チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

2016年上半期に読んで面白かった本ベスト10

私は毎年年末になると「今年読んで面白かった本のまとめ」みたいなエントリを書いているのですが、今年は読んでいる本が昨年の倍くらいあるので、上半期で一度ベスト10をまとめておこうと思いました。ちなみにこれはあくまで「私が2016年上半期に読んだ本」なので、本の発売時期が2016年上半期という意味ではありません。

※2015年のまとめはこちら
aniram-czech.hatenablog.com

10 買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて/山内マリコ

買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて (文春文庫)

買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて (文春文庫)

『ここは退屈迎えに来て』の山内マリコさんのお買い物エッセイです。この手のエッセイってブランド物がずら〜っと並んでいるイメージがあって苦手だったのですが、こちらのなかには「冷え知らずさんのカレー」とか「ます寿司のピアス」とか庶民派チョイス・謎チョイスがあって面白かったです。そして読んでいて何品か「これいいな!」と思って自分で実際に買ったやつもあります。買って使ってみたら本当に良かったです。あと靴好きの女性に殺される覚悟でいうのですが、「クリスチャン・ルブタンはヤンキー」という文章にめちゃくちゃ共感しました。

9 TRANSIT 佐藤健寿特別編集号 美しき不思議な世界

「雑誌か」という突っ込みはごもっともなのですが、文章量の多い雑誌なので本としてカウントさせてほしい。TRANSITは大好きな雑誌なのですが、こちらの号はとりわけ面白かったです。写真家の佐藤健寿さんの旅を特集しているのですが、私も真似して踏破してみたいルートがいくつか。アイランドホッパーと呼ばれるユナイテッド航空の便を使って、グアムからチューク諸島、ポンペイ、そしてハワイ島へ行くやつをやってみたいです。あとはギリシャサントリーニ島からアモルゴス島、ロードス島、シミ島を通ってトルコのエフェソスに行くというルートも憧れます。

8 叫びと祈り/梓崎 優

叫びと祈り (創元推理文庫)

叫びと祈り (創元推理文庫)

これは、人に勧めてもらったミステリー小説です。海外の様々な土地を舞台に事件が起こるというオムニバス形式の短編集。私は1話目の、砂漠を行くキャラバンの話がすごい好きでした。「初めて足を踏み入れる人に見抜かれるほど、砂漠は甘くないよ」というセリフにときめきをかんじました。サハラ砂漠行きたい。ラクダに塩を運ばせたいです。砂漠に関する小説は、このあともう1冊出てきます。

7 最初に父が殺された/ルオン・ウン

最初に父が殺された―飢餓と虐殺の恐怖を越えて

最初に父が殺された―飢餓と虐殺の恐怖を越えて

昨年買って積ん読になっていた本を消化しました。カンボジアの、ポル・ポト政権を生き延びた女性の手記です。まだ幼かった著者は当時プノンペンに住んでいたのですが、ある日突然プノンペンにはいられないことになって、家族とともに農村に逃げていきます。そのとき、お母さんが著者に「これで手を拭きなさい」といってお札を差し出す場面があって、「これ、お金でしょ!」と著者は拒否するのですが、「いいのよ。もう価値なんてないんだから」とお母さんが諦めたようにいうところが衝撃的でした。そういうことがあるって頭では理解できるけど、エピソードとして読むとうわっと思います。あとは飢えすぎて頭がおかしくなる人の話とか、ブログに書くと【閲覧注意】になってしまう話がたくさんありました。

この本の著者は、ポル・ポト政権を生き延びた後アメリカに渡って、本を書いたり地雷撤去の運動を推進したりしているので、大変気概のある女性です。一方、同じく過酷な環境を生き延びた著者の姉は、あまり自分の意思がなく、弱気で臆病な女性として描かれています。姉は、ポル・ポト政権が滅びた後はカンボジア内で結婚し、ごく普通の母としての人生を歩みます。そんな姉を、著者は本のなかで「どうして姉のような人物があの過酷な環境を生き延びられたのかわからない」と評しているのですが、私はそここそにある真実味をかんじてしまいました。それは、「この世は所詮弱肉強食なんだけど、何が〈弱〉であり何が〈強〉であるかは日々変化するし、わからない」みたいなことです。

