チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

廃墟のなかのルネ・マグリット@国立新美術館

国立新美術館でやっている、マグリット展に行ってきました。6月29日まで開催しているようなので、気になっている人はあと1ヶ月です。
http://magritte2015.jp/magritte2015.jp

私はマグリット大好きなので、すぐ行こうすぐさま行こうと思っていたのに結局5月後半に行くというアレになってしまいましたが、この人の作品を一度にこれほどたくさん観たことって今までなかったので、結論からいうと大満足です。というわけで今回は、こちらの展覧会とルネ・マグリットに関する雑感です。

廃墟のなかのルネ・マグリット

私がいちばん好きなマグリットの作品が『光の帝国2』なんですが、こればっちり展示にありました。なので感激。
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『光の帝国2』(1950年)ニューヨーク近代美術館

私が解説するまでもないと思うんですが、この絵の心地よい薄気味悪さといったらないですよね。空は快晴、なのに家のまわりは暗く、街灯がぽっと点いている。

それで、これはもちろん正解とかはないんですけど、この絵を観た人に1つアンケートをとってみたいことがありまして。それが、「あなたはこの家のなかに、人がいると思いますか?」ってことなんですよね。ちなみに私が思うのは、「ついさっきまではいたけど、今は”いない”」。

それで、この「ついさっきまではいたけど、今は”いない”」、人の気配はするのに実際にはそこにだれもいない、というのは私が『光の帝国』に限らずマグリットの絵全体から受ける印象なんです。

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『夏』(1931年)イクセル美術館

人の気配はするのに実際にはそこにだれもいない、これってつまり「廃墟」に似てる。世の中には廃墟マニアと呼ばれるような人たちもいて、私自身はマニアというわけでは決してないんですが、やはり「廃墟」って惹かれるものがあります。軍艦島の写真集とか立ち読みしちゃいますよね(買わないけど)。「私たちはなぜ廃墟に惹かれるのか」みたいなことが書いてある本、学生時代にたくさん読んだんですが、なんでだか忘れちゃいました(忘れちゃったのかよ)。ちなみに、廃墟ではないけれど廃墟みたいに見える、という意味で好きな写真集が中野正貴の『TOKYO NOBODY』です。写真に登場する場所はすべて東京なのに、人間がだれ1人映っていない、という作品集です。

TOKYO NOBODY―中野正貴写真集

廃墟って、「昔使われていた場所」だから過去に属するはずのものなのだけど、そこに見えるのは「未来」だと私は思っています。自分が住んでいる家、街、いつも使っているお店や通っている学校、会社。それらを廃墟に重ねて、「いつかこんなふうになるのかもしれない」という未来を見る。上の『TOKYO NOBODY』なんかは、すごく近未来っぽい、SFっぽいんですよ。なにかの大災害が起きて、東京にだれも住めなくなって、みんなが逃げ出したらこの都市はこんなふうになるのかなっていう。

マグリットの作品も、過去っぽいかんじと未来っぽいかんじが同居しているように私は思います。この人の作品は「廃墟」っぽい、少なくとも私にとっては「廃墟」と受ける印象が限りなく同じだ、ということに気が付いたのは今回の展覧会の1つの収穫でしたね。

好きな絵を告白するの、めっちゃエロい

ところで、「好きな映画は?」とか「好きな小説家は?」とかっていう質問は日常でまあまあすることがあるし、されることもありますよね。だけど、「好きな絵は?」「好きな画家は?」という質問はあまりしないし、されない。それは別によくて、そのことに文句があるわけではないんですけど、好きな絵とか画家とかについて語るのは、映画とか小説とか漫画とかについて語るのの5倍くらいエロいな、と私は思うんです。

なぜなら、絵画には(基本的には)説明が何もない。「なんでそれが好きなの?」と聞かれても、理屈をいくつ並べようと最終的には「なんとなく……」としかいえないじゃないですか。映画とか漫画とかはそこらへん、明確な理由が返しやすいし、自分と相手でそれを共有しやすいと思うんです。だけど絵に対する印象や感想は、「私にはこう見えるんです」「なんとなくそんな気がするんです」としかいいようがない。だから、好きな絵画を聞くとよりその人の本質に迫りやすいのではないか、なんて考えます。

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『ガラスの鍵』(1959年)メニル・コレクション

上の『ガラスの鍵』という作品も私はすごく好きなんですが、「なんで?」と聞かれるとちょっと返しようがない。もちろん理屈をこねろといわれたらいくらでもこねこねしますが、どんな言葉を並べても、「私がこの絵を好きな理由」を言語で完璧に表現することはできないんですよね。

というわけで、今回の結論は「好きな絵を告白するの、めっちゃエロい」です。私は1人で行きましたが、美術館でデートするっていうのは案外有効なのかもしれませんね。