしていました。結局、部屋においとくのも何だか気分悪いので売ってしまい、今はもうないのですが。
この本の思想は、「いざとなったらこの本に書いてある方法で死ねばいいさ」「死んだらこの苦しみから解放される」みたいな感じです。
確かに死んだら苦しみから解放されるかもしれないけど、死ぬのはやっぱり面白くない。
そこで、20年近くたってやっとphaさんの本があらわれた。そんな感じがしました。
phaさんの本を読んでいると、働けなくなってお金なくなっても友達はできるし集まれるし、お金なんかなくてもけっこう充実した楽しい毎日を送れるし、「いざとなったらちょっとの期間ニートになればいいや」と思わせてくれます。相変わらず幸せ神話は崩壊したままだし、景気もよくならないけど、それでも何も死ぬことはない。貧乏でも楽しく暮らせるから、ちょっとのんびりしてまた働けばいいや。そう考えられるようになります。
いざとなったら死ぬしかなかった20年前。いざとなっても何とか楽しくやれる今。いい時代になったなー、と思いました。日本は確実に進歩しているぞ。
この時代に社会人になれてよかった。
年長者の意見を聞くことも大切かもしれないけど、やっぱりその時代に生きている自分たちの感覚をいちばん大事にすべきです。