6 門/夏目漱石

門

今年は夏目漱石をたくさん読んでいて、下半期にもまた何冊か読むと思います。『門』の主人公・宗助と妻のお米は仲睦まじい夫婦なのですが、2人は一般の社会から少し距離を置いており、2人で孤独に生活しています。物語は特に大きな事件もなく進んでいくのですが、最後のほうで宗助が寺に禅修行に出向くところがあって、そこで「門」という小説のタイトルの意味がわかると、少し物悲しい気分になります。

5 思索紀行/立花隆

思索紀行 ――ぼくはこんな旅をしてきた

思索紀行 ――ぼくはこんな旅をしてきた

立花隆さんの紀行文。訪れているところは、無人島からアメリカから、イスラエル/パレスチナまで。興味深かったのはもちろんイスラエル/パレスチナのところで、なぜこの国の問題が一向に解決しないままなのか、それが〈わかりにくく〉書いてありました。わかりやすくではなく、〈わかりにくく〉、です。

物事を整理してわかりやすく書くのはそれはそれで必要なことだし、歓迎されるべきことです。だけど、イスラエルパレスチナの問題は、「わかりやすく」書いてしまうと、本質から目を逸らすことにもなってしまいます。一度は「わかりやすい」方法で理解するべきですが、そこをクリアしたら次は複雑なことを複雑なまま、〈わかりにくい〉状態で理解しなければならない。そういう手法で書かれた本です。

「この点だけは間違えないでくれ。我々は決してユダヤ人を憎んでいない。パレスチナ人の誰一人としてユダヤ人を殺しつくそうとか、海に追い落そうなどとは考えていない。我々は何百年もの間、ユダヤ人と仲良くやってきた。我々の闘っている相手は、ユダヤ人ではなくシオニストなのだ」(p308)

4 虞美人草/夏目漱石

虞美人草

虞美人草

物語としては、世話になった人の娘と婚約しているもののその娘がどうもつまらない女なので、世話人には悪いけど進歩的な別の女と結婚してーなー、と思った主人公の話です。なのですが、途中途中の文章がぞっとするくらい美しい。こんな美しい文章あるんだ、と思いました。いちばん好きなところを引用してみます。

凝る雲の底を抜いて、小一日空を傾けた雨は、大地の髄に浸み込むまで降って歇んだ。春はここに尽きる。梅に、桜に、桃に、李に、かつ散り、かつ散って、残る紅もまた夢のように散ってしまった。春に誇るものはことごとく亡ぶ。我の女は虚栄の毒を仰いで斃れた。花に相手を失った風は、いたずらに亡き人の部屋に薫り初める。

私は日本文学がちょっと苦手なのですが、例外的に漱石だけはすごく好きみたいです。

3 優雅な獲物/ポール・ボウルズ

優雅な獲物

優雅な獲物

詳しい感想は「美しい歌声をもつ者は、やがて惨たらしい死を遂げる/ポール・ボウルズ『優雅な獲物』 - チェコ好きの日記」で書いているので割愛しますが、先にあげた梓崎優さんの『叫びと祈り』と合わせて読むと面白いモロッコ砂漠文学。砂漠は美であり、孤独であり、誘惑です。モロッコ最高。

2 パレスチナ・ナウ/四方田犬彦

パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間

パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間

ハニ・アブ・アサドの『パラダイス・ナウ』からインスパイアされたタイトルだったのですねこれ(最近気が付いた)。著者のテルアビブ滞在の日々や、イスラエル/パレスチナを舞台にした映画の評論などが載っています。だけどいちばん興味深かったのは、テルアビブのロッド空港(現ベングリオン空港)で銃乱射事件を起こし逮捕された元日本赤軍のテロリスト、岡本公三レバノンまで行って訪ね、インタビューを行なっているところです。

