私は典型的な「地図が読めない人」です。方向感覚がまるでないので、地図をくるくるまわしながら行ったり来たりをくり返す、とってもダサい人です。
「地図を読む」ってのは、本来まったく色気のない行為で、学生で就活をしていた頃に窮屈なスーツを着て、地下鉄の周辺をウロウロしていたことは、多くの人にとって決して輝かしい思い出ではないでしょう。地図が読めなくて説明会会場にたどりつけなかった(そして説明会をすっぽかした)ことがあるのも、私だけではない、はず……。
そんな「地図を読む」ことが、時としてとても官能的な行為(=このエントリにおいては“めっちゃ楽しい”くらいの意)として立ち現れることがあります。それは、地図は地図でも、「旅先の地図を読む」とき。今回は、そんな「旅」と「地図」に関する私の覚え書きです。
街が自分を拒んでいるところからスタート
旅行先を決め、ガイドブックをパラパラ眺めて行きたいところにだいたいの目星をつけた後は、計画を立てるためにまず目的地の地図を開くでしょう。ところが多くの場合、この段階で見る地図っていうのは死ぬほど見づらいです。自分の行きたい場所がどこにあるのかも、どうやってそこに行けばいいのかもわからないです。あと私の場合、目的地の最寄り駅の名前をすぐ忘れるため、ガイドブックと地図を何往復もして睨めっこするはめにはります。
当たり前だけれど、旅先というのは自分が普段生活していない場所であって(だからこそ旅行に行くわけで)、“私”という人間はそこにいることを想定されていないんですね。うまくいえないけれど、この段階で地図を見ると、「街が私を拒んでいる!」って思います。私が知らない場所で、人々はとても綿密な地図や地下鉄の路線図を作って、粛々と生活を営んでいるんだなぁと思うと、何とも不思議な気分になります。そして旅行に行くからには、“私が知らない場所”であるその土地のルールを、まずはしっかりと頭に叩き込む必要があります。郷に入っては郷に従え。地下鉄の路線図がだいたい頭に入ってくるまで、地図が手になじんでくるまで、これが旅行の「最初の洗礼」だと私は思っています。
街が心を開き始める
旅行に行く理由って人によって様々だとは思うんですけど、私の場合、「映画や小説で観た・読んだことが本当かどうか確かめに行く」「映画・小説の世界観を補強しに行く」みたいな理由であることが多いです。国内で温泉とかに行くときなんかは、もちろんこの限りではないですが。映画や小説で観た・読んだことが本当だったら本当だったで面白いし、嘘だったら嘘だったで発見だし、世界観が補強されたりあるいは夢がガラガラと崩れたり。とりあえずどんなことがあっても、「面白い面白い」と始終いっているのが旅行中の私です。
地図が手になじみ始めたり、地下鉄の乗り方やおおよその路線図がつかめてきたり、通りの名前を覚えてきたり、その段階になると、ようやく旅行先の街が自分に心を開き始めたような気がしてきます。地図をふむふむと眺めていると、昔映画や小説で知った聞き覚えのある地名がふと浮かび上がってきたりして、「こことここはこんなに近い場所にあったのか!」とか「◯◯◯ってここのことだったのか!」と発見するたびに机をバンバン叩いています。
地図が頭に入ってくると、街のほうも「ちょっとだけよ」といいながら、いろんな情報を小出しにして教えてくれるんですね。場所と場所がつながったり、あの作家とあの作家がつながったり、旅先がだんだん立体的に見えてくる過程。旅行の前から旅行は始まっていて、私は「街が心を開き始める」この段階は、旅行本番に匹敵するくらい楽しいものだと思っています。
街と仲良しになる
そして様々な準備を経て、いざ目的地へ旅立つわけですが、現地では想定内のことも想定外のこともたくさん起こります。嫌な思いをしたからもうあの駅に行きたくないとか、すごく美味しい店があったあの通りとか、死にそうになりながら歩いたあの橋(私は海外を旅行中に熱を出したことがある)、とか。今まで映画や小説のなかにしかない“フィクション”だったものが、“リアル”になっていく過程といいましょうか。フィクションよりリアルのほうがエライなんていうわけじゃありませんが、リアルな記憶となったその場所は、私の頭のなかできちんと呼吸をし始めます。
まぁ結局何がいいたいのかというと、会社員になってしまうと年に1〜2週間旅行に行くのが一般的には限界かと思うんですが、実際に現地に行くのは1〜2週間でも、“旅”は1〜2週間では終わらないし終われないよということです。地図を手にとり始めたその瞬間からすでに旅行は始まっているし、飛行機に乗って帰ってきた後も調べたいことがいろいろ出てくるので、ずっと現地に関連した本を読み続けるはめになります。そう考えると、前3カ月、後2カ月、1年の5カ月くらいを私は旅行に費やしているといっていいかもしれません。
地図を眺めているだけでこんなに楽しい気分になれるとは、自分はつくづくオメデタイ頭をしているなぁと思います。
A03 地球の歩き方 ロンドン 2014~2015 (ガイドブック)
- 作者: 地球の歩き方編集室
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2014/03/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (1件) を見る