映画監督の、大島渚が亡くなりました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130115/k10014817051000.html
当ブログで、映画監督の訃報についてふれるのは2度目です。若松孝二についても、亡くなったその日にエントリを書きました。
さよなら、若松孝二 - チェコ好きの日記
なぜ私が、映画監督が亡くなったその日に、こうしてエントリを書いているのかというと。書かなければならない、という、何か「使命感」のようなものを感じるからです。
もちろん書いたからといって、読んでもらえるかどうかはわからないし、完全な自己満足ではあるのですけど。
私は大学院にまで行って映画の研究をしていた身なので、あらゆる映画に対する、一応の知識はもっています。でも、大学で学ばなかったら、私が大島渚や若松孝二の映画について、こうして語ることはしなかったでしょう。
私はどちらかというと、ヨーロッパの映画を中心的に見てきた人間なので、大学院で学んだ身にしては、日本映画についての知識が乏しく、大島渚については、きちんと語れるかどうかわかりません。
でも、その乏しい知識のなかでも、大島渚という監督が、日本映画史において非常に重要な存在であることは、十分すぎるくらい理解しているのです。とにかく、日本を代表する映画監督が、また1人、こうして世を去ってしまいました。
こういうときに何か語らなければ、ブログをやっている意味がない、と思うので、今日は大島渚について、私が語れるすべてを書いてみようと思います。
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大島渚、1932年生まれ。1954年に松竹に入社し、59年に『愛と希望の街』で、映画監督デビューをはたします。
翌年の監督作品、『日本の夜と霧』が、日米安保闘争という、政治的に微妙な話題を持ち出したことで物議を醸し、『日本の夜と霧』は公開4日で打ち切りとなり、大島は松竹を去ります。
そんな大島渚ですが、私たち20代~30代でもよく知っているだろうと思われる作品は、こちらの2つです。
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坂本龍一の音楽で有名な『戦場のメリークリスマス』と、松田龍平が出演している『御法度』。
でも、私が「大島渚」ときいて真っ先に思いつくのは、実は『愛のコリーダ』という映画だったりします。
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『愛のコリーダ』を初めて見たのは、大学2年生のときの、授業でした。「ショッキングなシーンがあるので、無理!と思った人は途中退室を許可する」という異例の伝達があったあとで、私たちはその映画を見ていくことになりました。
『愛のコリーダ』は、昭和史に残る猟奇的殺人事件、「阿部定事件」を描いたものです。
阿部定事件 - Wikipedia
「阿部定事件」とは、女中の阿部定が、愛人関係にあった主人を、性交中に首を絞め殺害し、その局部を切り取ってもっていった、という事件。
その「局部を切り取る」というシーンを、私たちは授業で見たわけですが、画面一面に血がほとばしっていたので、直視できなかった……という記憶しかありません。ちなみにこの映画は、世界各国で公開されていますが、日本では、今でもボカシの入った修正版しか見ることができません。
阿部定は、なぜ主人の局部を、切り取ってもっていったのか。
「私は彼を愛していたので、いつも彼と一緒にいたかった」的なことを、阿部定は逮捕時に供述したらしいのですが、愛しているから、局部を切り取ってもっていくなんて、あまりにも究極的に究極すぎて、もうよく意味はわからないのだけど、とにかく究極だと思いませんか。
と、思わず日本語がおかしくなるくらい、私は阿部定のこのセリフをきくと、頭がくらくらするのです。そして、こんな濃密な愛を描ける映画監督は、後にも先にも、きっと大島渚以外にはいないだろうと、思うのです。
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もう1本、大島渚ときいて私が思い浮かべる映画は、これです。
『新宿泥棒日記』。
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物語は、新宿の紀伊國屋書店から始まります。『新宿泥棒日記』があるから、数ある紀伊國屋書店のなかでも、新宿の紀伊國屋書店は、映画マニアにとって特別な書店なのです。
横尾忠則が演じる青年が、新宿の紀伊國屋書店で万引きをします。それを、店員の女が手首を掴まえて社長に突き出す。
青年は、どういうわけかその手首を掴まれた瞬間「あやうく射精しそう」なほど興奮し、店員の女のほうもまんざらでもなく、2人は実際にセックスしてみるのですが、これがぜんぜん盛り上がりません。
この状況を打開すべく、2人は性科学者(何じゃそりゃ……)や諸俳優のもとをたずねていろいろな話を聞いてみるのですが、いまいちピンと来ません。
さて、セックスとは何だろうと考えているうちに、2人は幻想的な世界に入りこんでいってしまいます。この展開、もはや何が何だかわからない。
でも、独特の空気感が病みつきになるというか、私は好きなんです。『新宿泥棒日記』。これを機に、もう一度見直してみようと思いました。
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で、大島渚って何がすごいの?
私の知識・表現力不足で、大島渚の偉大さというか、すごさを全然伝えられていないと思うのですが、大島渚は映画のなかで、「性」と「暴力」と「狂気」、こういった要素を執拗に追い続けていきました。
そして、在日韓国人問題、天皇制の問題など、日本のなかでタブー視されている問題も、『絞死刑』や『帰ってきたヨッパライ』などの映画で取り上げています。まあ、とにかくラディカルな監督だったわけです。
でも、私も最近知ったのですが、実はこんな本の翻訳も手がけているんです。
ベスト・パートナーになるために―男と女が知っておくべき「分かち愛」のルール 男は火星から、女は金星からやってきた (知的生きかた文庫)
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タイトルだけ見ると、何かの恋愛マニュアル本のようですが、中身も本当に恋愛マニュアル本です。
大学時代の印象から、とにかくアーティスティックで、ラディカルなイメージが強かった大島渚。なぜこんな大衆じみた(失礼)本の翻訳をしているのか、今、私のなかの大島渚像が若干、混乱しています……。
でも、何の偶然なんでしょう。大島渚の死のニュースをきく数時間前、私はこの本をちょうど読み終わったところだったのです。大島渚は、阿部定のような究極的な例から、「男と女はなぜわかりあえないのか」みたいな日常的な問題まで、広く、愛について考えてきた映画監督だったのかもしれません。
大島渚については、まだまだ勉強不足。いつかリベンジして、もっと大島映画の魅力を伝えられる、充実したエントリを書きたいものです。
これとか読みます……。
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でも、覚えておいてください、大島渚という映画監督の名前を。
私はうまく伝えられなかったけれど、この人は、日本を代表する映画監督だったのです。それはもう、まちがいなく。