ロッド空港乱射事件では、26人が死亡しています。

1 謎の独立国家ソマリランド/高野秀行

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

数年前に各所で「面白い!」と絶賛されていた本書、今更ですが読んだら本当に面白かった。そして見事高野秀行さんの魅力にハマってしまい、今はローラー作戦で片っ端から高野さんの著書を読んでいます。だから下半期は高野さん本がランキングを占拠するかもしれません……。ちなみに下半期の暫定1位は『アヘン王国潜入記』です。

ソマリランド』は、アフリカの海賊国家ソマリアをわかりやすく分析していて、ソマリランド、プントランド、南部ソマリアの3つの地域を高野さんが訪問していきます。途中、海賊を雇う見積もりを作ったりしてみているところも面白い。海賊って雇えるんだ。知りませんでした。

下半期もたくさん面白い本が読めるといいなと思います。

映画編はこちら

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くいしんのオフラインサロン「チェコ好きさんに聞くこれからのインターネットとの付き合い方」を8月6日(土)にやります

Twitterなどを通じてすでに公開しているのですが(そしてありがたいことにすでに半数くらいの席が埋まっているのですが)、8月6日(土)に『くいしんのオフラインサロン「チェコ好きさんに聞くこれからのインターネットとの付き合い方」』というイベントを開催します。申し込みはPeatixからできます。
peatix.com

「くいしんさんて……?」と思った方は、以下のエントリをよければご覧ください。くいしん(@Quishin)さんは株式会社Waseiのメンバーで、「灯台もと暮らし」編集部の方です。以前一緒に、やたらマジなツイキャスをやりました。
aniram-czech.hatenablog.com

あとは、1年前に「退屈消費と、恋愛と。〜あのブロガーたちのアタマのなか〜」でご一緒した、同じく「灯台もと暮らし」編集部の鳥井弘文(@hirofumi21)さんが今回も一緒です。少人数制なので、8月6日(土)が空いている方は、ぜひお早めにご検討ください!

みんなでしゃべるイベントです

ところで、今回やるのは「オフラインサロン」です。「オンラインサロン」は昨今よく耳にしますが、ようは何がいいたいかというと、いわゆる「サロン」のように、登壇者が一方的にしゃべるのではなくご来場いただいたみなさんにも発言してもらいますということです。「私コミュ障なんだけど……?」という方でもたぶん大丈夫。なぜなら、おそらく会場でいちばんコミュ障なのは私だからです。

何についてしゃべるのかというと、テーマは私が出した電子書籍に絡む「これからのインターネットとの付き合い方」なのですが、みんなでしゃべるイベントなので話がどこに飛んでいくかは私もさっぱり予測できません。最終的に「とりあえず、我々はディズニーシーに行ったほうがいい」みたいなどこでどうなってそうなったかよくわからない結論になったりするかもしれません。ちなみに私がディズニーシーに行ったのは約15年前です。

旅と日常へつなげる ?インターネットで、もう疲れない。?

旅と日常へつなげる ?インターネットで、もう疲れない。?

※事前に読んでいただいてもいいですが、読まなくても大丈夫です

事前に行なった打ち合わせでは、私と鳥井さんはインターネットやSNSに対してわりと距離を取りたがるほうで、くいしんさんはその逆、別に距離なんか取らなくても平気なんだそうです。くいしんさんは1985年生まれ、私は1987年生まれ、鳥井さんは1988年生まれなので、これは世代とか年代の差ではなく完全に個人の趣向なのだと思われます。

加えて、私や鳥井さんはTwitterとかの「今、◯◯で××さんたちと飲んでる!」みたいな情報をあまり欲しがらないタイプで、くいしんさんはそういう情報をも楽しめるタイプだそうです。そのため、私や鳥井さんサイドからの一方的な「SNS良くない話」にはたぶんならないと思うので、ぜひ「自分はどちらのタイプか?」というのを考えてからご来場いただくといいのではないかと思います。くいしんさんタイプの方ももちろん大歓迎です。もしいれば「チェコ好きでも鳥井さんでもくいしんさんタイプでもない」という新種の方も、同じく大歓迎です。

