チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

東京の美術館の、大きな大きな問題点

私のなかでけっこう長くひっかかっていた問題があったのですが、「でもまぁ、これたいしたことじゃないのかな?」と思って、表立ってはあまり深く考えてこなかったんですね。でも先日とある本を読んでいたら、まさに私がひっかかっていたその問題が出てきてたので、「あ、やっぱりたいしたことあったんだ」と考え直した次第です。

というわけで、今回はその”問題”、東京の美術館についていろいろ書きます。

奈良美智の作品はどこで観る?

奈良美智 美術手帖全記事1991-2013 (BT BOOKS)

最初にいっておくと、東京の美術館てすごく面白いんです。ルーブルなりオルセーなりエルミタージュなり、世界中の有名美術館のコレクションが次々にやってくるし、現代アートだって充実していると思います。でも、こういった期間限定の〈企画展〉に夢中になれるのって、たぶん私が「首都圏に住んでいる日本人」だからなんですよね。自分の住んでいるところに目新しい作品が次々にやってきたら、楽しいに決まってます。

でも逆の立場、つまり「首都圏に住んでいる日本人」ではなくて、「観光目的で日本を訪れる外国人」になってみたら、この状況ってちょっと「あれ?」ってかんじなんじゃないかと思いました。たとえば、私が旅行でパリやロンドンやニューヨークの美術館に行くとき、何が見たいと思うでしょうか。私の場合、パリだったらギュスターブ・モローとかフェルナン・レジェが見たいし、ロンドンだったらターナーウィリアム・モリスが見たいし、ニューヨークだったらウォーホルやジャクソン・ポロックが見たいと思います。そして欧米の美術館の場合、観光客のその欲求にきちんと答えられるよう、美術館ごとのコレクションに特色があるんですよね。

一方、東京の美術館はどうかというと、〈企画展〉は確かに面白いんですけど、「日本のこのアーティストの作品が見たい」となったときに、「あ、それならここで見れるよ」と案内できる美術館が、決定的に欠けている気がします。この問題が、まさに私が読んだ本『観光アート (光文社新書)』のなかにも登場します。

ところで、先日、フランス人の友人から「村上隆奈良美智以降の日本の若手現代アーティストの作品が見たいんだけれど、美術館はどこにあるの?」と聞かれ、ハタと困ってしまった。そう、彼らの作品がまとまっていつでも見られる場所は、この東京にはないのである。
(中略)
日本を訪れる外国人で、日本の美術や現代アートに関心を持っている人は多い。すなわち、日本の現代アートをまとまって見られる場所のニーズはとても高いのだ。そして、その場所に最もふさわしいのは、首都の東京であるのは論を俟たないだろう。(p.46)

観光アート (光文社新書)

観光アート (光文社新書)

私が日本の美術に関心を持っている外国人で、東京を観光しようと思ったら、どこに行くでしょうか。とりあえず、東京国立博物館は行きますよね、浮世絵とか仏像とかあるし。次は、根津美術館三鷹の森ジブリ美術館とか? その後は……ってなると、ちょっともうよくわからなくなっちゃう。東京には、「これが日本のアートです!」って胸張っていえる作品、美術館、あるいはその見せ方がもう決定的に足りないんじゃないかと思うのです。国立新美術館とかは、日本人として行くと面白いけど、外国人として行ったときは、はたして面白いのだろうか? と。要するに、〈企画展〉は面白いけど〈常設展〉が弱いしつまらないんじゃないかと、そんなことを考えました。これはもう、東京の美術館が徹底的に〈内向き〉に作られていて、まったく〈外〉が見れてないんじゃないかとか、なんかそういうことですね。

個人的にも、「会田誠のまとまった作品が見たい」「横尾忠則のまとまった作品が見たい」って思うことがあるんですけど、東京でそういった作品にすぐにアクセスできる場所ってそういえばないなぁと。美術館のレベルという点で考えると、東京はパリにも、ロンドンにも、ニューヨークにも到底かなわない。もちろん今から大英博物館とかメトロポリタン美術館みたいなのを作るのは無理ですし、ハナから勝負できそうにないなら諦めるしかないんですけど、対抗できそうなポテンシャルはあるのに勝負をしかけようとしない、その姿勢が実にもったいないなぁと思います。私が期待をしすぎなのでしょうか。

パリならルーブル、オルセー、ポンピドゥー・センター、ニューヨークならメトロポリタン、MoMA、グッゲンハイムといったように、欧米には「決定版」とも呼べる美術館がある。
逆に日本には、「日本ならこの美術館」という決定版に欠ける。それは、日本の美術館・博物館の規模が欧米と比較すると単純に小さいからということもできる。だが、老朽化した美術館の建物の維持に苦労するばかりで、コレクションを守るだけになってしまっている美術館が多いことが大きな要因として挙げられる。(p.64)
※強調は(チェコ好き)

地方の美術館は頑張っているらしい

そんな東京に比べて、地方の美術館は活性化に力を入れ、実際に成功しているという話を聞きます。私も行きたい行きたいと思って行けてないのですが、現代アートの島・直島や、青森県立美術館金沢21世紀美術館などは、高い評価を得ているらしい。

美術手帖 2012年 09月号

私はなかでも、青森県立美術館には行きたいなぁとずっと思っています。なぜかというと、奈良美智の160点近い作品を、展示替えなどはありつつも常設展で見ることができるからです。

私の個人的な趣味でいうと実はあまり奈良美智は好きじゃないんですけど、「ある特定の作家の作品にいつでも会える」っていう”常設展”を、やっぱり大切にしていったほうがいいんじゃないかなぁと考えているんですね。こちらの美術館は雪の季節に行くと美しいという噂を聞くので、本格的な冬になったら行ってみたいところです。

日本の美術館は、数だけは多いものの、そのほとんどは「箱モノ」美術館になってしまっているという問題点も、『観光アート』のなかで指摘されています。美術館が「箱モノ=悪者」になってしまうことで、「アートなんて金の無駄遣いだ!」って安易に考える人が増えてしまったら私は悲しいです。東京にしろ地方にしろ、「コレクションの方向性をはっきりさせ、特色のある美術館を作る」っていう課題に、関係者の方はぜひとも取り組んでいただきたいと思います。

先日「横浜トリエンナーレ2014」に行ってきたんですけど、アートはやっぱりべらぼうに面白いですからね。