とある雑誌を買った。
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- 発売日: 2012/06/07
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このなかで面白かったのが、西川美和さん(映画監督)のコラムである。西川さんが行った裁判の傍聴や気になった事件を取り上げていく、新連載らしい。私も、裁判の傍聴はいつか行ってみたいなあと思っている。まあそんなことはいいとして。
西川氏さんが傍聴したある裁判の被告人A子さん(67歳)は、ネットで乱交パーティーの参加者を募り、女性を雇ってお客をとらせていた。罪状、売春防止法違反。判決は、懲役2年、罰金刑に3年の執行猶予がついた。
A子さんは地方に生まれ、中学卒業後、バスの車掌、ウェイトレス、ホステスとして昼夜を問わず働きながら、お金を貯める。そして29歳のとき、東京の繁華街に念願叶って自分の店をオープンさせる。しかし、わずか2年後にその店は、300万円の借金をつくって潰れてしまう。
借金を返すため、A子さんはその後、ホテルの掃除、フロント、旅館の仲居、そしてデリヘルの手伝いをしながら全国を転々としつつ働く。入退院を繰り返す母親と、持病を抱える自らを支えながら。夫は40代で亡くなったそうだ。デリヘルの仕事から売春の斡旋行を思いついたA子さんは、ネット上で参加者を募り乱交パーティーの店を出す。途中、店で働いていた女の子が肺癌になる。A子さんは、「電話番だけでもやらせればその子の足しになると思って」と、3軒目まで店を拡張する。
西川さんは、傍聴しながらこのA子さんの人生の最期を想像する。
出所後、A子さんはまた地方の温泉宿で働いている。そして、旅行客がテレビを見ながらくつろぐ隣の部屋で、自分の敷いた布団の上でバタリと倒れて絶命する。西川氏はそんなA子さんの最期を想像して、「なかなかに悪くないラストカットだと思う」といっている。29歳のときに描いた夢の落とし前をつけるために生きた、人生の後半。非情に思える売春の斡旋だけれど、肺癌の女の子に電話番だけでもやらせてやろうと思って店を拡張したところに、ちょっとだけ垣間見えるA子さんの人間性。
うん、確かに、なかなかに悪くない。映画のラストカットとして考えたときに、この光景は純粋に美しい。
人間は、本当はみんな、ギリギリのところで生きている。このCREAという雑誌で西川さんのコラム以外のページに載っている、仕事と家庭を上手に両立しているステキな女性だって、実はけっこうギリギリだってことも考えられる。そして人間、本当はみんな幸福でもある。どんな状況にあっても、たとえA子さんのような状況にあっても、幸福な瞬間というのは必ずある。ステキな女性が幸せで、A子さんは不幸だという幸福観は浅はかだ。なぜなら映画として考えたときに、A子さんが温泉宿の布団の上でバタリと倒れて絶命するカットは、想像すると本当に、どうしようもなく美しいからである。
私も暇を見つけて、裁判の傍聴に行こう。
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