[トーク・ディスカッションテーマ]
・インターネットとの付き合い方(距離の取り方)
・インターネット疲れは、コミュニケーション疲れ?
・インターネットをどう捉えているのか問題
 コミュニケーションツール? 情報ツール?
・ぼくらはインターネットにもっと近づくべきなのか遠ざかるべきなのか
・有名人の雑談ツイートを読みたいか問題
・そもそもデジタルデトックスって必要なんですか?
・「インターネット(テクノロジー)と近づけ!」と叫ぶ起業家と
「インターネット(テクノロジー)と遠ざかれ!」叫ぶ作家
・「インターネットが嫌い」と書くチェコ好きさん
・「SNSへの過剰接続が息苦しい」という感覚がそもそもない byくいしん
・最強のコンテンツは好きな人からのLINEである
・他人とのズレを許容しよう
チェコさんって何に対してフルコミットする人なんですか? byくいしん

※最後の問いに対する回答はまだ考えていません!

みんなに、「面白いもの」を持ってきてほしい!

あと、これはくいしんさんと鳥井さんの確認をとらずにいうのでもしボツになったらごめんなさいなのですが、私は当日、ご来場いただくみなさんに何か1つ、「面白いもの」を持ってきてほしいと勝手に考えています。

提案者である私は何を持ってくるつもりかというと、ビンロウを持っていきたいと思っています……というのは嘘で、ビンロウは日本では厳しい輸入制限がかけられているらしく、基本的に国内では入手できません。だから実物は持っていけないのですが、「今、私がいかにビンロウを口に入れてみたいか」みたいな話はできます。ビンロウは日本以外のアジアの広い地域で親しまれている、覚醒作用のあるヤシの実の一種です。噛むと楽しい気分になれるかもしれないので噛んでみたいのです(ネットで調べると、全然楽しくないわボケという意見もあります)。発がん性があるとのことなので他人におすすめはしません。

参考:【日記/38】赤い実ちゃん|チェコ好き|note

私がなぜビンロウに興味を持ったのかというと、完全に個人ルートです。私のなか以外のどこでも流行っていません。ブルックリンにもポートランドにもありません。あるのは台湾とかの田舎です。トラック運転手のおじちゃんたちが眠気覚ましに噛んでいるようなやつなので、全然おしゃれじゃありません。

だけど私は、おしゃれなものとかはもうお腹いっぱいなんです。センスのいいものもお腹いっぱい。面白いって他人がいうもの、流行っているもの、これからブームが来るもの、そういうのは全部お腹いっぱい。ださいもの、センスの悪いもの、自分以外は面白いと思ってないもの、流行ってないもの、これからもおそらくブームは訪れないであろうもの。だけど、自分だけがめっちゃ注目していて面白いと思っているもの。ビンロウというのはあくまで例えですが、私はみんなでそういうもの(話)を持ち込んだらけっこう楽しいんじゃないかなと思いました。

※ここでされている話とも似ているかも

繰り返しますが、これはくいしんさんと鳥井さんの確認をとらずにいってます……というか、当日はお二方にもそういう意味での「面白いもの」をぜひ持ってきてほしいなと思っています。どうでしょうか(私信)。

どうなるかは当日のお楽しみ

それでは、興味を持ってくださった方はぜひご検討ください。当日お会いできるのを楽しみにしています!

2016年上半期に映画館で観た映画のまとめ/『オマールの壁』など

2016年が半分終わってしまいました。自分用メモも兼ねて私が上半期に映画館で観た映画をまとめます。映画館で観た映画なので、DVDなどでの視聴は含んでいません。全部面白かったので、公開が終わってしまったものもありますが、まだやっているやつもあるので気になるものがあったら観てみてください。

サウルの息子/ネメシュ・ラースロー


「サウルの息子」予告編

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で、ユダヤ人である同胞をガス室に送る役割を担っていた特殊部隊「ゾンダーコマンド」の主人公を描いた映画。詳しい感想はSOLOに書いています。

「ゾンダーコマンド」を描いた映画にあなた独自の解釈を加えてみよう | チェコ好き - SOLO

2月後半からイスラエルに向かう旅に出る予定だったので、ユダヤ人を描いた映画があるなら観ておきたい、と思って観たのでした。

光りの墓/アピチャッポン・ウィーラセタクン


『光りの墓』予告編

タイのチェンマイを拠点に活動するアピチャッポン・ウィーラセタクンの映画。私はアピチャッポンの映画を観るといつも必ず途中で寝てしまいます。この『光りの墓』も例外ではなく、途中は記憶がありません。この人の作品に宿る強烈な睡魔はなんなのでしょう。が、私は大好きなアンドレイ・タルコフスキーの映画も通しで観れたことがあんまりなく、いつも必ずどこかで寝てしまうので、そういうある種の「睡魔系映画」だと思えばいいのかもしれません。タイの軍事政権への批判であるなどという評もあるようですが、途中の話をあまり理解していないのでそのあたりはあまり書けません……。DVDになったら懲りずにまた観ようと思います。

オマールの壁/ハニ・アブ・アサド


第86回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品!映画『オマールの壁』予告編

『オマールの壁』の詳しい感想はブログに書きましたが、今のところこれが私の今年いちばんです。イスラエル占領下のパレスチナ、その境界にある「分離壁」で分断されてしまっているパレスチナ人のラブストーリー。

よくある三角関係の話……にならなかった話、『オマールの壁』 - チェコ好きの日記

この映画を観る約1ヶ月前に、実際に自分の目でパレスチナ分離壁を見てきたことは、やっぱり大きかったように思います。現地でロケやってるんだから当たり前だろという話ではあるのですが、本当に、「ある」んですよ。ああいう場所が。自分の足で歩いたからわかる。だから、主人公が警察から逃げ回ったり、見覚えのある格好の兵士がライフルをぶら下げていたりするのが、私は本当に怖かったです。同じ監督の『パラダイス・ナウ』もそうだったのですが、恐怖で泣きました。感動とかじゃなく、恐怖で。

バンクシー・ダズ・ニューヨーク/クリス・モーカーベル


映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』予告編

これは、映画の感想単体としては書いていませんが旅行記のなかにこっそり紛れ込んでいます。そもそもパレスチナ自治区バンクシーを観たから映画を観に行こうと思ったのであって、これも私のなかでは旅行関係の映画です。

【中東旅行記/7】パレスチナ自治区と、Banksy - チェコ好きの日記

評判はそこそこのようですが、私がこの作品でいちばん感銘を受けたのは、上記のエントリ内でも書いていますが「アートは人を動かすことができる」ということです。動かすというのは、やる気を出させるとか感動させるとかじゃなくて、文字通り「移動させる」って意味で。やる気出すのも感動させるのも結構なことですが、「移動させる」って本当にすごいことだと私は思います。マンハッタン中央部にしかいないような人たちを、治安が悪いブロンクスやブルックリンに、アートを見るために「移動させる」ことができ、そこに経済効果が生まれる。「やる気」とか「感動」よりも「移動」のほうがワンランク上だ、と私は思ってしまいました。

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カルテル・ランド/マシュー・ハイネマン


映画『カルテル・ランド』予告編

メキシコ麻薬戦争のドキュメンタリー映画。麻薬を扱うカルテルと、カルテルの脅威から町を守る自警団がいるのですが、悪のカルテルVS正義の自警団という構図にはまったくなっていません。自警団とカルテルが混ざっていたり、カルテルが政府と癒着していたりと、もうめちゃめちゃです。まさしく善悪の彼岸

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丸山ゴンザレスさんを生で見れたので個人的には満足度の高い作品でした。関連本もいろいろ読んでみたいです。

FAKE/森達也


佐村河内騒動のドキュメンタリー/映画『FAKE』特報

最後に、いろいろなところで話題になっている『FAKE』。森達也監督の久々の新作映画ということで、楽しみに観に行きました。人気の理由は、佐村河内さんと新垣さんというテーマがなんだかんだいいつつわかりやすかったからかな? などと考えていますが。

森達也『FAKE』 佐村河内さんと新垣さん - チェコ好きの日記

全然別のところで嬉しかったのは、上記のブログのリンクから、『A』を買ってくださった方が少なくない数でいたこと。『A』は本当にすごくいい本です。

「A」―マスコミが報道しなかったオウムの素顔 (角川文庫)

「A」―マスコミが報道しなかったオウムの素顔 (角川文庫)

下半期に観た映画も12月になったらまとめて、たぶん『オマールの壁』になるとは思いますが、年間ナンバーワンを決めようと思います。『ズートピア』も観に行きたいのですが、ベイマックスと同じ感想を持ってしまいそうでちょっと足踏みしています。

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【文章なし】写真で振り返る中東旅行

長々長々と書いてきた中東の旅行記(そう、私は旅行記を書くといつも長い)ですが、最後に思い出深い写真をいくつか貼っておこうと思います。ブログおよびnote未公開写真です。

以下より先は文章ないので、「いつもコイツの話なげぇーんだよな」という方でも安心して先にお進みください。

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〈無計画〉のすばらしさと難しさ/『家族無計画』感想文

紫原明子さんが最近上梓された、『家族無計画』という本を読みました。

家族無計画

家族無計画

どんな内容かというと、実業家の家入一真さんと離婚された紫原さんが、その後の家庭生活のことや離婚前のことなどを綴ったエッセイです。cakesでその一部を読むこともできます。

cakes.mu

ご家族についてのエッセイなので、お子さんを持ったファミリー向けなのかと一瞬思うんですけれども、これは子供がいない夫婦や、独身女性、独身男性であっても、どんな人にとっても興味深く読める本になっている気がします。

というわけで今回は、この『家族無計画』についての感想文を書こうと思います。

〈無計画〉のすばらしさ

前述したとおりこの本は、著者の紫原さんがご自身の家庭について書いているものです。だけど、家庭生活について悩んでいる人だけでなく、働き方について考えたい人であったり、恋愛に悩んでいる人であったりが読んでも、示唆に富む内容になっていると思います。それは、紫原さんがキャバクラに潜入するエピソードがあったり、紫原さんご自身の現在の働き方について、言及しているところがあるからかもしれません。

だけど、メインとなっているのはやはり「家族の話」ではあるので、なぜ「家族の話」を書いているのに「家族の話」以外にも考えが及ぶのか、その原理がこの感想文を書いている今でも私はあまり解明できていません。いったいなぜでしょう。もしかしたら、文章の懐が深いので、読み手のほうで自由に各エピソードを解釈でき、書いてあることを「自分の物語」として読み直すことができるからかもしれません。つまり、このエッセイを内容通り「家族についてのエッセイ」だと読む人もいれば、「恋愛やパートナーについてのエッセイ」だと読む人もいるし、「女性のキャリアや働き方についてのエッセイ」だと読む人もいるのではないかということです。ちなみに私はというと、これは「これからの社会のあり方についてのエッセイ」だとして、読んでしまいました。

紫原さんの場合は、元旦那さまの経歴からして少し(だいぶ?)特殊なケースではあるのかもしれませんが、今の社会ではもう、このエッセイに書かれている「離婚」はそれほど珍しい話ではなくなっています。だけど、シングルマザーとして子育てをしていくための制度は未だにあんまり整っていなくて、やっぱりどこかで「お父さんとお母さんと子供」という家族のあり方を無意識のうちに前提としている社会になっているように私には思えます。

だけど、それは「お母さんと子供」という家庭にとって息苦しいだけでなく、子供がいない夫婦にとっても息苦しいし、独身にとっても息苦しい社会です。このエッセイ内で紫原さんは「お母さんと子供」という家庭のあり方を全力で肯定しているように思うのですが、それが遠回しに、子供のいない夫婦や独身として生涯を過ごす人、あるいはそれ以外の少し珍しい形の家族(ゲイのカップルが養子をもらって、パパが2人いる家庭とか)まで、すべてを肯定しているように読めるから不思議です。

家族についてだけではなく、現在の社会はやっぱり「正社員」として働く人を無意識のうちに前提としている社会になっているように思いますが、紫原さんの現在の働き方についての描写を読むと、やはりそこも遠回しに、いろいろなお金の稼ぎ方を肯定しているように読めます。フリーランスでもいいし、働かなくてもいいし、働いたり働かなかったりを交互にやってもいいし、非正規でもプロブロガーでもなんでもいい。「大人になったら正社員になって、お父さんかお母さんになって、子供を育てる」という従来のやり方、計画的な人生の歩み方でなくてもいいんだよーといっているエッセイだと、私は読んでしまったわけです。

〈無計画〉の難しさ

だけど、このように自由な家族のあり方、個人の自由な働き方をもっともっと社会が認めていくべきだと考える一方で、これってなかなか難しい面を孕んでいるようにも私は思うのです。なぜかというと、自分が思っている以上に、「自分で自分の幸せを規定する」ってけっこう頭を使うし、簡単には考えられない問題だからです。

たとえば、直近の話で無理やりつなげると、イギリスがEUから離脱するというニュースが最近話題になっていますよね。しかし、離脱という国民投票の結果を十分に受け入れられず、投票のやり直しを求める署名が350万人を超える勢いで集まっているとか、離脱が決定した直後に「EUって何?」と検索していた人がいっぱいいたとか、離脱に投票したことを後悔している人がいるとか、そんな話も耳にします。これらは決して対岸の火事ではなく、「自分で知識を持って、情報を収集して、自分の理想とする社会を規定して、それに近付くような選択肢を選んで実行する」ということがいかに難しいかを、物語っている出来事のように私は思うのです。人間はどんな人であっても、状況によってはやっぱり雰囲気やまわりのムードに流されてしまうし、知識不足から十分に考えることができなかったりもします。

そういう意味では、お偉いお上が勝手に「残留します」と決めてくれたり、社会が勝手に「これが幸せです。この通りにやっていれば9割方まちがえません」と規定してくれていたほうが、まだラクだなんて考え方もできると思うんですよね。自分で考えることはときにめんどくさいし、何より自分で考えたことには自分で責任を持たないといけません。「みんながやれっていうからやったのに!」「上が勝手に決めた!」と後からブーブー文句垂れてるほうがラクだという人も私はけっこういると思うし、私自身がそうでないともいえません。

しかし、国民投票の話はともかく、時代を逆行することは基本的には不可能です。今はまだ従来の社会の名残があるように思いますが、これからどんどん、自分で考えて、自分で決めて、その決断に責任を持たなくてはいけない社会になっていくでしょう。それは今よりも多くの人にとって幸せな社会であると私は信じているけれど、自由であるが故の困難さというのも、同時に自覚していなければならないように思います。

〈無計画〉であることはとてもすばらしいけれど、同時にちょっと難しい。いろいろなあり方を肯定することは多くの人の幸せにつながるけれど、自分で自分の幸せを規定できない人にとってはちょっとつらい。あちらを立てればこちらが立たずという話なのかもしれませんが、すべてはトレードオフなのです。

なんにせよ、この本の内容が様々な人にとって示唆を与えてくれることは変わりないと思います。今後の社会のあり方を考えていく上で、自分の幸せのあり方を考えていく上で、手にとってみてはどうでしょうか。

家族無計画

家族無計画